105【二年参り_弐】
神社は人で溢れかえっていた。
離れないように、手を繋ぎ沙月は身を寄せている。
少しずつ、少しずつ歩きながら前を見つめる。
何をお願いしようか。と言ってもお願いしたいことなんてただ一つだけ。
あれもこれもと欲張るよりも良いだろう。
自分のことは、自分でなんとかできる内はなんとかしよう。
そう思い決意を胸に秘めると、ゴーンという音が鳴り響いた。
除夜の鐘だ。
「「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」
互いにお辞儀し、重なってしまったことに笑っていると自分達の番が回ってきた。
二礼二拍し、お願いごとをする。
(昨年は無事一年を過ごすことができ、ありがとうございました。今年もどうか沙月が幸せでいられますように)
ただそれだけをお願いをした。
沙月と共に一礼し、手を取り参拝者の列から外れ、鐘の音を聞きながら、帰路へつく。
「優陽くんは、何をお願いしたんですか?」
「んー……」
「あれ、どうして教えてくれないんですか?」
ふと思ってしまったのだ。
ここで幸せでいられるようにお願いをしたということは、他人任せなのかと。
ここは一つ自分が幸せにしてやると意気込んだ方が良かったのではないかと。
「沙月はさ、幸せにして欲しい?」
「そうですね……」
頤に手をあて、考えている。
「今年――――、もう去年ですね。間違いなく言えるのは、夢かと思うくらい幸せでした。それは間違いなく優陽くんがいてくれたおかげです」
「それは俺も同じかな」
「でもそれが、優陽くんが何か特別なことをしてくれたからだとは思ってないですよ。一応念押ししますけど、優陽くんが何もしてくれてないという事ではないですよ」
「うん、わかってるよ」
さすがにその念押しには思わず苦笑してしまう。
「一緒にいられて幸せだと感じてはいますけど、幸せにして欲しくて一緒にいるわけじゃないですよ」
「そっか。それでも俺は願ったよ。沙月の幸せを」
沙月の言葉は、思ったことなんて気にしなくていいと。
今まで通りで良いと思わせてくれた。
「優陽くん自身のを願えばいいのに」
「そういう沙月は何をお願いしたの?」
「優陽くんが怪我をしないようにってお願いしました」
「――――裏腹なのは、口が勝手に動いたんですかね」
「なんのことでしょうか」
「誤魔化す気ないでしょ」
「良いんです、それが私の幸せに繋がるんですから」
それならそれで良い。のかな? と思うことにした。
別に掘り下げてどうのと言いたいわけではないのだから。
そうして歩いていると、沙月がふあぁっとあくびをしている。
「眠いの?」
「そうですね、少し眠いです」
「家まで大丈夫そう? というか頑張って」
とは言っても、特に驚きはない。
むしろ今までよく頑張った方だろう。
自覚したら眠くなってしまったのだろうか、徐々に目をしょぼしょぼとさせている。
「優陽くん……」
「やっぱり無理だったか……」
ふと思ったけど、着物ってどうやって背負えば良いんだ。
どうしよう……。
はぁ。
後ろがダメなら前しかないか。
腕、大丈夫かな。
「沙月、だっこするよ」
「うん、お願いします」
そうしてお姫様抱っこを敢行。
「あれ、こっちですか」
「着物だと背負えないでしょ」
「あ、そうですね。大丈夫ですか」
「ん、軽いから大丈夫。だと思う」
「体重のことは触れないでくださいよ」
体重に触れられたくないと言いつつも、最初から運ばれることを前提に来てる時点で如何なものだろうか。
それはそれとしても、体重に触れること自体がタブーなのだろう、きっと。
「ごめんごめん、それじゃこのまま運ばせてもらいますよ。お姫様」
「ごめんなさい、気持ち良く――、もう、無理――――」
その言葉を最後に、すやすやと微かな寝息をたて、目を閉じてしまった。
こうなったら意地でも家まで連れていかなければならない。
暗い夜道を歩きながら、月明かりだけを頼りに歩いていく。
腕の中の大切な存在を感じながら、一歩一歩としっかりと帰っていった。
せっかくの着物を皺にならないようにするにはどうしたら良いか。
まさか自分が脱がせるというのか。
母さんが起きていることに掛けて連絡するのか。
その後も試練が続き、頭を大いに悩ませることになったのだった。




