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第二十三話 三号ヒーローの初陣

「出撃準備を急げ。


 今日、ギア:ナイツは敗北する」


「仮眠をとる前にもう一度視てくる」と言って家を出た仁は、帰ってくるなりそう言った。


「穏やかじゃないな」


 ディバイン・ギアとカードがそろっていることを確認し、ドローンと中継器をカバンにしまう。

 仁が急げと言ったのだ。まずは準備を進める。

 話を聞くのは用意や移動中でもできる。


「今確認したところ、今朝とは違い二つの『深界』属性が視えた(・・・)


 仁はこたつの上に置いてある雪奈が用意した疲労回復クッキーを掴み口に運ぶと、戸棚からヘルメットを二つ取り出した。


「深界獣が二体同時に発生する可能性がある。

 あるいは二属性を持っている深界獣か?

 どのみち今までの深界獣に慣れているギア:ナイツには荷が重いだr」


 仁がヘルメットをこちらに放り投げ、もう一つのヘルメットを装着しようとしたところ動きが止まる。


「どうした?」


 仁の身体を揺すると、仁は「ぐぅ」と言って横に倒れた。


 どうやら眠っているようだ。


「…………おい雪奈、このクッキー」

「疲れていたんですね。マスターのベッドに運んでおくので、マスターは準備の続きを!」


 魔力で身体強化したのか、雪奈は仁を軽々と背負うと俺の部屋に走って行った。


 ……追及は後にして、今は移動手段の準備だ。

 本来なら今日は一日中引きこもり動作確認と試運転を終わらせ、本格参戦は明日からの予定だったのだ。

 幸い朝の時点で深界獣の出現予想位置は仁の信託から割り出しているが、そこまでそれなりに距離がある。


 学内の移動手段はいくつかあるが、今回使用するのはバイクだ。

 俺は家を出てガレージに向かう。


「置いてきました!」


 ガレージからバイクを引っ張り出してくると、家から出て鍵をかけた雪奈にヘルメットを渡す。


「どうせついてくるんだろう?」

「はい!シュバちゃん先輩の代わりにお供します!」


 元々は仁と二人で現場に向かい、仁には現場でDAに不具合が発生した場合の対策を、雪奈には研究室でドローン操作と各種データの確認などのサポートをしてもらう予定だった。

 しかし何故か仁が偶然偶々眠ってしまったため、彼の代わりに不具合発生時のサポート役が必要となってしまった。

 ギア:ナイツが倒される危険が高い場所に彼女を連れていくのは気が進まないが、説得のために時間を使うと到着が間に合わなくなる可能性がある。


 俺はバイクにまたがりキーを差し込むと魔力を流しエンジンをかける。


 バイクは1996年前に生産された名機、MITSUTAの|Calivar-x96《ペケキュウロク》――を聖教授がDAに改造したもの――をさらに俺と仁と一真でチューニングした、原形がほとんど残っていない愛機である。


「それじゃあしっかり掴まっていろよ」

「はい!」


 後ろに座った雪奈が俺の腰に手を回し、ぎゅぅっと力強く抱き着く。

 衣服越しに、少しだけ柔らかさと温かさが伝わる。


「それにしても、マスターはバイクの免許持っていたんですね!」

「いや、持ってないぞ」

「……はい?」


 正面と左右を確認し、アイズからD-Segに送られてくる周辺の交通情報をチェックすると、思いっきりアクセルをひねった。


「DAMAの敷地内に限り剣聖免許があればDAバイクの運転に運転免許証は不要!

 安心しろ。膝が紅葉卸になるくらい倒れても、暴走トラックに跳ねられ飛ばされても、傷一つなく起き上がって走り続けられたからな!」

「それは逆に心配です――」


 俺と雪奈を乗せたバイクは、初速80キロで前方に吹っ飛んだ。




「――ここか」


 校庭を突っ切り、川の上を爆走し、たまには空中散歩も楽しんで、俺は目的地のバブルスフィアに到着した。

 仁に確認を取るまでもなく、この先に深界獣が潜んでいることを感じる。


「雪奈はここで待っていてくれ。

 もし俺に何かあった場合、すぐさまバイクで逃げるように!」

「私バイクの運転は」

「跨れば後は勝手にアイズが運転してくれるさ」


 来るまでもそうだったし。


「……解りました。

 マスター、くれぐれも気をつけて行ってきてください」


 ヘルメットを外し抱きかかえる雪奈の真剣な眼差しが俺を見つめる。


「調整だってまだ終わってないんだ。無茶はしないさ」


 俺はヘルメットをバイクの上に置くと、大きく息を吸い、吐く。




 これが俺の、ディバイン・ギア・ソルジャーとしての初めての出陣だ。




「それじゃあ見ていてくれ。

 これが俺の初めての――」


 右親指を首にあるディバイン・ギアに押し当て、鍵を回す様にひねる。



動輪接続(サイクリング)



 首元から音声が響き、右手首に装着したブレスレットが輝く。

 俺は白衣のポケットから自身のSCカードを取り出すと、拳銃を回転させるようにカードを回転させ、輝くブレスレットにかざす。



心炉起動(アクティベイト)



 俺の全身が光に包まれ、学ランと制服が魔力に分解されていく。

 舞い上がる光はスーツとなり、装甲となり、身体全体を覆っていく。

 さらにスーツの上から、身体全体を覆うような、軍服と白衣が混じったようなコートが装着され、最後に頭全体を覆うようにマスクが被せられる。



『パワーワン!スピードワン!マジックワン!アベレージ・ワン!』



 ブレスレットから機械音声が流れ、全ての光は消え去り、代わりにうなじから眩く輝くマフラーの光が噴出される。


 一部始終を見た雪奈が、無言で親指を立てる。

 俺も無言で親指を立て深界バブルスフィアの中へと歩み始めた。




 薄暗いバブルスフィアの中に入ると、すぐに中継器とドローンを起動する。

 中継器は昨夜改善したので、自動でチューニングが完了するはずだ。そしてチューニング完了次第アイズがバブルスフィア内部に接続し、ドローンを飛ばすだろう。


 中継器の設定が進んでいることを確認しながら、魔法情報メモリ(DAIM)とエーテルバッテリーを接続しDAを展開する。

 現れたのは、俺の胴回りくらいのサイズのある、巨大な右腕だ。内部で五指を動かし、連動してDAが稼働することを確かめる。


 問題なし。マフラーについても、こちらの思考を読んで自在に動かすことができている。


 ディバイン・ギアを首に移したことによる魔力の効率化とエーテルバッテリーの使用により変身時間は格段に伸びたが、それでも余裕はない。

 感覚が示す方向に全力で駆け出す。


『接続完了。通信状態良好ノイズ無し』


 中継器の設定が完了し通信が回復したため、D-Segを経由しマスクの内部にアイズの声が届く。


『こちらも通信を確認。

 バブルスフィアの状態はどうなっている?』

『バブルスフィアから生徒が排出された事を確認。

 スマホと学生証の位置データ、カメラの画像解析から排出された生徒の特定……完了。

 直前のバブルスフィアと比較……完了。

 行方不明者二人。

 剣聖科二年羽原美紅(ハバラミク)

 鍛冶科二年鈴原加奈子(スズハラカナコ)

 二人はペアだね』

『美紅さんは『(ホムラ)』属性、加奈子さんは『熱量制御』属性のようですね。

 今日は二人でDAのテストをしていたみたいです』


 D-Segの片隅に、公園に設置された定点カメラで撮影した動画が再生される。

 動画ではサングラスをかけた女生徒二人が杖を使って火球を作り出している姿が再生されている。


 深界獣は深界バブルスフィアに囚われた生徒と同じ属性になる。

 つまり、囚われた生徒を知ることができれば、出現する深界獣についてある程度予想ができるわけだ。


『テスト中のDAに関する情報を検索……汎用DAに候補なし。DAMAに登録されたDAにも候補なし。試験の後に造った新作かな?』

『年度末試験でのレポートを見ると、魔力を注いでひたすら熱量を上げて、それを制御結界でコントロールしているみたいです』

『ありがとう。

 炎を使う深界獣と、その炎を制御する深界獣の二体が現れる可能性があるってことだな』


 そうなると翠さんのSCカードが有用だろうか。


 雪奈たちと通信している内に現場が目視できるほどに近づく。

 そこにいるのは、ギア:ホークとそれを嬲るように攻撃する二体の深界獣だった。


『想定通り二体の深界獣を確認』


 一体は刺々しい赤い体毛の二足歩行するドーベルマン。

 身体の節々から白い炎が立ち上っているため、こちらが『焔』属性の深界獣だろう。

 ドーベルマン型のイヌ科のモンスターは日本では発見されていないが、欧米ではメジャーだったはずだ。


『赤い深界獣のモデルを検索……ヒット。

 Hell hound dog - Type. Ogre eater。

 日本での型は犬八型丙種(イヌハチカタヘイシュ)だね』

『それじゃあ仮称は、犬八型丙種焔_異種 鬼喰犬歯(オニハミケンシ)・深界とする』


 モンスターの命名権は第一発見者に与えられる。

 それは海外で発見され日本では未確認のものも含まれる。


 もう一体は肥大化した筋肉を白いフワフワとした体毛で覆ったイヌ科のモンスター。

 元々は身体全体を隠してしまうほどの体毛だったのだろうが、巨大化した今は部分部分しか覆えていない。

 どことなくマルチーズを思い出させる顔と体毛だが、このマッチョドッグをあの生物を愛らしいマルチーズの名前で表現したくない。


『白い深界獣のモデルを検索……ヒット。

 犬七型丁種(イヌナナカタテイシュ) マルマルマルチーズだね』

『やっぱりマルチーズ!』


 D-Segの片隅に、元のモンスターと思われる限りなく球体に近い、素敵な毛皮に包まれた白い子犬が表示される。

 見たことがある。多くの攻撃を無効にするが、その愛らしい見た目が非常に人気のモンスターだ。


『マスター!

 私はマルマルマルチーズのぬいぐるみを持っていますが、この深界獣は存在が許せないので、気にせずに爆発させてください!』


 雪奈から強い要望を受ける。

 同感だ。俺も早く退治して記憶から消し去りたい。


 通信を終え現場に到着すると、近くから声が聞こえた。


「駄目だ……駄目だ……

 これじゃあ……でも僕は……でも僕が……!」


 そちらを確認すると、茂みの近くに一人の少年と、二人の少女がいた。

 二人の少女は抱き合うようにして震えており、茶髪の少年は戸惑うような、絶望したような表情でギア:ナイツの戦いを見守っている。

 二人の少女は深界バブルスフィアに取り残された被害者、少年は輪之介だろう。


 輪之介の手は銃を力強く掴んではいるが、それを構え援護しようとする気配はない。

 その瞳は濁りかけてはいるが、光は決して失われてはいない。


 やはり何か、戦うことができない理由があるのだろう。

 あるいはあと一歩の勇気が足りていないのかもしれないが、その勇気を振り絞る時間を待っている余裕はない。

 俺が今するべきことは、ギア:ナイツを援護し深界獣を倒すことだ。


 苦戦を強いられながらも、逆転のチャンスをうかがうギア:ナイツに向けて一歩を踏み出す。


「ずいぶんと苦戦しているようだが……間に合ったなら何よりだ」


 俺の言葉に輪之介が振り向く。その顔は驚愕と、そして僅かばかりの期待の色が見える。


「君は――誰だ?」


 ヒーローのピンチに現れる未知の戦士。

 素晴らしい。格好良い。憧れる。


 ヒーローのピンチを喜ぶのは間違っているが、初陣で少しばかり格好良いところを見せたくなるのは男としての性だろう。


 俺は腰のスロットからSCカードを取り出すと、深界獣に向かって走り出した。



「さぁ、楽しい楽しい試験の時間の始まりだ!」





 1st x 3rd - 了



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