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第二十六話 ジョリーノ・DAMAトーキョー店

「PaPaYah!のシュークリーム、緑彩堂の抹茶どら焼き、駄菓子屋蜜婆のあんこ玉……DAMAで食べられるスィーツは数あるが、DAMAトーキョーの名物スィーツと言えばやはりこれだろう。

 冷めないよう熱々の鉄板に乗せられた『焼きアイス』。

 相変わらず、焼きチーズのような香ばしい、それでいて甘みを感じさせる香りが食欲を誘うな……」


 俺は目の前には、鉄板の上に山のように積まれたアイスクリームが存在している。

 アイスは全部で四つ。バニラ、チョコレート、ストロベリー、そして特濃ミルク。三つのアイスが土台となり、一番上に特濃ミルクが乗せられている。

 鉄板は非常に熱いが、上に乗ったアイスは溶ける様子はなく、むしろホカホカと湯気を立てている。

 俺は程よく焦げ目のついたバニラアイスにスプーンを入れる。


「まずはこの焦げている部分を一口食べるのが通だ。

 熱すぎず温すぎない、心を溶かすような暖かいアイス(・・・・・・)は属性を利用した料理ができるDAMA以外ではお目にかかることは出来ない」


 バニラアイスを掬い、口に運ぶ。

 冷たいアイスでは味わえない、豊かな香りが鼻孔をくすぐる。

 アイスはホットミルクのような温かさで、熱を通すことにより増した甘みが口いっぱいに広がる。

 温度こそ違うものの、触感や溶け方は普通の冷たいアイスと同じだ。噛むたびに、舌で転がすたびにゆっくりと溶け心を潤していく。


 バニラ、チョコ、ストロベリー、ミルク。

 どれもなじみ深い味だが、温度、そして火に炙られることでこんなにも味が変わって感じられるものなのだろうか。

 どれか一つを選べと言われたらバニラだろうか。

 しかし複数のアイスを同時に、割合を変えてしか味わえない楽しみもある。それこそがこのスィーツの本当の魅力だとすれば、4つから選ぶこと自体が間違いだろう。


「ここでしか食べられない焼きアイス。それを四種類全部味わえるのがこの『ゴージャス焼きアイスセット』の魅力だが、それだけじゃあない。

 このカップに入れられたシロップは二種類。

 一つは焼きアイスと相性抜群のメープルシロップだが、もう一つのシロップにはある特殊な効果がある」


 全てのアイスをある程度味わったところで、粘度のある透明な液体の入ったカップを手に取る。

 見た感じはガムシロップだが、このシロップにはとある魔法をかける――いや、魔法を解く(・・・・・)力がある。


 俺はシロップを一番上に乗った特濃ミルクアイスにゆっくりとかけていく。

 するとなんという事だろうか、シロップのかかったアイスが次第に解け始めていくではないか。


「このアイスは凝固点を操作することで熱しても解けないようになっているらしいが、このシロップにはそれを解除する機能がある。

 それを使えば、このように温かミルクをアイスに絡める味変が楽しめる」


 ホットミルクとホットアイス。口に運んだ時はそれぞれがそれぞれの味を示すが、直後にアイスが溶けて一体となる。

 ベーシックなバニラとの組み合わせはもちろん素晴らしいが、あえて勧めたいのはストロベリーだろうか。

 この4つのアイスにストロベリーが入っているのは、ホットミルクとの相性が最も良いからに他ならない。

 イチゴとミルク。子供のころより知るこの組み合わせのすばらしさを思い出させてくれる。


「様々な味で食べる者の舌を飽きさせず楽しませる……それこそがこの『ゴージャス焼きアイスセット』がジョリーノ・DAMAトーキョー店の看板メニュー足らしめている理由だろう」


 雛のように口をあ~んと開いて待っている雪奈は無視して雪奈、昇人、輪之介の取り皿に分けておいたアイスにもシロップをかけつつ、俺は『ゴージャス焼きアイスセット』についての総評をそう締めくくった。


「ホットアイス……なかなか興味深い味でしたが、こちらも負けていません!」


 雪奈は取り分けられた4つのアイスを食べ終えると、自信に満ちた顔でスィーツの紹介を始める。


「私は注文したのはこの『迷宮トマトのミックスフルーツ』。

 調理方法ではなく、素材を追求した逸品です!」


 雪奈の前に置かれているのは、握りこぶし二つ分ほどの大きさの巨大なトマト。

 よく観察すればヘタの辺りに切れ込みが入っていることがわかる。


 雪奈がトマトのヘタを持ち上げれば、中から色とりどりの宝石が姿を現す。


「ミックスフルーツとは名ばかり……中に入っているのは迷宮産のお野菜を、こちらの世界で育てたフルーツベジタブルです!

 ルビーの如き美しさのトマトジュースを泳ぐナス、キュウリ、ダイコン、ニンジン、そしてピーマン……

 特殊なDAを使って育てられたこのお野菜たちは、いずれも糖度20を超えた、フルーツと言っていい甘さを誇っているのです」


 雪奈はみんなに取り分けた後、スプーンで中を掬い口に運ぶ。


「……甘い。

 どれもお野菜としての味は残っているのに、青臭さが全くありません。

 それでいてコリコリ、シャリシャリとした触感は残っていて、わずかな苦みや渋み、酸味が逆に甘みを引き立てています!」


 雪奈はうっとりとしながら、時に器のトマトを崩してかき混ぜ中の野菜と一緒に口に運ぶ。

 そして時にこちらに向かってスプーンを差し出してくるが、人目もあるので遠慮しておく。


「野菜の組み合わせで味が七色に変わるのも素敵ですね。

 あと、今気が付きましたけど、熱を通したお野菜も混じっているようです。

 触感と甘さの質が変わって、こちらも美味しいですね!」


 雪奈は半分ほど食べ終えると、最終段階に移行する準備を始める。


「器まで食べられる素敵な料理ですけど、やっぱり締めはこれですよね。

 小さくなった器を丸ごとフワフワのパンに乗せて、トッピングの生クリームを追加!さらにもう一枚のパンで挟めば……フルーツベジタブルサンドの完成です!」


 雪奈はフルーツの代わりにフルーツベジタブルを挟んだフルーツサンドを作ると、大きく口を開けてかぶりつく。


「特別な生クリームを使ってるんでしょうか、フルーツサンドですけどくどくなくてさっぱりしてるんですよね。

 なにより野菜というのが素晴らしいです!

 色々な身体に良い栄養素が取れるヘルシーなデザート。

 これは唯一無二のスィーツなのではないでしょうか」


 雪奈が数あるデザートの中からこれを選んだのは、最近ケーキ類を食べ過ぎていると考えたからか?

 だが雪奈よ、フルーツサンドの暴力は糖質と脂質の多さだが、それ自体はそのフルーツベジタブルサンドもほとんど変わらないと思うぞ。


 あとフルーツベジタブルサンドをこっちに差し出してきても、俺はあ~んはしないぞ。

 ……ジュルリ。



「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした!美味しかったです!」


 空になったお皿を前に手を合わせる俺たちは、現在チェーン店のレストラン、ジョリーノ・DAMAトーキョー店にいる。

 ジョリーノは日本風にアレンジしたイタリア料理を主に扱うが、DAMAトーキョー店はそれに加えオリジナルDA料理も出している。

 DA料理はすでに根本となったイタリア料理は面影程度しかわからないがそれはご愛敬。


 そしてなぜそんなところにいるかと言えば、昇人、輪之介と親睦を深めるために他ならない。

 一緒に料理を食べ食レポすることで仲が深まるのは、アイヌを題材にした漫画『黄金心霊奇譚』でもやっていたから間違いない。

 実際正技さん、真忠さんとも会話が弾んだしな。


 ずいぶんと遅れて昇人のところにジュースが、輪之介のところにシフォンケーキが到着する。


 二人は一度手元のスィーツを見た後、こちらをじっと見つめてきた。

 コクリと頷き返す。


 輪之介は一度ため息をつくと、フォークを手に取った。


「……この店は初めて来たし、適当に頼んだから解説を求められても困るんだけど」

「それなら私からご説明させていただきます」


 ススッ……とどこからかピンクと白のボーダーのブラウスと、大きな胸を強調するような形状のピンクのエプロンが特徴である、この店のウェイトレスさんが現れる。

 その服装は、一年のころ麗火さんがこのお店でバイトしてたことを思い出させる。


「このシフォンケーキは当店自慢の『フェアリーエアリアル・シフォンケーキ』。

 シフォンケーキの特徴であるフワフワ感を最大限に追及しております。

 その柔らかさは一度フォークを差し込んでいただければすぐにご理解いただけるでしょう」

「は、はぁ……」


 輪之介はウェイトレスさんに指示されるまま、フォークでシフォンケーキを切る。


「凄い……全く手ごたえが無い!」

「このシフォンケーキからはあらゆる抵抗を感じません。

 それはまるで空気(エアリアル)のように。

 そしてそれは口に入れたとき、最大限に発揮されます」


 ウェイトレスさんに導かれ、輪之介がシフォンケーキを口に運ぶ。


「!

 噛むまでもなく、ケーキが口の中に溶けていった!」

「口に入れるまでは確かに存在していますが、食べると同時にその存在は夢だったかのように消えてしまう……

 それが、フェアリーの名を冠する、童話に出てくるような素敵なケーキなのです。

 その希薄な存在感と滑らかな舌触りの前では、生クリームやチョコソースですら調和を乱す異物にすぎません。

 ベーシックなこの形態こそが、『フェアリーエアリアル・シフォンケーキ』を最大に味わうことができるのです」


 ウェイトレスさんが熱弁するが、すでに輪之介の耳には入っていないようだ。


 あどけない顔を蕩けさせている輪之介の隙を突く様にして、ウェイトレスさんが取り皿にシフォンケーキを一口ずつ切り分けおいてくれる。


「シフォンケーキはクリームのないケーキみたいな気がして食べたことはなかったんだが、全くの別物なんだな」

「シフォンケーキと一緒に顔まで溶けちゃいますね!」


 美味い。今度来た時に注文しよう。


「ありがとうございます。

 それでは何か御用がありましたらお声がけください」


 ウェイトレスさんは深々とお辞儀すると、音もなく去って行った。


 そして最後にジュースを手にした昇人が残る。


「そのジュースは過冷却グレープジュース……

 液体のまま、本来なら凍ってしまうほどの超低温まで冷やしてあるのが特徴だ。

 もちろん冷たいだけじゃなく、絶妙にブレンドされた三種類の迷宮グレープ、そしてシャーベット状になった果肉といった工夫も見逃せない」


 昇人は説明をしっかりと聞き、ジュースを手にすると、半分ほどを一気に飲み干した。


 シャリシャリと、シャーベットを咀嚼する。


「……美味い」


 言葉の多さが料理の美味さに直結するとは限らない。

 たった一言でも料理の美味しさは伝わる。


 あえて解析するのなら……「俺だけシェアできないのが気まずい」だろうか。

 俺はみんなで味わうべく、巨乳のウェイトレスさんに追加注文するのだった。




 Cake x Review - 了

DAMAなのでDAMAらしい食事を書きたいと思っていました。

味と評価は適当です。

食事のお代は経費で落としています。

輪之介と良二くんのどちらが払おうと、最終的に請求はランダイに行きます。

不思議だね!


お読み頂きありがとうございます。


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