16【高校生カップルの教え】
琴葉との良好な関係を続かせる為にはどうしたら良いだろう。
昼食をとりながら目の前にお手本にしたいと思っているカップルが居るのだ。
参考に聞く分には良いだろう。
「和雲と美和って喧嘩するのか?」
「どうしたんだい突然に」
「和雲くんとは喧嘩しないよ。
なんでも言う事聞いてくれるもん」
「さすがに何でもって事はないけど、喧嘩はしないね」
「年季?」
「努力の結果と言って欲しいな」
「和雲くんは凄いんだから」
え?
一番予想してなかった答えが返ってきてしまい、戸惑いが隠せない。
「ごくごく普通の事だよな?
努力って。
努力してないとは思ってないけど、まさかの返事だけど」
「何を思っているかわからないけども…………」
和雲にしては考えてるな。
「朝比奈が誰かと関係を築きたいと思っているなら足りないのは、口に出す事かな。
どういう関係かは置いといてね」
飛躍してる気がしているが概ね正しい。
お前はエスパーかと突っ込みたくなる。
「お前はエスパーか」
「はは。まぁ、そういうところだね」
「歩いてる時、腕に引っ付かれて歩きにくくないのかバカップル」
「それだと嫌なやつでしょ。
違う!」
「強烈なダメ出し、ありがとう」
「別に朝比奈だって解っててやってるんだろ」
まぁ、言わんとしている事は解る。
「朝比奈は出来るよ。
目上の人に対しては基本的にできてる。
僕たちに対してもひかえ目にはなっているけど、言ってくれてる」
「そうだよ、気づいてるんだから言えばいーの。
特に女の子相手なら、髪型とか服装とか褒めてくれれば嬉しいんだよ。
絶対気づいてるのに、朝比奈君は絶対に言わないんだから」
「美和相手に言ってどうするんだよ。
和雲がいるだろ」
「それだよ。
確かにわたしは和雲くんがいるから良いの。
それはわたしにとって特別な言葉。
普通の言葉で普通に言ってくれればいいの!」
グウの音も出ないとはこのことだろうか。
思わず苦虫をすり潰した表情をしてしまう。
「僕はそういった普段からの小さな積み重ねは大事だと思ってるし、やっているつもり。
話さなくても通じるとも思ってないからね」
「わたしは幸せ者だよー」
そういうなり美和が和雲に抱きついている。
まるで周りに見せつけるように。
いつもはもう少し控えめな気がするが今日は特に甘ったるいな。
時期が時期なだけに周りへの牽制もあるんだろうけど。
「ちなみに僕らのこれはわかっててやってるからね」
「やっぱりエスパーか」
今日は登りに行かないので特に約束は無かった。
しかし琴葉は食事を作りに来てくれていた。
キッチンで忙しそうに動く姿を追いかけながら、和雲に言われた事を思い出していた。
褒める、か。
頭では分かっている。
けれどどうしても口にする気恥ずかしさがなくなるわけでもない。
またあんなことがあった後で、いきなりいい出すのも違う気はしている。
うんうんと唸っていると声を掛けられた。
「出来ましたよ」
「ありがとう、運ぶ」
今日は鰤の煮付けに白菜の浅漬け、湯豆腐、レンコンの金平とあおさの味噌汁だった。
料理をしないわけではないが、こういうものをパッと作れるのには感心しきりだ。
おまけに味噌汁の出汁は、きちんと鰹節と昆布でとっているようだった。
美味しそうでついつい前のめりになってしまう。
「いただきます」
「めしあがれ」
鰤はふっくらとしっとりしていてタレが絡んでごはんが美味しい。
白菜の浅漬けもちょうど良い塩加減。
湯豆腐も寒くなってきたからのチョイスなのだろう、はふはふと良い喉越しだ。
レンコンのキンピラもピリっと良いアクセントになっている。
これを言えば良いのか?
途中で箸を止め、口の中の物を飲み込む。
普段とは違う行動に琴葉が不安そうな顔をしていた。
「えっと、鰤がふっくらしていてタレも美味しくてとっ……」
噛んだ。
そんな様子を見た琴葉は盛大にむせ、手を口元に当て、くすくすと笑っている。
バツが悪く、ゆっくりと食事を再開していく。
ひとしきり笑い涙を拭きながら琴葉は言った。
「どういう経緯でそうしようと思ってくれたのかは解りませんが。
気持ちはありがとうございます。
でも無理に言葉を言わなくても良いですよ。
特に食事に関してはいつも美味しそうに食べてくれていますし、『いただきます』も『ごちそうさま』も言ってくれてますから。
それだけで十分なんです」
なんとも締まらない結果になってしまった。
それでも食事に関してはこのままで良いと言うのでこのまま食べよう。
その方が自分も気兼ねなく食べれるし。
「ありがとう……、ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
いつもは食器を運ぶのは自分の役割だったが、機嫌が良いのか持っていってしまった。
そのまま洗おうとしたので慌てて止める。
「琴葉、それは俺がやるよ」
琴葉は出していた水を止め、下を向いたまま何か呟いている。
急な変わり様に戸惑いながら、どうしたのかと近づくとさっと顔をあげた。
その顔は先程とは打って変わり、じとっとこっちを見つめ頬を膨らませている。
私はとても不満です! と訴えているかのようだった。
さっきのミスとは違い何か大きなミスをしたらしいという事はわかる。
何をしたのだろうか。
琴葉は俺の服の袖を掴んだまま離れず、こっちをじっと見ていた。
俺がやったことといえば名前を呼んで。
名前か?
「あの……沙月………さん?」
一瞬、笑顔になったがまた戻ってしまった。
しかも掴んでる袖を引っ張ってるし。
「…………沙月」
「うん!」
正解と云わんばかりにとびっきりの笑顔を見せてくれれば恥ずかしい思いをして言ったかいがあると言うもの。
「洗い物は俺がやるよ」
「お願いします」
「あの……服を掴むのをやめていただけると……」
そう頼んでもにこにことした表情は変わらず楽しそうだ。
「いやです。
そのまま洗い物しててください」
「はい」
いったいどうしたんだろう。
そう思いながら洗い物を済ませ、コーヒーの準備をする。
さすがに移動するので掴んでいる事もせず、沙月はソファーへ向かった。
コーヒーを持っていく頃にはいつもの沙月に戻っていたように見えた。
またいつもの柔らかい笑顔を向けられ、ほっとする。
時が過ぎるのはあっという間。
沙月が帰る時間になり玄関まで見送ると。
「優陽くん、おやすみ。またね」
不意打ちで言われた事もそうだが、何よりも表情が反則だった。
恥ずかし気に視線を下げていたかと思えば、こっちを見て柔らかくにっこりと笑顔で言われてしまい。
とてもとても、なんというか、可愛かった。
「…………」
パタンという扉が閉まる音がした。
そのまま音がなり終わってもまだ固まってしまい、その場にしゃがみこんでしまった。
脳裏には、恥ずかしそうににっこりとしながら名前を呼ぶ顔がついて離れなかった。
かわいすぎるだろ。




