第二十八話 ファミレスでダベる(聖剣)
「自己紹介は必要ないだろうけど、そういうわけにもいかないよね。
僕は火野輪之介。『元』ギア:アルスだ」
「ギア:ナイツ、一文字昇人」
俺からの事務連絡を終えた後、二人が簡潔に自己紹介する。
「こういう時って何を言えばいいんだっけ?」
「お二人の馴れ初めは?」
雪奈が追加注文した薄く炎の立ち上るフレア・ジェラートをホフホフと食べながら質問する。
ちなみに俺は色取り取りの一口大の冷たいジェラートおかきを、昇人と輪之介はタコ焼き(迷宮産浮遊タコ使用)を二人で分け合っている。
「馴れ初めって……
ただの幼馴染だよ」
「それでは、DGSになる前からのお知り合いだったんですね。
最初から一緒に活動していたんですか?」
「いいや、初めは僕だけだね。
リンには内緒で活動してた。
……こんな話が聞きたいのかい?」
「はい!
私は幼馴染どころか小さいころからの同年代の知り合いもいないので、小さいころからの友人という関係は凄い憧れます!
特に、漫画にあるような『幼馴染にも秘密でヒーロー活動していた!』というシチュエーションには興味が惹かれますね」
そうだったのか。
……俺と麗火さんは幼馴染だが、そういう質問されたことないんだけど。
「マスターはかなり事務的な感じにディバイン・ギア・ソルジャーになりましたけど、お二人はロマンチックに劇的にセンセーショナルに感動的にディバイン・ギア・ソルジャーになったんですか!?」
事務的……いや、確かに浪漫もへったくれもなかったけど、ヒーローに憧れている純朴な少年を前にそれを言うのはどうなのかな!?
「いや……テレビドラマと同じだったよ」
少し不機嫌になりながらも二人の話に期待を膨らませていたが、二人の反応は苦々し気なものだった。
「ヒーローになるチャンスなんて、訪れない方が幸せだ」
「―――」
雪奈が言葉に詰まる。
昇人は目をそらし、輪之介は逡巡するような目でこちらを見る。
…………なるほど。
「無理に聞くようなものでもないな」
俺の言葉に輪之介の指が僅かに動く。
「そうですね……すみませんでした。
はしゃぎ過ぎたみたいです」
雪奈がスプーンを置き、シュンとした顔で小さく頭を下げる。
そして、ちらりと隣に座る俺の方を見ると、右手に触れてきた。
「いや、いいんだよ。
いいんだ、気にしなくて。むしろこれは、僕のせいだから」
輪之介が手を振り、何でもないことを示す。
作り笑顔で。
「じゃあ気を取り直して俺からの質問。
昇人にも何か戦闘用のDAを用意したいんだが、何かリクエストでもあるか?
思いつかないなら、趣味とか特技とか教えてくれたらそれから見繕うけど」
ギア:ナイツの戦闘強化計画の一環だ。
これからの深界獣の攻撃は増々苛烈になることが予想されるし、早めに対応してしまいたい。
「それは嬉しいけど……DAを造ってる余裕なんてあるの?」
「そこはまぁ、なんとかする」
主に雪奈と仁が。
「リクエストはない。
趣味は……バイクだ。
後で良二のバイクも見せてもらいたい」
バイクに乗ることではなく、バイクをいじることが趣味ということだろうか。
昇人の属性は『エンジン』だ。本能的に惹かれるものがあるのかもしれない。
「バイクでも武器にするか?」
「バイクは武器ではない」
それはそうだ。好きなものだからと言って、武器にしたいとは限らない。
「あれ?ちょくちょく開幕の挨拶とばかりに深界獣を轢き飛ばしてなかったっけ?
得意技だと思ってたんだけど」
「あれは……事故だ」
事故か。事故なら仕方がない。
「バイクと合体するようなDAもおもし――良いと思ったが、汎用的な装備をいくつか用意するか。
攻撃方法や武器の形状については好みはあるか?」
「長物は苦手だ」
肉弾戦が好みか。
『エンジン』属性を使った肉弾戦用のDAを後で探しておこう。
あと相性のよさそうな遠距離用のDAも用意するか?
「了解。明日の朝までにとりあえずの仕様書は用意しておく。時間がある時に仕様に目を通しておいてくれ。
実物は……」
「魔法情報メモリからの展開でいいんですよね?
それなら明日の夕方か、遅くても明後日には動くものが用意できそうです。
既製品でいいなら明日の朝にでも」
俺が話している最中に、雪奈がD-Segで調べてくれていたらしい。
視界の端に色々なデータが表示される。
超小型ジェットエンジンに……おおっ反重力エンジンなんてのもあるのか。
後で昇人と相性の良さそうなものを選ぼう。
「既製品のカスタマイズがよさそうだ。
明日いくつか用意しておくから、実戦で動きを確認してもらって、それを元に煮詰めていこう。
昇人の方もそれでいいか?」
「……ああ。
それで頼む」
少し追いついていけていない気配も感じるが、昇人は見た感じ感覚タイプなので、実物を手にして動かしてみれば理解できるだろう。
「今日も徹夜ですね!
頑張ります!」
本来なら雪奈は俺用のDA作成が終わったのに仕事から解放されないことを嘆くべきなのだが、それよりもDA開発が楽しいらしい。
あるいは夜遅くまでお仕事をすることに特別を感じてテンションが上がっているのか。
「まぁ、俺や仁と違い、雪奈は日が変わる前に寝てたけどな」
「それですけど、私が寝てたら起こしてください!
それが無理だとしても、流石に許可なくマスターの部屋に連れ込むのはダメだと思います!」
「許可なく雪奈の部屋に入って寝かせる方が問題じゃないか?」
「それもそう……なんですけど。
でも今日は寝ちゃったら私の部屋に……あ、でも掃除と片付けしないと。
でもでも掃除する時間を考えると、その分お仕事に回した方が良いですよね?
……やっぱりマスターのお部屋で寝るのが一番?」
「眠たくなったら自分の部屋に戻って寝る選択肢はないのか?」
「ねぇ二人とも」
俺と雪奈が今夜のベッド事情を話していると、輪之介が割り込んできた。
「二人とも……その、同棲してるの?」
同棲?……ああ、言ってなかったか。
「聖研究所ってところのシェアハウスで一緒に住んでるんだよ」
「ギルドもその縁ですね。
理子さん――聖教授が学校のお役立ち相談の係になったのがきっかけなので」
「付き合っているのか?」
今度は昇人がタコ焼きに苦戦しながら、脈絡もないことを尋ねてきた。
「ソソソソンナコトナイゾ?」
「そそそそうですよ、ただの右腕と本体の関係です!」
「ふーん。
それじゃあ今度は二人の馴れ初めについて聞かせてよ」
輪之介がニマニマと笑う。
「馴れ初めって……
特に何もない。さっき言ってた聖教授がだな――」
無意味な会話も青春の大事な一ページ。
この数か月常に戦いのそばに身を置き緊張していた二人をリラックスさせるべく、俺たちは色々なものを食べ、飲み、他愛もない話を楽しんだ。
「それじゃあまた明日な」
日が暮れ始める頃に二人と別れる。
ちなみに俺のバイクを見た昇人は「x96が面影しか残っていない……」とショックを受けていた。
文句は教授に行ってくれると助かる。
俺はホバー機能と水上走破機能と高速運転時の仮想衝角機能とオートバランサーに滑空機能、あといくつかの機能しかつけていない。
やっぱり、俺にも少しは原因があるかも知れない。
「それじゃあ帰るか」
「はい!」
「世界が闇に飲まれる頃に帰宅とは、ずいぶんと余裕だな。
ところで俺は何故ツヴァイベスターのベッドで寝ていたのだ?」
「寝たからですね」
「それは解るが」
帰宅後直ぐに認識合わせを行い、今後のスケジュールを固める。
一段落ついたばかりだが、新たな仕事が増えてしまった。
そちらも早く片をつけなければ。
そして俺の一番優先するべき仕事は―――
日が沈んだ後、一人八咫桜の下で桜を見る。
花びらはすでにほとんどが散ってしまった。
寝てしまったのか、花ちゃんの姿も見られない。
そこに、一人の少年が姿を現す。
「突然の呼び出しにびっくりしたよ」
昇人だ。
家に帰った後着替えたのか、ラフな私服姿だ。
「脳内チャットの一番効果的な使い方は、他の人と話しながら裏では二人だけでやり取りをすることだと思ってる」
使い方を誤ると、いじめにもつながってしまうだろうが。
「昇人のいるところでは話辛かったんだろう?」
だが、伝えずにはいられなかった。
その理由は、今から明らかになるだろう。
輪之介はポケットからカードを取り出し、こちらに差し出した。
「端的に言ってしまうと、僕たちは間違えた。
失敗した。
掛け違えた」
受け取ったカードを確認する。
氏名: 火野輪之介
二つ名: ギア:アルス
ステータス: 力:6 速度:6 魔力:6
属性: 模倣
「今回ディバイン・ギア・ソルジャーは三人いる。
でも、本物は一人だけだ。
僕はディバイン・ギア・ソルジャーになるべきじゃなかった」
Catalog x Fake - 了
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