第二十二話 実動作確認
時間はなくても一つ一つ丁寧に確認を行う必要がある。
「肩の装甲が関節の邪魔になってる。
これじゃあ腕が上がらない」
「むっ……失念していた。肘周りは問題ないか?」
「少し干渉するけど、深く曲げる必要はないから問題ないかな。
でも膝の方は曲げると食い込んで痛い」
「人間用の装甲のデザインは初めてだが、勝手が違うものだな」
「シュバルツは何時も可動域よりも見栄え重視だしなぁ……」
実際に動かしてみると、操作性が悪いというのはよくある話だ。
「DAは右手に装備しますけど、その状態でSCカードは持てますか?
右手で持って左腕に読み込ませるんですよね?」
「あ、忘れてた……」
「DAにカードを持つためのサブアームでも追加します?」
「それよりカードを左で持つようにした方が良いのではないか?
ツヴァイベスターは左手もそれなりに使えるだろう?」
「腰のスロットから取り出して読み込ませるくらいなら、右でも左でも変わらないな。
いざというときにもたつくこともないと思う」
「それじゃあ左手でカードを持つとして、面倒だから掌で直接読んじゃいます?」
「一度の変身で同じカードは一度しか読めぬ。
掌で読むと誤動作が発生する恐れがあるが、その場合取り返しがつかん。
カードを確認し読み込むワンアクションは挟みたい」
「そうなるとブレスレットを右手に移すか……
DAの右親指の辺りにスペースがあるな。そこでも読めるようにするか?
SCカードからDAに魔力が直接注がれているイメージにもなる」
「それで行きましょう」「それなら問題ないな」
基本的な事を見逃してしまうこともままある。
「……何が起こったんだ?」
「関節が逆回転して拳が頭を強打した」
「ごめんなさい……
刀剣モードを調整した時、拳モードの動きを考えていませんでした……」
修正の影響範囲を見落とすことも少なくない。
「……次は何だ?」
「レーザーの射出方向が逆になってて、顔面が貫かれました」
「すまん……取付方向が逆だった」
疲れが溜まれば単純ミスも頻発する。
「雪奈、ここの動きなんだが……」
「スゥ……スゥ……むにゃ」
「寝落ちだな。
突然電源が切れたように眠ったぞ」
「昨日も遅くまで作業してたからな。
まだ日を跨ぐ頃までは起きれないらしい」
「娘にはずいぶん助けてもらった。このまま眠っていても作業に遅れは発生せぬだろう。
だがしかし、このまま放っておく訳にもいくまい」
「流石に雪奈に部屋に勝手に入るわけにはいかないからな。
俺の部屋にでも運んでおく」
「それはそれで問題ではないか?」
「たまに勝手に俺の部屋に入って来てるみたいだし問題ないだろ」
「……それはそれで問題ではないか?」
睡眠を多めに取る少女に辛い試練が襲い掛かることもある。
「やはり空間乖離現象は厄介だな。
ディバイン・ギアでも破損は免れぬ」
「……逆に考えよう。
壊れちゃってもいいさと考えるんだ」
「……なるほど、どのみち魔力の物質化で形成し、一度の変身で一度しか使えぬのなら、壊れてしまっても問題ないか。
よし、それなら攻撃時のみ刃が現れるというのはどうだ?」
「これは……特に何か意味があるわけではないが、やたらと格好いいクリアグリーンの刃!」
「一定時間を超えるとこのように美しく砕ける」
「いい……
これなら元の刃はそのままだから変形に影響もないな。
採用だ」
深夜のテンションとストッパーの不在で浪漫重視の武装を実装したりすることもある。
「実際に動いてみると左右のバランス悪すぎて走るのも大変だな」
「右腕にだけ巨大DAを装備しているからな……
カウンターウェイトでもつけるか?」
「これ以上重量を増やしすぎるのはなぁ。
DGSのパワーなら問題ないと思ってたんだが……
実際パワーが高い形態だとある程度抑え籠めるんだが、形態によってパワーがコロコロ変わるとなると戦いづらい」
「軽量化については一切考えていなかったからな。
……ドラマで見るDGSはそのような影響を受けていないな」
「創作と現実の違いという奴だろう。
流石のディバイン・ギアもそこまで融通は効かせられないということだ」
「本物には荷が重すぎたか」
「……ギアさんが重量制御を試みてくれるそうだ」
「流石ディバイン・ギア!本物は一味違う」
「ギア様!ギア様!」
最終段階で問題が発覚したので、仕方がないので挑発して褒めて煽てて無理矢理問題解決することもある。
「おはよう。
進捗はどうかしら?明日には形になりそう?」
「おはよう、麗火さん。
今日の夕方くらいには大体の動作確認が終わる予定」
「相変わらず仕事が早いわね……
はい、差し入れのシュークリーム。
麗火ちゃんは?」
「麗火は俺の部屋でお休み中。
仁は神託を授かりに神社に行ってる」
「え?良二くんの部屋で?」
「寝落ちしたからな」
「……そう。
良二くんは昨日も徹夜したわよね?シャワーくらい浴びてるかしら?」
「……一区切りついたら浴びる」
「それでもいいけど、首回りに汗かいてるわよ?放っておくと汗疹になるわ。
綺麗にしてあげるから首輪を外すわね」
時に心配して会いに来てくれた幼馴染に癒されることもある。
「おはようございます……
私は何でマスターのベッドで寝てたんでしょう?」
「寝たからだ」
「それは解りますけど」
「マスターが変なことをしていないのは僕が保証するよ。
ベッドに運ぶまでの動画を送っておくね」
「ありがとうございます!
おんぶですかね?抱っこですかね?恥ずかしいですけど、普通は見る機会が無いのでちょっと楽しみです。
ところで、マスターは何かあったんですか?」
「ううっ、もうお嫁にいけないっ……」
「我もやけに機嫌のいい女狐とすれ違っただけで詳細は解らぬが、450円分の仕事をしたらしい」
「450円?
あ!PaPaYah!のジャンボダブルシュークリームです!今日は朝からスイーツですね!
マスター!朝ご飯を用意しますので、その間にシャワーでも浴びてさっぱりしてきてはどうでしょう!」
そして時にシャワーと美味しい朝ごはんとスイーツに疲れを癒されるのだった。
『クィーン・オブ・ローズ』
DAの親指の付け根に二葉のSCカードをかざすとDAから合成音声が出力され、形状が刀剣から手刀の形をした手へと変形する。
『BGRMショット』
右親指でトリガーを引くと再度音声が出力され五指の関節と手の甲が展開、露出された計十五の砲門から一斉にレーザーが照射される。
レーザーは仮想敵である虹大将・深界の各関節を正確に貫いた。
「問題なさそうですね!」
研究室に雪奈の声が響く。
俺は現在研究室にてバブルスフィアを展開し、取り込んだDAの動作確認を行っていた。
雪奈は研究室の外でカメラ越しに状況を確認し、マイクで報告してくれる。
「一真さんから二葉さんへの切り替え問題なし。
必殺技の威力と命中精度も高いです!」
DAとスーツから読み込んだ二葉の能力が消えるのを感じる。
頸部から伸びるマフラーは短くなり、身体全体が重くなる。
自身の力が突然増減する感覚についてはだいぶ慣れてきた。実戦で戸惑うこともないだろう。
右腕のDAを動かしてみる。
展開された砲門はすでに格納されているが、指先の銃口自体は有効なままだ。
指鉄砲のようにDAを構え、人差し指に神経を集中する。
銃口から白色のエネルギーが発射されるが、エネルギーは虹大将の顔面に命中すると弾かれてしまった。
続けてDAに意識を向け拳に変形させると、大きく振りかぶり紅大将の顔面を殴る。
かなりの質量がそれなりの速度で命中したが、紅大将はぼーっとしたまま動いていない。
「ギアさんのおかげで右腕のバランスは気にせず動けるようになったが、どのみちSCカードを読み込まないと全く戦力にならんな」
「ステータスオール1ですからね……」
諸行無常。どれだけスーツとDAを改良しても、やはり俺の本体はSCカードだ。
「では!次は私のカードを試してみましょう!」
雪奈が飛び切り元気よく次の試験項目を指示する。
「結果は変わらないと思うんだが……」
左腰のスロットに意識を向けると雪奈のSCカードが飛び出てきたので、それを左手で掴むとカードリーダーに読み込ませる。
『エラー。
ノーエレメントエクセプション』
機械音声が鳴るだけで、スーツにもDAにも変化はない。
動いた感じ力や速度、魔力も増えていないようだ。
「やっぱり駄目ですか……」
雪奈のしょんぼりした声が聞こえる。
「計測結果を見る限り、SCカードに記載されている属性に対応した『深界』属性の魔力がSCカードからDAとスーツに供給されるみたいだ。
つまり属性が無いとSCカードからの供給ができない、という事かな」
8枚のカードは一通り試したが、雪奈のSCカードだけ読み込み時にエラーが発生してしまうことが解っている。
原因は雪奈が属性欠乏――一切の属性を所持していないからだろう。
雪奈のカードを見ながらどうにかできないか考えていると変身が解除されたため、休憩のために研究室から出る。
魔力効率は格段に上がったし、変身に必要な魔力の多くをバブルスフィアから調達しているが、それでも一度変身すると倦怠感に襲われるのは変わらない。
「ごめんなさい……私のせいで貴重なカードが……」
研究室の外には項垂れた雪奈が待っていた。
カードの枚数は限られており、一度SCカードになると白いカードに戻す方法は解っておらず、現状作り直すことはできない。
SCカードこそが俺の戦力であるため、それが一枚使えないということは俺の戦力がその分ダウンしているということになる。
「気にするな。雪奈のことを考えず、致命的な問題が発生することを見落とした開発者が悪い」
雪奈の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ギアさんを通じてカスタマーサポートセンターには連絡を入れた。
後で何かしら対応されるだろう」
俺はランダイのカスタマーサポートセンターを信じてる。以前も不良品を快く交換してくれた。
いや、開発はランダイじゃないのだが。
「カスタマー?」
雪奈が首を傾げる。よく理解できていないようだ。
「それに使えないなら使えないなりに使い道はあるものさ。
一つ、コイツを使った『深界』属性対策を思いついた」
「本当ですか!?」
悲しみから一転、雪奈が目を輝かせる。
「ああ、コイツを――」
「マズいぞ良二!」
俺の言葉は突然現れた仁によって中断された。
「出撃準備を急げ。
今日、ギア:ナイツは敗北する」
Try x Error - 了
お読み頂きありがとうございます。
モチベーションにつながるため、ブックマーク、☆評価いただけると幸いです。