23【高校生のクリスマス】
「こんにちは、おじゃまします」
「こんにちは、いらっしゃい」
クリスマスにも関わらず、沙月は家に来ていた。
なぜ着ていたかと言えば、単に自分の計画性のなさ。
クリスマスに誘った事も遅かったが、その後の予定を経てるのは更に遅かった。
女の子とデートをするなど、初めて。
ましてやそれがクリスマス、世間がどういう状況かなんて全く知らなかったのだ。
食事は外で済ませようと言ったら、どこも予約で一杯で凄い人ではないかと指摘された。
案の定、どこか無いかと探して電話してみれば、予約で一杯との返事ばかり。
がっくりと肩を落とす自分に沙月は、にこにこと「作りますよ」と言ってくれた。
「今日は本当にすまない」
「何度もそんなに言わなくても。私、料理するのは好きなんですから」
「ありがとう」
沙月がそう言ってくれる事は、凄くありがたいのだが、折角ならばと思い空ぶった感がぬぐえなかった。
「そこまで気にしてくれるのなら、一緒に作ってください」
「あぁ」
もとより手伝うつもりだったが、改めてそう言われ気を取り直す。
顔を上げ、沙月を改めて見てみれば、今日は特に可愛らしい装いをしていた。
髪の毛はポニーテールで綺麗にまとめ上げられ華やかで可愛らしい印象を強くしている。
明るい色のゆったりとしたニットのワンピースに身を包み、ロングスカートを翻しているとフェミニンさが協調され、とても綺麗で似合っていた。
もともとの顔立ちが整っているのは相変わらずで、薄く化粧はしているが、あくまでも本人そのものといった感じで、とても愛くるしかった。
「今日の服装、とても似合ってる」
和雲に指摘されたから言うわけではない。と心の中で否定しながら言う。
うまく言えただろうか。
わざと過ぎたのではないか。
不自然ではなかっただろうか。
不安に思ったのも束の間。
「そうですか、ありがとうございますっ」
沙月に嬉しそうに返され、笑顔を向けられれば言ってよかったと思えた。
「今日はハンバーガーとジャーマンポテトです」
「手伝える事は言って」
そう言われたのが楽しかったのか、上機嫌でキッチンへ向かった。
「そうしたら、じゃがいもの皮むきをお願いします。
終わったら一口サイズに切って、レンジで加熱してください。
加熱中に玉ねぎとベーコンも一口サイズにお願いします」
「ん」
沙月に言われた通りに、じゃがいもの皮をむいていく。
沙月はハンバーガーのパテを用意するらしく、牛ひき肉の形を整えている。
「私はチーズとレタス、トマトを挟みますけど、優陽くんは何を挟みますか?」
「俺も同じので良いよ、美味しそう」
「うんっ」
レンジで加熱中に、ベーコンとたまねぎを切り分け、ボウルに分けておいた。
「後は、火を通すだけなので大丈夫ですよ。
待っててください」
「わかった」
最後まで手伝えなくて少しは手伝えただろうかと不安には思うが、火を扱うのに二人で出来るほど広くないのも確か。
テーブルの準備をし大人しく待つ事に。
ほどなくして、沙月が料理を運んできてくれた。
「お待たせしました」
「ありがとう。いただきます」
「めしあがれ」
バンズに挟まれた肉が香ばしい匂いをさせ、食欲を掻き立てさせられる。
一口とかぶりつくとチーズのコクと肉汁が口いっぱいに広がったと思えば、トマトの酸味で後味がしつこくなく、レタスがしゃっきりと心地いい触感を与えてくる。
また一口と美味しくて食べ進め、口の中に頬張り噛みながら、ふと沙月を見てみた。
自分と同じように小さな口一杯に頬張り、零さないよう気を付けて食べていた。
その姿がまた愛らしく、微笑ましく、じっと見てしまった。
見ている事に気づいた沙月が、こっちを見て、なんですか? と視線で問いかけてきたので、自分のほっぺたを指差して上げた。
ケチャップがついていたから。
自分の動作を真似るようにして、ほっぺたへ指を持っていけば、ケチャップがついている事に気づき、急いでティッシュでふき取っていた。
口の中のものを飲み込んだ後、何か言いたそうに頬を膨らませている。
いつも見られてるんだし、見るのもたまには良いかも。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした、何をニヤニヤしてるんですかっ」
「いや、可愛らしくてつい」
「子供っぽくてすいませんでしたっ」
「ごめんごめん」
決して子供っぽいからという理由ではないが、言い繕うのも藪蛇になりそうだ。
口の周りが多少汚れてしまうのは仕方のない事なのだから。
「一休みしたら、出かけようか」
「うん!」
「行く場所は決まってるの?」
取り敢えずの場所として繁華街へ向かいながらたずねた。
沙月は自分の裾を掴みながらあとをついて来ている。
それが落ち着くならとわざわざ指摘する事はしていない。
「少し洋服が欲しいと思ってます。
優陽くんは欲しいのありますか?」
「特別これというのはないな。
何か良い物があったら買うかも」
繁華街の入口から人も増えて来ていた。
誰かと待ちあわせしてる人。
はしゃぐ子供と楽しそうにしてる家族。
仲良さそうに歩いているカップル。
様々な人が今日という日を楽しそうにしている。
楽しめず草葉の陰で泣いてる人達がいる事は気にしない。
ふと思う、自分達はどう見えるだろうか。
自分達の関係はなんだろうか。
こうして一緒に出掛けたりしている事から、少なくとも嫌われてはいないだろう。
以前、思わず友人と言ってしまった事を思い出す。
このまま友人であり続けられるのだろうか。
今の状況が奇妙で沙月の好意に甘えているのはわかっている。
甘え続けて良いのかどうか。
果たして好意が友人としてなのか異性としてなのか。
どちらであるかは判断がついてない。
自身の気持ちにしても、好意はあるし異性として意識していないわけではない。
だけど、今の状況を失う覚悟もなかった。
美和に言われた『泣かせないように』という言葉を思い出す。
この答えを出すには、まだ時間も覚悟も必要そうだ。
ただ、こうして二人で歩いていて、自分が会話を弾ませる事も出来ないにも関わらず、一緒にいるのが苦にならないというのも、ありがたく思ってた。
そうして歩いているといよいよ混雑し周りも騒々しく肩などがぶつかりそうになる。
そこへただでさえも狭い所を縫うように走ろうとする輩が向かってきた。
沙月が自分の半身だけ出ていたため、手で後ろに入るように誘導するとちょうどそこを掠めるようにして、走って行った。
中にはぶつかった人もいたようで、振り返っている人もいる。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう」
後ろに寄せる際に、袖を摑まれていた手が離れてしまっていた。
周りを見れば、カップルは多く手を繋いでいる人も少なくない。
混雑も凄いから。
「……手、繋ぐ?」
「うんっ!」
自分に言い訳しないと手を繋ぐことすら出来ないのを情けなく思いながらも、沙月が嬉しそうに差し出した手を握ってくれれば、嬉しさがこみあげてきた。
気持ちに浮かれ歩けば、いつの間にかショッピングモールに着いた。
気づいたのは偶然だった。
歩きながら、やけにあの子が可愛いという話し声が聞こえてきた。
最初は、単にどこの誰とも知れない人の事を言っているのだと思った。
やけにこっちを見ているなと思った。
視線が粘り張り付いたように、まとわりつけば嫌でも誰を見ているのかわかった。
自分達、正確には沙月を見ているのだろう。
そして、昨日、和雲が言っていた意味も理解した。
隣にいるのが、こんな奴ですいませんね。
普段からそこまで卑屈になっているわけではないが、こう沙月から自分へと視線が移っていくとそう思わずには居られない。
実際に聞こえてきたわけではないが、いくら髪型を変えていると言っているからといって、そもそもが変わるわけはない。
これが和雲と美和だったら、また話しは別だろう。
しかしながらそこまで自分に自信があるわけではなかった。
心が少しささくれ立った頃、目的のお店についた。
高校生でも手が出せる位の値段で洋服が売っていて、それなりに種類もあるお店だった。
沙月は店に着くと手を離し、服を見ていく。
手の名残惜しさをポケットに突っ込みながら、沙月の後ろをついて行った。
ここでも沙月は注目を浴びていた。
どうやら男性のみならず、女性からも同様に沙月は可愛いという評価を受けるようで、店の中でも視線が絶える事は無い。
そして次に視線を動かす先は、当然同行している自分になるわけで。
周囲の視線が痛い……、気のせいだと思いたいけど、痛い……。
改めて、注目される事への気苦労を感じ、普段の沙月はさぞ気を張っているのだろうと慮った。
そんな針の筵だったが、目の前で嬉しそうに洋服を選んでいる沙月を急かすこともできず、ただただ我慢をするしかない。
沙月は、いくつかの候補を絞ったのか、洋服のアウターをいくつかもってきた。
「優陽くん、どれが良いと思いますか?」
女性の買い物に付き合うのは初めて。
もちろん、女性からどの洋服が良いかと問われるのも初めて。
「どれも似合うと思う」
言った瞬間、じとっと沙月が頬を膨らませて見てくる。
その視線に何かまずい事を言ったと悟り、慌てて言葉を重ねる。
「取り合えず、着てみたらどう」
「ちゃんと見てくださいね」
「……はい」
そうして、今来ているコートを脱いだので、候補に上がってるのと脱いだコートを受け取ろうと手を出す。
コートを脱いだ際に、普段は髪を下ろしているので見えない首がやけに色っぽく見えてしまい、さっと視線を泳がした。
沙月は沙月で、自分の行動が意外だったのか、少し目を丸くした。
次の瞬間には嬉しそうにコートと候補にしていたアウターを渡してきた。
どうやら、候補は三着だったようで、どれもトレンチコートのようだ。
今着ようとしているのは、ロングサイズの物。
足元まで隠れるがボタンやベルトの装飾がとても似合っている。
沙月は鏡を見ながら、様々なポーズをし、チェックしている。
ふわりとこっちをむけば、思わず赤面してしまいそうになるほど似合っていて何も言う事が出来なかった。
そんな自分の様子に満足したのか。
今試着しているのを脱ぐと他の二着も試着し、チェックしていた。
他の二着を見ても一枚目の印象が強すぎて、自身の中では答えが決まっていた。
「反応を見たら、これだろうなと思うんですけど。
教えて貰っても良いですか?」
にこにことちょっと悪ふざけをしているように、覗き込まれ、しどろもどろに答えた。
「一番、最初のが、似合ってたと、思い、ます」
ふふふ、と笑顔をこちらに向け「買ってきますね」とレジに向かっていった。
離れていったのを幸いと、深く息を吐き、心を落ち着ける。
ドキドキさせられっぱなしで、心臓に悪い。
「お待たせしました」と声を掛けられ、沙月が帰ってきた。
「他に買う物はある?」
「欲しい物は買えたので、少し歩きませんか」
「そうしようか」
手を差し出せば、また手を合わせ握ってくれる。
そんな事に嬉しさと恥ずかしさを感じながら、また歩きだした。
いくつかのショップを見て回っていた時だった。
アクセサリーショップの前を通りかかった際、少し沙月の足が鈍ったのでどうしたのかと見やれば、髪飾りをじっと見ている。
それは大きめの髪飾りで、花をモチーフにしたとても可愛らしい物だった。
沙月が着けたら、さぞ似合いそうだ。
しかし沙月は、何も言わずに歩きだし、自分も一緒に歩いた。
ケーキを買いに並ぶのも沙月といるだけで苦にならず、あっという間に時間が過ぎていく。
ケーキを買った後はあてもなく歩き、時にあーでもない、こーでもないと話しながら時間は過ぎていった。
そんな時間さえも、楽しくて仕方なかった。
「そろそろ良い時間だけど、どうしようか」
「少し疲れてしまったので、帰りませんか。
あ、夕食は準備してあるので大丈夫ですよ」
今朝のやり取りを思い出したのか、先んじて言われてしまえば、沙月の気遣いに感謝するしかない。
「ありがとう、それじゃ帰ろうか」
「うんっ」
繋いだ手は結局、家まで離れる事はなく、家路につく二人だった。




