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11【高校生の買い物_続】

 自分は琴葉との買い物の準備をし、ある一つの問題に直面していた。


 髪型についてだ。


 学校へ行くわけではないのだから、(むす)ぶのは構わない。

 しかし昨日のやり取りを思い出して、意識していると主張しているようで悩んでいた。


 琴葉の事は決して嫌いではないし、人として好意はある。

 異性としてどうかと問われると好ましいとは思うが、どうこうなりたいとは思っていなかった。


 今の関係が心地よかった

 これ以上、深くしたくない、関係を崩したくない。

 これが本心だった。

 

 意識していると思うから、意識するんだ。

 このままだと邪魔だから、結ぶ。それだけだ。


 言い訳がましく決断し、準備を終わらせた。


 まだ時間には早いけど、もうマンションの下に移動しておくか。

 待たせるより気が楽だしな。


 もっとも待ち合わせはマンションの入口、玄関を開ければ待ち合わせ場所が見える。

 そこにいる人影も。


 伏し目がちにし、下を見る琴葉は何を考えていたのだろう。

 慌てて下に降り、声を掛ける。


「おはよう!

 ごめん、待たせた」


「おはようございます。

 今来た所なので気にしないで下さい」


 声を掛けると先程までの雰囲気をガラリと変え、柔らかな笑顔を向けてくれた。

 落ち着いた色のケープコートを羽織(はお)り、コートに色を合わせているのか全体的に落ち着いた雰囲気にまとまっていた。


 かといって決して質素(しっそ)ではない。

 そこにちょうど陽の光が琴葉をライトアップするかのように輝かせていた。


 それはどこかのモデルに専門の写真家が撮ったような一枚絵。

 どんな一枚絵にも負けないくらいに、輝いている様に脳裏に焼きつけられた。


 可愛いや綺麗と言葉で飾る事が、陳腐に思える位にその姿は印象的だった。

 

 自分はどうにも言葉に出来ない気持ちを弄ばせながら、近づいた。

 

「それ本当なら俺のセリフ、早かったんだな」

「ふふ、私も言ってみたかったんです」


「そうか」

「さ、行きましょうか」


 琴葉はケープコートをひるがえし歩きだし、自分は隣にそっと並ぶ。


「そういえば、昨日はお昼に何を食べたいか決めなかったけど、リクエストはある?」

「ずっと考えてたんですけど、色々と迷ってしまって」


「ならパエリアとかはどうかな?

 評判のお店が近くにあるらしい」


「良いですね、パエリアって作るとどうしても量が多くなってしまって大変で、食べる機会がそんなにないんですよ。材料もパエリア用だけに揃えると大変ですしね」


 琴葉の意外な言葉に自分は、笑いをこらえる事が出来なかった。


 パエリアならシェアしやすいし、それぞれの量も調整しやすいから言っただけだったんだけど、まさか作った際の量を持ち出してくるなんてな。

 外食をほとんどしないって言ってたし、喜んでくれそうで良かった。


 笑う自分が不満(ふまん)なのか琴葉は(ほお)を膨らませている。

 そんな琴葉を見て、ますます笑いが止まらない自分に、今度はじとっとした目をして言ってきた。


「何がそんなにおかしいんですか……」


「ごめん、何でもない。

 外食も一緒に食べれば余る事はそうそうないと思うから。

 いくらでも一緒に行こう」


「……うんっ」


 とびっきりの嬉しそうな顔をされれば、それだけで誘ったかいがあったという物。

 

 調べておいたお店に行くと、まだ早めの時間だからかすんなりと席に着く事ができた。

 お店の雰囲気も落ち着いていて、居心地が良い。


 余り来たことが無いと言っていた通り、琴葉は辺りをキョロキョロと物珍(ものめずら)しそうにしている。

 

「琴葉、メニューはこれだよ」

「あ、ありがとうございます」


「一緒に見よう」

「うんっ」


「色んな種類あるんですね」

「好きなの頼んでいいよ」

「どれも美味しそうで迷ってしまいますね」


 琴葉の瞳が忙しなく動き、どれにしよう、あれにしようと動いている。


 笑いを堪えながら、ついつい思ってしまう。

 こういう時の琴葉はちょっと子供っぽくなるんだよな。


「どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない」


 子供っぽいと正直に言って拗ねられてもな。

 それはそれで可愛らしいかもしれないけど。


「何を食べましょう」

「せっかくだし、一皿で二種類頼めるハーフ&ハーフにしようか」

「そういうのがあるんですね、楽しみですっ」


「だから、好きなのを選んでいいよ。

 俺も一つ好きなのを選ぶから」

「うんっ」


 せっかくだから、定番の魚介のパエリアで良いかな。

 琴葉が選んだのと被ったら別のにすればいいか。

 楽しんでくれれば良いし、気取ったものじゃなくて良いだろう。


「決まった?」

「うん、大丈夫です」


 そうして注文し、しばらくすると良い匂いをさせた料理が運ばれてきた。

 

「やるよ」


 そう言って取り皿を引き寄せた。

 あんまりこういうことをした事はないけど、少しでも普段のお礼をしないとな。


 不慣れながらも取り皿に分け、琴葉に渡した。

 その様子に、琴葉は呆然としながら「ありがとうございます」と呟いた。


「食べようか」

「「いただきます」」


 二人の声が重なってしまい、笑ってしまった。

 食べ始めればそこは評判のお店、料理は美味しかった。


 だけども。


 美味しいんだけど、琴葉の弁当の方が好きだな。

 決して味の優劣があるわけじゃないんだけど、なんでだろう。

 好みなのかな。

 

 なんとももどかしい料理の感想に首を捻っていたら、そんな様子を琴葉は驚いたように見ていた。


「どうかした?」

「いえ……気にしないで下さい」 


 気にするなと言うのだ、気にしなくていいか。


 食後のコーヒーを飲みながら、琴葉が聞いてきた。


「良くこういうお店は来るんですか?」

「良く、という程ではないかな。

 お店についてはジムの人達が話してるのを聞きかじっただけだし」


「学校のお友達は?」

「もっとジャンクな物なら行くけど、こういうお店はね」

「なんかその割にはスマートでしたね」


 じっと見つめてくる琴葉。


 なんかいつもの視線と違う気がする。

 背中がむずむずする。 


「琴葉だって、学校の友達とは来なかったんだろ?」


 琴葉は大きく(かぶり)を振り「それはその通りですけど……そういう事ではなく」と聞こえるか聞こえないかという声で反応がかえってきた。


「よく解らないけど……、そろそろ混んできたし、出ようか」

「……うん」


 どこか釈然としていない琴葉を連れだって、店を後にした。

 もっとも釈然としていないのは自分も同じで。


 その様子に答えをくれる人は、ここにはいなかった。



「今日の夕飯はパスタにしようと思います」


 近くのスーパーに来ると琴葉は、そう宣言した。

 腰に手をあて、ドラマなどであれば軽快なファンファーレでも流れたかもしれない。


 目の前で胸を張る琴葉の行き成りの事に吹き出しそうになってしまった。

 (おさ)えきれたかは別として。


 そんな琴葉のお茶目な行動は別として、自分の願いを叶えてくれようとしている事は素直に嬉しかった。


「ありがとう」

「いえいえ」 


 そしてお茶らけた様に言う琴葉は楽しそうだった。

 一方、自分も約束通りの麺が食べられるのが嬉しく、感謝しかない。


 琴葉が買い物かごを取ったので、取った買い物カゴを渡すよう(うなが)し、後を歩いた。


 こうしてると母さんに買い物に連れていかれたのを思い出すな。

 それがまさかこうして、琴葉と買い物に来る機会があるなんて。

 なんか琴葉の様子がおかしいけど、どうしたんだろう。


 それでも買い物は滞りなく終わった。

 どうやらメニューは決まっていたようだ。


 レジを済ませ、袋詰めが終わった時、自分も琴葉も自然に袋を持とうとした。

 当然のように、相手が持つという考えは二人には無かった。


「「あ」」


 お互いの指が軽く触れあってしまった。


「持つよ」

「でも」


「これくらいは便利に使って」

「……はい」 


 ちょっと素っ気なく言い過ぎたか。

 それよりも顔があっつい、心臓の音がうるさい。

 柔らかくて良い感触だった。けど、落ち着け。


 そんな自分自身との戦いをしている優陽は最後まで気づかなかった。

 琴葉は琴葉で耳まで真っ赤になっている事に。



 家に帰ってくると夕飯までには少し時間があったので少し困っていた。

 今までは自分が食事をしていて、琴葉はコーヒー飲んで、世間話をするという程度の物であった。


 けれども今はまとまった時間があり、何か琴葉に都合があれば、そっちに時間を()てるべきだろう。


 しかしそれを切り出しては、琴葉を追い出すような気がして、気がすすまなかった。


 食材をしまいながら、どうしようか思案しているとソファに座った琴葉がゲームをじっと見つめているのに気が付いた。


「少し時間あるし、ゲームでもやる?」

「やっても良いんですか?」


 自分は軽い気持ちで聞いたつもりが、琴葉にとっては意外(いがい)だったようでこっちを嬉しそうに見ている。


「減るものでもないし、やりたいのをやって良いよ」

「あの……、実はやった事ないんです」


 今時珍しいな。

 でも親御さんが厳しかったらそんなもんなのかな。

 折り合いも良くなさそうだったし、家庭環境なんてそれぞれだもんな。


「そうしたら、これなんてどうかな」


 いわゆる落ちゲーと言われる物だ。


 同じ色の玉を四つ繋げて消していく、シンプルに言えばそれだけだが、対戦などもあってNPC戦からやればとっつき易いだろう。

 ゲームをセットしてコントローラーを渡す。


「最初からやればちゃんとチュートリアルがあるから、それで操作になれる感じ」

「うん、解りました」


 琴葉はやる気十分といった感じで両のこぶしを作りとても微笑ましく思ってしまう。

 ゲームを開始した琴葉は画面の文字を追い、瞳を動かしている。


 初めてだからか楽しそうだ。


 レストランでもそうだったが、基本的に好奇心が強いらしく興味深そうにしている様はとても可愛らしく、目を奪われてしまう。


 見ていたい気持ちと戦いながら、視線は画面と琴葉を往復させてしまった。

 

 琴葉はゲームを進めていると序盤はスムーズだったもののどうやら詰まってしまったらしい。

 (ほお)をふくらましてこっちを見ていた。


 不意打ちのようにその助けを求める様は、ちょっと可愛い。


「揃ったら消すんじゃなくて、敢えて貯めて連鎖を狙うんだよ。

 貸して」


 コントローラーを受け取り、連鎖を作っては消していく。


「凄い凄い」と言ってくれるのが気恥ずかしく、コントローラーを返した。


「慣れだから」


 手放しで賞賛される事に慣れていないので言葉少なに返すのが精一杯だった。


 その後、連鎖を作るという発想を得た琴葉は、順調にストーリーを進めていった。

 時折、相手に邪魔され「あっ」と声を上げながら何か言いたそうにこっちを見ている。


 その顔は可愛いけど、それでこっちを見られてもな。


 それでもリトライしながらやっているとあっという間に時間が過ぎていった。


「あ、もうこんな時間ですね。夕飯作りますね」


 そう言うなり立ち上がり、台所へ向かう琴葉。


「何か手伝うよ」

「え、大丈夫ですよ」


 驚いた表情をする琴葉に驚く自分。

 ここで手伝うのは自然という当然な事なんだけど。


「あ、邪魔じゃなければだけど。皮むきとか野菜を切るくらいなら出来るから」


「……それでは、パスタを茹でるようの水を鍋に用意して貰えますか。

 私は野菜を切りますね」


「解った。そっちの皮むきもやるよ」

「うん、お願いします」


 なぜか嬉しそうな琴葉は、鼻歌が聞こえそうなほどだ。

 皮むきを終え、自分は台所から離れた。


 今の所は手を出せる事が無さそうだし、あとは大丈夫そうかな。


 手早く野菜を切った琴葉は、野菜を炒め、その後も色んなものを入れ炒めていく。


「サラダでも用意しておこうか」

「……うん、お願いします」


 サラダと言っても、レタスをちぎってプチトマトを乗せてドレッシングを掛けるだけ。

 琴葉がやっている事と比べたらどうと言う事はない。


 タイマーがピピピっと鳴り、琴葉が鍋のお湯を流しに流そうとしていた。


「やるよ」


 返事はなく(うつむ)いたまま、場所を譲られ、ミトンをしたまま背中をぽふっと叩かれた。

 叩かれたからといって痛いわけでも衝撃があるわけでもないが、意図は分からない。


 なんだなんだと首を捻る。


 場所を譲られたのだから、お湯は捨てて良いのだろう。

 叩かれたのはよくわからないが、そのままお湯を流した。


 琴葉は何もなかった様に、パスタを取り分け、綺麗に盛り付けされたお皿をテーブルに運んだ。


「さ、食べましょう」


 顔を上げた時には何事も無かったかのようだった。


「これはボロネーゼ?」

「うん、そうです!」


「美味しそうだ。いただきます!」

「召し上がれ」


 音をたてないようにしながら、いまかいまかと頬張る。

 食べると口の中にはひき肉の美味しさを野菜が引きたて口の中を踊った。


 香りづけのワインもいい香りがし、食をすすめさせている。


 パスタに関しては、ちょうど良い具合に茹でられており、噛んだ時に気持ち良い感触を残しながら喉元を通っていく。


 好物という事も手伝ってか、多めに用意されたパスタをあっという間に平らげてしまった。


「凄い美味しかった。ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」


 量が少ないからか、先に食べ終わっていた琴葉はいつものようににこにことしていた。


 いつもは大して気にしないが、なぜか気恥(きは)ずかしさを覚え、その視線から逃げるようにして席を立った。


「コーヒー用意するよ」


 ついでに琴葉の分も一緒に食器を運んでおく。


「うん、ありがとうございます」


 コーヒーが入るまでの間、食器を洗っていると琴葉がこっちをじっと見ていた。


 こっちは見ているが、ここを見ていない。

 何かを思い出しているのか……はたまた何かを考えているのか。


 話掛けられるのならばともかく、どこか昔を思い出しているような様子に自分は何も言わなかった。


 コーヒーを持ってテーブルにいくといつもの雰囲気になり、その日は解散となった。


 そうして琴葉を玄関まで見送った。


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