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108【三が日の友_壱】

 お正月もとうとう三日目。

 家族でこれまで通り過ごすのも良いが、折角だからと仲のいい友達同士で集まるのも良いのではないかと。

 せっかく今なら揃える場所があるのだからと、集まる約束をした。


 そうして、いつもの面子を待っていると、玄関のチャイムが鳴った。


 それにしても思う。

 どうしてお昼前に集まることにしたのだろうかと。

 毎度ではないものの、時折示し合わせたようにして女性陣がしかけてくるため、ついつい思ってしまう。

 普通に食事をしたいと。


 チャイムが鳴り、玄関を開けると海、篠原先輩、美和、和雲が揃い踏み。

 予め待ち合わせて来たのだろうか。


「あけおめー、ことよろー」


 いの一番に言ってきたのは海。

 後ろから、篠原先輩が続き、和雲と美和も入ってきた。


「あけましておめでとう、今年もよろしく」


 と口にすれば、他の面々も挨拶を続けた。


「さむっ、さむっ。そういえば優陽の家ってコタツ無いよなー」

「コタツ入るほどじゃないし、ホットカーペットがあるだろ」

「わかってないなー、風情だろー」

「絶対に寝てそうだよな」

「醍醐味だろー」

「風邪ひいてもしらないぞ」

「コタツで寝てなくても風邪ひいてしまいますもんね」

「うぐ……」


 そう言って話しを終わらせ、各々好きな場所に座っている。

 すでに少なくない回数を、この六人で過ごしているため、勝手知ったるものとなっていた。


「でも沙月ちゃんは、こたつ欲しくなったりしないの?」

「私は冷え性なので、欲しい時もなくはないですよ。私の家の方にはありますし」

「あれ、そうだったの」

「でも、ついついダラケてしまうので、無かったらないで丁度いいかなとも思ってますよ」


 でも欲しいなら、あっても良い物だしな。

 来シーズンもまた使える物でもあるし、なんとかしても良いかもしれない。

 特別な理由があって、買ってないわけではないしな。


「それにですね、一緒になって寝てしまいそうですし……」


 確かに実家にあったコタツで寝てしまい、よく母さんに叩き起こされていた。

 もし仮にこの家にコタツがあったとしたら、存在を確認し胸に抱きながら、微睡み沈んでいくことは容易に想像できる。


「確かに、少なくとも俺は寝るな。実家で寝てたし」

「朝までぐっすりですね、きっと」


 意見の一致に顔を見合わせ、小さく笑ってしまう。


「それにもしあったら、この六人で取り合いだぞ」

「レディファーストよ」

「それって男性側の意識で、女性側が主張することじゃないだろ」

「朝比奈君は譲らないの? 和雲くんは譲ってくれるよ?」

「そうだね、もしそうなったら僕は美和に譲るね」


 和雲の言葉に、和雲がそういった行動をするであろうことは容易に想像がついた。


「一応、ツッコんでおくと家主なんだが」

「沙月ちゃん、こんなことで小さな見栄を主張してきて、通い妻は一歩後ろで控えていろですって」

「そんな事言ってないし、ひどい言い方だな。色々負けてるからって、僻むなよ修行中の美和さん」

「勝ち負けじゃないし、わたしは悟ったのよ。和雲くんと助け合えればいいって」

「間違ってないけど、諦めるの早いな」


 売り言葉に買い言葉、やれやれと言った表情で沙月は一言。


「優陽くんは、ちょっと素直じゃないので、口ではそう言ってもいざその時になったら譲ってくれますよ」


 どうやら通い妻はスルーしたようだ。

 確かに自分でも、きっと譲るだろうなという気はしている。


「ふーん、海はどうするのかしらね」

「お、俺だって譲るしー」

「海、張り合わなくてもその時その時で譲り合いましょう。この二組に引っ張られることないわよ。少なくともわたしは、海が寒そうにしてるのに、一人だけ温まりたいなんて思わないのよ」

「ありがとう、彩晴」


 あれ。

 そう思い、沙月を見ると首をフルフルと左右に振り。

 和雲と美和の方を見れば、やはり首を振っている。


「海、いつから?」

「何が?」


 もう気にすることなく、口にすることが出来るということか。


「名前呼びに変わってるな、と」

「いや、別に、良いだろー!」

「もちろん、良いんじゃないか? ただいつからだろうなってだけだし」

「はぁ、あなた達は本当に目ざといわよね」


 目ざといかはわからないが、篠原先輩の雰囲気も落ち着いたものになっており、浮ついた感じが薄まっている感じもしていた。


「大学受験でちょっとナーバスになってて、海が支えてくれたのよ。その時に名前で呼んで欲しいって思ったから、わたしから言ったのよ」


 篠原先輩は、嬉しそうな表情をし微笑んでいる。

 その様子に思わず、感嘆の声をあげそうになってしまった。

 あの海が支えになったのだから。


「それに、あなた達もよ。少なくとも卒業してからも先輩は止めてよね」

「――――言われなければ、呼んでたかも」

「そうですね、私も特に意識してませんでした」

「今のうちから変えておきますか。篠原さん」

「それでお願いね」


 ひょっとして一人先輩呼びだったのを気にしてたのだろうか。

 答えた篠原さんは、満足そうにしている。


「なんか今、会話禁止の神経衰弱やったら結果わからなさそうだな」

「あら、やってみる?」

「やる必要もないでしょう」

「そうね」


 これが本来の篠原さんなのだろうか。

 雰囲気も柔らかくとっつき易くなっていた。


「やっぱ大学受験は大変ですか」

「そうね、わたしは引退してからで遅かったって言うのもあるわね」

「今日は大丈夫だったんですか?」

「さすがにお正月くらいは、少しゆっくりしたいのよ」


 確かにいくらなんでも、ずっと走り続けては疲れてしまうだろう。

 来年の自分達の様子かと思うと、少しげんなりしてしまう。


「海は大丈夫なのか?」

「スポーツ推薦が取れそうな、取れなさそうな感じかなー」

「とれるといいな」

「おう、優陽はどうするんだー?」

「どうって?」

「クライミングでスポーツ推薦とかはないのか?」

「考えてないかな」

「なんでまた?」

「クライミングでプロになりたいって思ってないから」


 勿論そういう道を考えなかったわけではないが、どうにも自分がプロになってやっていくイメージは付かなかった。


「プロにならないといけないわけじゃないだろー」

「それはそうだけど、スポーツ推薦ってことは大会に出て、優秀な成績を納めることが求められるんだろ?」

「うん」

「大会、好きじゃないんだよ」


 沙月は表彰式の一幕を思い出したのか、クスクスと笑っている。

 自分も思い出しては微妙な表情をしてしまう。


 美和が意外そうな顔で内容を引き継ぐように聞いてきた。


「あれ、でもこの前、なんだっけ。大会で三位になったんでしょ?」

「美和、なんで知ってるんだよ」

「先に言っておくと沙月ちゃんじゃないわよ。大会に出ることは聞いてたから、少し調べたらすぐ出てきたわよ。大会の公式ページ、動画も見つかったから見たし」

「あの動画、垂れ流しだから長時間だろう。わざわざ見なくても……」


 こうして近しい親友や友達に、改めて動画という形で見ていたと言われるとだいぶ気恥ずかしい物があった。


「美和と二人で見てたけど、やっぱ朝比奈は凄かったんだね。って話してたんだ」

「うん、全国で三番目って凄いんじゃない?」

「それでもプロでやっていく自信はないし。義務でやりたくもない。携わることをやりたくないとまでは言わないけどな」

「そういうものかしらね」


 果たして納得しているのか、していないのか。

 なんとも言えない顔をしている自覚はあるが、さすがにそれ以上は言ってこなかった。


「そういう点では、陸上は実業団なんかもあって先に繋がるだろうから全然良いと思うぞ」

「それも簡単な道ってわけでもないからなー」

「いずれにしても、僕からしたら二人ともそれだけ熱中できてる物があるのは羨ましいよ」

「俺からしたら、なんでも器用にパッパッとできる方が羨ましいけどな」

「そうだーそうだー」


 そんなことを話していたら、それぞれの想い人にはクスクスと笑われてしまった。


「三人とも、隣の芝生が青すぎるんじゃないの。それに朝比奈君も割りとなんでもできるわよね」

「そんなことないし、失敗だらけだが」

「どんな失敗したのよ?」

 

 思い出すのはやはり一人では立ち直れなかった時だろう。

 その後の関係性を考えれば、決して悪いことばかりだったとは言えないが。


「……感情が追い付かないで落ち込んだりとか」

「へー、へこんだ朝比奈君も見てみたいわね」

「確かにそれはわたしも興味あるわね」


 美和に続いて篠原さんまで何を言い出してるんだ。


「沙月ちゃんは見たことあるんでしょ。どんな感じなの」

「甘えん坊で可愛らしいですよ」

「「へーーーーーーー」」

「沙月さん、言わないで欲しいのと、可愛いは少し不本意なんですが……」

「そんなのは私の感じた事なんですから、仕方ないですよ。もちろん、その様子は私だけのものですけどね」


 言い切る沙月に、美和と篠原さんは少しムムムッとさせ。


「なによこれ、沙月ちゃんが惚気たかっただけじゃない」

「そうですよ?」

「琴葉さんてこういう時、強かなのよね」


 和雲と海は爆笑してるし、篠原さんも美和も呆れ顔だ。

 沙月は凛とした佇まいを崩さず、にっこりとしている。

 

 ネタにされた自分はどう反応したらいいものやら。

 沙月が満足そうだから、よしとするべきだろうか。


 すると美和は、ハッ、とした表情となり体ごと和雲の方へ向けた。 


「そういえば、わたし和雲くんに甘えられたことない気がする」

「え、ちょっと。美和は何を言い出してるの」

「和雲くん、甘えてくれていいよ! むしろ甘えてみて!」

「繰り返し何を言い出してるの、僕にだって恰好をつけたい時だってあるんだよ?」

「いつも格好良いけど、それを崩したいとき。ない?」


 どうみても趨勢としては美和の方が勝っている。

 興味深い一幕だ。


「……美和、ちょっと今はやめようか」

「今度、二人っきりの時に考えてくれる?」

「考えるのは良いけど、そういうのはわざとするものでもないでしょ」

「機会があったら甘えてくれるってことね、待ってるわ」

「……」

 

 どうやら決着がついたようだ。

 まぁ、美和が言い出した時点で決着なんて見えていたが。


「でもこれって、美和も惚気たかったってことだろ?」

「それ以外には見えませんね」


 ふともう片方のペアを見れば、海は篠原さんに頭を撫でられ表情を緩めている。

 どうやら和雲達に付き合ってられないと、早々に二人の世界に入ったようだった。


「あっちはあっちで強かだよな」

「そうですね」


 つまるところ、全てがお互い様であって、芝も青く見えるということだろう。

 それでも目の前のものをしっかりと見つめ、一番大切なものは互いが知っていればいい。

 無機質で灰色だった世界が、色づき、輝き、匂いや光など、呼吸の音すらも耳朶を震わせ、五感全てが歓喜で震え、何物にも代えがたい感情が溢れてくるのだから。


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