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第十八話 風紀騎士団の兄妹と

 

『プランAは失敗ですね』


 スマートグラス(D-Seg)に雪奈から通知が入る。


『予想出来てたけどな。

 やっぱり本人の魔力器官が判定基準か?』


 現在俺は深界バブルスフィアの中でギア:ナイツの戦闘を観測しながら、雪奈と一緒に実験を行っていた。

 昨日アイズに調整してもらった中継器は好調で、バブルスフィアに突入後の細かい設定は必要だったが、設定後は問題なく外部と通信ができるようになった。

 やはりアイズ様。アイズ様はすべてを解決する。


『雪奈のカードとブレスレットは無事回収した』


 プランAとは『深界』属性を持つDAを装備していれば、深界バブルスフィアに入れるのではないか?という実験だ。

 結果はNG。SCカードと左手から外して渡しておいたブレスレットは深界バブルスフィア内に入ることができたが、雪奈は入ることができなかった。


『動画は見えてるか?』

『うむ、問題ない。

 ローカルでも保存、再生できている』


 俺の問いに少し遅れて研究室にいる仁が回答する。中継器を使用してのデータのリアルタイムの閲覧と保存の確認は問題なし。


『ドローン操作は?』

『ラグが大きいが単純操作なら問題ない』

『その辺りは設定の問題だね。あと何度かデータが取れれば改善されるかな。

 接続も早く簡単になるはずだよ』

『OK。後は中継器の設定をオート化出来れば、ドローンとセットで運用することで簡単に内部の状況把握ができるようになるな。

 一真の方はどうだ?』

『現場に来ていますが、強制的にバブルスフィアから放り出された生徒以外に異常ありませんね。

 もちろん戦闘状況は確認できません。

 拡張現実(AR)で戦闘を確認できるともっと楽なんですけどね』


 バブルスフィアが深界バブルスフィアに変わるとき、標的となった生徒以外は外に弾きだされる。

 風紀騎士団団長の一真は、現在その生徒たちの介抱を行っている。


『ARで確認かぁ……面白そうだけど撮影用ドローン複数台で撮影しつつリアルタイムで補正するのは厳しくないか?

 既存技術であったかな……』

『検索中……遠隔での撮影をリアルに投影する技術はDSJで実績があるね。

 ただ専用の撮影機器が必要だし、バブルスフィアに干渉する必要があるから今回は対応外じゃないかな。

 一応技術情報を送るよ』


 アイズからの返答は早い。中継器を介して深界バブルスフィア内に入っているからだろう。

 しかし検索は外部に接続しないといけないため速度が落ちているようだ。


『バブルスフィアを用いたモーションキャプチャ?

 バブルスフィアの設定を操作することで詳細な位置情報と物体情報を取得してるのか。

 ヤベェ、凄い面白そう……』


 深界バブルスフィアの設定にアクセス出来れば、本物のヒーローショーを安全に360度から観賞できるぞ……


「はぁ!」


 未知の技術に妄想を膨らませていると、ギア:ナイツの戦闘が佳境に差し掛かっていた。


 今日のギアナイツの敵――深界獣(アウター)は、足が生え二足歩行する人型の蛇……いや、それとも腕がないだけの蜥蜴だろうか?

 七色に輝く鱗と、本来腕の生える場所から伸びる鎖の束が特徴だ。


 アイズの診断によるとベースとなるモンスターは蛇一型丙種(ヘビヒトカタヘイシュ) 虹大将(コウダイショウ)だ。

 本来はダンジョンの浅い階層に現れるアナコンダサイズの蛇で、全身を縮めた後に高速で突進し、倒れた相手に巻き付き身体中の骨を折るという。

 力と口径の小さい弾丸ならば弾くことができる鱗は脅威だが、無毒であり遠距離攻撃もできないため、駆け出しの聖剣剣聖に腕試しでバッサリと切られてしまうことが多い。

 好戦的というわけでもなく複数人が集まると逃げてしまうが、逆にソロだとすぐに襲い掛かってくるのでウザいというのは仁の談。

 日本のダンジョンにしか生息が確認できておらず、虹色の鱗の美しさから、近年海外での人気が高いとか。


 もちろん虹大将は人型ではないし、両腕から鎖も生えていない。深界獣になったことによる変異だ。


 深界獣は両腕の鎖を振り回し、ギア:ナイツに叩きつけ縛り上げる。

 しかしカウント:セブンにまで到達した彼の力を封じきれるものではなく、逆に背中の円盤の回転を利用して鎖ごと振り回されてしまう。

 ギア:ナイツは回転により緩んだ鎖から抜け出し逆に鎖を掴むと、遠心力によって空高く深界獣を放り投げた。


『カウント:エイト』


 ギア:ナイツは空高くに舞い動きの制限された深界獣に向け上昇を開始する。

 深界獣は両腕に加え両足と背中から無数の鎖を伸ばし迎撃しようと試みるが、ギア:ナイツの速度をとらえきれず、その悉くが空ぶる。


「ファイナルカウントだ」


『カウント:ナイン』


 ギア:ナイツは空に浮かぶ深界獣の後ろに回り込むと、全ての力を開放し、無防備な背中に向けて飛び蹴りを放った。


「QuuuRaaaaa!!」


 深界獣が断末魔の叫びを上げながら地面に激突する。


『カウント:エンド。

 グッバイ』


 ギア:ナイツが優雅に着地すると同時に、背後で爆発が起こる。


 今回は危なげなく勝利できたようだ。


 ギア:ナイツは変身を解除し倒れている生徒の無事を確認すると、駆け付けた輪之介と何処かへと去るのだった。





「と言った感じだ」

「なるほど、確かに危険ですね」


 倒れている生徒を回収し、バブルスフィアを張りなおし何も問題がないか確認した後、俺と雪奈は一真と落ち合い先ほどの戦闘を見直していた。

 一真は風紀騎士団団長として深界獣の後始末を担当しているため、DGSや深界獣のことはすでに知っている。

 深界バブルスフィア内の情報が知れたことについては凄く感謝された。


「そうなんですか?私には問題ないように見えますけど……」


 雪奈が一真の感想に首を傾げる。


「そうですね……私が気になったのはカウント:セブンで鎖に捕まった時です。

 この時に足と背中の鎖も使われていた場合、振りほどくことができなかったかもしれません。

 その後も迂闊ですね。

 空に投げ飛ばす判断は良いのですが、突撃からの必殺技はもう少し用心した方がいいかと。

 回避できないほどの量の鎖が出た場合、あるいはネットのように面で捉えようとしてきた場合、相対速度もあり大ダメージは免れません」


 全然危なげなくなかった。紙一重だった。


「流石風紀騎士団の団長。よく見ているな」

「ダンジョンに潜ることもありますからね。

 状況判断力は鍛えているつもりです。

 ただ、うちの団員もこれくらいの判断ミスならちょくちょく犯しますし、それだけでは致命的ではありません。

 一番の問題はやはり、サポート役の不在と手札の少なさですね」


 サポート役がいれば選択を間違えてもリカバリが効く。

 攻撃方法が多ければ、もっと安全な手段が選択肢として選べるようになる。


「輪之介はダメなのか?」


 ギア:ナイツには元ギア:アルスの輪之介がサポートでついていたはずだ。


「起動力の差で到着が遅いのは仕方ないにしても、彼自身戦闘があまり得意じゃないみたいですね。

 近接戦闘は危険なので現在は騎士団の拳銃型DAを渡していますが、あまり戦力になっていないようです」

「拳銃型DA――麻痺(パラライズ)モード、光線(ビーム)モード、弾丸(バレット)モードを切り替えられる奴だっけ?

 属性は何を使ってるんだ?」

「初めは炎と電撃を使っていましたが、深界獣には効きが悪いようですね。

 現在は弾丸の発射時に本人の属性を刻み込むようにカスタマイズしたものを渡しています。

 そちらでは牽制程度の火力はあるそうです」


 深界バブルスフィアに入れば、『深界』属性を持っていなくても攻撃ができるが、『深界』属性以外は効果が低いという事か。

 厄介ではあるが、DGS以外でもダメージを与え倒せる可能性があるというのは朗報だ。


「輪之介さんは自分用のDAを作らないんですかね?」


 入学前からDAの作成に携わり、自身も一人で改善したDAの作成を行った雪奈が言う。


「俺や一真は設計開発できるけど、剣聖科と普通科は授業でマニュアルに沿って造る以外は、何もDAを造らないまま卒業する人も多いな」

「属性の才能とDA設計の才能は別ですからね。

 昔と違ってDAを造るとしても、武器以外を造る人も多いですし」


 確か輪之介の得意属性は分類不明だったはずだ。

 何ができるのかすら把握していないかもしれない。


「変身できなくても戦えるなら、私たちで輪之介さん用のDAを用意するのもいいですね!」


 直近は俺がヘルプに入るとしても、今後を考えると雪奈の言う通り輪之介も戦力となれるよう何か手を打った方がいいかもしれない。

 だがそれを考えるのは、何故輪之介が変身できないのか知ってからの方がいいだろう。


「そうだな。でもまずは俺の準備からだ」

「麗火さんから概要は聞いています。

 良二のことを想いながら、白いカードに魔力を籠めればいいんですね?」


 すでに麗火さんから連絡が言っていたらしい。

 俺は白いカードを取り出すと、一真に渡す。


「それでは、やってみますね」


 一真はカードを手に取ると額に当て、瞳を閉じる。


『カズマ・コウジマ』


 果たしてカードは青く輝き、その姿を変える。


「これでいいのでしょうか?」


 一真はニコリと微笑みながら、SCカードを返してくれた。


「ありがとうな」


 カードを受け取り礼を言う。

 凄いスムーズに終わった。

 うんうん、程よい友情関係と言った感じで素晴らしい。


「後は二葉にも頼みたいんだが……」

「二葉ですか?」

「ああ。ここに来る前に愛韻に勧められた」

「愛韻に……わかりました。それなら平気なのでしょう。

 二葉!こっちに来い!」


 一真が桜の木の下で花ちゃんと戯れている二葉を呼び寄せる。

 何故花ちゃんが八咫桜から離れたここにいるのかは解らない。普通の桜が生えているので、花見に来ていたのかもしれない。


「なに?」


 花ちゃんを抱っこした二葉がトテトテと歩いてくる。


「良二のことを考えながらこのカードに魔力を流してくれ」


 白衣のポケットから白いカードを取り出し二葉に渡す。


「何考えるの?」


 カードを受け取った二葉が俺を見て首を傾げる。


 具体的に何を考えればいいのか訊かれても困る。

 DA開発を手伝ったこととか?でもそんな大した事でもないしな。


 俺の答えを待っているのか、二葉も一真もこちらを見たまま動かない。

 仕方がないので今まで二葉と話したことを思い出してみる。

 ……花見の時に一真と仲良くなったきっかけを聞かれたな。


「お兄ちゃんと仲良くなってくれてありがとう?」

「花ちゃんを助けてくれたからそのこと考えるね」


 ちゃんと自分で考えてた!凄い恥ずかしい!


『フタバ・コウジマ』


 火照った顔を隠してきゃあきゃあしている間に、カードはオレンジ色に光り無事SCカードになった。

 ……ああ、やっぱり絆はその程度(ちょっと手伝っただけ)でいいのか。


 二葉はSCカードの両面を確認すると、カードを差し出した。


「……こんなお兄ちゃんだけど、仲良くなってくれてありがとうね」

「……こちらも、お兄ちゃんにはいつも感謝してる」




 俺は微かに微笑んだように見える二葉から、絆のカードを受け取るのだった。




 Siblings x Plan - 了

お読み頂きありがとうございます。


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