プロローグ【高校生の隣】
小さな時からクライミングをやっている身としては、周りは常に大人ばかり。
もちろん同年代や先輩、年が経てば年下の子も新しく登り始める子供たちも多い。
それでもやっぱり周りは大人ばかり。
同年代で自分と同じ様にのめり込んでいる人は周りにはそこまで多くは無い。
それに加えてクライミングはあくまでも個のスポーツだ。
いくら一緒にやっていてもあくまでも個、どこまでいっても個。
そんなスポーツ、他に探せばいくらでもある。
他の人は何を糧として、頑張るのだろう。
家族、友人、恋人、あくまでも自分自身の為。
人それぞれだろう。
自分もその例に漏れず、支えてくれる人が隣にいてくれるだけでいくらでも頑張れそうだ。
ジムに共に来てくれ、一休みしに休憩スペースに向かえば、読んでた本を中断し顔を上げ笑顔で迎えてくれる。
顔を上げてくれた拍子に腰まで伸ばした髪の毛が流れ、その容姿に見惚れる事も良くある。
近づくと笑顔を向けてくれそれは花が開いたように可愛らしく、時に愛らしく、見ていて飽きる事はない。
凛とした佇まいで可憐な少女が口を開けば鈴を転がしたような声で、名前を呼んでくれる。
「優陽くん」
それだけで疲れが吹き飛び、抱きしめたくなる。
自分の声に反応し、笑い、時には悪戯めいた表情を魅せてくる。
頬を膨らませる様は、本人に言うと拗ねてしまうが、庇護欲を掻き立てられて仕方ない。
「帰ろう」
「うん」
そう応えてくれる彼女の手を取り、ジムから帰れば愛おしい彼女が手料理を振舞ってくれる。
それがどれだけの幸せか。
その料理がまた美味しく、彼女が胃袋を掴んで離しそうにない。
お礼に出来るのはコーヒーを淹れる事くらい。
料理にコーヒーにと互いに感謝を言って一日が終わる。
それだけで特別ではない毎日が特別で満たされていた。
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