第三十二話 新装備テスト(週末発売!)
「それじゃあ私が指揮するわね?」
「女狐か……平気か?」
「生徒会長の急ぎの仕事は全部片づけてきたし、お泊りの許可は貰っているから問題ないわ」
「代替が務まるかと聞いている」
「良二くんみたいにはできないけど、それなりに知識はあるつもりよ」
「ふん……足を引っ張るようなら放り出すぞ」
「そうならないように頑張るわ。
それじゃあ今回用意するDAについてね。
良二くんの報告書によると超小型DAジェットエンジンと反重力エンジンを考えているそうだけど、反重力エンジンは止めておいた方がいいわね。
ギア:ナイツの機動力、そして追加するジェットエンジンを考えると、重力操作で浮遊、進行方向のコントロールを行うのは非効率的だわ。それより、機動力と推進力を有効活用するべき。
私としてはお勧めしたいのはこちらの慣性制御デバイス。これで推進力を多方向に変更することで速度を落とさずに小回りが効くようになるはず。
エンジン系統の属性ではないから昇人くんには使い辛いかも知れないけど、現在DAALで運用検討中の慣性制御を用いた新型DAエンジンなら――」
「――そして、この接続部なら必要な可動範囲は確保できるわ。
DACPだから、規格変換もスムーズに行えるはずよ。
どうかしら?」
「ぐぬぬ……」
「麗火さん凄いです!これなら今日中に何とかできそうですね!」
「うふふ、ありがとう」
「ええい、面白みはないが仕方あるまい。娘が寝落ちする前にある程度形にするぞ!」
「おはよう……
なんで俺はベッドで寝てたんだろう」
「寝たからよ」
「それは解るんだが」
「マスターが変なことされ
「シャワーを浴びてきたら目が覚めるんじゃないかしら。
邪魔な首輪は外してあげるわね」
「ん?あ、ああ。頼む」
「良二くんがシャワーを浴びてる間に私は雪奈ちゃんを起こしてくるわ。
朝ご飯はパンでいいかしら?」
「女狐……」
ギア:ナイツが空を飛ぶ。
その推進力は今までの背部の円盤ではなく、左右の腰に設置された超小型DAジェットエンジンだ。エンジンから吐き出された水蒸気が白い尾となり、青空に線を引いている。
彼が追うのは三対六枚の羽根が特徴の大型の猛禽類。鳥二型乙種空_異種 紅蓮鬼隼・深界だ。翼に描かれた怒れる鬼のような美しくも禍々しい赤い模様は残っているが、隼を思わせる精悍でありながら可愛らしい頭部は見る影もなく歪んでいる。
大きさは今まで見た深界獣の中で最大の4メートル超。速度は音速に近く、その速度で巨体から繰り出す攻撃をくらえば、例えDGSであろうともただでは済まないだろう。
しかし今、その大空の覇者は一方的に狩られる立場となっていた。
ディバイン・ギアにより硬度と出力を増したジェットエンジンは、ギア:ナイツの速度を容易く音速の数倍まで加速させる。
俺ならばそんなことをすれば即座に腰を中心に身体が上下に引きちぎれるが、ギア:ナイツの優れた体幹、パワー、そしてDA操作能力がそれを可能にしていた。
深界獣は速度では敵わないことを理解したのか、急速転回や上下運動によりギア:ナイツを振り払おうとする。しかしギア:ナイツは新しく両肩に設置した慣性制御デバイスでジェットエンジンをコントロール、360度の自在な旋回でそれを追撃する。
これも彼にしかできない芸当だ。俺が真似をすると両腕が千切れ跳ぶか、内蔵がグチャグチャにシェイクされるか、眼を回して地面に激突するだろう。
『カウント:ファイブ』
さらに一段階ギア:ナイツの速度が上昇する。
慣らし運転が終わったのか、飛行のコツをつかんだギア:ナイツは蛇行飛行やバレルロールといった曲芸による性能評価へと飛び方を変える。
哀れな深界獣は己のホームグラウンドである大空で翻弄される内に、属性を制御しきれずに酔い始める。
「これ以上はテストにならないな」
ストレスなのか、身体が速度に耐えきれなくなったのか、見えない攻撃で疲弊したのか、深界獣はまともに飛ぶことができなくなっている。相手がこれでは、これ以上の実戦でのテストは無意味だろう。
D-Segを使い、ギア:ナイツに深界獣を楽にしてあげるように要請した。
『了解。最後にアフターバーナーを試験する』
深界獣の頭上に移動したギア:ナイツは慣性で推進を続けたまま、腰のジェットエンジンをパージ、一瞬にして両腕に装着しなおす。
慣性制御により推進方向を深界獣に変えると、ギア:ナイツはジェットエンジンごと両の拳を深界獣に叩き込む。
『アナザー:カウント。
オーロラ・バースト』
機械音声が響くと同時にジェットエンジンから高出力の熱量が放出され、深界獣は内部から七色の光を放出し爆散した。
……麗火さん、ちょっとエグ過ぎない?
仕事があるからと朝食後に帰って行った幼馴染には、後でこの悲惨な光景を動画として送り付けておこう。
彼女の造るDAはすべからく火力が高すぎる。
ギア:ナイツが自身の攻撃によるダメージを全く受けていないことを確認した後、俺は自分が相対している深界獣に意識を戻す。
「Quaaa!AAAaaa!」
甲高い声でこちらを威嚇する鳥は高さ1.5メートルほどのミチバシリのような姿をしていた。違いと言えば両脚部および首筋から無数の管が生えていることと、羽毛が全て金属製なこと、二対四枚の羽根が鋭利な刃となって広がっていることだろうか。
……よくよく見るとミチバシリとは似ても似つかないな。
種族は鳥六型丙種空_異種 夜露死九暴走道走・深界だ。名前から昭和臭がする。
特徴は全身刃物の肉体で、最高速度500キロにも到達する健脚で体当たりされると、身体がバラバラになってしまうだろう。
深界獣になったことで身体の後面に管が現れたが、その管から炎を吹き出し、その反作用で地表すれすれを強引に飛べるようになった。夜露死九暴走道走はダチョウのように飛べない鳥だったのだが、深界獣になったことで念願の空を飛ぶ力を得たのだ。
「QqqAAaaa!」
だが戦闘である以上、彼の夢の成就を喜び手伝うわけにもいかない。
鳴き声と共に脚部が緊張するのが解ったが、それと同時に右腕のDAからレーザーが照射され脚部を撃ち抜く。
「Qua!」
加速前に攻撃されてはどうしようもない。深界獣はバランスを崩し地面に倒れる。
現在読み込んでいるSCカードは二葉のもので、その機能はレーザーの射出だ。
亜光速で直線状に射出されるレーザーをD-Segと連携し、行動を察知すると同時に打ち抜いている。
このDAは比較的省エネのため、継戦能力の向上のためにテストを行っていたのだ。
「Quaaaa...」
……たとえ人間に悪意しか持っていなかったとしても、無意味に傷つける趣味はない。テストしたいことはあったが決着をつけよう。
首から伸びるマフラーを操作しDAの後部に接続する。これによりマフラーに込められた魔力が弾倉となり、連射率と連射速度を上げることができる。
……見栄を張った。本当は格好良いからだ。
『BGRMガトリング』
トリガーを引くとレーザーによる掃射が開始される。
哀れ深界獣は身体中を撃ち抜かれ爆散――するかと思いきや、深界獣は身体のそこかしこを削られながらも、背部の管から炎を噴射、千切れかけた脚部を分離し、レーザーの豪雨の中こちらに猛スピードで突進してきた。
「――っ!」
無数の穴の開いた深界獣を躱し、舌打ちする。危なかった。身体の損壊で速度が落ちていなければ反応できずに撥ねられていた。
通常のモンスターならば即死しているはずの傷だが、深界獣の体内は生物のそれと全く違っており、大部分を喪失しても行動の継続が可能だ。効果範囲の狭く貫通力の高いレーザーでは、深界獣にとっては致命的なダメージにはならないようだ。
穴の先に向こう側が見える夜露死九暴走道走・深界。……本来の世界での生体は解らないが、深界獣となってしまった今、きっとこの世界の生物の定義には当てはまらないのだろう。
……うん、俺にはその方が都合がいい。
俺は腰のスロットからカードを取り出しDAに読み込ませる。
『ジャック・オブ・ローズ』
DAが変形し、収納されていた刃が展開、さらにその刃は三つに分割され全て射出される。
その機能は一真が一年の時に使用していたという機甲聖剣『ウツセミ』のレプリカであり、『浮遊体操作』属性の相対位置固定機能によりある基点を中心として、各パーツが常に相対的に配置されるのが特徴だ。
現在の起点は右腕に装着されたDA。そして最も離れているのが切っ先で、20メートルほど先に浮かんでいる。
それだけでは役に立たないため、首から伸びた青いマフラーをDAに接続する。するとDAから青い魔力が放出され、20メートル先の切っ先とつながる。
これにより、刃渡り20メートルの青い剣が形成された。
「はぁっ!」
気合を入れて剣を振るう。
刃となっている魔力には質量が無く、浮かんでいる刃は基点との相対位置を維持し続けるだけのため、動かすのに力は必要ない。つまり、剣がどれほどの長さになろうと、理論上は腕の動きに影響を及ぼさない。
結果として、通常有り得ないほどの長さの剣は、ただ手を動かすだけで、短剣であるかのような速さで振るわれる。そしてその速さは先端に行くほど早くなり、損傷して全速力を出せない深界獣ならば容易く追いつくことができる。
「QuaQuA!」
9メートルほど先を飛ぶ深界獣を背後から斬る。かろうじて反応したのか、斬ることができたのは翼一枚だけだった。
深界獣はバランスを崩すが、すぐさま斜め方向へと向きを変える。剣の攻撃範囲から逃げるためだろう。
しかし、この剣の真価は『ある基点を中心として自在に振り回せること』である。つまり、基点を切っ先に変えてしまえば、切っ先を遠隔操作し回転させることで、遠くにある巨大な剣を振り回すことができるのだ。
「QuaaaAAAA!!?」
まさか降り抜かれた剣がすぐさま回転し追いかけて来るとは思わなかったのだろう。深界獣は剣の直撃を受け、青い魔力に絡めとられる。
分離した剣と剣の間に張っている魔力は元はマフラーであり、その性質はある程度変化できる。現在は網のような性質へと変え、深界獣の動きを封じている。
『デスペラード・ローズ・ガーデン』
引き金を引くと、青い魔力の性質が変わり刃となり、深界獣の体を四方八方から突き刺す。さらに突き刺した箇所が起点となり、浮いている三本の刃を呼び集める。
「AuQaaaaAA!」
三本の実体剣が深界獣を切断する。
深界獣は叫び声をあげるが、バラバラになっても絶命には至っていない。火力が足りないのか、あるいはコアの破壊が必須なのか。
最後の一押しだ。右腕の巨大な拳型DAに意識を向け、射出した剣と機能をリンクさせる。
「コアが何処か解らないのなら、全部まとめてつぶすだけだ」
基点はそのまま、右腕のDAの相対位置を急速に縮める。結果として現れる現象は……ロケットパンチだ。
時速数百キロで前方に射出されたDAは、起点である深界獣をその巨大な拳で押しつぶした。
流石に耐えることができなかったのか、爆発が発生しバブルスフィアは元の色を取り戻した。
Test x Win - 了
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