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第二十五話 たとえ記憶に残らなくても

「……あれ?

 私、今何をしていたっけ?」


 赤いロングヘアの、たくさんのリボンが特徴的な少女―加奈子が、俺の膝の上で目を覚ます。


「あ、カナちゃん起きた?」


 焦げ茶色を少し赤くしたショートヘアの少女―美紅がふわりと笑みをこぼす。


「ミク……そうよ。

 私たちは公園でDAの実験をしてて……」

「制御をミスってバブルスフィアが破裂した」


 思い出せない記憶を埋めてあげる。

 実際には『深界』属性に取り込まれたことにより、その直前からの記憶が失われているからだが、似たようなことはバブルスフィアが正規の手順以外で壊れてしまった場合にも発生することがある。

 正常終了せずにアプリを強制終了したため、データが直近のセーブに戻る感じ。


「バブルスフィアの破裂?」


 まだはっきりと目が覚めていないのか、少女がこちらを見上げておっとりとつぶやく。


「ああ。

 魔力圧が急激に低くなる、あるいは高くなると、その圧力に耐え切れずにバブルスフィアが壊れてしまう。

 授業で習っただろう?」

「火力に対して制御結界が耐えられなかったのかしら……


 って、あんた誰よ!!!」


 加奈子が飛び起き、大きく距離を取る。

 うむ、これだけ元気なら大丈夫だな。


「カナちゃん、失礼だよ?

 この人たちがあたしたちを介抱してくれたんだから……」


 美紅が俺と昇人、輪之介を見る。


「そ、そうなの?

 ありがと。

 ……ヘンなことしてないわよね?」

「シテナイヨ」

「嘘!膝枕してたし!」

雪奈(知り合いの女の子)が膝枕好きだから、もしや最近の若い女の子の間で密かにブームになっているのかと思ったんだがなぁ」


 する方とされる方を逆転してはいけなかったか?

 でも麗火さんは凄いウットリしてくれてたしなぁ。頭も撫でるべきだったか。


「あたしはバブルスフィアから出てすぐに意識がはっきりしたみたいだからずっと見てたけど、何もしてないよ?」


 美紅が助け船を出してくれる。


「なんで膝枕止めなかったの!?」


 加奈子がシャーッと美紅に詰め寄る。


「膝枕良いじゃない。

 あたしならこの人に膝枕してもらえるのは嬉しいけどなぁ」

「この人って……ああ、最近噂になってるイノシシ・ギルドとやらのマスター?じゃない」


 加奈子が眉をしかめながら俺の方に近づき、顔を見上げてくる。


「イノベーション・ギルドのギルドマスターな」

「ふーん。

 まぁ、いいわ。

 あんたにはミミも助けてもらったらしいし、今回は信じてあげる。

 それより……」


 加奈子は顔を反らすと、再び美紅の方へと歩いていき、深々と頭を下げた。


「ミク、今日はごめんなさい」

「ちょっと、何、突然!?

 制御が失敗したこと?それなら気にしてないよ?」

「そうじゃなくて……私、何か酷いこと言った気がするの。

 覚えてないんだけど……それでも謝らなくっちゃって」

「覚えてないならそれこそいいよ。

 たぶん、あたしもダメなところあったんだと思うし」

「まぁ、ミクがダメダメなのは何時も通りだけど」

「ひどーい!」


 二人の少女が笑い合う。

『深界』属性は精神に悪影響があるとのことだが、これなら後遺症は心配いらないだろう。


「二人とも、もっともっと頑張らないとね」

「そうね。

 もっともっともっと!頑張ろう!

 まずは気の滅入るDAの再設計からだけど」


 少女が二人でうなだれる。

 謝ったり笑ったり気合を入れたり消沈したり忙しい子たちだ。


「ねぇ、そこのイノシシマスター!

 何か革新的なアイデアとかない?得意なんでしょ、そういうの」

「唐突に降られても困るんだが……

 見た感じ、そのDAは杖の球体を熱して、同時に結界でその熱が外に溢れないようにしつつ、温度を高めているんだろう?」

「……訊ねといてなんだけど、よくわかるわね」


 雪奈とアイズが教えてくれたからね。


「その通りよ。

 ひたすら熱量を上げて、外付けの制御結界でコントロールするの」

「それなら……制御結界の設定を変えてみたらどうかな。

 熱そのものを操作するんじゃなくて、『熱量を上げるのに適した環境』を整えるとか」

「環境を?」

「同じエネルギーを使用したとしても、水中、大気中、真空中で温度の上がり方は違うし、金属の種類によって熱伝導率が違ったりするだろう?

 属性によって温度の上がりやすい条件は違うだろうし、回路の設定によって調整することができるはずだ」


 思いつくまま適当に考えを口に出していく。


「回路の調整……」

「そもそもその属性がどのような原理で熱を発しているのかわかっているのか?

 確か属性は焔だったか。熱量が上がり辛いと聞いてるが、既存の属性の解釈や回路の設計思想自体が間違っている可能性もあるぞ。

 属性の名称はそれを始めて解析した人がつける。つまり名前に応じた機能を発揮するのではなく、わかっている機能に応じて名前が付けられたんだ。

 もしかすると命名者の理解が間違っていて、条件によっては疑似的な太陽を造りだせたりするのかもしれない」

「えっと……」

「まずは属性についての理解を深めるべきではないだろうか。

 何故そのような現象が起こるのか、その現象にはどのような使い道があるのか、検証が漏れている事柄がないか。

 焔と制御結界、両方についてそれらを確認し、その組み合わせを――」

「ストップ!」


 これからの作業項目を洗い出していたところ、加奈子から待ったがかかった。


「いっぺんに言われても全然ついていけないからもういい」

「そうか?」


 何か参考になったならいいのだが……


「全然ついていけなかったけど、トライ&エラーだけじゃ駄目なのはたぶん分かった。

 属性の原理?とかも私たちじゃよくわかんないけど、環境を変えるのは面白そうだから、そっちを調べてみる」

「あたしは回路の意味を頑張って調べてみます!」


 聖剣剣聖の興味と学習能力、発想力は個人が所有する属性に影響されるという。

 何か興味を持てたのなら、きっとそれが彼女たちの才能を発揮しやすい事柄なのだろう。

 何にでもフラフラと興味を示すだけの俺とは違い、新しい何かを見つけ出せるはずだ。


「無理しない程度に頑張ってくれ。

 参考になりそうな資料については後で送っておく。

 解らなければ気軽に連絡して欲しい」


 資料については今話している間にアイズが用意してくれたし。過保護なまでに有能だな、この相棒は。

 しかも英語の資料は日本語に翻訳してくれてる。

 神かな?


「ちょっと質問しただけなのにそこまでしてくれるの?」

「それが俺の仕事だからな」

「ふ~ん。

 ……さっきはごめん。あんたが怪しいのが悪かったわけだけど、ちょっとだけ酷い反応してたかも。

 あと」


 加奈子は一度美紅と顔を合わせると、二人で俺の後ろで様子をうかがっている昇人と輪之介に深々と頭を下げた。


「ありがとうございました」


 昇人と輪之介が、面食らった顔をする。


「いや、僕たちは特に何も」

「よく覚えていないけど!助けてもらった気がするから!」


 続く言葉を見つけられない二人を尻目に、加奈子と美紅は一方的に話を切り上げ、手をつないで走り去ってしまった。


「……実際のところ、バブルスフィアによる記憶のロールバックの仕組みは完全に解明されたわけじゃない。

 怪我が治るんだから、脳細胞の状態も元に戻ってるんだろう、という程度だとか。

 体験したことによる思考の傾向、精神、感情の変化は脳細胞の状態に完全に依存しているかは立証されていない」


 細胞自体は元に戻るとして、動的に変化し続けている脳波は本当に元に戻るのか?直前の状態が、残り続ける可能性はないか?

 つまり「なんとなくそんな気がする」程度の記憶は残っていてもおかしくはないという話だ。

 なかったことにするだけが仕事ではなく、それにより誰かが何かを得られるのだとしたら――



「良いね、ヒーローの醍醐味」



 二人は後始末は全部風紀騎士団に任せているようだが、DGSになったのなら、一度はこういう体験をしてみたかった。

 これが見られたのなら、二週間の修羅場など安いものだ。

 これからのお仕事にも力が入る。


 俺はすでに駆け付けつつも話しかけるタイミングを見失っていた雪奈に手を振り呼び寄せると、遠くに行った加奈子と美紅の背中を見つめる二人に話しかける。


「無理言って付き合ってもらって悪かったな。

 メンツもそろったし、今後の打ち合わせを始めようか」





 Memory x Un-Forgot - 了

お読み頂きありがとうございます。


モチベーションにつながるため、ブックマーク、☆評価いただけると幸いです。打ち合わせが始まると思った?

まだだよ!

次のお話もそれるよ!

戦闘は打合せしてDAの改良が済んでからだよ!



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