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第十九話 聖剣剣聖は青春を満喫している

 


 力:8 速度:7 魔力:7 変形:6

 属性:浮遊体操作



 力:5 速度:7 魔力:6 合体:6

 属性:閃熱



 二人のステータスを確認する。

 一真はさすがだ。DAMAトーキョーの学生でトップクラスなことはある。

 それと比べると二葉は抑えめに見えるが、比較対象がおかしいだけで非常に高い。

 4つ目のステータスが変形合体なのは、変形合体するDAが由来だろうか。

 いや、それ以外の可能性はない。


「一真と二葉にもう一つお願いがあるんだが、最新のDACPを用意して欲しい」

「DACPですね?

 了解しました。設計書を最新化して、サンプルと一緒に送っておきます」


 隣で雪奈が「DACPって何ですか?」と言いたげな目でこちらを見て来るので、「後で説明する」と視線で返す。


「じゃあ俺たちは正技さんところに行ってくる。

 色々ありがとうな」

「ありがとうございました!」

「どういたしまして。

 こちらこそ、色々と貴重な情報ありがとうございます」

「ばいばい」

「おう!」


 俺たちは一真たちと別れ、本日最後の目的地、正技さんの道場へと向かうのだった。





「たのもうっ!!」


 何時ぞやのように雪奈が道場の扉を思い切り開ける。


「あら、雪奈ちゃん。

 久し振りですね」


 前とは違い、三木谷家当主の真忠(マゴコロ)さんがにこやかに出迎えてくれる。

 服装は以前と変わらないが、新しく増えた少し不格好なトンボの髪飾りが、素朴な雰囲気の彼女によく似合っている。


「良二か。

 会長からの知らせは受け取っている。

 上がっていくと良い」


 部長の正技(セイギ)さんも笑顔ではないものの、張りつめた表情だった以前とは違い、穏やかな表情で迎え入れてくれる。

 DAMAに入学した目的を達成できて、二人とも心に余裕ができたという事だろうか。

 彼も前にあった時と大きな違いはないが、道着の襟元に銀色のトンボのアクセサリーが増えている。


「お邪魔します」


 靴を脱ぎ道場に入ると、以前とは違いちらほらと部員を見かける。

 どうやら年度末試験を見た生徒が入部してきたようだ。あるいは去って行った部員たちが帰ってきたのかもしれない。


 二人の様子と部員、部室の空気から、俺のあの一か月は無駄ではなかったという事を感じ取る。

 ……男性部員より女性部員の方が多いのが気になるが。

 真忠さん、危険を感じませんか?


 二人の後をついていくと、道場の隅に設置された畳の一角へと案内された。

 畳の上にはちゃぶ台が乗っている。

 どうやら休憩スペースのようだ。

 こちらも前はなかったな。

 携帯ゲーム機と漫画本も置いてあるんだが、流石に力を抜き過ぎじゃないか?


「お茶を入れてきますね」


 真忠さんが奥の研究室の方へと姿を消す。

 正技さんが畳に座ったため、俺たちもちゃぶ台を挟み対面に座る。


 当主は真忠さんなのに、真忠さんに働かせていいのか?

 いや、この道場の主は正技さんだから問題ないのか?

 そんなことを考えていると、真忠さんがお茶とお菓子をお盆にのせて帰ってきた。


「お茶とお茶請けです」


 緑茶と抹茶どら焼きが置かれ、真忠さんは正技さんの隣、肩が触れ合うような位置に座った。


「ありがとうございます!

 ……これは緑彩堂のどら焼きですね!

 私大好きなんです!」


 緑彩堂――主に抹茶を使用したスィーツを提供するお店だ。

 濃厚な抹茶の風味を味わえる抹茶のソフトクリームが有名だが、苦みをクリームで和らげ、上品な甘さの餡子と一緒に食べることができるどら焼きは隠れた逸品である。


「二人が来ると聞いて、この人がわざわざ買いに行ってくれたんですよ」

「前に真忠が話していたから興味が沸いただけだ」

「あら、それは女子会の時の話かしら?」


 うぐぅ、と正技さんが言葉に詰まる。


「素直にならない正技さんは放っておいて、召し上がってください」

「それじゃあ、いただきます!」

「いただきます」


 抹茶どら焼きを手に取ると、しっとりとした触感が手に伝わり、同時に抹茶の香りが鼻孔をくすぐる。

 大きく口を開けてパクリと一口食べる。

 どら焼きの生地はしっとりとしつつも柔らかく、噛むごとに解けて口いっぱいに抹茶の香りと、ほのかな甘みが広がる。

 続けて滑らかなクリームが舌の上でとろける。甘すぎず、苦過ぎず、そしてしっかりと抹茶の味を伝える極上のクリームだ。


 一口目に口に入るのは生地と抹茶クリームのみ。齧った跡を見ると、少しだけ奥に潜む餡子が見える。

 二口目、生地とクリーム、そしてあんこを同時に頬張る。

 クリームに負けず、そしてクリームに勝つこともない、住み分けされた餡子の甘さ。

 通常ならば甘さがくどくなってしまうところだが、抹茶の苦みが二つの甘さをつなぎとめ、同時に引き立てている。

 それらが生地と合わさり、抹茶どら焼きは最高のハーモニーを奏でるのだ」


「マスター!声に出ています!」


 雪奈に指摘されふと我に返る。

 正面を見ると、真忠さんがクスクスと笑っている。


「確かに美味いな。

 甘いものはそれほど好きではなかったが、これならばいくつも食べられる。

 だがどら焼きと抹茶と生クリームか……

 俺が職人ならきっと考えもしなかっただろう」


 正技さんが茶を啜りながら、しみじみと言う。


「菓子一つからも自分の未熟さを教えられてばかりだ」

「流石に少し大げさすぎやしませんか?」

「ふふ、この人は最近いつもこうなんですよ。

 色々なことを考え、感じるようになったのは嬉しいのですが、少し恥ずかしくもあります」


 そう言い、真忠さんは幸せそうに微笑んだ。





「詳細は知らないが、厄介な依頼を受けていると聞いた」


 抹茶どら焼きを食べ、お茶を啜りまったりしていると、正技さんがそう切り出してきた。


「俺でいいのなら力を貸そう。

 DAについては、雷切銀蜻蛉(ライキリギンヤンマ)なら貸し出せる」


 雷切銀蜻蛉……空間断裂が行える恐るべきDAだが、火力が高すぎる上に消費魔力的に自分には使いこなせない。


「お気持ちはありがたいですが、アレは攻撃範囲が広すぎるし、俺には過ぎたDAです」

「そうか……局地的攻撃なら空間穿孔(クウカンセンコウ)パイルバンカーを設計中だが、残念ながら完成まで二週間は必要だ」

「空間穿孔パイルバンカー!?何それ!詳しく!」

「マスター!」


 食い気味に身体を乗り出すが、すぐに雪奈に白衣を引かれ我に返る。


「んんっ。

 空間穿孔パイルバンカーは気になりますが、今回はDAではなく、正技さん本人の力を仮りに来ました」


 ポケットから最後の白いカードを取り出し、正技さんに渡す。


「SCカードとやらか。良二のことを考えながら魔力を籠めればいいんだな?」


 俺がコクリと頷くと、正技さんは深く呼吸し、瞑想に入る。


 カードから青白い光が立ち上る。


『セイギ・フジワラ』


 30秒ほど経ち正技さんが瞑想を終了すると、同時に光も収まった。


「……やはり修行が足りないな」


 正技さんはSCカードを確認するとぽつりとつぶやき、俺にカードを渡す。


「確認しても?」


 俺の問いに正技さんがコクリと頷く。



 心:5 技:9 体:8 魔:7

 属性:空間切断



 麗火さんと同じ特殊カードか。能力値が高いとこうなるのか?

 武道は心技体をバランスよく鍛えるのが肝心と聞くが、正技さんの場合は技は高いが心は低いらしい。


「心の弱さは日々痛感している」

「心の強さに限界はないでしょう。

 それならまだまだ伸びしろがあるという事です。

 俺なんか力と速度と魔力が1の上に、アドミニストレータの特性上成長は絶望的ですよ?」


 アドミニストレータはある値度までは成長が早いが、それ以降の成長が極端に遅くなることは経験上解っている。

 俺の強さは、恐らく今が限界だろう。


「……そうだな。日々精進だ。

 そういうわけで、助力のお礼代わりに良二には俺の心の修行に付き合ってもらおう」


 正技さんはニヤリと笑うと立ち上がり、道場の真中へと歩みを進める。

 それまで道場中央で稽古をしていた部員たちは、自然と腕を止め道場の壁際へと移動する。


「修行、とは?」


 凄く嫌な予感がする。


「なに、軽い手合わせだ。

 もちろん、俺は雷切銀蜻蛉も蜻蛉切(DFD)も使わん。木刀で十分だ」


 正技さんが指を鳴らすと、道場を覆うようにバブルスフィアが展開される。


「いやいや、準備していない俺と戦っても、得るものはありませんよ?

 それに、ホラ!俺たちはこれから予定があるので……」

「少しで良い。

 二人の雑談が終わるまででな」


 正技さんの言葉に隣を見る。


「それで!どこまで進んだんですか!」

「ふふ。あの日の正技さんは素敵でした」


 雪奈と真忠さんは、楽しそうに女子トークを始めていた。

 ああなると、10分20分は喋り続けるだろう。


 俺はため息を一つつくと覚悟を決める。


「一本だけですよ」


 立ち上がり、魔法情報メモリ(DAIM)からデチューンした鈍八脚(ナマクラハッキャク)を取り出すと、道場の中央へと歩み出す。


「新型か?」


 正技さんが俺の背中に目を向ける。


「思考制御式回転力制御型多機能副椀聖剣-略式阿修羅(リャクシキアシュラ)

 鈍八脚と斬空工具を混ぜて汎用化したものです」


 自動防御機能は削除し、イメージ通りに動くだけの二本の副椀だ。

 どちらかと言えば、肝は先端をアタッチメント方式に変え、状況に応じて機能を切り替えられるようになったことだろうか。

 一応高性能カメラによる動きの解析と簡単な直近の行動予測機能は残っている。

 副椀と副頭。不完全なその二つが、略式と阿修羅の名の由来である。


「造ってはみたものの、動作確認しかしてないので戦闘は初めてなんですよね。

 それでは、いざ尋常に――勝負!」





 結局一本勝負は六本勝負となり、俺は六度ボコボコにやられたのだった。





 SwordMaster x Couple - 了

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