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101【兄と妹と家族と_四】

 寝室の扉が開き、二人が顔を覗かせるとそれは驚きの表情になっていたので、先んじて口を開いた。


「何か言いたい事でも?」

「いや、別にないけど。十分に時間はとったつもりだったけど不足だったのかなとは思ったよ」

「時間なんて関係ない、もう堂々とすることにした」


 沙月が何よりも大事なことなんていまさら。

 気持ちを態度に表すことを厭う必要なんてない。


「それは別に良いのよ。ただ沙月ちゃん、少し帰ってきてもらえるかしら」

「あ、はい。すいません」


 呼ばれれば、これまでのことはなんて事がないと沙月は、居住まいを正した。

 やはり恥ずかしさなんて物は、結局一人相撲でしかなかったのだろうか。


「いえ、ごめんなさいね。ただ、今年も一緒におせちを作らないかっていうお誘いなんだけど、どうかしら」

「はい! とっても嬉しいので、こちらからお願いしたいくらいですっ」

「そう言って貰えると、誘ったかいがあるわね。本当に沙月ちゃんは良い子。あとで優陽を荷物持ちに連れて買い物に行きましょう」


 そうして強制的に自分が連れていかれることが決められてしまった。


「内容について、何か言って意味あると思ってないけど、さすがに目の前で当人を放って進めるのやめない?」

「目の前でやらないでどこでやるって言うのよ」

「どこと言うよりも、目の前でやるなら一言あっても良くない?」

「だって来るんでしょ?」

「……行くけど」

「それなら、変わらないんだから文句言うんじゃないわよ」


 なんか去年もこれに似た問答をした気がする。

 やっぱり同じように買い物に行く時だったか。


 沙月を見ると何も言わずにこにこしている。

 それもそうか、沙月に否はないのだろうから。


 すると訳知り顔の父さんが神妙な顔をして、口を開いた。


「優陽、今後も沙月さんと上手くいくコツを教えてあげようか」

「コツ?」

「逆らわないことだね」

「その心は……」

「どうせ勝てないからね……」

「メロンでも食ってろと?」

「そうだね、買ってきていいよ」 

「今、年末よ、旬外し過ぎてて売ってないでしょ。二人して何を馬鹿なこと言ってるのよ」


 驚きだ。

 今凄い父さんと分かり合えた気がした。

 こんな奇跡、二度と起きないんじゃないか。


「と言うかさ」

「何よ」

「父さんが言ったことに対しては何もないの?」

「あら、よく踏み込んできたじゃない。もちろん、悠絆さんが私の自由にさせてくれているのはわかっているわよ。だからあなたもそれくらいの度量を身に付けなさいね」

「あ、はい」

「亜希さん、大丈夫ですよ。もう先日、私のお願いは断らないって大見得きったばっかりです」

「お、おう。断るつもりは、――ない……ないよ?」 


 この言葉に嘘はないし、これからもこの心持も変わらないだろう。

 それに先ほど言った通り、堂々としていようと思っているのも確かだ。

 でも、なんか変な方向に話が飛んで行っている感は否めなかった。


 (なんだこれ?)

 

「そんな一度にあれもこれもしようとしなくて良いよ。実生は僕が見てるから買い物行ってきなさい」 

「悠絆さん、ありがとう。沙月ちゃんはすぐ行けるかしら? ほら優陽、行くわよ」

「「はい」」


 同じ言葉を発したはずが、沙月は元気に、自分は諦めたように漏れ出てしまった。

 まるで幼子の手を引いて連れて行くかのように手を繋がれ、買い物へと出かけていった。

 


 母さんの運転で最寄りよりも少し遠いスーパーへとやってきた。

 こちらの方が品揃えが良いが、徒歩だとなんだかんだで近くを選んでしまうので、来たのは久々だった。


「何かリクエストあれば、買うわよ」

「しいていうなら、美味しい蕎麦が食べたい」

「優陽くん、頑張りますねっ」

「頑張るって?」

「今年は打ってみようと思ってます!」

「それは――――、うん、楽しみだ」


 料理上手な沙月のことだ、打ちたての蕎麦ならどれだけ美味しいかと、どうしても期待してしまう。

 あとは特に聞かれることはなく、どんどんとカゴの中に食材が追加されていった。


 大根やニンジンといった常々使う食材から、干ししいたけやごぼう、たけのこ、れんこん、里芋なんかももちろん入っている。

 エビやごまめといった普段余り使っていなさそうなものまで、一から揃えているようだ。残念ながら、エビの種類まで自分では判別が付かないが。

 もちろん、魚から鶏肉や豚肉、牛肉、挽肉なんかも入れられていて、むしろなんでも作れるんじゃないかと思うくらいの食材の量だった。


 確かに実生の家の冷蔵庫が空っぽだったことを考えれば、これくらい必要そうだった。


 カゴの中が埋まっていき、入れられた量を見て、これを全部調理するのかと思うと頭が下がる思いだった。

 手伝わされるのはわかりきっているが、それでもやはり、手伝いという立場では労力の比較にならないだろう。


 会計をし、二つの袋がパンパンになり、それぞれがそれなりに重い荷物。

 両手に一つずつ持てば、持てなくはない。

 でも片手は予約されている。

 それならやるべきことは、一つ。

 空いている一つの手で二つの袋を持つだけだった。


「私、一つ持ちますよ」

「大丈夫」

「車までの間くらい、手を繋がなくても寂しがったりしないでしょ。変な方に火が点いたのかしら、欲張りね」

「欲張りと言うか、荷物を持つのも手を繋ぐのも俺の中で当然のことだから。車までの間くらい、頑張ればいいだけなんだし」

「無理はしないでくださいね」

「持てないことはないから。普通に重いから持たせるのも悪いし、俺が勝手に当然って思ってるだけだから」

「私だって、手を繋ぎたいとは思ってるんですよ」

「本当に、車までなら持てるから。行こう」


 沙月の手を取り、歩き出す。

 袋に腕を通し、膨れて歩きにくくはあるものの、宣言通り車までは持っていくことができた。


 普段から運動していて良かったと妙な感慨を得てしまった。


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