110【三が日の友_参】
「ごちそうさまー!」
「「おそまつさまでした」」
海が満足そうに食事を終えると、何やら篠原さんがじっと海を見ていた。
「――ごちそうさま」
「篠原さん、どうかしました?」
「――いえ、なんでもないわよ」
沙月は何か思い当たるのか、微笑んでいる。
「彩晴さん、ご相談ならいつでも協力しますよ」
「いつになるか分からないけど、お願いするかもしれないから、その時また……ね」
ご相談から、いきなり協力するとはどういう事だろうか。
海も何のことだか分からない、という顔をしている。
特に今気にすべきことではないと判断すると、横からも声が聞こえた。
「ねぇ、その相談ってわたしも沙月ちゃんに話し持って行っても良い?」
「もちろん大丈夫ですよ」
美和も相談の内容としては同じなのだろうか、となると、和雲に関係すること。
こうも立て続けだと、本当に気にしなくていいのだろうかと疑問の首をもたげた。
「和雲」
「なんだい?」
「この相談は、良いこと? 悪いこと? わかるか?」
「多分だけど。朝比奈達が羨ましいってことじゃない?」
「俺達、関係あるの?」
「そうだねぇ、僕も早く一人暮らしがしたいって思うくらいには、二人が眩しく見えるよ。もちろん、それに伴った苦労があるのもわかってるけどね」
一人暮らしをしている上で、やりたいこと、実行したいこと、か。
「あ、もしかして、二人で食事したいとかそういうこと?」
「朝比奈くん、デリカシーって言葉を知ってるかしら?」
「ごめん。つい……」
確かに思わず口に出してしまったのは、失敗だったが。
「そういう事なら、うち使って良いぞ」
その言葉を聞いた四人は一様に、目を見開くように驚き、なぜか沙月だけは溜息をついていた。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、さすがに色々まずいんじゃないの?」
「何が?」
「美和さん、無駄ですよ。私の時だって、こんな感じでしたから」
ここで言う使うとは今までと違って、二人きりにさせるということ。
さらに言うなら、食事したいからには台所も使うだろう。
もちろん、そんなことは分かっている。
「和雲達や海達なら、良いぞ」
「あのですね、こういうことは借りる側も気を遣うんですよ」
「でも、さっきまで言ってた沙月の協力って、そういう事でしょ?」
「それはそうですけど……、明け渡すのと少し席を外すのは違いますからね」
「明け渡すって大袈裟な。ジム行ってる日ならいつでも良いし」
「それを明け渡すって言うんですよっ」
和雲も苦笑しながら言う。
「そこまで信頼してくれるのはありがたいけど、何かあった時に困るから遠慮するよ」
「そうか、それならまぁ、いいけど」
そこまで言うなら無理強いはしないけども。
「俺も入った事ないのに、和雲や海が沙月の家に入るのもなぁ」
今度は先ほどよりもはっきりと四人は驚き、沙月ははっとしている。
「そういえば、来たことありませんでしたね……」
「てっきり行き来してるのかと思ったわ。何かあるの?」
「いや、むしろ何もないから行かなかったな」
「行きたいって思わなかったの?」
「興味がないって言えば嘘になるけど、お願いして行くのもな。なんか後ろ暗い風に取られても嫌だし。沙月がうちに来てくれて、二人で居れることに変わりはないんだし、それはそれで満足できてる」
それぞれが何か感じる物でもあるのか、全員が複雑な顔をする中。
「なんと言うか……、自由さの中で形作られて、そこに納まってしまうって言うのも、考えさせられるわね」
代表するかのように言った、篠原さんの感想に異論は出なさそうだった。
「そうしたら、今度、いらっしゃいますか?」
「ん、沙月さえ、良ければ……」
「その、私も別に招くのが嫌だとかそういうのじゃないので。ただ本当にうっかりというか、なんというか」
改めて沙月から言われるとやけに意識してしまう。
「何よ、ちゃんと朝比奈君だって、家に行くのに気を使うんじゃないの」
「それとこれとじゃ、違うような」
「お邪魔するって意味では同じだし、使わせてもらうのはもっと気を使うのよ」
「その割にはうちを使うのに躊躇なくなってるよな」
「それはそれよ」
「まぁ、今更良いけどな」
それにしても。
ずっと一緒にいることで全てを分かった気でいたが、沙月の家すら入った事がないなんて。
また新しい発見があるのかと思うと、少し心が弾み、少し上の空だった。




