111【三が日の友_四】
どんな部屋なのだろうか。
沙月のことだ、部屋が散らかっているということはまずないだろう。
そもそも女性の部屋に入ったこと自体が無いのだ。
内装がどうのこうのと言えるほど、想像もつかないのが本当のところ。
少しの楽しみと少しの気恥ずかしさを感じていた。
そんな妄想をしていると、いつの間にか話題は今から何をして遊ぶかと言うことだった。
各々が思い思いに口を開いている。
「けん玉?」
「ないぞ」
「羽根付き?」
「やっぱりないな」
「凧揚げ?」
「場所すらないな」
「何もないじゃない」
むしろなぜあるのかと思ったのか。
「二人羽織でもやる?」
「却下」
「なんでよ」
「食べ物が勿体ない。それにあれは失敗前提の笑い目的だろ」
「仕方ないわね、人生ゲームでもしましょう」
「ないぞ」
海がにやりとした笑みを浮かべ、高々とある物を掲げた。
「持ってきたぞー!」
「やる気が強すぎじゃないか?」
「優陽の家には何もないんじゃないかと思ってなー」
「さっきまでの確認は?」
「念のため」
「あっそ」
周りからも特に異論が出ず、ゲームが開始された。
ゲームを始め、運によってだいぶ趨勢が傾いてきた頃。
「優陽くん、浮気ですか?」
「出た目にいってくれ」
「しかもそんなにお子さんを欲して、賑やかそうですね」
「分かったから出すものだして」
「容赦なくなりましたね」
「うわー、借金まみれ」
「あたしが養ってあげようか」
「彩晴、めっちゃ先行ってどう見ても合流できなさそうなんだけどー」
「……頑張って追いつきなさいよ!」
「無茶言いだしたー!」
「和雲くん、そんなにお金稼いで何したいの?」
「色んな経験ができるのは良いよね」
「もちろん、私も一緒に連れて行ってくれるんでしょ」
「一マスで良いからずれてたら一緒だったのにね」
「近くにはいるのに、この届かない距離が腹立つわね!」
悲喜こもごもに感情を露わにし、楽しむ人生ゲーム。
そうこれはゲームのはず。
なのに、なんでこんなギリギリの会話してるんだと。
一頻りに文句を言い合い、ゲームに決着が着くと女性陣の三人は立ち上がり、すっと移動していった。
「俺、嫌な予感するんだけど」
「朝比奈が言わないでくれる。今回の話しは琴葉さんからの打診だって聞いたよ」
「おれもそう聞いたぞー」
なんだかなー。
「例の如く、何も聞いてないんだけど」
「僕だって教えて貰えてないよ」
「おれもー、当日のお楽しみってぼかされるー」
なんだかなー。
「今日のは朝比奈に文句言ってもいいと思うんだよね」
「なんで文句いうのが確定してるの」
「美和がいつにも増してテンション高いから大変なんだよ」
「彩晴は優しいというか、慈母っていう感じ出しててどうしたら良いかわからなくなるんだよなー」
「俺だって、無言の圧力が強くなって大変なんだよ」
そんなことを話していると、女性陣の準備が終わり戻ってきた。
洗面所を使っていた様子で、何やらはしゃいだ声が聞こえたが内容まではわからなかった。
戻ってきた限り何も変化はない。
あくまでも見た目は。
沙月がふわっと目の前に座った瞬間、風に乗せられてフルーティーな香りが鼻腔を擽ってきた。
何をさせたいかを悟った瞬間、思わず声をあげてしまった。
「ちょっと沙月、今それは反則」
「え、何がですか?」
「何って、絶対わかってやってるでしょっ」
慌てる自分を見て、沙月は口の端をいつもより少しだけ深く形作り楽しそうにしている。
和雲も海も何がそこまでなのだろうと不思議そうな顔をしているが、美和と篠原さんは興味深そうに目の奥が光っていた。
まるで、想像よりも効果がある、面白そうなものが見えた、と。
「朝比奈、どうしたの……」
「和雲くん、あっちじゃなくてこっち見て」
「え……」
自身の中での葛藤と戦っていると、和雲に美和が抱き付き、しな垂れかかっている。
やられた身からすると、あれはあれで危険。
意識を逸らし戻すと、いつの間にか沙月はこっちに背を向けていた。
長い髪の毛を左にまとめて流し、首元を露わにしている。
効果はてきめんで、甘い香りに頭がクラクラしてきそうだ。
生唾をゴクンと一飲みしていると、また会話が聞こえた。
「海は、これどお?」
「どおって匂いのことだよねー。良い匂いだとは思うけどー……」
「やっぱりちょっと違うわよね」
「いや、合ってないって言うわけじゃないけど、もっと合うのがある気がする!」
「ありがとう。わたしも何か違うかもって思ったの。いつか似合うのを選んでね」
「がんばります」
クラクラする頭に、微かに海達の会話が聞こえてきた。
どうやら余裕がないのは、和雲と自分だけのようだ。
さきほどの姿勢から沙月は微動だにせずに、背を向けている。
首筋から鎖骨に掛けてのラインがはっきりと見て取れ、蜜を求めるかのように吸い寄せられそうだ。
二人きりの時と同じ様に埋めたいのをぐっと堪えていると、少し体が傾けられた。
ちらっとこっちを見る瞳は、蠱惑的な色を醸し出している。
まるで誘っているかのように。
さぁどうぞと言わんばかりに。
でもあくまでも、行動を起こすのは男性であるあなたからどうぞ、と言わんばかりに。
時計の針の音が耳朶を打つたびに堰き止めている意識を強く自覚させられる。
花に吸い寄せられるミツバチの様に。
意識と無意識の狭間でフラフラと安息の場所を求めるかのように。
もう……我慢の限界だった。
そっちがその気なら、乗ってあげようじゃないか。
いつものメンバーの前。
恥ずかしい思いも今更だ。
のろのろと手を伸ばし、腰を掴み、沙月を懐へ納めた。
「ふふふ、観念しましたね」
「これに関しては俺、悪くないと思うんだよな」
「多少なら多めに見ますよ」
許可が出たことで、そっと首元へ顔を近づけた。
大きく息を吸い、甘い香りを胸いっぱいに吸い込む。
目を閉じ余計な感覚を遮断した。
陶酔するような感覚に酔いしれながら、吸血鬼もこんな感覚なのかなと、軽く吸い付いた。




