第二十話 ヒーローはデザインが3割、コンセプトが2割
「なるほど、それで我は一時間半余計に待たされたのだな?」
外出の成果を報告したところ、仁に責められた。
「ゴメンナサイ」
「すみません。私が世間話をしていたから……」
俺と雪奈はしょんぼりと頭を下げる。
「娘のせいではなかろう。
大方ツヴァイベスターが『敗北に笑う』としての性分に耐えきれず、微かな勝利を追い続けたに決まっている」
「……ゴメンナサイ」
返す言葉もないです。略式阿修羅を使うのが面白くて調子に乗りました。
「それで、結果は?」
「勝てなかったのは当然として、流石に首は守り切った。
最終的に木刀から汎用DAに代えさせたのは、俺にしては良くやった方だと思う」
正技さんは満足したように送り出してくれたし、見学していた部員も拍手を送ってくれた。
きっと、彼らに何かを与えられたのだろう。
結果を語る俺を見て、仁は薄く笑う。
「なるほど。二人の顔を見る限り勝てなかっただけではないようだ。
得るものがあったのなら不問にする。
我も暇をしていたわけではないからな」
仁が親指でディスプレイを指さす。
そこにはフルフェイスのマスクをかぶり、白衣と学ランを合わせたような奇妙な装甲を身に纏うヒーローが描かれている。
「おお!もうデザインできたのか!」
「マスクについては6種類、アーマーについては3種類用意した。
アイズに確認したが、このデザインを元に、ツヴァイベスターの体格に合うスーツをCGで作成するのは可能とのことだ」
「素晴らしい……
CGまで用意すればギアさんが取り込めるようになるからな」
ディバイン・ギアがこちらの要望を読み取ることができること、魔力の物質化でスーツを作成する際にその要望を反映できることは解っている。
つまり、こちらでデザインした姿に変身することができるのである。
「この装甲はマスターの今の格好をイメージしたんですか?」
「そうだ。
イノベーション・ギルドとやらを立ち上げてからは、この格好がツヴァイベスターのトレードマークなっているからな。
それを変身時に取り込むとなれば、装甲にそのシルエットを混ぜるのは当然だろう。
マスクのデザインについては悩んだが、やはりツヴァイベスターのイメージカラーである黒を前面に出すべきだと判断した。
後は頭部の黒が悪目立ちしないよう、ボディにも黒を挿して馴染ませている」
仁がペラペラとぺらぺらとデザインの意図を早口で説明する。
「なるほど?
何となくわかりましたし、格好いいと思いますけど、貴重な時間を使ってまで変える必要はあるんですか?」
「「必要あるに決まっているだろう!?」」
雪奈の問いに、俺と仁の言葉がハモる。
俺の変身体は、ギア:ホークをベースに、各種装甲を失くしたり、簡略化したり、色を変えたりしただけの、ちょっと情けないものだった。
晴れ舞台の衣装としては面白みに欠けるし、あまり強そうじゃなかった。
改修は必須だった。
「考えてもみてくれ。
もし雪奈がキューラーに変身できた場合、誰かのおさがりの衣装は嫌だろう?」
「……私が間違っていました。
私も自分専用のフリルをあしらいつつシュッとしたシルエットの、可愛くもスマートなコスチュームが着たいです。
人類の夢に妥協は有り得ません」
解ってくれてよかった。
「ツヴァイベスターから何か意見はあるか?」
仁の用意してくれたデザインを一つ一つ確認していたところ、仁が質問してきた。
「そうだな……
とりあえず二点。
一つはギア:ホークの意匠を取り入れて欲しい。
このディバイン・ギアは鳳駆さんから譲り受けたものだからな、手袋かブーツ、装甲の一部でいいので、何かギア:ホークを思わせるものが欲しい」
「なるほど……その考えはなかった」
「あともう一点。俺の活動状態が解る何かが欲しい」
「活動状態?」
「ああ。俺の変身可能時間は短く、ガジェットで変身時間を延長するだろ?
見た目でその状態が解るようにしたい」
「状態自体はD-Seg上に表示すれば良いし、相手に情報を与えるだけの無駄な機能だが……浪漫としては譲れんな。
DGSとしての特徴にもつながる」
「私からも一つ!」
雪奈が勢い良く手を上げる。
「マスターのディバイン・ギアは現在首にあるので、変身後も首にそれらしい意匠があった方がいいと思います!
首輪風にして、マスクを犬っぽくするとか!」
首を強調したいという雪奈の意見は理解できるが、いったい何が彼女をそこまで首輪に拘らせるのだろう。
「活動状態……特徴……首……」
さらにそれがヒーローともなれば、答えは一つしかない。
「「マフラー!」」
風を受け首元でたなびくマフラー。
それは正義の象徴である(断言)。
「活動時間とマフラーの長さをリンク。
色は……読み込んだSCカードの属性と同じにするか」
「マフラー自体にも機能を持たせるべきだろう」
「そうなるとマフラー自体はエネルギー体……首から余剰エネルギーを放出させるイメージだな。
そしてそのエネルギーを操作して攻撃するというのはどうだ?」
「それだ!エネルギーは属性に応じた能力を持ち、俺の意識に応じて操作することができる。
鈍八脚と同じように、副椀として使うんだ」
「なるほど……それなら白衣学ラン共々ツヴァイベスターのイメージに合致する。
ククク……滾ってきたぞ!」
仁は満面の笑みを浮かべ、ペンタブを操作しヒーローに雷光のようなデザインのマフラーを書き加える。
ドラマだとCGで再現することになるからコストが高くなるのだろうが、俺たちは特にそんなことを気にする必要はない。
……後々ドラマで登場することになるかもしれないが、三号だからそんなに出番ないし平気だろう、多分。
「うむ!足りなかったパーツがピッタリと填まった感触を得たぞ!」
仁が満足そうに頷く。
ギアさんに意識を向けると仄かに暖かい。ギアさんも気に入ったようだ。
「首輪……」
雪奈が何かつぶやくが、俺たちの耳には届かなかった。
「さて、デザインは修正するから本決めは後にして、装備するDAについて考えようか」
マフラーについての詳細な設定を終わらせ、議題を次へと進める。
「あ、はい!」
マフラー談議について来れずボーっとしていた雪奈の意識が戻る。
「使用するDAは一つの特定の機能を持ったDAではなく、マルチな機能を持たせられるDAにしたい。
というのも、読み込んだSCカードに応じた攻撃ができるDAが望ましいからだ。
まずは一通りSCカードの属性をおさらいしよう」
ディスプレイに昨日今日で入手したSCカードの一覧を表示する。
花ちゃん:願い
機能:花見客
シュバルツ:偏差
機能:シマンデ・リヒター
雪奈:不明
機能:不明
麗火:炎塵焼火
機能:焼却/熱量操作
翠:停滞
機能:冷却/空間固定/温度固定
一真:浮遊体操作
機能:武器の射出
二葉:閃熱
機能:レーザー
正技:空間切断
機能:なんでも斬れる
今日手に入れたSCカードの機能についてはまだ確認はできていないが、大体の予想はつく。
「これらの属性全てに対応できるDAが必要なわけだ」
「この全てを一つのDAで行うんですか?
複数のDAを用意しておくことは出来ないのでしょうか?」
「深界バブルスフィアからは魔力が取り出せない。
つまり予めDA用意しておくか、バッテリーを使って魔法情報メモリから読み出すしかない。
複数種類のDAを持ち歩くのは大変だし、設計して3Dプリンタで出力して動作確認して……なんて時間的余裕はない。
だからバッテリーの魔力を使うことになるが、持ち運びが簡単なバッテリーだと実体化できるのは精々一つかな」
可能な限り大型バッテリーも持っていくつもりだが、戦闘中にバッテリーと魔法情報メモリを接続して情報展開して……という余裕はないだろう。
「見た感じだと剣と銃、射出用の武器は必要ですよね?
焼却と冷却はなにを用意すればいいんだろう」
「焼却は大体なんでも起点にできる。冷却は範囲を囲うなどで指定する必要があるな」
「やることが多すぎますね……
時間もないですし、本当にできるんですか?」
雪奈の疑問ももっともだ。
俺も普通なら使いやすい武器に絞っただろう。
しかし、友人と先人とギアさんの協力あれば、作業工程を縮めることができるのだ。
「餅は餅屋。ヒーローのことはヒーローに聞け。
それじゃあ問題だ。
多機能武装については何を参考にすればいい?」
Question x Weapon - 了
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