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第十七話 凸凹コンビは靡かない

 

 力:5 速度:6 魔力:7 冷気:7

 属性:停滞



 渡すのを渋る翠さんから何とかSCカードを受け取り、ステータスを確認する。

 非常に高い。

 俺の予想では、6~7が学生での最大値だろう。

 オール6の安定した強さを誇るギア:アルスと、オール9という化け物スペックのギア:ナイツの凄さがよくわかる。

 麗火さんはステータスの項目的な意味でも規格外なので気にしない。


「これからの予定はどうなっているのかしら?」


 俺が提出した『深界』属性の各種解析結果に目を通しながら、麗火さんが訊ねる。


白い(ブランク)カードは残り3枚。

 今日中に全部SCカードにしたい」


 実験から、カードから引き出せる能力は、そのままだと使いづらいことが予想される。

 能力を最大限引き出すにはそれを生かすことのできるDAを用意する必要があるため、後で状況に対応できるSCカードを造ったとしても、実戦では使い物にならないだろう。

 それならば、カードを全部用意してからDAの設計と開発のスケジューリングをした方が良いという判断だ。


「良二くんと繋がりがあって、ある程度能力の高い人……

 今日中に会えそうなのは4人ね。

 一真くん、愛韻くん、音彩ちゃん、あとは正技くん」


 麗火さんは今日の登校状況からめぼしい人をピックアップしてくれる。

 今は春休みのため、全校生徒が登校しているわけではない。バケモノのような上級生に心当たりはあるが、あいにくダンジョンに行ってしまったり、実家に帰ったりしている。

 それと何となくだが、SCカードは教師たちからは造れない気がする。学生じゃないし。


「一真とは後で会うことになってる」

「今日の神託の件ね?

 それなら先に愛韻くんと音彩ちゃんに会っていったらどうかしら。

 今なら被服室にいるはずよ」


 剣聖生徒会の情報担当の愛韻と、広報担当の音彩。

 二人とはほとんど会ったことはない。

 せいぜいがホワイトデーと花見くらいだ。


「ほとんど面識ないし、流石に無理じゃないか?」

「物は試しって言うじゃない。話した時間だけなら、翠さんとそんなに違わないでしょう?

 ……今二人にはオリエンテーション用のプロモーションビデオを撮ってもらってるんだけど、変な衣装を選ぶことが多いのよ。

 私の確認なしにそのまま撮影始めちゃうこともあるから、ついでにちょっと見てきて欲しいの」


 そういえば剣聖生徒会もずっと忙しいと言っていたな。そちらが本音か?

 確かに色物コスプレでビデオを撮った場合後々取り直しになるが、そんな余裕もないだろう。


 一真とは深界獣の後片付けの後に会うことになっている。

 今朝仁が調べてくれた予想出現時間までまだ少し時間はあるが、先に正技さんの道場までいける時間はない。

 時間をつぶすために行くのもありか?


「ちなみに昨日はハイレグレオタードのレースクイーンの衣装を着ていたらしいわ」

「よし、雪奈。被服室に行くぞ。

 それじゃあ失礼しました」


 雪奈の腕を引いて、生徒会室を出ると、被服室に向かう。


「ねぇマスター」


 手を引かれる雪奈が、ジト目でこちらを見てくる。


「マスターはハイレグとレオタードとレースクイーンと愛韻さんの巨乳のどれが好みだったのでしょうか?」


 何を言うんだ雪奈、俺は色欲に負けたんじゃあない。純粋に麗火さんの助けになりたいんだ。

 あと、ハイレグレオタードはそれで一つの属性だから、二つに分けるんじゃありません。


「ほら、男のような性格の女子同級生が、他人に見られるために、ちょっとエッチな格好をしてるというシチュエーションに少し興味を引かれないか?」

「いえ、ちょっと良くわかりません」

「知っている人物のギャップというかアンバランスというか……

 例えるなら、知っている目上の人に、名前に『さま』付けされて(かしず)かれた時のような感覚」

「良く解りました!」


 解ってくれたなら良かった。

 まぁ、今のは単に一般論的なもので、俺の目的は二人のアレな衣装と暴走していないかチェックすること……じゃなかった、SCカードの作成だった。


「でも本当に、ハイレグレオタードとレースクイーンに興味はないんですか?」

「いや、興味はないな。

 一般論的な意味で、それぞれの良さを語って欲しいというのなら語ることはできるが。あくまで一般論的な意味で」

「マスターの一般論的な意味での首輪のお話は結構面白かったので、ちょっと聞いてみたいです。

 でも時間ですね」


 鼠径部の持つ意味と、身体をキャンバスとしたスポンサーの落書き(アピール)についての一般論を語る前に、無事迷わずに被服室についた。



「いいぜ」


 扉を叩くと愛韻の声が聞こえたので、扉を開けて入る。


「あら、良二さんと雪奈ちゃん。

 何か御用ですの?」


 俺たちの姿を確認し、初めに声をかけてきたのは音彩だ。


 金色のロングヘアを優雅に巻き上げ、色とりどりのコサージュで飾っている。

 服装は肌触りの良さそうなピンクのサテン生地のドレス。

 慎ましやかな身体の凹凸をフリルでカバーしつつ、所々無防備に肌をさらしており、少しかがむとその奥の肌が見えてしまいそうだ。

 スカートの奥から覗く、カラータイツに包まれた脚が艶めかしい。


 一言でいうのならば、それは所謂キャバドレスだった。


「なんだ良二じゃねぇか。会長に聞いてオレのヤベェくらいセクシーな姿でも見に来たか?」


 次に声をかけてきたのは愛韻だ。


 ウィッグを着けているのか、髪型は何時ものベリーショートではなく黒のストレートロング。

 艶やかな紫色のサテン生地のマーメイドラインのドレスがそのメリハリのあるボディラインを強調している。

 ボトムは身体のラインがくっきりと浮かび上がるタイトで肌の露出が全くないスカートだが、トップはそれとは真逆、背中は完全に露出しており、首元でドレスが結ばれているだけだ。

 前はシーツで隠しているだけのような無防備な姿で、蠱惑的な双丘のラインは布が被さっているだけで何の補正も加えられておらず、大胆に南半球やら横やらが露出されているヤベェ。

 多分、ちょっと動けばはみ出るヤベェ。


 一言でいうのならば、それは所謂スーパーセクシーキャバドレスだったヤベェ。


 二人の後ろでは、手芸部か演劇部の舞台衣装担当している人か何かが、二人の写真をパシャパシャ撮っているのが見える。


 なるほど、麗火さんが心配するだけのことはある。これは大参事だ。


「まぁ、見に行ってくれとは頼まれたが……何でその恰好なんだ?」


 扉を開ける前までの考えは全部吹っ飛んだので、初めに頭に浮かんだことを質問する。


「毎年入学式で学校案内のビデオ流すだろ?でもありきたりで詰まらないってんで今年は新しいの撮ってんだよ。

 で、最後まで集中して観てもらうには色気とハッタリが必要って話になったんだよ。

 どうだ、高校入りたてのDKにピッタリのエロさだろ?大人の色気に憧れるJKにもピッタリだ」


 愛韻がクルリとまわる。

 ギリギリ見えなかった。


「ん?食いつき良いな。これとかどうだ?」


 ニヤニヤしながら色々とポーズを取る愛韻を失礼にならない程度に観ていると、突然首元が引っ張られ喉が圧迫された。

 何事かと後ろ見ると、雪奈が手を伸ばしてディバイン・ギア(首輪)を引っ張ったようだ。


 ……ごめんなさい。ちょっと見過ぎてたのは謝るので、突然引っ張るのはやめてください。えずくので。


「愛韻さんって女装もしたんですね。いつも男装しかしていないので、そういう趣味なのかと思っていました」


 雪奈が俺の前に踏み出すと、背の高い愛韻を見上げるようにしてそう言った。


「ああ、えっと……」

「雪奈です」

「そうそう、雪奈だったな。

 オレは男の格好の方が好きだが、女の格好ができないわけじゃねぇ。

 中学時代はスカート強制されてたしな。今更だ。

 仕事だってんならドレスくらいなら着てやるぜ。

 オトコがナニを見たいかも解るしな」


 愛韻がニヒヒ、と笑いドレスを引っ張る。


「でもその衣装はちょっと……見えちゃわないか気にならないんですか?」

「別に平気だぜ?

 このドレスも一応DAだ。

 無茶しなけりゃ身体に貼りついて見えねぇ様になってる。

 あと制服のスカートと同じで、ヤベェ感じになると謎の光で見えなくなるから安心だぜ」


 愛韻が胸元を大胆にパタパタと仰ぐ。

 なるほど、確かに愛韻の言う通り身体に貼り付いていて局部は見えな――あ、今ちらっと謎の光が


「ぐぇ!」


 今度はディバイン・ギアを前から引っ張られた。


「おバカ!流石に下品ですわ!」


 愛韻の方は音彩にピシピシと叩かれているようだ。


「会長から話は伺っておりますわ。

 私たちに何か用がありますの?」


 愛韻を折檻した音彩がにこやかな表情で尋ねる。


「ええっと……そうだ、ちょっと頼みがあってな」


 吹き飛んだ記憶を集めて思い出すと、ポケットから白いカードを取り出した。


「ああ、ガジェットか」


 愛韻がひったくる様にカードを持っていく。

 どうやら、彼はある程度事情を知っているようだ。


空っぽ(ブランク)だな。

 どうすればいい?絵でも描くのか?」

「俺のことを考えながら魔力を込めてくれないか?」

「ふ~ん、そういう系統か」


 愛韻は目を細めると、手に持った白いカードに集中する。


「……ダメだな」


 愛韻は10秒ほど集中していたが、何も起こらないと諦め、音彩にカードを投げる。


「私もやりますの?」


 音彩はギリギリでカードをキャッチすると、カードを確認する。


「まぁ、一応」

「解りましたわ」


 音彩は両眼を閉じると、カードに口づけ魔力を送る。


「……何も起こりませんわね」


 音彩からカードを返される。

 一応確認するが、カードは白紙のままだ。

 いや、真ん中にキスマークが残っているか。


「で、どんなヤベェガジェットだったんだ、ソレ?」


 愛韻が興味深そうに見てくる。

 俺は自分のSCカードを彼に渡す。


「魂の絆の証、SCカードだそうだ。

 読み込めばなんかいい感じにパワーアップする」

「学生証モチーフか。

 会長と翠はどうだった?試したんだろ?」


 愛韻はカードの表裏を確認すると、特に何か調べることもなくカードを返す。


「二人とも成功。というか、失敗したのは二人が初めてだな。

 ほとんど喋ったことのない翠さんとも成功してるし、『絆の繋がり、心の証』とか聞いたけど、かなりボーダーは緩い気がする」

「会長は兎も角、翠が成功したのかよ!?

 いやいや、アイツが会長以外にデレるなんて有り得ねぇだろ。

 だが、それなりに目ぇつけてるのにアイツ以下なんて気に食わねぇな……

 よし、ちょっとそこの物置で絆を繋げようぜ!」


 愛韻が素敵な笑顔で教室奥の扉を指さす。


「絆をつなげる、とは?」


 何やら素敵――いや、危険な響きだ。


「良二も男だろ、ムクなオトメゴコロってやつを察しろよ。

 緊張するなって、ヤベェくらい気持ちよくなるだけだからよ」


 愛韻は俺の腕をつかむとぐぃっと引き寄せ、そのまま教室の奥へと連れて行こうとする。


「ちょっと!貴方何する気!?」

「良いだろ、別に。

 折角女なんだし、男を味わってみるのも良い経験になるだろ?

 安心しろ、舌は入れねぇし、最後の最後まではしねぇから」

「ボーダーが緩すぎますわ!」


 音彩が愛韻をペシペシと叩いて歩みを止めようとしているが、俺は腕が至福に包まれる感触にまるで頭が働かない。

 ああ、このままでは貪り尽くされ強制的に絆を育んでしまう――


「マスター」


 俺の意識を戻したのは、雪奈の声と、その手元から響く鎖が擦れる音だった。


「マスターには紐のリードより、鎖のリードの方がよく似合うと思うんです」


 手元には、長くて重量感のある立派な鎖が。


「――ゴメンナサイ」


 俺が謝るのと、愛韻が音彩のシャイニングウィザードにより倒れるのは同時だった。




「この程度のイベントじゃあ変動なしか」


 愛韻が赤くなった頬を撫でながら、白紙のカードを確認する。


「あら、もしかしてフリでしたの?」


 その様子に、音彩が首を傾げる。


「あたりめぇだろ……オレが男とするわけねェだろ。

 何年の付き合いだよ。良二はちゃんとわかってたぞ」


 そうだよ。俺はちゃんと気が付いていたよ。だから鎖を引っ張らないで。


「すまねぇな。時間があれば徹底的に調べてみてぇんだが、残念ながらこっちもこれ以上時間が取れねぇ。

 まぁ、オレ達は特別だから気にしなくていいぜ。

 そうだな……一真のところに行くならアイツの妹にも頼むと良いかもな。

 アイツなら多分成功するぜ」


 一真の妹……二葉か。

 今までにもたまに話したり、DA開発を手伝うことはあったが、あくまで友人の妹という関係だ。

 そんなに距離が近いとも思えないんだが。


「あとは正技だな。

 アイツなら確実にイケる」


 正技さんとは長い付き合いな気もするが、こちらが一方的に絡んでいただけで、実際には一度食事して二回殺し合っただけだ。

 こちらも絆があるとは思えない。

 しかし麗火さんにも勧められたし、一応は訪ねてみようか。


「色々迷惑かけたな」

「会長から指示されてる。気にしねぇで良いぜ」

「そうか。じゃあその会長から伝言が」


 スマードグラス(D-Seg)を操作して、麗火さんからの音声を流す。


「二人とも、その恰好で撮影したらヤキ入れるわよ?」


「「…………」」


 愛韻と音色が顔を見合わせる。

 そしてお互いの格好を確認する。


「なんでそんな恰好をしていますの!?」

「テメェが着せたからだろうが!」

「折角おしゃれできるんだから、憧れの服を選ぶのは当然ですわ!」


 二人がぎゃあぎゃあと喧嘩を始める。


「ちょっと……」


 二人を尻目に、俺は遠巻きで見ていた手芸部(仮)の部員を手招きする。


「愛韻はスーツをベースにした制服でキッチリと格好良く。

 音彩はアイドルっぽい制服があったよな。アレを良い感じにアレンジして着せてくれ。

 色々迷走してるみたいだけど、似合う制服着せとけば問題ない。

 というか、学校のPVなんだから学校指定の制服以外はNGと考えてくれ」


 部員はなるほど、と頷くと、大量に存在する制服から二人に合うのを選び始めるのだった。


 衣装選びは付き合いたいが、こちらもそろそろ時間だ。早くいかなければ。


「それじゃあお邪魔したな。頑張ってくれ」


 二人に声をかけ、俺たちはひっそりと教室を後にした。





 Antinomy x Dress - 了

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