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123【新学期と新しい環境と】

 新学期となり、とうとう高校生最後の一年間。

 

「おはようございます、優陽くん」

「ん、おはよう」


 これまで通り沙月が迎えに来てくれた。

 そんな生活も後一年かと思うと感慨深いものがある。

 同時に沙月の制服姿を見れるのも、あと一年かと思うと別の感慨も湧いてくる。

 決してそういう趣味があるわけではない。


 沙月の叔父との話し合いも無事解決。

 あとは自分達がしっかりすれば良いだけの話しだ。

 そこには何も障害はなく、何事もなく卒業できるものと思っていた。


 沙月と朝食を食べ、マンションの下へ降りると後ろから実生が慌てるようにして降りてきた。


「んほよー」

「おはよう、口の中の物を食べてから出て来いよ」

「実生ちゃん、おはようございます」 


 きっと寝坊したのだろう、食パンを加えて慌てて家を飛び出してきた様子。

 今時これを地でやるのがいるとは思わなかった。

 しかも妹なのだから、尚更、言葉を失ってしまう。

 何を思ったのか察したのか実生は、得意げな顔をして言ってきた。


「走らないで良い時間に出れたのを褒めて!」

「食べるか走るかを取って、走らないのを選んだってこと?」

「そう!」


 そもそもそこまで急がないといけなくなった事が問題だと思うのは自分だけなのだろうか。


「ギリギリ過ぎる。首皮一枚なのを褒めろって言われてもな」

「実生ちゃんも今年から先輩ですから、食べちゃいましょうか。待ってても間に合います」


 どうやら沙月の言葉だと、効果があるらしい。

 取り分け先輩になるのだからという言葉が効いたのか、詰め込むようにして頬張り実生は咀嚼した。


 その様子に思ってしまうのは、実生の中で人としての格付けでもあるのだろうか。

 兄の言葉は全くもって響かないくせに、沙月の言葉だけはすぐに実行するのだ。


 パンパンと手で叩きパンくずを落とすと、これで大丈夫と言わんばかりの態度だった。

 何が大丈夫なんだと言うのも馬鹿馬鹿しい。


「沙月、行こう」

「うん」


 これ以上は付き合ってられないと、沙月の手を取り歩きだす。

 特に沙月との間に会話は無い。

 実生はそんな二人の後ろをついて歩いてきてた。


 徐々に周りに生徒たちが増えてきても気にしなかった。

 これが自分達の普通だから。

 横から実生の呆れたような声が聞こえた。


「新学期でもいつもと変わらないんですから、恥ずかしくないんですかね。このバカップルは」

「何か文句でもあるのか?」

「今年も有名になること間違いないって思っただけ」


「なりたくてなってるわけじゃない」

「見せ付けてる時点で説得力はないと思いまーす」


「見せ付けてない」

「私は見せ付けてますよ」


「え」

「いや、割と本気でそう思ってないのって兄さんだけでしょ」

「私も別に注目を集めたいわけじゃないですけど、優陽くんに悪い虫がつかないで欲しいとは思ってますよ」


 沙月に告白する輩ならともかく、自分がそんな心配をされるなんて。


「俺なんかに靡く奴なんていないだろう」

「そんな卑下することを言わないでください」

「そうそう、友達と合わせるのも恥ずかしいほどなんて思ってないし、むしろ話してみたいって友達多いよ」


 卑下するも何も、事実これまで校舎裏に呼び出されたことなんて無い。

 実生の方も、そのままの意味で受け取れるわけもなく。


「それはどういう意味でだ?」

「恋バナ的な」


「実生が恋バナしてるのが想像できない」

「わたしは、クライミングが恋人だからっ」


 無駄に良い顔をして宣言してるが、要するに周りはこの妹にして兄に恋人がいるという事実に興味があるだけじゃないのか。


「あ、でもさすがに登校中の衆目を集める二人と一緒に居れるほど開き直ってないので、先行ってる!」


 実生はそれだけ言うと、タタタッと走って行ってしまった。

  

 思わず沙月と顔を見合わせ笑ってしまった。


「さすがにクライミングが恋人はないだろう」

「それこそ良い人がいたらしれっと彼氏を作るかもしれないですよ」


「想像つかないな」

「どうするんですか、ある日突然、お義兄さんって呼ばれたら」


「いっそのことクライミング勝負でもするか」

「実生ちゃんと言ってること一緒じゃないですかっ」


 話しているとクラス発表の掲示板まで到着していた。

 時間が差し迫っているせいか掲示板の前は混雑している。


「俺、確認してくるよ」

「ちょっと私だと大変そうですので、お願いします」  


 沙月が離れていくのを確認し、人波をかき分け進んだ。

 ようやっとの思い出掲示板の前まで行き、ざっと見渡した。

 

 あれ、あれ、あー……。


 沙月の所へ戻ると、後から来たのだろう海も一緒にいた。


「海、おはよう」

「おはよー。クラスどうだった?」


「俺と海、美和が一緒。和雲と沙月が一緒」

「おれはなんでも良いけど、そっちは別れちゃったかー」


「こればっかりは仕方ない。それでも何も変わらないし」

「うん、大丈夫ですよ。何も変わりませんから」


「でもそれぞれのがそれぞれのクラスにいるなら多少は安心なんじゃないかー」

「和雲なら安心だ」

「えぇ、美和さんなら安心ですよ」


 当然のように頷く二人。

 何か言いたそうに自身を指さしてる海。


「全馬さんも信頼してますよ」

「ついで感が強いなー!」

「俺は海に何も期待してないから、気に病むことないぞ」

「それはそれで病むわー!」


 こうして話しているだけで和やかな空気にしてくれる。それだけで海は凄いのだから。


「そろそろ行かないと。沙月、また後で」

「うん。優陽くん、また後で。全場さんも」

「琴葉さん、また後でー」


 教室に着くと美和は、先に来ていた様子。

 他のクラスメイトと話しているのを中断しこちらに話しかけてきた。


「おはよう」

「「おはよう」」


「見事にバラバラになっちゃったわね」

「こればっかりは仕方ない」

「しっかりと見張っててあげるから覚悟しなさいね」


「見張ってて貰うことなんてないぞ」

「そういう口はもう少し隙をなくしてから言いなさいよ」


「文化祭のは、美和も失態したって聞いたけど」

「それはそうだけど、それ以前に朝比奈君が気をつけなさいよ」


 気を付けるも何も、今後そういうことが起こるという想像がまるでつかないのだが。


「へいへい」

「本当に分かってるのかしら」

「そうは言ってもさー、これも優陽だから仕方ないだろー」

「それもそうなんだけど」

「琴葉さんがその辺りは上手くやるでしょー」

「それもそうね」


 やっぱりこの二人にも共通認識として存在している格差はなんなのだろう。

 確かに沙月はしっかりしているし、別に不快ではない。

 多少ネタにされているのは分かるが。


「俺と沙月の扱いの差が凄いな」

「当然でしょ」

「優陽ー、彼女が持ち上げられて嬉しいだろう?」


 海がにやにやしながら言って来る。

 どうせ修学旅行の時と同じだと言いたいのだろう。

 けれどもそんな事、自分にとっては些事なのだ。

 なぜなら。


「自慢の彼女だからな」


 にやりと口角を上げて言ってやった。


「その顔はむかつくわー」

「和雲くんには、及ばないわよっ」

「張り合うなよー、恥ずかしい二人だなー」


「言っておくけど、彩晴さんと一緒に居る時の海が一番恥ずかしいからな」

「本当よ、一番デレデレしてるわよ」


 文句でも言おうとしたのだろう。

 海が口を開こうとした所で、チャイムが鳴った。

 まるで試合終了のゴングの様に。


 口をパクパクさせながら、海は自分の席に戻って行き、美和も自席へと向かって行った。


 残念ながら沙月とは離れてしまったが、沙月が言っていた通り、家に帰って話すネタが新しくできたと思えば、沙月との新たな楽しみが出来たと言えそうだった。


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