24【高校生の約束】
マンション前に着くと少し冷静になった。
この手はいつまで繋いでいられるのだろうか。
このまま自分の家まで行って良いのだろうか。
それとも一旦沙月も家に帰るのだろうか。
夕飯の話をしていたから、この後も一緒には居てくれるだろうと思って居たが、それまでの間はどうするのだろうか。
「あーっと、その、一旦、家帰る?」
「えっと、そうですね・・・荷物を置いてすぐ戻りますね」
「わかった」
そうして繋いで居た手が離れ、沙月は家に帰って行った。
繋いでいた手をぐーぱーぐーぱーしながら、その感触を思い出しながら家の中へ入る。
(感触を思い出すとか、少し変態くさい気がしなくもないけど、また繋ぎたいな)
さっきまで考えていた不安に対しては沙月の言葉で安心を覚え、今また手の感触を思い出そうとしている。
そんな自分の変化を心地よく感じていた。
ほどなくして、沙月が戻ってきた。
「おかえり」
「ただいまっ」
「飲み物用意してるけど、コーヒーでいい?」
「うん」
沙月は戻ってくるとソファへ座った。
コーヒーをもっていくと、沙月はこっちを見、おずおずとびっくりする事を口にした。
「あの、夕飯を作るまで少し時間があるので、膝をお借りしても良いですか・・・」
「あ、あぁ、良いけど」
どうしたのだろうか。
前にやった時ほど恥ずかしくは無いものの、わざわざお願いされるのは予想外だった。
膝に乗せやすい姿勢を作ると、沙月は頭を乗せてきた。
頭を乗せた沙月は、ちらちらとこっちを見ている。
(なんだろう・・・。状況としてはこの前と同じ状況だけど、同じじゃない事・・・か)
そう思い至り、優しく頭を撫でた。
それで良かったのか、嬉しそうに目を細める。
撫でながらふと思いだし、先日知った事実を確認すべく話しかける。
「そういえば、29日が誕生日って聞いたんだけど」
「えっ、あ、はい。そうです」
「良かったら、29日にお祝いをしようと思うんだけど、どうだろうか・・・」
「してくれるんですか!?」
がばっと体を上げ、きらきらした瞳を向け訪ねてくる。
「日頃お世話になってるし、もちろん。・・・ただ申し訳ないんだけど、その日はちょうど実家に帰る日だから、午前中にでもと思ってるんだけど」
「お祝いしてくれるだけで、嬉しいです!」
「それと本当は外に食べに行けたら良いと思うんだけど、日にちが日にちで開いてないと思うから、俺が作るので勘弁して貰って良いかな」
「そんなの勿論良いに決まってるじゃないですかっ!」
話だけでここまで喜んでくれているのだ、持ちかけて良かった。
それはそれとしてだ。
沙月の姿勢は大変よろしくない。
さんざん容姿で注目を浴びているのだから、言うに及ばず、さっきまで横になっていた姿勢から体を起こしているのだ。
体を持ち上げる腕で強調された胸にどうしても目がいってしまい、その大きさをこれでもかと主張している。
そしてそれは服の上からでもはっきりとわかってしまうほど。
これなら膝枕をしている方がまだましだと沙月の姿勢を戻させる。
頭を撫でれば、また嬉しそうにしてくれた。
「時間は、まぁ沙月の来たい時に着てくれれば良いから」
「うんっ」
改めて誘ってよかったと思ったがその後、沙月が夕飯を作りにいくまで一度気になってしまった膨らみを気にしないようにするのに苦心する事になった。
そうして、いつもの時間になれば、沙月はいつものように夕飯の準備をしてくれる。
「トマトのパスタとチキンステーキ、サラダです」
「美味しそうだな」
「待っててください」
「手伝うよ?」
「今日は、私がやります」
言うなりキッチンへ向かってしまった。
手伝うつもりだったので、いきなり手持無沙汰になってしまった。
携帯を片手に、またクライミングの動画でも見ようかと操作をしていて、ふと写真を撮るのも悪くないと思い、カメラを準備する。
ポニーテールが動きに合わせ、揺れていたり、包丁を使う時は姿勢よくリズム良くトントンと音がしている、火加減はどうかと覗き込む姿は、どこか真剣だ。
味見をしては、納得がいかないのか首を傾げながら、考えている。
そんな様々な表情に魅せられ、いくつかを写真に納めていく。
撮れた写真を確認しながら、物思いに耽っていると、声を掛けられた。
「出来ました」
「わかった、ありがとう」
そうして、テーブルへ移動するとまだ湯気が立ち上るパスタと良い匂いのチキンステーキ、色鮮やかなサラダが運ばれてきた。
「いただきます!」
「うん、めしあがれ」
出てきた料理にテンションが上がる。
トマトのパスタは、トマト以外は特に具材らしきものは見当たらず、鮮やかにトマトの色をパスタが纏っていた。一口食べれば、それはトマトの美味しさが凝縮されたようで、決して飽きる事がなく、手が止まらなかった。
チキンステーキは、ハーブと鶏肉の香が食欲をそそり、一つ口にすれば肉汁が溢れてくるようだった。
サラダにいたっては、恐らくフレンチドレッシングが掛けられているのだが、美味しい。普段食べている物よりも、とてもまろやかで優しい味だった。
「このドレッシングってどこで買った物なんだ?」
「買ったというか、作った物ですよ」
「え」
「材料も作業も、そこまで大変な物じゃないんですよ、実は」
(それはきっと作れる人の言い分ではないだろうか)
「市販のとかより、ずっと美味しいよ」
「ありがとうございます」
もう何度としたやり取りなのに、そうして柔らかく沙月が微笑んでくれ、ドキドキと心臓が高鳴っていく。
ごまかし半分に食事に戻ると、すぐに夢中になってしまい、食事を平らげた。
「ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
食べ終わり、食器を片付けながらコーヒーの用意をする。
クリスマスだからと買ったケーキを用意しながら、先日の事を思い出していた。
また食べさせて欲しいとねだられたら。
食べさせてあげると言われたら。
考えるだけで顔が赤くなってしまいそうで、頭から考えを振り払う。
「おまたせ」
「ありがとうございます」
それぞれのコーヒーとケーキを持って行った。
「そういえば、こういう場合はメリークリスマス。ってクラッカーとか鳴らした方が良いのかな」
「・・・特に必要ないと思いますよ。特別それで騒ぎたいわけでもないですし」
「それもそうだな、いただきます」
「うん、いただきます」
言った所で、気づく。
昨日は同じケーキだったが、今は別々の種類のケーキをお互いに選んでいる。
前はシェアをしたいと言ってきたが、今回は言ってきていない。
なぜだろうと、不思議に思い沙月を見ると少しずつ食べながら、こちらをちらちらと見ている。
少し頬を赤らめながら、フォークを口に運んではこっちを見ている。
昨日の事を思い返せば、何をして欲しいかは容易に想像がついた。
ただそれを言いだすのは憚られ、迷っているのだろう。
その気持ちは物凄く共感ができる事だった。
言って欲しいと思っていると解っている。解ってはいるものの、こちらから言いだすのは同じ様に恥ずかしいから。
コーヒーを一口飲み、大きく息を吸い、吐いてようやく決心できた。
自分のケーキを一口サイズに分けフォークで差し出す。
「食べる?」
「うんっ」
よほど嬉しいのかぱっと花が開くかのように笑顔になり、ケーキを頬張る。
それはとても嬉しそうに、とても幸せそうに食べた。
沙月の笑顔は見ている人を幸せにする魔法のようだと感じ、恥ずかしさに耐えたかいがあった。
「それじゃ、私のも」
言うや否や、一口サイズに分けられたケーキが口元へ。
口を開ければ、そのままスムーズに運ばれてきた。
僅かに逡巡し、口を開けるとほどよい甘さと柔らかいスポンジが口の中へとやってきた。
「美味しい」
「美味しいですねっ」
二人で笑い合い、ケーキを頬張る。
こうしている事にいまだ答えは出ないけれど、間違いなく思えるのは大切にしたいという思いだけだった。
「これ、クリスマスプレゼント」
「あ、私もあります」
食後、沙月が家に帰る前にと思いプレゼントを差し出せば、沙月も同じ様に用意していてくれたらしく、プレゼント交換となった。
「開けても良いですか?」
「ん、こっちも?」
「うん、開けてみてください」
沙月からのプレゼントを開けて見ると、マフラーだった。
そして、沙月が取り出した物も、マフラーだった。
しかも、柄も同じで色が違う物だったのだ。
お互いにマフラーを持ったまま、互いのマフラーに視線をむければ、どちらからともなく笑いだしてしまった。
「まさか、同じものを選ぶとは」
「凄い偶然ですね」
(まるでお揃いみたいだな)
「まるでお揃いみたいですね」
「・・・同じ事思った」
手に持ったマフラーを愛おしそうに撫でながら。
「大事に使わせてもらいますね」
「俺も大事に使わせて貰うよ」
お揃いだと思ってしまった事に気恥ずかしさはあるものの、お互いが色違いで送り合ってしまった事にそこまで悪い気はしなかった。
このマフラーを使うために、外出がちょっと楽しくなるような気分は心地良い。
この日、沙月と共に過ごし、笑ってくれるのが本当に嬉しく、楽しい一日だった。
最後はプレゼントが被ってしまうというアクシデントもあったが、沙月が喜んでくれたのが、何よりも嬉しかった。
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