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第二十一話 問:多機能武装の簡単な作り方について答えなさい

 3mm穴というものがある。

 主にプラモで使われる穴であり、接続部を全て3mmで統一することにより、様々なパーツに互換性を持たせることができるのだ。

 その効果は絶大で、接続軸を3mmに統一するだけで他社の製品を使ったミキシングすら可能となり、切ったり曲げたり成型したりといった面倒な改造をしないでも、オリジナルのメカを作り出す楽しみを味わうことができる。

 プラモ会社の方もカスタマイズパーツと称して、接続軸を3mmにした武器や装甲のキットを売り出すことができる。

 ディバイン・ギア・ソルジャーのスポンサーであるランダイも同系統の商品に力を入れており、毎月新作が発売されている。

 ああ素晴らしき3mm穴。3mm穴は全てを繋げ戦争を根絶する。

 プラモが発売されるたびにその世界の戦争は激化しているが。


「はぁ……それがどうかしたんですか?」


 雪奈が熱弁をふるう俺と仁を冷ややかに見つめる。


「その実物がこれになります」


 雪奈に見えないように隠していたプラモデルをスススッと差し出す。


「これは……拳ですか?」


 取り出したのは複数のグレーのパーツで構成されたロボットのハンドパーツだ。


「ああ。3mm穴を使った規格の部品で作ってある」


 3mm穴で接続されたパーツをグリグリ動かし、ハンドパーツを開閉させる。


「はぁ……」


 雪奈が曖昧な声を漏らす。どうやらこの素晴らしさにピンとこないようだ。


「そしてこの拳は……変形する(・・・・)


 ガシガシガシとパーツを動かし、隠されていた刃を前面に展開する。


「おぉ!

 見せてください!」


 斬空工具を造った雪奈にとって、変形とは得意分野の一つだ。

 興味を刺激された雪奈にプラモデルが奪われる。


「ふむふむ。ここをこうして変形させてるんですね。

 このパーツの色が少し違っているのは、別のプラモデルのパーツを使ってるのかな?

 あれ?ここをこうすれば……

 銃が出てきました!」


 雪奈がカチャカチャとプラモデルをいじり変形させていく。


「ちなみに、それを造るのに二つの会社の、合計で三つの商品を使ってる」

「それを繋げているのが3mm穴なんですね?

 複数の可動部と武器を上手くつなげると、こんなことができるんですね……」


 雪奈が感心したように頷く。


「DAもこんな風に組み立てられたら楽なんですけどね……」




「はい!そう考えて設計開発したのがこちらのDACPとなります!!」




 ディスプレイに設計書の表紙が表示される。


「先ほど一真さんと話していた件ですね?」

「ああ。DACP――正式名称Divine Arm Connecting Protocol、DAの接続部に関する共通規格と言ったところかな。

 俺と仁、一真と二葉による共同開発だ」


 同じ略語にDigital Audio Control Protocolというのがあるがそちらは関係ない。


 事の発端は去年入学してから少し経った頃、二葉のDAの変形機構が上手く動作しないと、一真から相談されたことだ。

 マニピュレータや変形するDAはすでに既存のものがたくさん存在していたが、それらを組み合わせて新しいDAを造ろうとしたところ、上手く動作しなかったらしい。

 ひとまずは一真と一緒に頭を捻り色々と調べながら対応したのだが、動作しなかった原因は回路の規格が正しくなかったからだった。

 一真と二葉のDAは変形機構を内蔵するDA――機甲聖剣のため、その後も可動部や接続部に悩まされていた。


 そもそも、新しくDAを造るたびに新しい可動部を設計するのは非効率的では?

 そう考えていた時に出会ったのが、仁が授業中に組み立て遊んでいたプラモデルだった。

 共通規格による可動部、接続部、そして武器。素晴らしい。

 こんなに素晴らしいのなら、DAにも反映しなければ。


「そう思って設計したのがDACPだ。

 これに基づいてDAを設計すれば、他のDAとの接続に関係するアレコレを考える必要がなくなり、あらかじめDACPに沿って造られたDAを流用することもできるようになるわけだ」

「なんか、さらっと凄いことしてる気がするんですけど……」

「俺と仁が関わったのは基本的な設計だけだ。専門的なところは一真と二葉が武蔵教授と煮詰めてる」


 懐かしいな、あの徹夜の日々……

 仁も思い出したのかどこか遠くを見つめている。


「それで、煮詰まった最新の設計書がこれだ。

 一緒に貰ったサンプルの中には基本的な可動部が大量に入ってたから、それを組み合わせるだけでマニピュレータが設計できるぞ。

 もちろん、このプラモみたいなやつもな」

「配線などを気にせずに、パーツとパーツを接続させることができるのがDAの強みだ。

 関節部に回路を刻めば想いの通りに動かすことができるからな。

 我々はそれを最大限使いやすくしたのだ。

 既存でも国や地域でいくつか規格はあるが、統一されていないため使いづらくてかなわん。

 もっとも、それらを切り捨てるのは論外、規格変換のための接続パーツも用意したがな」


 仁が設計思想を補足してくれる。


「設計方法についてはどうすればいいんですか?

 DA-CADですか?」


 DA-CADは雪奈が今使用しているDAの設計用ソフトだ。


「専用のソフトを用意してあるから、それを使う。

 それで設計した後DA-CADとデータを連携させて、最終的にDA-CADで調整する感じだな」


 手元のノートPCでソフトを立ち上げ、それをディスプレイに表示する。


「DA-CADには連携機能なんて言うのもあるんですね」

「役立つ外部ソフトは結構あるぞ。あとでアイズに確認してくれ。

 そしてこのソフトは読み込んだマイクロチップのデータをもとにモデルを作成することもできる」


 手元のノートPCにマイクロチップリーダーを接続、雪奈からプラモを返してもらい、それを読み込む。

 するとソフト上にプラモと同じモデルが表示される。


「このプラモのパーツにはマイクロチップを埋め込んでいる。

 マイクロチップには、パーツに該当する接続部の情報が保存されているんだ。

 つまりそれを読み込めば、こうやって一瞬でモデルに書き起こせるわけだ!」

「凄いです!簡単です!解りやすいです!

 実物をプラモデルとして触り、動きを確認しながら設計できるんですね!?」


 プラモで遊ぶようにしてDAを造れれば動作検証も楽になるし、感覚的に設計できるはず……というのがコンセプトだ。


 あ、設計と開発と動作確認で二か月以上毎日睡眠時間が3~4時間程度だった日々を思い出した仁の目が死んでる!


「最新版だとD-Segとの連携が増えているね。

 ARで投影したDAを触って考えて動作を確認できるよ」


 目の前に読み込んだDAが半透明で表示される。

 関節部に触れてみると、なるほど確かに正しく動いているようだ。


「この機能もいいですね……

 あれ?でもこれを使えば鈍八脚や斬空工具ももっと簡単に造れたんじゃないんですか?」

「DACPはまだ発展途上で、高速で関節を動かす属性には対応してないんだよ。

 使えるのは数種類の念動力系とマクロくらいかな」


 あくまでDACPで使う間接は変形や簡単な動作を行うマニピュレータしか考慮していない。

 超々高速でブンブン振り回すことは考えられておらず、そちらを求めるなら既存の最適化されたマニピュレータを参考にした方が効率的だった。


「マクロとは何でしょう?」



 マクロは、アプリケーションの自動操作のような、特定の行動を繰り返し実行するための規則、あるいは型のこと。

 出典: フリー百科事典『デヴィアペディア(Devia-pedia)』



「念動力の中でも、同じ動作を繰り返し行うときにはこれが一番早いし簡単だな。

 今回DAの変形にはこれを使おうと思う。

 変形させるときに一々ここの関節をこう動かして、こちらはこう動かして、その後こっちを動かして……なんて指示するのは面倒だろう?」


 サンプルから二葉の使用している機甲聖剣セイカを選びディスプレイに表示、その変形を再生させる。


「滑らかに変形しますね……

 このサンプルとプラモを使って、複数の形態に変形するDAを設計すればいいんですか?」

「そうだな。

 ベースはシュバルツが用意してくれたこのプラモで、まずは使いやすい形に調整する。

 その後変形パターンと使用するときの可動の回路を造る。

 可動部や武器なんかのパーツはまだまだ用意してあるから、それを使ってくれ」


 机の片隅にあるプラスチックのケースを指さす。


「使いたい可動部が見つからなかったら、アイズに言えば設計書から探してくれて3Dプリンターで出力してくれる」

「用意できるのは設計書にあるモノだけで、新しいのは造れないけどね」


 アイズがディスプレイに可動部一覧を表示する。


「解りました!必要になった時はお願いします!

 あとは……武器の中身についてはどう設計すればいいんですか?」

「武器についてはギアさんが調整してくれるから、回路を刻まないでおいてくれればいいってさ。

 指の先端とか銃口とか刀身とかにわかるように印付けておいてくれると助かる」


 DAの取り込みも、SCカードとの連携方法も、今の俺達には未知の技術だ。

 使えるのなら有効利用させてもらうが、詳しい設計ができないのはもどかしい。


 後々少しでも解析できるよう、時間がある時にでも高精度DA3Dスキャンにでもかけて情報を採っておこう。


「私のお仕事は解りました。

 シュバちゃん先輩はスーツのデザイン、私はDA設計として、マスターはなにをするんですか?」

「俺はSCカードの解析と、変身後の攻撃方法の確認だな。

 まずは各SCカードで何ができるのか調べて、それに対応したDAの形態を考える。

 形態が決定次第雪奈に依頼するから、DAの再調整を行ってくれ。

 俺はその間にスーツに慣れておく」

「私がDAを設計したら、今度はそれを装備して動かしてみるんですね?」

「ああ。

 そこで何か不具合があったら調整して欲しい。

 スーツのデザインが終わり次第シュバルツもDA設計に戻れるから、上手く連携してくれ。

 時間もあまりないしかなり大変だと思うが頼めるか?」


 本来ならメインの作業は俺と仁だけで行い、雪奈にはそのサポートをしてもらうくらいが丁度なのだが、今回は可能な限り早く実践に投入できるようにしなければならない。

 体質改善の指輪でマシになったとはいえ、元々体力が少なく身体の弱い雪奈には長時間の作業はつらいだろう。


「はい!マスターの右腕としてDAMAの平和のために頑張ります!」


 俺の心配をよそに、雪奈は気合の入った元気な笑顔で答える。


「……時間ができたら良いもの造ってやるから期待しててくれ」


「お構いなく!」と答える雪奈は、言葉とは裏腹に期待に目を輝かせているのだった。




 Answer x Weapon - 了




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