22【高校生のクリスマスイヴ】
「それじゃ、ケーキ買って行こう~」
「はいよ」
そう言って美和は、楽しそうに和雲の腕に絡みながら歩いている。
対して自分は、若干の気だるさを感じながら歩いていた。
それは今回のイベントが唐突に開催が決定されたからだ。
それは今朝、学校にきた直後の事。
「今日、朝比奈君の家でクリパしよう」
「え、なんで」
「なんでもなにも・・・、したいから? イヴだし」
「おい、どういう事だ」
埒が明かないと思い、隣の和雲に返事を求める。
「いや、僕もね。昨日の夜、急に言われてさ。
朝比奈が良ければどうかな。って感じだとは思うよ」
「沙月ちゃんにはオッケー貰ってるよ。
全場君は、部活だって」
「俺が最後なのかよ」
憮然としながらも、特段断る理由もなかった。
もはや恒例と言っても良い感じで、部屋に集まる事が多くなっている。
この面子で集まってワイワイやっているのも嫌いではない。
ただし。
「次からは、もう少し早く言えよ」
「はーい」
「和雲、手綱はもっておくように」
「はは、ごめんね」
そんなこんなで、急遽クリスマスパーティが開催される運びとなった。
今はケーキ屋に向かっている。
その手には沙月から頼まれた食材を持っている。
材料が足りなかったらしい。
こんな急な事なので仕方ない。
その沙月はと言うと仕込みがあるので先に帰っている。
どうにもスムーズじゃないバタバタ感があり、一つため息をついた。
目当てのケーキ屋に着いた時、さすがはクリスマスイヴだと実感させられた。
「どこまで続いてるのこれ」
「どこまでだろうね、これは」
美和と和雲がそう漏らすのも仕方ない。
自分もそう感じたのだから。
小さなお店をぐるりと一周するほどの行列。
一番後ろにいるスタッフの所に行き並んだ。
「沙月に時間掛かるのだけ連絡しておくわ」
「うん、お願いね。
待ってる間にケーキ決めちゃおう」
「そうだね」
大人しく列に並び、沙月に連絡を入れておく。
和雲と美和で、メニューを見ながら、あれが良いこれが良いとやっていて相変わらず仲が良い。
周りを見てみると、様々な人がケーキを求めてやってきていた。
ある人は一つの紙袋を大事そうに持ち帰り。
またある人は、小さな箱を嬉しそうに持ち帰る。
大きな袋を両手にもって帰っている人もいる。
有名かどうかはわからない。
受け取った人それぞれが共通してこの後の楽しみとして持ち帰っているお店。
沙月も嬉しそうにして食べてくれるだろうか。
「朝比奈君は、何が良い?」
「なんでもいいぞ、どれも美味しそうだし」
それを聞いた美和がじとっとした目を向けてくる。
「・・・なんでも良いが一番困るんですけどー?」
「・・・・・・ちなみに和雲は?」
「ははは、僕もどれでも良いと言いたい所だけど、このイチゴのロールケーキかな」
「和雲くんの言ってるロールケーキも良いんだけどね。
やっぱ折角だからホールにしたい気持ちもあるのよ。
ホールケーキも色々あるのよね」
そういえば、沙月の好きな物をはっきりと聞いたことなかったな。
この前、ショートケーキを選んでたから、イチゴが嫌いって事はないだろ。
「イチゴのロールケーキで良いんじゃないか。
食べる量も調整しやすいしな」
「・・・そうね」
何か言いたそうな美和だが、何も言ってこない。
まさか沙月が基準と分かったわけではないと思うけども。
そうこうしているうちに順番が回ってきた。
代表して店内に入る形式。
和雲がさっと「僕が行って来るよ」と言うので列から外れた所で美和と待っていた。
「沙月ちゃんてさ、良い子よね」
「そうだな」
「可愛いし」
「そうだな」
「健気で一途だし?」
「・・・そうだな」
「やっぱり噂はあてにならないわね」
「そうだな」
「スタイルいいしね」
「しらん」
しってるけど
「ちゃんと聞いてたのね」
「言いたい事がありそうだな」
「余計なお節介をやこうかと思って」
「余計とわかってるならやらなくても」
「沙月ちゃんの誕生日、二十九日だよ」
「・・・・・・・・・は?」
「伝えたけど、どうするかは朝比奈君に任せるからね?」
「・・・あぁ」
じっとこっちを見つめている美和は取り合えず置いておく。
この短期間でどうしろと。
休みの折には実家に帰ってこいと言われている。
今回帰る日が、その二十九日。
普段お世話になっているから、何か返したい思いはある。
それにしても時間がない。
どうするか。
悩んでいると和雲が、商品を受け取り合流した。
「おまたせ」
「ありがとうね、和雲くん」
「あぁ、ありがとうな」
誕生日の件で、気もそぞろになってしまい和雲に不思議な顔をされるが仕方ない。
「どうしたの?」
「多分、今、朝比奈君の頭の中は別の事で一杯だと思うから、歩いてましょ」
「あぁ、ついて行くから大丈夫」
「そう」
和雲と美和が、前を歩いているのをぼんやりと視界にだけ入れつつ。
後ろを歩きながらどうするか考える。
プレゼントをどうするか。
そもそも何をあげればいいんだ。
選ぶにしても、悩んでる時間がない。
渡すにしても、時間をどうするか。
幸い実家に帰るのは夕方前だから昼間なら自分の時間はとれる。
沙月に時間があれば良いけど。
せっかくなら、ちゃんとお祝いをしてあげたい。
やっぱり時間がな。
そこまでが精一杯だろうか。
日にちが日にちだから、外でお祝い出来るようなお店は閉まってる。
自分がお昼、何か作るのは良い。
お祝いの料理を作るとなると気が引けるが。
そこは事情を説明するしかないか。
ようやくある程度、考えがまとまり周りを見渡してみれば家の近くだった。
「あ、やっと戻ってきたみたいだよ、和雲くん」
「そうだね。考えはまとまった?」
「ある程度は・・・」
どうやらゆっくりと歩かれていたらしい。
和雲はともかく美和にも自然とこういう事をされるあたりちょっと悔しい。
鍵を開け、家に入っていく。
「おかえりなさい」
パタパタと長い髪をなびかせながら、沙月が出迎えて来てくれた。
買ってきた物を受け取ってくれようとしている。
いつもの笑顔にエプロンを身にまとい、それはまるで。
「新婚さんみたいね」
「ぅ、うるさい・・・ただいま」
同じ事を考えてしまった手前、美和の指摘に何も言うことができない。
沙月も言われて恥ずかしいのか、とてもいじらしくもじもじしている。
良くみれば、顔も赤くなってるし。
「「おじゃまします」」
見かねたのか、二人に促されるように、リビングへ移動していった。
集まって最初にしたのは、お菓子を開ける事だった。
美和がさっそくと言わんばかりにお菓子を広げ、飲み物をドンとテーブルの上に置いた。
どこのおっさんだ。
試験も終わった事だし、遊ぶぞーと美和は気合を入れている。
「ところで朝比奈君、明日の予定は?」
ニヤニヤしながら美和は、ちゃんと誘ったのかと聞いてくる。
「外出はする」
美和にしてやられているようで、せめてもの抵抗と憮然としながらも答えた。
「一人で?」
「私のお買い物に付き合って頂きます」
はっきりと答えなかったのをさらに追及してきた。
それの代わりに答えたのは沙月だった。
美和はおやっとした顔をし、沙月はにこにこ。
「そっかー、うん。良かったね!」
美和は先ほどまでの表情をひっこめ、にっこりと満足そうにした。
沙月は、変わらずにこにこしていたが、心無しか肩の位置が下がっている気がする。
これは庇われたのか。
「はいっ」
それでも明日が楽しみなのか、沙月ははっきりと答えていた。
「僕達も明日は出かけるけど、人混みが好きじゃないからちょっと困っちゃうよね」
「そうなのよねぇ、何が楽しいのかジロジロ見てくる人もいるし」
普段一緒にいるので忘れそうになるがこの二人は美男美女と言って差し支えないだろう。
その二人が揃って街中を歩いて視線を集めないわけがない。
学校では牽制も兼ねてベタベタ引っ付いているが、本来は注目を集めたい二人ではないのだから。
「大変そうだよな」
そう言うとキョトンとした感じでこっちを二人が見た。
「朝比奈も明日、二人で出かけるんだよね?」
「あぁ、そうだな」
「頑張ってね」
何をだろうか。
自分の気持ちに変化は感じているが以前も一緒に出かけた事はある。
沙月も買い物がしたいと言っているし特別頑張る事はないだろう。
当日、この意味を思い知る事になるのだがまだ預かり知らぬことだった。
「お菓子も片付いたことだし、こういう事もあろうかとトランプ持ってきたの。
遊びましょう!」
「こういう事って、どういう事だよ。
別にいいけど」
「負けたら罰ゲームね」
「常識の範囲でな」
「もちろん」
まぁ、和雲がいるからそう無茶な事にはならないか。
沙月もやりたそうに目がきらきらしているし。
「何やるんだ」
「まずは無難にババ抜きでもしましょうか」
言うやトランプをそれぞれに配っていく。
始まってから早くもこれどうするかと困る事になってしまった。
なぜなら自分が沙月のカードを引く際に、これ以上ない程顔に出ているからだ。
持っているカードの上を指で滑らせれば、不意にムムムと眉根を寄せている。
通り過ぎると安心するのかふっと力が抜けていた。
眉根を寄せている表情はいつもと違う。
ともすれば怒っているように見えもするがとても愛くるしい。
そこから力が抜けて緩んだ頬はつい触りたくなってしまう程に魅力的だ。
一人なら間違いなくニヤけていただろう。
今は隠すのに必死だ。
これをどうするも何も先延ばしにしていると、美和が一抜け、和雲が二抜けと二人が残ってしまった。
お互いがババ以外を引けば終わるという最終局面、決心してカードを取った。
自分の一組が揃い、ゲームは終わった。
沙月は悔しいのかうぅぅー、と唸っている。
「沙月ちゃんが罰ゲームね、なににしよっかなー」
「覚悟はできてます!」
なんの覚悟だろうか。
「それじゃー、沙月ちゃんは朝比奈君に頭を撫でられなさい」
「は?」
「何よ不満なの三位」
「なんでカースト付けになってるんだよ」
「大人しく撫でてあげなさいよ。嫌なの?」
「優陽くんは嫌ですか?」
「・・・・・・」
嫌か嫌じゃないかと言えば嫌じゃない。
むしろ触って良いなら触っていたいと思う位には魅力的だ。
だからこそ安易に触っても良い物なのかと戸惑う。
しかしながらここに罰ゲームという正当性を持って触れる。
全てが許されてしまっていいのか。
「あの撫でてくれないんですか?」
自然と見上げる形になり期待に満ちた目で見られれば、どうのこうのと言うことは出来なかった。
そして覚悟を決めると共に思わずにはいられない。
かわいいな。
おずおずと手を伸ばし、優しくなるべく壊れないように。
大事な物を扱うように慎重に撫でていく。
前回は気持ちが平静ではいられてなかったのだろう。
今回は触り心地がはっきりとわかった。
良く手入れされサラサラで手に引っかかる事はなく艶が有る。
とても気持ちよくいつまでも撫でていたいとさえ思った。
また撫でている時の沙月の表情がとても幸せそうだった。
目尻を下げ、蕩けそうな表情に目を奪われてしまう。
どうしようもなく心臓が高鳴っていくのを嫌でも自覚する。
「あーぁ、わたしも和雲くんに撫でてもらおうっと」
「良いよ、おいで」
それがいつもの事なのだろう。
美和はぼやくと和雲に甘え、和雲はそれを当然のように許し向かい入れる。
美和は頭を和雲の膝の上に乗せ、気持ちよさそうに撫でられている。
それはもう気持ちよさそうに。
目を細め目尻を下げ、ニコニコしている。
和雲もそれを愛おしそうに見ながら、ゆっくり丁寧に慣れた手つきで髪の毛を撫でている。
いつもと違い本当に幸せそうな様子。
それは牽制の為にわざとやっていると思わせておいて、実は全力じゃなかったというわざとなのでは無いかと勘ぐってしまいそうだった。
沙月も気になったのか、じっと美和の方を見ている。
それはもう食い入るように。
それこそ何かを決意するかのように。
沙月がじりっじりっと這うように近づいてきた。
かと思えば、美和と同じように膝に頭を乗せてきたのだ。
足を崩していたため、すんなりと沙月の頭が足の間に納まっていた。
体を丸め、気持ちよさそうにしていたかと思うとこっちをちらっと見た後、呟いた。
「もっと撫でて欲しいです」
沙月が移動した状態のまま姿勢を動かす事が出来ず、頭を撫でるのを止めてしまった事が不満だったようだ。
顔が赤くなっているのが自分でも解るが、ねだるように甘えられては仕方ない。
手を動かしながら、どうしても視線は沙月を見てしまう。
何度可愛いと思っただろうか。
今は嬉しそうに表情を緩ませている表情。
何かを決意しまっすぐに見つめてきた事。
頬を赤らめながらいじらしくしている様など、とても愛らしい。
恥ずかしい事この上ないのは変わらないが、同時に心に温かい物が広がっていくのを感じていた。
気持ちよさと恥ずかしさがせめぎ合いながらも撫で続けた。
顔の火照りもそのままに撫でていると沙月が満足したのか、体勢を起こした。
耳や頬が真っ赤になっているので、どうやら恥ずかしさが勝ったようだ。
「ごはん作ってきます」
そうとう恥ずかしかったのだろう。
それだけ告げるとキッチンへ小走りしていった。
その気持ちは大いに共感できた。
自分も凄い恥ずかしかったから。
「和雲くん、わたし達も手伝いに行こう」
「そうだね」
「朝比奈君は、来ないの?」
「・・・・・・行く」
元から手伝いに行くつもりはあった。
さっきまでの気恥ずかしさが抜け来らず、行くタイミングを測っていたのだ。
平然としているこの二人に関しては、本当に年季なのか努力の賜なのか、それをまだ推し量る事は出来なかった。
「なんで来たんですかっ」
「えっと、手伝いに」
「早いです!」
理不尽だ。
「僕達も、何か出来るかな?」
「和雲くんはちゃんと料理できるよ」
沙月は、まだ頬の熱さが残っているが少し落ち着いた様子で答えた。
「そうしたら、この生地を薄く丸く伸ばして貰って良いですか」
「ピザ生地かな? 寝かせておくのに予めやっておいてくれたんだね」
なるほど、それで先に仕込んでたのか。
「俺も何かするよ」
「でしたら、ベーコンをカリカリに焼いて下さい。
今日の献立は、パエリアとピザにサラダです」
「パエリアも作れちゃうなんて、凄いねー!」
「この前、優陽くんと一緒に行ったお店のパエリアが美味しくて作り方調べちゃいました」
ふーん、と何か言いたそうに美和が見ている。
顔がニヤニヤしてるので、絶対にどう揶揄おうか考えてるな。
「美和さん、飛江さんが伸ばした生地にトマトソース塗って具材置いて行って下さい。
お二人のオリジナルピザです」
「それ良いわね。好きな物を好きなだけ盛れるのね!」
「あ、美和。一角にパイナップルとハム乗せた奴、作っておいて」
「おっけー」
手早く指示をだしながら、沙月はどんどん野菜を切っていく。
切った野菜をフライパンに入れていき、火を通す。
具材に火が通ったら、トマトを入れ煮詰め、予め用意してあるスープを煮立たせ、お米を入れていた。
てきぱきと淀みなく作っている。
「いつもと変わらず手際よく凄いな」
「そう言って貰えると嬉しいですね。
でも炊き込みご飯に近いみたいなので要領としてはそこまで複雑じゃないですよ」
サラダ用のレタスをちぎりながら、そういうものだろうかと首を捻る。
「あとは、火にかけておくだけなのでゆっくりしてましょう」
「ん」
「ピザはどんな感じです・・・か?」
ピザの具合を確認した沙月は目を丸くしている。
自分も見れば、感想としては似たようなものだ。
「いやー、あははー。楽しくてつい」
「これでも溢れないように調整したんだよね」
調整してこれかよ。と突っ込みたくなるほどに、具材が乗せられていたのだ。
まず何よりもチーズが多い。
本当に溢れないのかと心配になる程だ。
ある場所には、ハムとコーンが。
また別の場所にはエビやイカが所せましと乗せられている。
頼んだパイナップルとハムは忘れられていないが、これも具材が多めな気がする。
「自作じゃないとお目に罹れない芸当だな」
「えっへん」
「褒めてない」
「これも醍醐味という事にしておきましょう。
パエリアの出来上がりに合わせて焼きますね」
「うん、琴葉さんありがとう、お願いするよ」
テーブルに戻り、沙月が数度行き来をした頃、良い匂いがしてきた。
「本当に甲斐甲斐しいわよね」
「そうだな」
「泣かせないようにね」
「・・・・・・あぁ」
それはいつものテンションの高い美和ではなく、いつになく真面目な表情だった。
茶化すわけでもなく言われれば、誤魔化すことはできない。
言葉少なに肯定するしかなかった。
「お待たせしました」
「「「ありがとう」」」
「いただきましょう」
「「「いただきます」」」
パエリアの香しい匂いが食欲を刺激して止まず、まずは一口。
スプーンを口に運べば、美味しさが口いっぱいに広がり、ほっぺが落ちるようだ。
ピザもぎりぎりチーズが溢れていない。
具だくさんで零さないように悪戦苦闘しながらかぶりつく。
出来立てでアツアツのピザは格別の味。
沙月がパイナップルとハムの部位を美味しそうに食べれば、リクエストしておいて良かったと。
フレンチドレッシングのサラダで口をさっぱりさせてまたパエリアを頬張る。
食べる手が止まらず、あっという間に平らげてしまった。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
「はやっ!」
「いやー、美味しかった」
「凄い勢いで食べてたね」
「見ていて気持ちよくなっちゃいますね」
三人はまだ食べている途中。
二人は美味しい美味しいと食べ、沙月も満足そうだ。
一人で食事の余韻に浸っていると「ごちそうさまでした」と声が聞こえた。
食べた食器をまとめてキッチンへ運び、飲み物の用意をする。
コーヒーで良いかと問いかければ、それぞれがコーヒーで大丈夫と返事が返ってくる。
目の前で自由に切り分けられるように、ケーキと包丁、お皿、コーヒーと運ぶ。
ケーキを開けると、沙月がきらきらした瞳でケーキを見ている。
「とても美味しそうですね!」
「でしょー、ここのケーキは美味しいんだよ!」
沙月の問いかけに美和がはしゃぐ様に言い、和雲が先を促した。
「それぞれで好きな量をとっていってこうか」
「よーし」
さっそくと美和がケーキに包丁を入れる。
甘い物は別腹なのか、大きかった。
邪なツッコミを入れたくなったが、キッと美和が睨みながら言ってきた。
「何か言ったら怒るわよ」
「いえ、何も・・・」
表情に出てしまっていたらしい。
海がいれば、声に出して言っていただろうに。
残念だ。
すかさず美和は、もう一切れ普通の量を切り取っていた。
「美和、ありがとう」
「うん」
自然な流れで、和雲の分をお皿に乗せている。
「沙月、先にどうぞ」
「うん」
やはり量を食べられないので、小さめに切り取り、自分のお皿に乗せている。
「あの、とりましょうか?」
相変わらずの可愛らしさを覗かせながら、おずおずとそう切り出し、そわそわとしている。
もう何度白旗をあげたか解らない沙月の行動に、お願いする事しかできない。
「お願い、普通の量で大丈夫」
「うんっ!」
慎重に包丁を扱い切り取り、お皿に乗せてくれた。
「ありがとう」といえば、小さく頷いた沙月だった。
ケーキは美味しくそれぞれも美味しいと舌鼓を打っていた。
沙月の幸せそうな顔を見れば、このお店にしたのは正解だったと実感する。
半分ほど食べた頃だろうか、美和が何か企んだ顔をした。
「和雲くん、食べさせてあげる。あーん」
「美和・・・」
さすがの和雲もこれには少し間があった。
しかし決して嫌がっている様子はない。
観念したように、口を開け、ケーキが運ばれていった。
もちろん、食べている物は一緒だ。
「和雲くん、わたしもわたしも」
「はいはい、零さないようにね」
そうして、美和の口へ和雲がケーキを運び、美味しそうに美和が食べた。
先ほどから、美和の行動を真似しているのは気づいている。
さすがにこれは。と思い沙月を見ると、沙月もこちらを見ていて、目が合ってしまった。
咄嗟に視線を外し、沙月がどうするつもりか見てみた。
フォークを動かしては止め、動かしては止め。
さすがに躊躇が見られるが、実行しないという選択肢はなかったみたいだ。
一口サイズに切り分け、こっちに向かってケーキを運んできた。
もちろん沙月が使っていたフォークで。
それは沙月が使ってたフォーク。
こっちには俺が使ってたフォーク。
そこは沙月が食べてた部分で、違う部分でも良いんじゃないか。
そんなの思いを待ってはくれなかった。
「優陽くん、あーん」
期待のまなざしを向けられる。
じっと見つめられれば恥ずかしいからと言って断れるわけはない。
沙月への連敗記録が更新されていく。
勝てる日が来るとは到底思えない。
口を開け、フォークの先にあるケーキをパクりと食べれば、甘さが口いっぱいに広がる。
美味しいのは言うまでもない。
自分の皿にあるのと同じなのだから。
もちろん、そこで終わって良いわけではない。
沙月は両の手でこぶしを作り、待っていた。
恥ずかしい気持ちを必死に抑え、ケーキを一口分フォークに乗せて沙月の口元へ運ぶ。
嬉しそうにパクり。
さっきまでと同じ様に沙月は幸せそうな顔をしていた。
耳は真っ赤になっていたけれども。
そんな沙月を自分は見ている事が出来なかった。
自分も顔が真っ赤になっていたから。
俺たちの様子を楽しそうに見ていた美和は、名案が浮かんだとばかりにある事を言いだした。
「そうだ!今度ダブルデートしましょう!」
ちょっと待ってくれ。
もしかしてこれを外でやろうと言いだすんじゃないだろうな。
ただでさえも恥ずかしいのに、外でまた何かやるとか勘弁してくれ。
「ちょっと待━━━━━」
「行きたいです!!」
本気ですか沙月さん。
しかも、デートって。
いや、前一緒に買い物に行ったのをデートとするならば、一回も二回も変わらないと言えなくもない。
でも問題はそこじゃない。
「特別何かをしようってわけじゃないよ。
ただたんに四人で遊びに行こうってだけの話しだよ」
「横でニヤついてるのをどうにかしてから言ってくれ」
「美和も揶揄いすぎないようにね」
「はーい」
どこまでこの返事が信用できるのか。
和雲とのスキンシップと言われれば、それまでだ。
それを沙月が真似してるのを解っててやっているから質が悪い。
沙月にお願いされたら、勝てる気がしない。
それを身をもって経験したばかりなのだから。
「遊びに行くの、楽しみです!」と沙月に言われてしまえば、否と言えない。
出来るのはがっくりと肩を落とす事だけ。
落とした肩に和雲が手を添え、自分にだけ聞こえる声で言ってきた。
「ちゃんと褒めるんだよ」
お節介どもめ。
明日の事もあるからとケーキを食べ終わったら解散という事になりお開きとなった。
ひとしきりもて遊ばれた為、精神的疲労はかなりのものだった。




