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99【兄と妹と家族と_弐】

 とりあえず、実生が薬を飲めたことに一安心。

 薬さえ飲めないようなら、急いで病院に連れて行くことも考えていた。


 そして次に出てくるのが、このゴミの山。

 沙月が来てくれたおかげで、自分の手が出せない部分にも気を使ってもらえるのは有難いが。


 妹の部屋の手伝いをさせるのは当然気が引ける。

 自分が何も言わずに掃除を始めれば、間違いなく沙月も掃除を始める。

 自分が何もしなくても、掃除を始めそうな気配すら感じられる。


「じっと出来なさそうだけど」

「そうですね、特にやりたいこともないですし」


 きっと何も言わないよりかは言った方が良いだろう。


「大変恐縮なのですが、手伝って頂いて構いませんか」

「言い方が嫌です」

「完全に尻ぬぐいだからな……」

「放って置けない優しさに免じて手伝ってあげますよ」

「――ありがとう?」


 なんだろう、この敗北感。

 まるで自分がどうしようもないから、手伝ってくれるみたいな。

 いまいち釈然としなかった。


 まずはどう見ても捨てて良さそうなコンビニ弁当の容器なんかをゴミ袋に突っ込んでいく。

 すでに期限の切れているスーパーのチラシや、廃品の買取チラシなんかがそこかしこから発見されては、ゴミ袋に詰めていく。

 お菓子の袋やアイスの外紙など、溜息と共にポイポイと視界から追いやった。


 その間に、衣類やら女性物の雑誌やらを沙月が片づけていく。 


 なんというか、お願いしたのは良いものの、自分の彼女に妹の掃除を手伝わせるだなんて、申し訳なさで悲しくなってきた。


 そうして幾分か足の踏み場もでき、ゴミ袋を捨てに行こうかと思った時。


 ガチャッと扉が開く音がした。


 そこには、母さんと父さんの二人が静かに入ってきた。

 大きな声を出すわけにはいかないと、沙月は軽くお辞儀をしている。


「バカ娘が風邪ひいたって連絡してきたから、来たんだけど、状況を説明してくれるかしら」

「凄い既視感のある言い回しなんだけど」

「安心しなさい、私は既視感しかないから」

「自己紹介した方が良いですか?」

「俺にとっては苦い記憶だから、スルーして」


 そんな自分の様子がおかしいのか、母さんと沙月に笑われてしまった。


「懐かしむのも良いけど、まずは実生の容態を教えてくれるかな」


 父さんは、まずは先にと場を進められてしまった。


 そもそもそっちが始めたのだろうと。自分が言おうにも、母さんはきちんと状況を説明しろと言っている。

 分の悪さに苦虫を噛みつぶした顔をしてしまった。


「喉がひどそうで声が出せない。熱はある。もしかしたら上がるかも。さっきポタージュを飲んで風邪薬は飲めた。今は寝てると思う。以上」

「熱が上がるかもしれないのは、心配だけど、寝かせてあげるのが今は一番いいかな」

「体力あるし、大丈夫かもしれないけどな」


 実生の状況に一安心したのか、父さんは頷くと、辺りを見回した。

 自分も沙月も、変わらず手を止めずに掃除を進めていく。


「それにしても。沙月さん、優陽だけではなくて実生でもこんなお世話をさせてしまって面目ないね」

「そんな、顔をあげてください」

「沙月ちゃん、私からも言わせてね。本当にありがとう」

「亜希さんまで。大丈夫です、この働きは優陽くんに返してもらいますので」

「へ……」


 ここでお鉢が回ってくるとは思わず、間の抜けた声を出してしまった。

 沙月の言い回しには両親ともに驚いているようだ。

 それはそうだ。

 今までの沙月であれば、恐縮し気にしないで良いと言うに留めていただろう。

 そこを敢えて、自分を引き合いに出すことで、帳尻は合っていると示している。


 そしてそれを、いち早く理解したのは母さんだった。

 

「便利だから、いくらでもこき使って良いからね」

「何をお願いしようか迷ってしまいます」


 だから、沙月の言い分に乗るのは、理解は出来る。

 あくまでも理解は。


「この子は、出来ることなら精一杯やってくれるだろうから、気兼ねなく言ってくれていいよ」

「はい、それはもう十二分に実感させて頂いてます」


 父さんまで乗ってくる。

 同性だから少しは歯止めを掛けてくれるかと思ったが、そんなことはなかった。

 むしろ、諦めろと言わんばかりじゃないか。


「いや、なんで俺に役目が回ってきてることに疑問を抱かれないの? 治ってから実生にお礼させるんじゃないの?」

「さっき、優陽くんがお願いしてくれたじゃないですか」

「それはそうだけど……」


 せめて、自分だけでも抗わなければと試みるも。


「だいたい考えてもみなさいよ」

「何を」

「実生が沙月ちゃんに何ができるっていうのよ」

「……荷物持ちとか」

「二人で買い物行かせて、優陽は行かないの?」

「行く」

「優陽はもちろん、荷物持つのよね?」

「持つ」

「実生は何するのよ」

「――――買い物の相談役とか」

「役に立つと思ってるの? あのクライミングバカが」

「思わない」

「賑やかしが精々だろうから、それなら優陽が腹をくくってエスコートしなさい」

「……」

「優陽くん、楽しみにしてますねっ」


 二人掛かりで言われてしまえば、決定事項と同じ。

 自分に出来たのは、大きくため息をつくことだけだった。

 横目に沙月と母さんが顔を合わせ笑っているのが見えてしまえば、なおさら言葉を続ける気にはならない。


 話しながらも掃除をする手は止めず、四人でやればそこまで時間は掛からなかった。


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