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102【兄と妹と家族と_伍】

 母さんが車を運転する道すがら、何かに気づいたかのように聞いてきた。


「ひょっとしてあなた達、普段からそんな感じだったの?」

「えっと、そうですね。お買い物の時はいつも持ってくれますし。手もよく繋いでくれます」

「繋いでたら悪いかよ」

「悪くないわよ、でも私達の前でだけ見栄張ってたんだと思っただけよ」

「そんなことは……」


 無いと主張しようとして記憶を振り返る。

 二人っきりの時はもちろんのこと。さらに思い起こすと和雲達はいざ知らず、間宮や新堂達の前でも変わらない。おまけに学校では逆に主張するようにしている。


 よくよく考えると遠慮しているのは、両親の前だけであり、結論としては。


「あったわ……」


 自分でも驚きだった。


「呆れた。沙月ちゃん、学校だとどうしてるの?」

「どうしてるって言っても、特に変わりませんよ。変わらず優しいですし、大事にしてくださいます」

「そうなの。そうすると学校ではきっと隠してないってことね」

「そうですね、むしろ主張してますね」


 次々と赤裸々になっていく日常。

 いい加減どこかで歯止めを掛けたいが、どうしても堂々とすればいい、隠す必要がないとの言葉が邪魔をして止めるタイミングを失ってしまう。


「ひょっとしてカップルコンテストに出るまでもなく有名だったのかしら」

「私が言うのも恥ずかしいですけど、知られているみたいです」

「隠すとろくな事が起きなかったって失敗例を知ってたから」

「別に、理由なんていいわよ。いいじゃない主張しておけば。そうしたいならね」


 母さんの楽しそうな声音に思わず反応してしまう。


「なんか嬉しそうだけど……」

「そうかしら、そうなのかもね。懐かしくてただね――――」

「懐かしいって、なにが?」

「悠絆さんとそんな所まで似るとは思ってなかっただけよ」


 どこか懐かしそうな表情を母さんは浮かべていた。

 初めて見る表情に、驚きを隠せなかった。


「へぇ、父さんが。昔はどうだったの?」

「実際を見てるわけじゃないから、想像だけど。多分、優陽と変わらないんじゃないかしら」

「聞いてみないと分からないから、詳しく」

「変な食いつきしないの。後で怒られるわよ」


 くすくすと楽しそうな母さんが、口ではそう止めてくる。

 そこまで言って、言わないのはずるいんじゃないかな。


「そこに優陽くんの攻略法がありそうな気がします。後でこっそり教えて頂けませんか?」

「そういうことなら、こっそり沙月ちゃんには後で教えてあげるわね」

「悪用反対。というか、もう攻略されてる気がするけど。しかも俺だけ怒られるのが納得いかない」

「優陽のは興味本位だし、さすがに悠絆さんも息子には話されたくないでしょ。それになんだかんだ、悠絆さんも沙月ちゃんに甘いのよね」


 母さんの表情は、仕方ないと言わんばかりだが。

 父さんが沙月に甘いとか、色々言いたいことは尽きないが。


「父さんのこと言えないくらい、母さんだって沙月に甘いだろ」

「当然じゃない、何を言ってるのよ」

「何が当然なんだ」

「それだけできた()ってことよ」

「それはそうだと思うし良いんだけどさ」


 他を知ってるわけではないものの、この状態が一般的かと思えるほど、楽観視もしていなかった。


「良くわかんないんだよな。もちろん沙月のことは自慢できるんだけど」

「私だって周りで仲が良くない話なんて聞くんだから、良かったなくらいに思っておきなさいよ。それとも妬いてるの? まだまだ子供ね」

「妬いてないけど、早く大人にはなりたい」

「今は、今しか出来ないことがあるから現在(いま)を楽しみなさいよ」

「優陽くんは、大人になってしたいことがあるんですか?」


 自分がしたいことなんて、沙月と思い出を作っていきたいだけ、それだけに今聞くのかと。

 気づいてるんだか、気づいてないんだか。


「旅行とか。お金が関わると途端にしたいことができないのはなんとかしたい」

「お金は一生付いて回るから計画的に使えるようになりなさい」

「割と上手く回してると思うんだけど。……沙月のおかげなのは重々わかってます」

「わかってるなら、よろしい」

「私も助かってるのでお互い様ですよ」


 自分の先んじた言葉に、母さんは満足そうに頷く。

 沙月はその様子が可笑しかったのか、頬を緩ませている。


「それにしても、アルバイトしようと思った時期が遅かったんだよな」

「そっちに時間を取られてしまうと私は少し寂しいですよ。私にとって一緒にいれた時間は、他の何物にも代え難い時間なんですから」

「うん、まぁ、俺にとってもそうなんだけど……」


 大人になれば、もっと色んな経験や体験が出来るんじゃないかと思うと、早く自分の力で色々な事ができるようになりたいと思わずにはいられなかった。


「優陽の気持ちも分からないでもないけど、今のあなた達は現在(いま)しかいれない時間の中にいることは、知っておきなさい」

「そういう話は良く聞くんだけど、ジムの大人たちを見てると色んなことしてて、楽しそうなんだけど」

「その人達の話って、どうせ他のジムに行きたいとか、外行きたいとかっていうクライミング関係の話でしょ」

「まぁ、そうだけど……」

「それはそれで苦労の上で今の形を作っているのよ、優陽の将来像の一つとして片隅に留めておいて、現在(いま)も見なさい」


 確かに未だに具体的にどうのと将来像を思い浮かべることは出来ない。

 それでも今見えている大人達のように、楽しそうに出来れば良いと思うことはできた。


「私は今も楽しみたいですけど。旅行、連れて行ってくれるの楽しみにしてますね」

「ん」

 

 決して今に不満があるわけではない。けれども、沙月と一緒に旅行に行けたら、どれだけ楽しいだろうかと流れる景色を眺めながら、思い馳せた。


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