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第十六話 隔週でお金が飛ぶ展開

 実験していくつか解ったことがある。


 一つ、SCカードを読み込むと、俺のステータスにSCカードに記載されているステータスの値がプラスされる。読み込んだ後に他のカードを読み込んだ場合、ステータスの修正値は後で読み込んだものが反映される。

 一つ、読み込んだSCカードに応じて、必殺技(フィニッシュ)を発動することができる。

 一つ、SCカードを読み込むと魔力が増えて活動限界時間が伸びるが、必殺技を使うと増えた魔力はすべて消費され読み込んだステータスは解除されてしまう。

 一つ、変身時に読み込めるカードの枚数に上限は確認できなかったが、同じカードは一度しか読み込めない。一度読み込むとカードに魔力を再チャージしなければならない。


 結論を言うと、「SCカードを読み込めば強くなるから、強力なカードを集めよう!」ということだ。




 というわけで、翌日俺と雪奈は剣聖生徒会生徒会室に足を運んでいた。

 剣聖生徒会に入るにはある程度の実力が必要となる。力を借りられたのなら力強い。


 しかしそう簡単に事が進むとは思ってはいない。

 恐らくはドラマのように断られたり何かしらイベントが発生するなりして、悩みを解決したりするのに奔走し、最終的に悩みを解決することで絆を深めてSCカードを手に入れることになるだろう。

 1枚手に入れるのに1日くらいはかかるかも知れないが戦力増強のためには仕方がない。

 何しろ手持ちのカードだけでは戦闘能力が低すぎる。力も速度も低いし、攻撃系の必殺技も確認できなかった。

 SCカード入手にばかりかまけていることもできないので、仁には研究所で実験結果を元にデザインや設計の仕事をしてもらっている。


「協力?問題ないわよ?

 可能な限り力になるから何でも言って」


 麗火さんは冷酷にもそう言い放った。

 いや、別に冷酷じゃなかった。凄い優しかった。


「もちろん他のメンバーにも話は通してあるわ。

 好きに使ってちょうだい。

 翠さんも問題ないわよね?」

「何の依頼を受けているのかは知らないが……会長の指示だ。

 可能な限り従おう」


 翠さんが何時もの憮然とした表情で答える。

 その髪には何時ぞやのかんざしが挿してある。麗火さんとお揃いのものだ。


 そういえば麗火さんのかんざしは昨日と変わっていないな。何時もなら毎日変えているのに。

 よほど気に入ったのだろうか。それか翠さんからペアルック要望があったのか。


「それで、私は何をすればいいのかしら?」


 用件を聞く麗火さんは少し嬉しそうだ。


 俺はポケットから白紙の(ブランク)カードを取り出すと、麗火さんに差し出す。


「これは――」


 麗火さんは少し逡巡したが、手を伸ばしてカードを受け取る。

 どうやら俺が昨日受け取ったカードであることに気が付いているようだ。


 さて、どう切り出したものか。「俺のことを考えながら魔力を込めてくれ」なんて恥ずかしくて口に出しにくい。

 とはいえ言わないわけにもいかないし、ある程度心の準備はしてきた。


「……ちょっと」



 俺が言葉を紡ぐより早く、麗火さんが手にしたカードが赤く光り出した。



「…………」


『レイカ・クサナギ』


 言葉もなく見守っていると、光はすぐに収まった。


「私の学生証かしら……

 これでいいの?」


 謎の発光現象を不思議がることもなく、麗火さんは学生証となったカードを差し出してきた。



 説明せずに済んだし、麗火さんに恥ずかしい思いをさせることもなかったが、これは、非常に――



「れ、麗火さん!凄いです!」


 俺の隣で、雪奈が(おのの)いている。


「えっと……何が凄いのかしら?

 カードを持っただけなんだけど」


 カードを差し出したまま、麗火さんが困惑する。


「そのカードはSC(ソウルコネクション)カードと言って、マスターとの絆の証なんです!」


 雪奈が説明を始めてしまう。


「きず、な?」


 いまいち話が呑み込めないのか、麗火さんは眉根を寄せて首を傾げる。




「マスターのことを強く想いながら魔力を籠めることで変化するんです」




 ボンっと音を立てるような速度で、麗火さんの顔が朱に染まる。同時に部屋の温度が5度くらい高くなった気がする。


「へっ?それって、え……アレ?」


 麗火さんはカードを机の上に落とすと、両手で自身の顔を覆った。


「良二ぃ!貴方は!」


 麗火さんを庇うように、翠さんが俺たちの方へと一歩踏み出す。

 そのアッシュグレイの髪は僅かに逆立ち、周囲にはキラキラと氷の粒が浮かび始めた。


「翠さん!」


 手を腰に伸ばし何かを取り出そうとした翠さんを、麗火さんの一言が止める。


「ちょっと……5分くらい待って」





 30秒か、1分か、それとも5分なのか。俺たちの間に長い時間が過ぎる。

 自身の冷気で頭が冷えたのか、翠さんはペコリとこちらに頭を下げると元の位置に戻った。一方で、室内の温度は下がる気配はない。むしろ、2度ほど高くなってる気がする。

 雪奈は自分の発言の意味を理解したのか、気まずそうにしょんぼりしている。

 俺は机の上に置かれた学生証に手を伸ばすことができずにいる。


「ふぅ」


 ようやく動いた麗火さんは、一つ息を吐くと顔を覆っていた手を外すと、学生証の方に伸ばした。

 麗火さんは学生証を回収すると、自分の額に当てて祈り始める。


 眩く、温かい光がカードから発せられる。


 一分ほどして光が収まると、麗火さんは顔を俯けたまま学生証―SCカードをこちらに差し出してきた。


「さっきはごめんなさい。依頼のことで良二くんのことを考えていたから、きっとそれで反応したのね。

 でも、雪奈ちゃんが意味深なこと言うから勘違いしちゃったの」


 麗火さんは俯いたまま訥々と言葉にする。

 なるほど、そういう事か。俺の方こそ勘違いするところだった。



「だから、今度はちゃんと貴方の無事を祈って魔力を込めました」



 ――素直に受け取るべきだろう。


「ありがとう」


 手を差し出されたSCカードに伸ばす。


 しかし、伸ばした手は空を切った。麗火さんが寸前でカードを上にあげたのだ。


「でも恥ずかしい思いをしたのは確かだから、良ちゃんに一つ質問します」


 麗火さんが顔を上げる。



 さっきよりも赤く、耳まで赤く、耳朶を飾る青いクリスタルとのピアスとは対照的だった。



「私なら平気だって、疑わなかった?」


 潤んだ瞳を正面から見返し、一言だけ返す。


「ああ」


 俺の答えに満足したのか、麗火さんはにっこりと笑う。


「それじゃあ、私の願い、持って行って。

 ずっと、大切にしてね?」





 仄かに熱の残るカードを受け取った俺は、周りの視線に気づかないふりをしてカードの裏側を確認する。



 熱量:9 焼却:9 灼熱:9 業火:9

 属性:炎塵焼火(エンジンショウカ)



 …………なんだこれ。雪奈とは別方向にバグってる。

 基本能力値は力速度魔力じゃないし、こんな属性見たことないぞ。


 だがなんとなくわかる。これは制作者が面白がって(・・・・・)入れたものだ。

 バグも取り切れてないのに色々無駄なことしやがって!


 色々な熱を振り払うように、俺はディバイン・ギアの制作者に恨みを向けるのだった。




「良二くんのディバイン・ギア、形が変わったのね」

「はい。魔力効率を上げたいからと、首に移しました」


 カードを確認して色々と考えている俺を余所に、雪奈と麗火さんは何やら密やかに会話をしているようだった。


「チョーカーというにはちょっとゴツいわね。

 なんというか……大型犬用の首輪?」

「はい!私にもそう見えました」


 俺が気づいていないと思っているのか、密かに会話をしている。


「良二くんに首輪……」

「着け辛そうなので、私が着けてあげてるんですよ」

「!!!」


 俺は気が付いていないので、密かに会話をしている。


「今朝も『雪奈さま……首輪を着けてくれませんか?』と哀願されました」

「!!!!!」


 俺は気が付いていないので、密やかな会話に突っ込みを入れることも否定することもできない。


「これから毎朝楽しみです」

「……雪奈ちゃん、三日に一日くらい、私にそのお仕事任せてくれないかしら。

 依頼しておいてなんだけど、毎日大変でしょう?

 私も手伝いたいの」

「……やっぱり、頭を使うと甘いものが食べたくなりますよね」

「わかったわ。PaPaYah!(パパヤ)のシュークリーム持って行ってあげる」

「明日は朝からスィーツですね!」


 シュークリームで俺の首が売られた気がするが、密やかな会話なので俺は何も聞かなかった。

 でもPaPaYah!のシュークリームは好きだから楽しみだ。


 シュークリームの味を思い出し現実逃避していると、密談の輪に入れず、しかし無視もできずこちらをチラチラ窺う翠さんに気が付いた。


「翠さん、そういえばかんざしについて何か言われたか?」


 雪奈と麗火さんは密談を続けていて暇なので、翠さんに話しかけてみる。


「かんざし?

 ああ、ホワイトデーの話か。

 特に怒られることもなく、似合っているとの言葉をいただいたぞ」


 それは良かった。無理矢理持って帰らせたからな。少し気になっていた。

 花見の時には聞き忘れたが。


「麗火さんがあのかんざしを挿しているのをよく見かけるけど、翠さんとペアルック出来るのが嬉しいのかもな。

 今まで親しい人とお揃いのかんざしを挿すなんて体験できなかったし」

「むむっ、そうか?やはりそう思うか?」


 翠さんの表情が柔らかくなる。


「ああ、二人とも似合っているし、新学年になれば全校生徒の話題の的だろうな。

 皆が二人の仲の良さを知るだろう」

「全校生徒公認……」


 翠さんがニヤける。


「というわけで翠さんも白いカードチャレンジいってみよう!」


 スッとカードを差し出すと、上機嫌の翠さんは反射的にカードを受け取った。


「ふふふ、いいでしょう。


 ……何が、というわけだ!」


 しまった!気づかれた!


「第一、昔からの知り合いである会長ならともかく、私と貴方に絆などないだろう」


 それはそうなんだが、花ちゃんが平気だったんだから、ワンチャン行けないかなって。

 そもそも絆とやらを計測している原理も、ボーダーラインも全く分かっていない。

 極端な話、俺のことを考えながら魔力を込めるだけで、誰でもSCカードを造りだせる可能性もある。


「あら、翠さんなら平気でしょ?私に色々とお話聞かせてくれたじゃない」

「会長!?」


 密談が終わったのか、麗火さんがこちらの話に食いついてきた。

 聞かれたくない話だったのか、翠さんが慌てる。


「雪奈ちゃんの話だと、良二くんのことを考えながら魔力を込めればいいんでしょう?

 依頼のことで良二くんを少し考えただけで平気だったんだもの、今まで良二くんに何を想ったのか思い出せば簡単よ」

「何を想ったかと言われても……」


 一瞬だけ俺の方を窺うと、麗火さんは逡巡する翠さんに畳みかける。


「難しいことじゃないわ。

 私、このかんざしを受け取った時嬉しかったの。

 その後翠さんと揃いのかんざしでツーショットを撮った時も楽しかった」


 翠さんが愛おしげにかんざしに触れる。


「そうなるように計らってくれたのは良二くんよね?

 その時の良二くんのことを、思い出してほしいの」


 麗火さんはカードを持つ翠さんの手を自分の胸元まで引き寄せると、両手で優しく包み込んだ。


「あの時の――」


 ポーっとする翠さんから魔力があふれ、白いカードに流れ込んでいく。


 二人の手の隙間から、灰色の光がこぼれる。


『ミドリ・イツクシマ』


 どうやら、無事SCカードに変化したようだ。

 しかし翠さんは気づいておらず、しばらくして光の収まった後も、そのまま麗火さんを見つめ続けるのだった。




『マスター』


 一部始終を見ていた雪奈から脳内チャットでメッセージが送られてきた。


『なんだ、雪奈』

『麗火さんって、何時もあんな感じなんですか?』

『何時もあんなんだよ。

 小学生のころにはすでにあんな感じだった』


 昔は天然だったのに、今は作為的という違いを感じるが。


『そうですか。

 凄いですね……』


 二人で感心しながら、翠さんが正気に戻るのを待つのだった。




 Heat x Cold - 了

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