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27【高校生のお正月】

「改めて、明けましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いいたします」


「あら、沙月ちゃん、丁寧にありがとう。

 明けましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いいたします」


「…………明けましておめでとう。

 今年もよろしくお願いします」


 昨日の感触が忘れられず、良く寝れなかった。


 眠気が残る頭で、また沙月の顔を見れば、昨日の事が思い出され、まともに顔を見る事が出来ない。


 そしてただでさえも紅潮してしまいそうな所に、今日の装いはとても可愛らしく、ますますまっすぐ見る事ができなかった。


 髪の毛を後ろでまとめふわふわと(ふく)らみを作りとても可愛らしい。


 薄っすらとされた化粧は、雰囲気を落ち着け清楚で美しさを際立たせている。

 

 装いは上着のように振袖を羽織り、綺麗な桜柄。

 完全な振袖というわけではなく、上から羽織るだけに止め。


 下にも桜色のスカートを履きお正月らしさもだしながら、カッチリしすぎず、華美になりすぎずとても柔かく女性的な雰囲気を(かも)し出していた。


 全体的に良くまとまっていて、とても似合っていた。


「沙月ちゃん、とっても綺麗で似合ってるわね。

 振袖を羽織るだけっていうのも初めてみたけど、とても良いわね。

 今度私もやってみようかしら」


「ありがとうございます。

 母の振袖があるので、せっかくなので羽織ってみたんです。

 そう言って貰えて嬉しいです」


 母さんがこっちを見て、口を出したそうにジトーっとした目をし、沙月は沙月でもじもじとこっちをチラチラと見ては、視線をうろうろさせていた。


 あれが良い、これが良い、と言葉を浮かべては口にできずやっとの思いで口にする事ができたのは素直な感想だった。


「とても綺麗で似合っていて、可愛らしいと思う」

「うんっ、ありがとうございますっ」


 本人的にはいっぱいいっぱいの言葉、それでも沙月はとても喜んでくれた。

 その笑顔は眩しく、本当に今の装いにとても似合っていた。


「一つだけ優陽くんにお願いしたい事があるんですけど、良いですか?」

「なに?」

「この髪飾りを付けてくれませんか?」


 そう言って差し出されたのは、誕生日の日にプレゼントした髪飾り。

 昨日の事が思い出され、忸怩(じくじ)たる思いがこみ上げてくる。


 それでも、喜んでくれ、こうして滅多にないおねだりをされては応えたいと思った。

 

「わかった」


 髪飾りを付けてあげるのなんて生まれて初めて。


 正直どうしたら良いかわからない。


 今まで他人に興味を示してこなかったツケがここになって出てくるとは思いもしなかった。


 どのあたりが良いかな。


「耳の上あたりに付けたら、よく似合うと思うわよ」


 天の声か。


 慎重に、髪を傷つけないように、出来る限り優しく髪飾りを付けてあげた。


「これで良いか?」


 沙月は手で確認し、はにかむような笑顔で頷いてくれる。

 その笑顔は控えめに言っても最高だった。


「沙月ちゃん、せっかくだから写真撮りましょう。

 優陽はさっさと着替えて準備してくる」


 しっしっ、と追いやられ嬉しそうだけれど恥ずかしそうな沙月をどんどん母さんが写真に納めている。


 あとで写真を貰おう。


 そのまま見ていたいが何を言われるか解らないので、急いで準備をしたのだった。



 元旦という事もあり、参拝客は人でごった返していた。


 母親を先頭に沙月と並びながら、小さな足取りで少しずつ進んでいく。

 沙月ははぐれないように自分の服の裾を掴みながら、歩いていた。


 参道で玉砂利という事もあり、ときおりバランスを崩しかけ、掴んでいる裾が右に左に揺れている。

 

 気恥ずかしさはあるものの。

 別にこれが初めてじゃないのだし、歩きにくいのだから仕方ない。


 そう、仕方ない。


「手、繋ぐ?」


 心臓の音がはっきりと聞こえるくらいに緊張し、手を差し出す。

 

「うんっ」


 裾を掴んでいた手を離し、自分の手を掴んでくれる。

 拒否されたらどうしようと心配していたが、内心ほっとした。


 特に会話はなくとも、繋いだ手の温かさで十分なひと時だった。


 ザッザッザッザッという音をさせながら、進んでいくと賽銭箱が見えてきた。


 願い事は何にしようか。


 いくら考えても出てくるのは一つだけだった。

 母さんが終わり、二人で賽銭(さいせん)を投げる。


 二礼し、パンパンと二拍。

 手を合わせたまま、願い事をする。 


 隣に居る琴葉沙月(ことはさつき)が、今年一年安らかに安心し穏やかに過ごせますように。

 過去の辛く苦しい出来事に苛まれることがありませんように。


 一礼。


 横を見れば、沙月もちょうど願い事が終わったようで、母さんのあとを追いかけ合流する。


「あなた達……、恋愛成就のお守りは要らなさそうね。

 やっぱり優陽は健康祈願かしら」


 母さんの視線は繋がれている手を見やり、言ってくる。

 願い事が終わった後も再び手を繋いでいたからだが。


「どっちも大きなお世話だ」

「優陽くん、健康には気を付けてください」


「ぐぬぬ……」


「沙月ちゃん、どれが良いとかある?」

「…………交通安全でお願いします」


 母さんも自分も、すぐに返事をする事は出来なかった。


 売り場に展示されているお守りを見つめ、言葉にした心情は何を思っているのだろうか。


 思い出させない方が良いのか、本人が言い出したのだからと思えばいいのか。

 恐らくそこに自分が出せる答えはないのだろう。


「そう、それじゃ買ってくるわね」


 それだけ言うと母さんは売り場の方へ向かって行った。

 お参りに来たのだ、定番と言えば。

 

「おみくじ、引く?」

「うんっ」


 すぐ近くにおみくじの箱があったので小銭を入れて一枚。

 なんとなく沙月も一枚とるのを待ち、一緒に開けた。


 吉。


 なんとも言いにくい。


「優陽くんは、どうでしたか?」


「吉だった、全体的に頑張れば結果が出ますみたいな感じ。

 なにがどうだと言えない内容……」


「私、大吉でした!

 今までの努力が実るらしいですっ!」


「そっか、良かったな」


 おみくじで一喜一憂しているのが可愛らしくつい頭を撫でてしまった。


 頭を撫でる感触は何度やっても癖になりそうな程に気持ちよく、沙月の表情も安心するのか心地よさそうにしてくれ、それを見ているだけで胸に温かいものが広がってくる。


 そうしてついやってしまった位だ、当然周りの人など気にしていない。

 近づいてくる人に注意も払っていない。


「優陽も大胆になったものね」


 さすがに頭を撫でるのはやりすぎだったと思い、さっと手を引っ込めた。

 沙月も少し恥ずかしそうにしていた。


「はい、これ沙月ちゃんの分ね」

「ありがとうございます。あの———」


「娘がもう一人できたみたいで嬉しいから、受け取って」

「……はいっ」


「私もおみくじ引いちゃおうかしら」


 そう言って、一枚おみくじを引き、中身を開けていた。


「あら、大吉ですって。

 長年の夢が叶うでしょう、ですって。

 きっと沙月ちゃんのおかげね」


 そう言って母さんは嬉しそうに沙月に話しかける。

 きっと嬉しいのは本当だろう。


 実生(みお)だと出来ないことも一緒に出来るとも言ってたし。


「そんな事よりそろそろお腹空いてきた」

「そんな事とは何よ」

「帰ったらおせち食べましょう」


 俺は母さんと一瞬顔を見合わせ、前を向いた。


 沙月がにこにこと幸せそうに笑いながら言った事に安心し、三人は来た道を戻り帰路につく。

 もちろん、家に着くまで手は繋いだままに。

 

 

 家に帰り、きちんとお重に詰められたお節にびっくりした。


 先日、作ると大変なものは買ったと言っていたが本当にこれらは作ると大変じゃないのか。

 知識に乏しいので感心するしかない。


 作った物だけでも、十品以上はあるのではないだろうか。

 少なくとも一朝一夕で出来るものではないだろう。


「優陽くんはお餅いくつ食べますか?お雑煮はどうします?」

「二個焼いて、一個入れて欲しい」

「はい」


 お節が並べられ、後はお餅を待っていた。

 特に考えるでもなく、沙月を目で追ってしまう。


「優陽、私は明日帰るからちゃんとお礼するのよ」

「あぁ」


「前言った事、忘れないように」

「解ってる」


 お餅の焼ける良い匂いがしてきた。

 沙月が焼けたお餅を上手に磯部にし、お雑煮にも合わせていく。


「本当に良い子ね」

「本当にそう思う」


 できあがった磯部とお雑煮のお椀を沙月が運んできてくれた。


「出来ました」

「ありがとう」


「やらせてしまってごめんなさいね、ありがとう」

「私がやりたくてやってますし、楽しいです」


「そう……、いただきましょうか」

「はいっ、いただきます」

「いただきます」


 おせち料理というと美味しくないというイメージがあるが、用意された物はどれも美味しかった。


 果たして何が違うのか解らないけれども、解らなくて良いのだろう。

 美味しい物は美味しい。


 お雑煮も、伸びた餅に苦戦しているとその姿が面白かったのか笑われてしまう。

 磯部焼きも美味しく、ぺろりと食べてしまった。


「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」


「筑前煮とか凄い美味しかった」

「味が染み込んでましたね、良かったです」


「残りは明日食べなさいね」

「なんか明日で食べきりそうだな」


「それはそれで良いじゃないの、無理して三日に分ける必要もないわよ」

「それもそうか」


 お重が片づけられ、沙月が戻ってくると母さんはおもむろに取り出した。


「優陽、お年玉。大事に使いなさいね」

「ありがとう」


「沙月ちゃんにも」

「え……、でも……」


 母さんは沙月の手を取り、お年玉を渡し、自身の手を重ねて言った。


「私は、娘が新しくできたみたいであなたと一緒に料理とか出来て本当に楽しかったわ。

 あなたはとても素晴らしくて間違いなく自慢できる琴葉沙月ちゃんよ。


 いつも優陽がお世話になっているお礼だと思って受け取って頂戴。

 愛想の欠片もない子だけど、仲良くしてあげてくれると有難いわ」


 一言多くない?


「はい……、ありがとうございます…………。

 私も、亜希さんとご一緒出来て本当に楽しかったです。


 こちらこそ優陽さんにはいつもお世話なって、感謝しかありません」


 その声は涙で震え、掠れていたが、顔はしっかりと前を向いていた。


 しっかりと受け取ってくれた事を確認した母さんは手を離し、こっちを向く。


「私は明日帰るから、ちゃんとするのよ」

「あぁ」


「沙月ちゃん、もし優陽が変な事してきたらすぐ言ってね

 すぐに駆けつけて、懲らしめてあげるから」


「しねーよ」

「優陽くんのことは信頼してますし、安心できますよ」


 いや、そこはちょっとは警戒してください。

 ここ最近は本当に大変なので自重してください。

 

「それじゃ、ちょっとゆっくりさせて貰うわね。

 お父さん達にも連絡しなきゃ」


 それだけ言うと席を離れ移動していった。

 俺も和雲達に連絡しないとな。


 そう思い携帯を取り出し、操作する。

 携帯を操作しながら、横目に沙月を見ると、渡されたお年玉を見てぼーっとしていた。

 

 そんな様子に、無性に触れたくなり、愛おしくなり心の中で葛藤が生まれる。

 自分でもどうしもないほどに大きくなり、抑える事ができそうにない。


 静かにゆっくりと沙月の手に自分の手を重ね、包み込んだ。


 重ねた手に少し驚かれたが、ちょこんと指を出し、握り返してくれた。

 そんな小さく確かな触れ合いが堪らなく、幸せだと思えた。


 片手で携帯を操作するのが難儀な事なんて、些事(さじ)なことだ。


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