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第三十六話 紫の月に見つめられ

 あたしは何時目が覚めるのか

 犯されて穢されて孕まされ、魂の色も変わってしまって

 夢見る前のことも覚えてないのに、これが夢だと思ってる

 チラリと見えた光を追って、抉られ削られ裂かれて傷んで、それでもなんとかここまで来たけれど

 光の姿はオボロゲで、掴んで触って噛みついて、それでも何も感じず霞のよう

 けれでもお腹がすくのなら、霞であろうと食べないと


 霞の中にはコンペイトウ

 あまり美味しくないけれど、食べればひとまずお腹は膨れる

 でもせっかく食べるのなら、美味しいものが食べたいです


 綺麗な光のコンペイトウ

 少し美味しいコンペイトウ

 私はこれを食べたくて、闇から砂糖を集めては、光の中に投げ入れました

 美味しく育ってコンペイトウ


 大きく育ったコンペイトウ

 育てるコツも知りました

 私の子供を泡に入れ、強い光とゴッツンコ!

 同じ色なら美味しくなって、似ている色なら美味しくないです

 ブンブン羽虫が邪魔だけど、ご飯を食べたりしないので、そのまま放っておきましょう


 お腹が少し満たされて、故郷を想い泣きました

 この世界は夢だから、眠る前は記憶の彼方

 帰りたいとは思うけど、そこがどこだかわからない

 帰りたいとは思うけど、ここがどこかもわからない

 この光の先にある?この光の後にある?

 つつけば割れるシャボン玉

 ここが故郷じゃないのなら、割れて弾けて消えればいいのに


 輝くご馳走と会いました

 ヒトの姿を知りました

 ヒトの言葉を知りました

 ヒトの姿はオボロゲで、掴んで触って噛みついて、それでも何も感じず霞のよう

 それでもこれはご馳走です

 食べずにわかるご馳走です

 こんなご馳走があるのなら、きっとそこが故郷でしょう


 紫ってどんな色?お月様ってどんなもの?

 ヒトから貰ったプレゼント

 フワフワとしてポワポワとして何度も何度も繰り返す

 紫月(シヅキ)という名前を繰り返す

 お腹がすいたな、もっと食べたい

 あのヒトに触れるように

 あのヒトを食べれるように

 もっとお肉をつけないと


 コンペイトウは飽きました

 お腹は何時も空いてるけれど、食欲が全然わきません

 それでもちゃんと食べるけど、たまにはご馳走食べたいな

 たまにはご馳走会いたいな

 コンペイトウに群がる様に、あのヒトはここに来るのだから、そっとその後をつけましょう


 ご馳走に会う前に数を数える

 大切なものの数を数える

 一つ、あたしの名前

 二つ、故郷の色

 三つ、あたしが誰なのか

 四つ、何が好きなのか

 五つ……なんだっけ?


 思い出せないなら、大したものではないのでしょう

 それにきっとご馳走を食べれば、無くなったものも取り戻します



 あたしのご馳走

 ただ一人のヒト

 待ってて、今すぐ食べるから





「オイ、マジかよ良二。銭湯上りは和食だろ?なんでハヤシライスなんて食ってやがる」

「すみません。私が煮物系はカレーしか作れないから……あ、このオムライスにかかってるホワイトシチュー美味しいですね!」

「おバカ!人の注文にケチつける前に、ちゃんと前を隠しなさい!普通の浴衣だから謎の光が隠してくれませんのよ!?」

「会長、何時もの着こんだ浴衣も素晴らしいですが、銭湯の浴衣も趣があって素晴らしいです」

「ふふ、ありがとう。翠さんも似合っているわよ。良二くんの浴衣姿を見るのは何時ぶりかしら」

「浴衣だけなら去年の夏まつりか?でも旅館や銭湯の浴衣なら中学以来だな」

「待て、その話は知らんぞ、ツヴァイベスターよ」

「お兄ちゃん、恥ずかしいから人前で焼き魚食べないで。貸して、私が分解する」

「二葉、そっちの方が恥ずかしいから止めろ。ごめんなさい、骨取るのが苦手で……昇人さんは上手いですね」

「美味い」

「ショートは器用だからね。うん、やっぱり僕的には銭湯上りはカレーだな」




「はぁ……いい湯だ」


 一度みんなで集まり食事して、お風呂についてレビューしたり今後の打ち合わせをしたりした後、再度俺はお風呂に戻った。

 愛韻と音彩のように卓球したり、一真と二葉のように仮眠するのも良かったが、レビューされていた『空色の湯』が気になったのだ。

『空色の湯』。それはDAにより制御された限りなく透明に近いお風呂。水面に僅かな揺らぎこそあるものの、その下はまるで空気のように存在感が無い。身体を微動だにさせなければ、お湯という存在は一切関知できない。裸で何も張られていない湯船に座っているかのようだ。

 お湯自体も特徴的である。身体にまとわりつく感触は少なく、感覚的にはミストに近いだろうか。ひたすら軽く、身体を真まで温めてくれる。


「――ふぅ」


 さて、そんな極楽なお湯ではあるが、一つ大きな問題がある。

 先ほど語った通り、お湯の透明度が高すぎるせいで、身体がまるで隠せないのだ。今は脚を組んでいるためこう、いい感じに隠せていなくもないが、立とうとするとどうやっても隠せない。

 タオルを使おうにも、お湯の中に入れるのはマナー違反だ。


 それはいい。銭湯で前を隠すのはマナーだが、湯船に入っている時までとやかく言うのは野暮だ。

 だが今は、一つ大きな問題があるのだ。


「ずっと前から見てるから、今更隠す必要ないわよ?」


 マナーを破ってでもタオルをお湯につけようとしたところ、目の前の女性からそう告げられた。


「見えてないふりも無意味ね」


 死刑宣告も告げられた。


「今まで姿を隠してると思ったら、何時からいたんだ」


 俺は湯船の反対側で足だけをお湯につけている女性に声をかける。

 女性の髪は銀髪、肌は青白く、目は白目が黒く紫色に輝く瞳が特徴的だ。身を包むレオタードの色は白く、以前と違い胸元が大きく開き谷間がのぞいている。


 深界の主、紫月がなぜか男湯にいて全裸の俺を見つめていた。


『空色の湯』をレビューしていた雪奈と麗火さんが完全に透明なこのお湯に浸かりながら何をしていたのか妄――仲良く出来ていたか心配しながらウトウトしていたのだが、気が付いたら紫月が目の前で足を組んだ状態で舌なめずりをしていたのだ。


「貴方がご飯を食べて服を脱ぐところから」

「まさかの最初から!?」

「お腹を空かせたあたしの前で美味しそうに食事をするから、その喉元噛み千切ろうと思ったわ。

 でも食べられるために身体を綺麗にしてくれてるから、考え直してあげたの」


 今更隠しても、上も下も前も後ろも見られているということか。もうお嫁にいけない。

 それにしても、全く気が付かなかったのは次元の波長が合っていなかったからか?でもそれだと紫月からは見えていた原理が気になる。


「今日は厄介なのが無いのね」


 隣から声で聞こえ反射的にそちらを見ると、正面にいたはずの紫月が隣に移動しており、俺の顔に手を伸ばしていた。

 反応できないまま、こめかみから頬のあたりを撫でられる。


「こちらも」


 紫月はそのまま指を下ろしていき、何もついていない首筋をそっと撫でる。


 それは蠱惑的な動きではあるが、やはり前と同じようにその指はプラスチックのような硬質さと冷たさだった。


「流石に風呂にはつけて入らないな」


 ディバイン・ギアは洗うのに邪魔だし、D-Segは撮影機能がある。風呂に入るにあたって両方外すのは必須だった。


「ふーん。それじゃあ今が食べごろなのね?」


 必須じゃなかった。失敗だった。

 今まで姿を見せなかったのは、ディバイン・ギアを警戒してのことだったか。

 俺はとっさに紫月から距離を取るが、生憎場所が湯船の中、逃げられる場所などない。加えて言えば逃げられても逃げる際に見られる。俺はお嫁に行けなくなったからと言って貞淑であろうとする気概は忘れない。


「なんてね。

 今日はそこそこ美味しいご飯を食べたから、見逃してあげる」


 慌てる俺を見て、紫月はにんまりと笑みを浮かべる。まさか美味しいご飯を食べた(意味深)ではあるまいな。


「でも見逃す代わりに一つだけお願いを聞いてもらうわ」


 またお願いか。前回は名前が欲しいというお願いだったが、今度は何だろうか。


「貴方の名前。教えて」

「……前に自己紹介しなかったか?」

「覚えてないわよ、そんなの。すぐ食べちゃうつもりだったし、食べればあなたもあたしになるし。

 ……でも、食べるまでの名前は必要でしょ?

 もしかすると何処かで同じ食べ物を見つけるかもしれないし」


 いや、俺は他の場所にはいないと思うけど……他のアドミニストレータに会ったとしても個体名が違うし。


「良二。平賀良二だ」

「良二……良二」


 紫月は何度も俺の名前を反芻する。記憶もあやふやらしいし、そこまでしなければ覚えられないのだろう。


「良二。うん、覚えた。

 でも名前を呼んでたらお腹空いたから、やっぱり良二を食べたいわ」

「だめですー。次会う時まで俺の名前でも噛んでなさい」


 紫月はむぅっと頬を膨らませる。不満ではあるが、約束を反故にする気はないようだ。


 まだ少ししか話していないが、彼女は精神構造や常識、言語能力、価値観に違いはあれど、理性自体は存在しているし暴力に訴える性格はしていないように思える。信頼し過ぎるのは問題だが、ある程度は信頼してもいいだろう。


「まぁいいわ。今日のご飯も食べ終わってないし」


 紫月はそう言うと、何処から手のひら一杯の宝石を取り出した。宝石は色とりどりで形と大きさは歪だ。魔石によく似ている。食べ物で言えば飴か金平糖だろうか。

 彼女は手のひらの上の金平糖を一つつまむと、艶やかな唇へと運び、そっと突き出した紫色の舌の上に乗せた。そして俺に見せつけるように、口の中に運ぶ。


 おそらく、あれが退治した深界獣のなれの果てだろう。


 良二、良二と紫月は未だ反芻を続けながら金平糖を味わう。

 ……なんとなく、自分が食べられているかのような錯覚に陥る。


「どんな味なんだ?」


 ふと気になって尋ねた。深界獣の味なのか、属性の味なのか。どちらにせよ未知の味だ。


「味?甘いとか辛いとかいうヤツかしら」

「ああ」

「そんなものはないわ。

 ただ少しだけ――身体が満たされるの」


 紫月はそう言うと空いている右手を照明に透かして見る。

 その青白い肌は、前に見たときより少しだけ透過率が減っているようだ。


 やはり属性を摂取することで、彼女の不足している属性が補完され、こちらの世界に馴染んでいるということだろう。

 そして味が解らない……舌はあるのに?深界獣と同じく、あくまでガワだけの存在なのかもしれない。


「きっと良二と一つになったら、完全に満たされるわ。

 やっぱり、食べていいわよね?」

「ダメ。

 ……そんなに食べたいのか?」

「ええ。そうしないと帰れないもの」

「食べたら帰れると」

「さぁ?でもきっと帰れるわ。良二からは故郷を感じるもの」


 ああ、そこも適当なんだ……もしかしたら食べられ損になる可能性もあるのか?


「そもそも、どうやって来たんだ?来た道を戻れば帰れないのか?」

「気が付いたらいたのよ。世界なんてそんなものでしょう?でも、元々いたのはここじゃないの。だから帰らないと」

「そう言えば前に記憶を失ったって言ってたな。じゃあ覚えていたこと――深界の主(アウターワン)の意味は解るか?」

「知らないわよ、そんなの。興味ないし」

「自分と他の深界生物の違いは?」

「知らないわよ、そんなの。興味ないし」


 困った。麗火さんと仁に頼まれていた質問の答えはないらしい。


「じゃあ……そのバブルスフィアはどうなってるんだ?」

「バブルスフィア?」


 ああ、専門用語は伝わらないか。それとも、バブルスフィアに対応する言葉が無いのか?

 念話で会話していることを考えると、後者が正しい気がする。


「紫月の周りを泡とか、膜とか、そんな感じのが覆ってるだろう?」


 前に会った時には気が付かなかったが、うっすらと粘つくような、ズレがあるというか、そういうバブルスフィア内部特有の不思議な感触がある。ただDAMAで使用しているものよりも違和感が少なく、薄く(・・)感じる。


「ああ、これ?よく知らないわ。興味ないし」

「俺としては非常に興味があるんだが……ソレは動かせるのか?」

「動かせるわけないじゃない」

「でも紫月と一緒に移動する」

「?

 当たり前でしょ?ここは『あたしの世界』なんだから」


 あたしの世界……自身を中心として薄っぺらな世界(バブルスフィア)を構築することで、自身の座標とリンクさせているということだろうか。現在そんな技術は見つかっていないが、『外の世界』ではいたって普通なのかもしれない。


「……そもそも、紫月はどうやって移動してるんだ?」


 よくよく思い出せば、紫月が歩いているところを見たことはない。何時も瞬間移動するか滑る様にして移動している。


「移動したいから移動するのよ」


 ……哲学的な回答ではないだろう。なぞなぞでもないはずだ。


「……行きたい場所があるからそこに移動する、という意味じゃなくて、そこに行きたいと思ったら、そこに移動している、ということか?」

「そうね」


 なるほど、行先を指定することでそこに空間移動することができるということか。空間移動することができるDAは確かに存在しているが、気軽に使えるものではない。

 しかし本当に彼女が自分だけの世界を作っているのだとしたら、彼女は俺たちより一つ上の次元に干渉していることになる。XYZ(三次元)上の空間移動と、αXYZ(四次元)上の空間移動は全く別物だ。より簡単に空間移動できる。

 そしてそれを踏まえると、バブルスフィアの移動についても説明がつく。実際には一歩も動かずに、自身を中心とした空間を空間移動させているため、同時にバブルスフィアも移動しているのだろう。


「でも、せっかく脚が生えてるのに移動には使わないんだな」


 数十センチ動くためだけに空間移動を使うのは、俺たちの常識に照らし合わせると酷くコスパが悪い。

 あと素晴らしいおみ足なのに、動かさないのはもったいない。


「脚?」


 紫月は初めてその存在に気が付いたかのように、脚に目を向け、指を這わす。

 その様子を見ていると、紫月は何を思い立ったか両の足で立ち上がった。


「脚、いいわね」


 紫月は足を使い、その場でくるくると回る。

 仮にもこの場所は湯船の中なのだが、彼女の動きで水面は一切揺れない。動き的に、紫月自身も水の抵抗を感じていないようだ。

 ……お湯と紫月の重なっている部分はどのようになっているのだろう。凄く気になる。


 無意識のうちに彼女に手を伸ばすと、彼女はすぐにそれに気が付き離れてしまった。


「前にも言ったわ。良二からのお触りは許可してない」


 紫月は右足を伸ばすと、伸ばした俺の右手の甲にチョンと触れる。

 俺は手のひらを返し紫月の足を掴もうとしたが、それよりも早く紫月は湯船の反対側まで移動すると、優雅に腰かけた。

 そして見せつけるように、蠱惑的に足を組む。


「あたしの脚に触れたいのなら、あたしに食べられればいいのに。

 そうすれば、良二はあたしの身体を自由にできるわ。

 良二にとっても損な話じゃないでしょ?」


 紫月は心底理解できない、という風に眉を顰める。


「……考えておくよ。期限は?」

「知らないわよ、そんなの。

 ……ううん、あと10回か20回くらい食事するまでに答えて」

「その時Noと答えたら?」


 俺の質問に紫月は優しい笑みを浮かべる。


「弾けてもらうわ。

 世界も、良二も。

 あたしを帰してくれないなら、すべて消えればいいのよ」




 無言のまま時が流れる。


 紫月は変わらず、時間をかけ金平糖を味わう。


 幸か不幸か、紫月と会ってからずっと『空色の湯』には誰も入ってこなかった。紫月がバブルスフィアで人払いをしているのかもしれない。

 そうなると、この狭い世界に二人きり、一緒にお風呂に入っていることになる。今更だが、凄いシチュエーションだ。

 女性と一緒にお風呂に入るのは、子供のころに麗火さんと入ったのが最後だったか。いや、妹の優一(ユイ)の身体を洗ってあげたときか?

 流石に長く入り過ぎたのか、頭が逆上せてきたのを感じる。よく思い出せない。


「良二はあたしになるんだから、あたしを見てなさい。

 あたしといる時は、ずっとあたしと喋りなさい」


 ぼーっとしていたところに、突然紫月の顔が現れる。

 相変わらず黒い眼に紫の瞳は夜空のようで、それを彩る銀の髪は、入浴中だというのに濡れた気配がまるでない。


「――つまらないわ。

 お腹は空いてるけど食欲もないし、今日は帰る」


 紫月は流れるような動きで俺の喉を食むと、幻のように姿を消した。

 前と同じように喉には痛みもなく、ただ触れただけのようだ。


 俺は身体を湯船から引き揚げ縁に腰掛けると、大きくため息をついた。




「マスター!卓球しましょう!」


 風呂から上がり牛乳を自販機で買っていると、雪奈から声をかけられた。


「皆でトーナメントをしてるんです。

 優勝すれば豪華商品ですよ」

「あのメンツで卓球か……まぁ参加するだけなら」


 対戦相手によっては即座に棄権するけど。


 俺は牛乳を飲みながら雪奈に続いて卓球場に行こうとしたが、ふと思いついて蓋の開いていない牛乳に魔力を流すと、近くの机に置いた。


「それで、豪華賞品ってなんだ?」

「マスターに首輪(ディバイン・ギア)をつける権利です!」

「え?俺にその権利ないの?」

「優勝すれば貰えますよ。でも、私が勝ちます!」



 一回戦は小柄な男の娘、音彩が相手だった。

 白球が直撃した俺は無惨にも吹き飛ばされ敗北した。



 卓球も終わりもう一度汗を流した後、ふと思い出して机を見に行った。

 机の上には蓋の開いていない牛乳が一本。


 しかし、その中身は空だ。




 平賀良二には守りたい正義がある。世界の利益を考え、正しく判断するというものだ。

 例えば才能のない少年の昼寝の時間と、将来有望な少女の未来、どちらが大事かと問われたら後者が大事という。

 それなら少女のために自身の昼寝の時間を削るのは当然だろう。

 例えば元気だけが取り柄の将来性のない少年の手と、優しく儚い少女の命。どちらが大事かと問われたら後者が大事という。

 自分の身体だからと言って特別扱いするのは嘘だろう。少しの怪我くらい許容しないと。



 さて、そろそろ目を背けていたことと向き合おう。


 深界の主により多数の犠牲者が出る場合、俺はどうするべきか。

 よくわからないバケモノと、良く知っている人たちの命。どちらが大事かと問われたら、俺は後者が大事と答えるだろう。世界中の人たちだってそう答えるだろう。




 つまり、結論を言うのなら、平賀良二は偽善者である。




 Bath x Outer - 了

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