104【二年参り_壱】
宣言されていた通り、艶があり、喉越しが気持ちいい沙月の蕎麦を夕飯に食べ終え、この後どうするかと考えていると意外な所から声が掛かった。
「優陽と沙月ちゃん、初詣とかはどうするの?」
「特に考えてない。と言うか予定が崩れたから、決めてない」
「だろうと思った。せっかくだし、二年参り行ってきなさいよ」
それは良い案だと思った。
ただ一つの懸念点を考えなければ。
「二年参りって、年越し前に神社に行くんだよな」
「当たり前じゃない」
「優陽くん、私は行ってみたいですけど、行きませんか?」
「行くの自体は良いんだけど」
「だけど?」
「沙月、起きていられる?」
「……」
「目を見て、大丈夫って言ってごらん」
視線を微妙に外し、口をすぼめながら。
「大丈夫ですよ」
どうにも信用に欠ける言葉だった。
「沙月ちゃんが行きたいって言ってるんだから、あとは優陽がなんとかしなさい」
「……わかったよ」
果たしてこれも度量に入るのだろうか。
単純に体力のような気がしなくもないけども。
行く神社は去年行った所で良いだろう。
あの時は、車で行ったが歩くとなるとそれなりに歩く事になりそうだ。
「少し早いけど、家に戻っておこうか」
「うん、そうですね」
「下で待ち合わせで良い?」
「うんっ」
「お守りとかは、明日、買ってきてあげるから買わなくていいわよ」
「分かった」
それならと、早速席を立ち、沙月と一緒に玄関を出た。
「あの」
「ん?」
「少しだけお部屋に行って良いですか?」
「どうしたの、良いけど」
「少しだけ、一緒にいたいなと」
「まだ時間あるしな」
そうして、普段通り慣れた家に入り、ほっと力が抜けるのがわかった。
特に意識していたわけではないが、やっぱり沙月と二人だけというのは、自分にとっても特別な空間なのだと、改めて思った。
「コーヒーでも、飲む?」
「うん、お願いします」
コーヒーを淹れ、ソファに座るとここが私の定位置だと言わんばかりに、沙月はすっと膝の上に座った。
「実生ちゃん、大変なことにならなくて良かったですね」
「体力だけはあるから、そこまで心配はしてなかったけど」
「それでも、先日は優しいお兄さんの顔になってましたよ」
「なんか調子が狂うなって思ってただけ」
「そういうことにしておきますね」
自分の肩に顔を埋め、沙月は体の力を抜いた。
「こんなに幸せで良いんですかね」
「沙月にはずっと幸せでいて欲しいと思ってる」
「優陽くんの幸せはどうするんですか?」
「俺は、沙月が居てくれれば良いから」
「私だってそうですよ」
沙月は嬉しそうに、幸せそうに、自分の肩に頭を押し付けている。
「俺は、これから先も一緒にいたい」
「……悠絆さんと亜希さんに、言うんですか?」
「話すには良い機会だと思ってる」
「そうですね……」
「無下にはされないとも思ってるけど」
「私も一生懸命お願いしますね」
「二年参りで効果あるかな」
「見守って頂きましょう」
最後にぎゅっと少し強めに抱きしめ、名残惜しさを振り払った。
「そろそろ準備しようか。それともまだ足りない?」
「私に飽きたってことですか?」
「さっきまでの話はどこいったの」
「意地悪な聞き方するからですよ」
「今は充電できたけど、またすぐ愛おしくなるから一緒に行きたいんだけど、どうでしょうか?」
「答えなんてわかってるのに、やっぱり意地悪ですねっ」
額と額を当て、軽く唇を合わせ沙月は立ち上がった。
「準備してきますね」
「うん」
さすがに沙月の方が後に準備が終わるだろう。
けれども万が一、自分が後になったら立つ瀬がない。
さっさと支度をして、マンション前に行ってしまおう。
それにしても、急にこっちに来ることになったと言うのに、母さんが自分と沙月の着物を持ってきたのだから用意が良いことだ。
紺色の無地でシンプルなデザイン。
それにしてもさすがというかなんというか。
着物のことがよく分からない自分でも、これなら好みの物と言えてしまい、拒否することは許されなかった。
きっと去年、沙月が振袖羽織ってたのに合わせて持ってきたんだろうな。
着方の説明なんかを見て、四苦八苦しながらも着てみた。
これで良いのか、初めてで良く分からない。
なんとかかんとか、形にすることができ、簡単に鏡で確認するも、ぱっと見は崩れていそうな所は見受けられない。
そうしていると、思ったよりも時間を取られてしまい、待ち合わせ場所まで急いだ。
入口に着き、辺りを見回しても人影は無く、ほっと安心したのも束の間。
「同じタイミングでしたね」
後ろから声を掛けられ、危うく待たせることになりそうで冷や汗をかいてしまった。
待たせる事態になっていないだけましだと思おう。
気持ちを落ち着け、振り向き、沙月の姿を視界に納めた。
常日頃から一緒に居て、常々思ってはいるものの、さすがにこの日の特別感は一際強かった。
髪の毛は後ろでお団子にまとめられ、いつもと違う魅力があり、薄暗い中でも、肌のきめ細やかさは光輝いているように綺麗だ。
着物もこちらの物に合わせているのだろうか、桜色の無地だった。
だからといって決して地味ではなく、とても可愛らしかった。
「どうしたんですか?」
「――思わず見惚れてた」
「それだけですか?」
「可愛い」
それだけ言って、抱きしめた。
「首に埋めますか?」
はっきりと自分の好きな行為だと気づかれたからか、揶揄われてしまう。
「――――また今度で。行こうか」
「うんっ、行きましょう。あ、その前にお願いがあるんです」
「何か忘れ物?」
「髪飾りを付けて貰えますか」
そう言って取り出したのは、去年の誕生日に渡した髪飾りだった。
「もちろん」
去年と同じように、同じ場所に髪飾りを付けてあげた。
沙月は手で確認し、愛おしそうに目を細め。
「ありがとうございます」
言葉とともに淑やかに微笑んでくれた。
心に温かい物を感じながら、沙月の手を取り、目的の神社へと歩いた。




