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20【高校生達の勉強会2】

「「勉強会がしたい!」」


 異口同音に(かい)美和(みわ)が、前のめり気味にそう言ってきた。


 こいつら実はバカなのでは。


 二人で息を合わせたように言って来るなんて何かあります。と言ってるようなものだろうに。


 実際、成績で言うとバカと紙一重ではありそうだが。

 どういう事かと和雲(わく)を探してみると、いない。


 おかしい。


「和雲はどうした」

「飲み物買ってきてもらってる!」


 わざわざ席を外させて何をしたいんだ?


優陽(ゆうと)~、だからー、勉強がしたいんだよ!」

「一人でしろ。というかお前この前、寝てたじゃないか」


「でもあれのおかげで、赤点回避出来そうなんだよー」

「ほらほら、全場(ぜんば)君もそう言ってるし」


「凄い怪しいんだが……」


「そんな事ないない、沙月ちゃんも来るって連絡貰ってるよ」

「そっちが目当てか……」


 てへ、という表情をされても、それで許してくれるのは和雲だけだと思うけどな。


 第一、約束を取りつける順序が違うんじゃないか?


 大方、沙月のご飯をまた食べたいとか、巻き込んでわいわいしたいとかその辺りだろうけども。


「それでまた金曜日でいいのか?」

「「お願いします!!」」


 今までもテンションが高い二人が、バカなテンションでやり合う事はあった。


 それでも同じ方向を向いて、しかも勉強という名目でテンションが高いのは初めてだった。


 目的は一緒でも、動機が違いそうだが。


「あんまり迷惑掛けるなよ」


「はーい」とまるで気にしていない返事が返ってくる。


 何を作るか聞いて、足りない物は買って帰るか。



 金曜日の放課後、自分の家に向かう為、海と和雲との三人で帰路についていた。


 美和は、沙月と一緒に来るらしく授業が終わるなり早々に教室を出ていった。


「なぁ、美和は何を企んでるんだ?」

「僕も詳しくは聞いてないよ」


「大雑把には?」

「そうだね、琴葉(ことは)さんと仲が良くなったとは聞いたよ」

「そうか」


 仲のいい同性の友達が出来るのは良いことだろう。


 以前、和雲が美和にもっと同性の仲のいい友達が出来たら良いと言ってた事も思い出す。


 割と美和は和雲にべったりなので、同性の友達は少ないそうだ。


「あーぁ、良いよなぁ、二人とも」

「和雲はともかく俺はそういうのじゃないぞ」


「飯作って貰ってるのに何言ってるんだよ!?」

「……それはいつも感謝してるが」


「十分(うらや)ましいんだよな、おまえー」


 海が羨ましさを大仰に主張してくる。


 確かに一言で言うなら、美少女と言っても過言じゃない沙月。


 彼女が毎日のように食事を作りに来てくれている。

 これに文句を言ったらバチがあたる。


 ただしこれはあくまでも友人として信頼されているからだと思っている。


 現に安心感から、自分の家で寝てる事もある。

 やむを得ないとは言えだ。


 だから、尚更辛いと言うのも事実なのだが。

 

 今の関係を崩したくない。

 嫌われたくない。


 沙月には笑っていて欲しい。

 楽しそうにしていて欲しい。


 そういった願いと、安心しきった顔に触れたい。

 髪を撫でたい。


 自分だけに笑顔を向けて欲しい。

 という独占欲が芽生え始めているのを自覚している。


 安心しきられているというのも、困りものだった。


 考えに耽り掛けた意識が、和雲の問いかけに引っ張られた。


「海は、憧れの先輩と出かけないの?」


「そんなすんなり誘えればいいんだけどなー、後輩君って感じで相手にされてない」

「珍しいな、海がそんな躊躇(ちゅうちょ)するの」


「俺だってねー、色々考えてるんだって」

「応援ならいくらでもするぞ」


「優陽の応援は、馬に蹴られそうだから、遠慮する!」


 こうして歩いているといつもは長く感じる家路も、あっという間だった。


 家に付き、中へ案内をする。

 この前と同じようにテーブルを置き、各々勉強の準備をしていると。


 ガチャッ


「おじゃまします」

「…………お邪魔します」


「いらっしゃい、美和、なんで玄関でぼーっとしてるんだ?」

「何って…………」


 何か衝撃的な事が起きたのだろう、言葉を無くしている様子だった。


「優陽~、おれにも鍵くれ」

「ばっ……」


 言われた瞬間に理解した。


 違うそういうのじゃない。

 じゃー、どういうのなんだ。と続いていけば、ちゃんと理由もある。


 だけどそれを説明すればするほど、沙月との関係が薄っぺらくどうでも良い事のように思えてしまう。

 説明をしたくないと思ってしまう。


 ましてや本人の前でそんな説明なんて出来なかった。


 何も言えなくなった自分の代わりに答えたのは沙月(さつき)だった。


 何か買ってきたのだろう。

 冷蔵庫に物を入れながら。


「私も気軽に渡す物じゃないとは言ったんですけどね。

 本人が気にした様子もないようなので、そのまま預かってます。


 今は、そんな何でもない事にとても安らいでますし、とてもありがたいと思ってますよ」


 穏やかにはっきりとそう言われてしまえば、とやかく言う必要はなかった。

 他が納得したのかは判らないが。


「揃ったことだし、勉強を始めようか」


 和雲が声を掛け、テーブルへと集まる。



 チクタクチクタク


 時を刻む時計の針の音だけが、しばらく鳴っていた。


 ふぅ、と一区切り付き。


 周りを見渡せば各々似たようなタイミングだったのか顔を上げていた。

 沙月だけは、まだ中途半端なのかノートにペンを走らせている。


 勉強している時の真面目な表情を初めてみた気がする。


 長い髪を耳に掛け、長い睫毛(まつげ)は綺麗な目を引き立たせている。

 まっすぐにノートを見ている様は可愛らしさが損なわれる事はない。


 日常であって非日常のような、いつまでも見ていたい気分にさせる光景だった。


 思わず見入ってしまい、はっとするように周りを見ると三人ともがニヤニヤしていた。


「コーヒー淹れてくる」

「今、甘ったるいから甘さ控えめでお願いしまーす」


 美和が後ろで何か言っているが無視だ無視。


 コーヒーを入れる傍ら、テーブルに向かう四人を見ていた。


 いつの間にか沙月が家に居るようになった。

 そこに勉強会と称して和雲、海、美和がいる。


 今も、海と美和があーだこーだ言い合っては、和雲と沙月に同意を求めたやり取りをしている。


 美和が笑えば、沙月もつられて笑い、和雲もやれやれと言った感じで笑う。

 海は何かやりこめられたのかテーブルを叩きそうな勢いだ。


 最初は、特になんとも思っていなかった。


 でも、今はこんな光景を見ているだけで、心が凪いでいて、悪くないと思っている。

 

 そしてなぜかふと、先日の沙月の独白を思い出していた。

 ここで泣きじゃくる彼女はまるで迷子が一時の安らぎを求めているようだった。


 あの時、確かに彼女にどうか笑っていて欲しい。

 どうか安心し安らぎを感じて欲しいと願わずにはいられなかった。


 それが今はどうだろう。


 まだ完全に傷が癒えているわけではないだろう。


 それでも、一時の安らぎでさえも与えられなかった過去を過去に出来るなら。


 幼心に作ってしまった臆病な壁から少しでも顔を彼女が覗かせる事ができたなら。

 この三人には感謝しかない。


「コーヒー、どうぞ」

「ありがとうございます」


 それぞれにコーヒーを手渡していく。


「あれ、朝比奈(あさひな)君、これもうミルクとか入ってるの?」

「あぁ、入れておいた」

「良くわかったわね」


「この前、目の前で使ってただろうが。

 美和はミルク1杯に砂糖2個、和雲はブラック、海はミルク多めに砂糖1個だろ」


「やっぱり朝比奈は良く見てるよね」


 四人ともが関心しているが、俺からすると自然な事だった。


 もし見ていると言えるならば、クライミングをしている時に他人が何をしているかを見ているからだろうか。


 クライミングにおいて他の人の動きは非常に参考になる。

 それが初心者から上級者問わずだ。


 自分には無い動きは無いかと周りを見る癖がついているのかもしれない。


 一息つくと特に誰とも言わず、また勉強へと戻っていく五人だったが。


 ぐぅぅぅ。


 また海か、と思い海を見ると首を振ってきた。

 誰かと思い、見回すと沙月が恥ずかしそうにお腹を押さえて居た。


「ご飯、作ってきます」


 顔を赤くしながら、逃げるようにしてキッチンへ向かってしまった。


「朝比奈君、あそこはスルーしてあげなきゃ」


 美和が、人差し指をたてながら、左右にチッチッチッと振っている。


 美和はそれやりたいだけだろ。


「いや、てっきり海だと」

「おまえー、おれを何だと思ってるの」


「何も考えてない勢いだけが取柄のやつ」

「ひどくねー」


「良く言って行動力がある。止まりだな。

 続かないけど」


「わ、優陽がおれを褒めた。

 きもっ! でもどうせなら褒めきれよ」

「どっちだよ」


 海が身をくねらせていて気持ち悪いのは確実だが。


「ほら、朝比奈は手伝いに行かなくていいの」

「……行くけど」

「海は、今日良い感じだから、待ってる間も進めてようか」


 和雲に体よく追い出された気がしないでもないが、手伝うつもりはあったので台所へ移動。


 なぜか美和も一緒についてきた。

 きっと手伝わないだろうが。


「焼きそば?」 

「うん、野菜は切り終わったので後は炒めるだけです」


「鍋振るよ。五人前は重いでしょ」

「うん、お願いします」


 美和がカウンター越しに頬杖を付きながら、覗き込んでいた。


「鍋も振れるの?」

「そこ驚く所なのか……?」


「わたしがやるとバラまいちゃう……」

「どれだけ力任せなんだよ」


「私も最初は上手くできませんでしたから、慣れですよ」


「沙月ちゃんは相変わらず優しいねぇ、どっかの誰かと違ってー」

「美和の彼氏はあっちだぞ」


「朝比奈君が、ツンケンする理由にはならないんだけど?」

「優しくする理由にもならないな」


 自分達にとっては、いつも通りのやり取りだが沙月がおろおろしてしまった。


 美和と目を合わせ、息を抜いた。


「バラまいちゃうって事は、鍋を上に振るからだろ」

「だって空中に持ち上げるんでしょ」

「鍋は回せ、この方が撒かない」


 言いながら、手首を使って奥にある具材を手前に返すように回し、混ぜていく。


「どうしよう、まさか女子力で負けると思わなかった」


「ついでに沙月のは真似しない方が良いぞ。

 体全体使ってるから練習が必要」


「やっぱ沙月ちゃんは料理上手だよねー」

「えっ、ありがとうございます」


 急に話題が切り替わり、戸惑っているようだ。


「俺のは必要最低限しか出来ないけどな。

 沙月が切った野菜とか料理によって切り方変えてちゃんと厚さが均一だったり細かい部分でもきちんとやってるよ」


「沙月ちゃんは将来、良いお嫁さんになるよ。

 わたしのお嫁さんになって!」

「美和がなるんだろうが……」


 呆れるようにそうツッコムと可笑しかったのか沙月が笑っている。


 できたお皿をもっていくと和雲と海もひと段落した所だったようだ。


「料理は楽しかった?」


 和雲にしては、不思議な質問だな。

 

「はい!」


 沙月にした質問だったのか。

 確かにいつもよりにこにこしている気がする。


 なぜか美和がドヤってる気がするし。


「優陽ー、腹減って死にそう」

「そこで倒れられると困るから、恵んでやろう」


「うまそー」

「ほれ、食べようぜ」


 一度に作ったから、今回は全員で食べれる。

 やはり前回のようにバラバラで食べ始めるよりこちらの方が良い。


「いただきます」と五人で食べ始めれば、うまいうまいと男性陣はがっつき、美和は沙月を手放しに褒めている。


 そういえばと、和雲の皿を見てみると案の定だった。


「和雲、普段は明らかに俺らの中で精神年齢高そうな感じだけど、今ものすごく幼くなってるな」

「ははは……こればっかりはね」


 焼きそばに入っていたニンジンを端に避けていた。


 前からニンジンが嫌いなのは知っていたが、目の前でニンジンがある物を選んでいなかった。

 端に避ける程とは。


「あ、すいません。苦手な物だと知らなくて」

「あぁ、良いの気にしないで。

 和雲くんのはわたしが食べちゃうから」


 そう言って、和雲が避けたニンジンをひょいっと食べていく。


「凄いレアな光景だな……」

「そうなんですか?」


「あぁ、和雲は俺から見たら、出来ない事は無いって感じでなんでもそつなくこなしてる感じ」


「僕にだって苦手な物はあるさ」

「それでも俺とか海に比べたら、出来る事の方が多いだろう」

「おれは、苦手な事の方が多いぞー」


「決してそんな事はないと思うけど。

 美和がいるからなんとかなってるだけだよ」


 ただ一人の為に頑張る。


 言葉としてその意味や気概を知ってはいる。

 実感としてはまだなく、いまいちピンと来る事ではなかった。


 けれども二人を見ているとお互いに支え合っている様子は伝わってくる。


 いつもなら二人が気遣い合う様子が見て取れ心地良い。


 しかし今は食事中でしかも美和は和雲のニンジンを食べている。

 その様は、非常に残念な感じしかしなかった。


 全員が食べ終わると。


「ケーキ買ってきたから、食べましょ」


 二人が遅かった理由はそれか。


「飲み物は何が良い?」

「わたし、今度は紅茶!」


「聞いておいてなんだけど、美和は遠慮ないな」

「した方が良い?」

「いいや」


 むしろそれでこそ美和だろうとすら思う。


「僕も紅茶お願いしようかな」

「おれも紅茶ー」


「へいへい」


 面倒だし大き目のポットに入れて持ってくるかな。

 と算段を付けた時。

 おずおずと沙月が袖を掴み、言いづらそうに言ってきた。


「あの、私は出来れば優陽くんのコーヒーが……」

「良いよ、淹れてくる」


 そうして言われては、こちらも期待に応えたくなってしまう。


 そのままケーキを取りに来ようとしてたので、手で制した。

 ただ運ぶだけなので、手伝って貰うことの程ではない。


 冷蔵庫を開けるとケーキの箱はすぐに見つかり、飲み物やお皿と一緒にそのままもって行く。

 取り出す時に崩れても自己責任だ。


「優陽が最初に選ぶ権利をあげよう!!」


 なぜか海が宣言するように言い放つ。


 そうして開けられた箱には、五つのそれぞれ別な種類のケーキが用意されていた。


 ショートケーキ

 チョコレートケーキ

 モンブラン

 ミルクレープ

 チーズケーキ


 無難な所を選んできましたと言わんばかりのラインナップだな。


「買ってきた二人は目当てのケーキとか無いのか?」


「大丈夫、全部好きだから!」

「うん、どれも好きですよ」


 予めこの質問が予想されてたのか、すんなりと返事が帰ってきた。


「それなら、チョコレートケーキを貰おうかな」

「わたしモンブラン!、沙月ちゃんは?」


「私で良いんですか……ショートケーキで」 

「おれ、ミルクレープ~」


「チーズケーキも美味しそうだね」


 何やらあっという間に決まってしまった。

 最後に選ぶことになった和雲を見ると余り不満はないようだ。


 そうしてケーキが決まり沙月がお皿に取ろうとした時、事件は起きた。


「あっ」


 そう言って沙月はケーキをお皿に運ぶ際に横に倒してしまった。

 しょんぼりする沙月。


 前言撤回。

 

 不器用な手つきで、ケーキを起こしてあげた。

 幸いにもフィルムで囲まれているため、大きく崩れてはいない。


「ありがとうございますっ」


「ん」と照れ隠しの様に答える。


 一連の事を見守る周囲は何も言わなかった。


 何も言われないだけで、表情を見る勇気はないが。


 美和はその様子に満足した様子。

 

「和雲くん、お互いの半分こしよ」

「いいね、そうしようか」


 いつもの事なのだろう。

 和雲は慣れた手つきで両方を半分にし、それぞれのお皿に半分ずつを乗せた。


 その様子を沙月はじっと見つめ、やがて意を決したように。


「優陽くん、あの、半分ずつ分けませんか?」

「いいけど」


 チョコレートケーキも食べたかったのだろうか。

 

 和雲がやってたのを見よう見まねでそれぞれを半分ずつに分け、それぞれの皿へ分けてあげた。


「ありがとうございますっ」


 今日一番の嬉しそうな顔をされ、直視する事が出来ない。


 まるで花開くとはこういうのを言うのだろう。

 見る物を惹きつけてやまない笑顔だった。


 そんな空気が続く事はなく吹き飛ばすように、海の言葉が響く。


「うまかったー」


 一人先に食べ終わった海が満足そうにしていた。


 誰ともなく笑えば、全員で笑い合い、時間は過ぎていった。


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