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18【高校生達の勉強会】

「勉強会がしたい!」


 (かい)和雲(わく)美和(みわ)の四人で帰宅している途中、開口一番に海はそう言った。


「なんだよ急に、またやばいのか?」

「和雲ぅ、教えてくれよー」


「はいはい、良いけど、どこでやる?」

「わたし、朝比奈(あさひな)君の家に行ってみたい!」


「……なんで?」

「え、だって一人暮らしってどんな感じか興味あるし」


「おれも行ってみたいなー、頼むよ、今回まじでやばいかも……」

「僕も興味あるかな、無理にとは言わないけどね」


 沙月(さつき)が出入りしていて部屋は片付いているので、問題は無いと言えば、問題はない。

 沙月が出入りしているのが問題と言えば、問題だが。


 事情を説明すれば、沙月も大丈夫だろう。


「解った。明後日の金曜日でいいか?

 翌日休みの方が捗るだろ」


「おっけー。和雲先生お願いします!」

「はは、お手柔らかに」


「わたしにもちゃんと教えてよね」

「ちゃんと美和も見てるから大丈夫だよ」


「……あんまりいちゃつくなよ」


 そうは言っても、これは平常運転だ。

 変わらないだろう。


 美和に至っては海に文句言ってて、聞いて無さそうだし。

 

 沙月にはどう説明しよう。

 どう説明するも何も普通に言えば良いはずなのだが。


 そこになんとも言えない感情があったのは確かだった。



「私も参加したいです!」

「えっ?」


 事情を説明した時、沙月から予想もしていない事を言われて思わず驚いた。


 てっきり了承されて、その日のご飯は別に取ることで終わりだと思っていたのだ。

 それがこっちを向いて、両の手で握りこぶしを作っている。


 その視線はまっすぐで思わず顔を背けた。


 何も問題はないはず。

 それでも即答が出来ずに間が空いてしまう。


 ダメだと思ったのか。

 両のこぶしが徐々に下がっていく。


 胸がちくちくと痛い。


「ダメ……ですよね……」


「……いや、ダメじゃない……と思う。

 別にその四人でいなきゃいけないって言う事もないし。

 一応、簡単に説明もしておく」


「ありがとうございますっ!」


 沙月の顔に笑顔が戻り、胸を撫で下ろした。

 そう何も問題は無いはず、沙月が家に来る事くらい。


 出入りしていると話すわけではないのだから。



 翌日、部屋で簡単な自己紹介をした時、なんとも言えない空気になってしまった。


 三人の紹介をしたまでは良かった。

 次の番と沙月の紹介をした時に噂を思い出したのだろう、三人共がその人だと気づいてしまったのだ。


 もちろん、三人とも何か含む事があったわけではない。

 ただ沙月としては気づかれたくなかったのが本当の所に違いない。


 やっぱり断った方が良かったか。

 そんな思いがよぎった。


 そんな中、いち早く声を掛けてくれたのは美和だった。


「一人加わるって聞いてたけど、こんな綺麗で可愛らしい人なんて聞いてなくて驚いちゃった。

 ごめんね」


「そうだね、良かったら仲良くして欲しいな」

「優陽もちゃんと言えよなー」


 和雲も後を追い、海も自分へ言う事で落とし所とした。

 こっちももちろんその運びに異論はなく。


「悪い」


 と素直に謝った。


「こちらこそ、よろしくおねがいします」


 沙月もその流れを組み挨拶をした。

 このまますんなり勉強の流れになるかと思いきや。


「それでさー、なんでミスコン出てその後出なかったの?」


 台無しだ。


(かい)、なぜ蒸し返す……」

「え?、だって気になるしここでお茶濁したって残るだけだろー。

 皆気づいてるんだし」


「いや、それもそうなんだけどな……」


 言わんとしている事は解る。

 わかるんだが。


「大丈夫ですよ。

 その噂が独り歩きしてるのも聞こえてきますし、少しだけ困ってるのは事実ですけどね。


 何がどうという事はありませんよ。

 クラスの誰かが推薦で届け出をしてしまったみたいで断り切れなかったんです。


 その後は御存知の通り、辞退させていただきました」


「そういうの、困るのよね。

 わたしもしつこく出ないかって言われたし」


「美和は、あの時暴走寸前だったからな……」


「和雲くんが居るのに、何考えてるのって感じ」

「あの時は良く我慢したね」


 嘆息するように言い、テーブルに突っ伏している美和を宥めるべく和雲は彼女の頭を撫でていた。

 その様子を沙月はじっと見つめている。


 撫でて欲しいのかな?

 

 前撫でていた感触を思い出す。

 ふいに腕が動きかけて、慌てて静止させた。


 思わずとはいえ、撫でようとしていたなんて思ってもみず、自分自身に驚いた。

 幸い誰にも気づかれてない様子だったが。


「さ、本来の勉強を始めようか」

「はーい」


 和雲の合図に各々、勉強を始めていった。


 一時はどうなるかと思ったが、意外に沙月と美和は気があったようだ。

 いつもなら美和が和雲へ教えて欲しいと甘えに行っている。


 今日は女性同士という事も手伝い、沙月に教えてもらっている。

 教え方が上手なのだろう。


 美和が関心するようにしていて、仲良くやれていそうだ。

 そうして空いた和雲に海が教えてもらうという構図になった。


 総合的な成績で見れば、ちょうど真ん中にあたるのが自分。

 当然あぶれるのは仕方ない。


 何か飲み物でも用意するか。


 眠気覚ましにコーヒーを人数分用意し、自分と沙月の分だけミルクを入れて、他の三人にはポーションをもって行った。


「ありがとうございます」

「「「ありがと……う……?」」」


 三人が変な反応をしていて、コーヒー嫌いだったっけな。と過去に飲んでた記憶を掘り起こす。

 そんな的外れな事を考えていると。


「海、美和。ステイ、勉強に戻るよ」


 二人は何やら口を開こうとしていたのか。

 和雲に静止され大人しくさせられている。


 沙月はにこにこしていた。


 強制的に集中させられた二人は、そのまま大人しくしている。

 自分ももう一区切りつけるべく、気を入れ直す。


 しばらくすると、ぐぅぅぅぅ。っと大きな音が聞こえた。

 音の発生源を見ると、海がぼーっとしている。


 さっきまで集中していたようだが、自身のお腹の音で集中が途切れたようだ。


「何か出前でも――――――」

「私、何か作ってきますね」


 そう言うやいなや、沙月は台所へ向かった。

 そしてすぐさま料理の用意をし始めてしまった。


 多分、沙月にとってはいつも通りの行動。

 特に何も言ってなかったから当然そうするのだろうと思って行動してしまったのだろう。


 どれだけあーしておけば、こーしておけばと思い返しても、言ってなかったのがどう見ても悪い。


 そして後悔しても遅い。


 視線を三人に向けるとそれぞれがあっけにとられるように沙月を見ていた。

 次第に脳が現状を把握したのか音がしそうな程、まっすぐにこっちを向く。


 何か言いたそうだな。


「朝比奈、これはもう僕にも止められないな」


 和雲が(さじ)を投げた。


「ねぇねぇ、どういう事。

 さっきもさ、どうして琴葉(ことは)さんの好み知ってたの?


 あんな良い子どうやって引っ掛けたの!?」


「うるせー、一緒に食事した事あるだけだ。

 変な表現やめろ」


 美和がうるさいぞ、横の彼氏。

 コーヒー飲んでないで止めろ。


「羨ましいぞー、どうやったんだ!何をしたんだ!」

「どうもなにも、何もしてねーよ!」


 こいつは後で黙らせてやる。


「「いつから付き合ってるの?」」

「付き合ってない……」

「「えっ……?」」 


 和雲もそれには驚いたようで、声も無くこちらを見ている。

 三人は、びみょーな視線に変えると。

 じーっと見てきた。


「な、なんだよ……」

「べーーーっつにぃぃぃぃぃぃぃ」


 どう聞いても不満のありそうな、美和の声。


 その視線に耐え続ける事は出来なかった。


「ちょっと手伝ってくる」


「あー、逃げた!」と後ろで何か言っているが無視だ無視。


「何作るか決まってるの?」


「お好み焼きでも作ろうかと思ってます。

 細かく分けたりするより手軽ですしね」


「キャベツの千切りやろうか」

「うん、お願いします」


 キャベツと包丁を用意し、千切りをしていると向こうから会話が聞こえてきた。


 ねぇねぇ、なんで二人分の包丁とまな板があるんだろ。

 本当にね。

 

 優陽、興味なさげだったからびっくりだわー。

 そうだね、朝比奈はあんまり興味なさそうだったね、逆にだからかもしれないよ。


 あ、でもさ、わたしも和雲くんと一緒に今度何か作りたい。

 うん、いいね。


 全部聞こえてるんだが。


「切り終わったよ」

「そうしたら、後は混ぜて焼くだけですので、戻ってて大丈夫ですよ」

「そうする」


 戻ると開口一番に海がとんでもない事を言おうとしていた。


「おかえりー、まるで――――――」

「まるで…………?

 なんだ?

 飯を食いたかったら、言わない方が良い事もあると思わないか?」


 どうせ夫婦だなんだと言いたかったのだろう。

 誰が言わせるか。


「ハイ!!」


 海を黙らせ、座ると和雲は一つだけ。という様に言ってきた。


「朝比奈の努力次第だと思うよ」

「エスパーかよ」


 窓の外を見ながら、そう答えるだけだった。



「あと同じのがもう一枚焼けるので、食べててください」


 そう言って、次のを焼く間に取り皿と(はし)を持ってきてくれた。


 大きめに焼いたみたいで、それぞれでつつけるようにしてくれたのだろう。

 かつおぶし、ソース、マヨネーズと、どんどん持ってきてくれる。


 これはさすがに何言われても仕方ないと観念してしまう。

 

「…………」


 そういう時に限って三人は何も言わずニヤニヤしているだけだった。


 何か言えよ。


「やったー、うまそー」


 わざとやってるのか、そっちにかよ。

 美味しそうだけど。


「本当に。

 わたしもお腹空いてたんだ」

「お言葉に甘えて頂こうか」


 三人が「いただきます」と大きい声で言えば、向こうからは「どうぞー」と声が返ってくる。


 三人が三人とも美味しい、美味しいと食べている。

 

 その間、携帯を弄り適当に暇を潰す。

 それほど時間もかからず、もう一枚焼いて、沙月が戻ってきた。


「あれ……」


「作ってくれてありがとう。

 いただきます」

「めしあがれ」


 時間が経っていると言っても、冷めてしまっているわけではない。


 一枚目の分を食べ終わると二枚目のに取り掛かり、あっという間に食べ終わってしまった。


「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」


 沙月はやはり食べ始めが遅くなってしまったからだろう、まだ食べていた。


 もぐもぐと姿勢良く行儀良く。

 いつもの姿に思わず笑みがこぼれそうになる。


 その間に空いた食器を運び、スペースを空ける。

 

 戻ってくると沙月も食事が終わったようで、ついでに皿も下げておく。


 三人の視線はそれぞれ雄弁に語っていた。

 良い仲だと。


 その後は食事についての話をしているようで美和が積極的に話しかけている。


「本当に美味しかったー。ありがとう!」

「簡単な物でしたので、こちらこそ」


「料理得意なの?わたしにも今度教えて~」

「私で良ければ今度一緒に作りましょう」

「やった!」


 喜んだ美和は、さっそくと言わんばかりに連絡先を交換していた。

 沙月も嬉しそうだ。


「美和は、料理できないんだっけ?」


 その言葉に手を止め、困った表情を浮かべた。


「まったく出来ないわけじゃないけど、和雲くんの方が上手……」

「あぁ、ご愁傷様」


 美和は悔しそうに。


「まだ終わってない!

 終わらせるな!」


「簡単な物ならどうなんだ?」

「例えば何よ」


「肉を焼くとか」

「周りが焦げて半生にしたわよ!」


「野菜を炒めるとか」

「フライパンかえそうとして、盛大にぶちまけたわよ!?」


「麺ゆでるとか」

「盛大に吹き零して、火止まって茹で時間わからなくなったわよ!!」


「あきらめろ?」

「だからまだ終わってない!

 練習中!!」


「あはは、僕は美味しそうに食べて貰えたら嬉しいだけだよ。

 琴葉さんだってそうだろ?」


「そうですね、作るのがとても楽しくて作りがいがありますね」


 和雲も沙月も笑いながら同士を見つけたとばかりに訳知り顔だ。


「朝比奈は、美味しそうに食べるからね」

「そう……ですね……」


「みんなも美味しそうに食べてただろ」


「本人は見えないから仕方ないね」

「そうですね……本当に」


「俺の事っぽいのに、俺をのけ者にするのやめてくれない?」


 釈然としない物を感じて、そう言いはするものの返答はなく、代わりに返ってきたのは和雲と沙月の盛大な溜息だけだった。


 なんなんだ。


 どこか静かだと思ったら、海は寝てるし。


 お腹も膨れ、勉強に戻る雰囲気にもならず、残りは雑談でその日は終わっていった。


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