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第十五話 友情を(物理的に)力に変えて

 首とは人体の急所の一つである。

 深い傷を負うと助からないし、圧迫しただけで容易く死ぬ。

 少し寝相が悪くて寝違えただけでも翌日は地獄となる。


 よって首とは体外に露出された内臓器官(男性の大切な場所)のように大事に扱うべきであり、それを他人に触れさせるというのは大きな意味を持つ。

 首を差し出すということは命を差し出すこと。

 首に触れるのを許すということは、心から信頼していなければできない事である。


 それは首に装飾品を付ける場合にも当てはまる。

 マフラーやネックレスのようなゆったりとしたものなら兎も角、チョーカーのように首にフィットするものを他人に着けてもらうのは勇気がいるだろう。

 正面からつけてもらう場合必然的に顔が近くなるし、それができるのは、家族かそれに近しい間柄だけだ。

 漫画などである、緩んだネクタイを締めてあげる動作が顕著だろうか。

 人はその動作に親愛の情を見る。


 そして身に着けるものが首輪であるのならさらに意味合いが強くなる。

 簡単に外すことができず、圧迫感を覚える目立つ装飾品を、命そのものである首に纏うのである。

 首は肌が薄く感度が高いため否が応でも常にその存在を意識してしまうし、個人の象徴となる(アイコン)に近いため、他者からも注目を浴びることだろう。

 そうなれば、その首輪の持ち主、その首輪をつけてくれた人物を内と外から常に感じ続けることとなる。

 自らの命に、他人を感じるのである。さて、その想いの強さはいかほどの物であろうか。


 南京錠を取りつけるなどして首輪を外すことを禁じた場合、その重さは最大となる。

 これが手首や足首ならば骨を外す、痩せる、肉をそぐ、あるいは最悪切り落として外すことができるだろう。しかし、首ではそのいずれも通用しない。

 つまり、その生涯を、首輪、そして首輪をつけた相手を想いながら過ごすことになるのである。


 さらに首輪には別の側面もある。

 ペットなどの、被所有物を意味する識別票(マーキング)である。

 人の身でありながらそれを身に着けるということは、ヒトとしての存在を放棄し、相手にその存在を譲り渡すという事。

 代わりに、首輪をつけたものは一方的に、無条件に相手から愛される権利を持つ。


 リードとはその首輪と相手をつなぐ糸である。

 リードを引かれると、相手から首の自由を奪われていること、相手の所有物であること、自分の命が相手の手の内にあるということを、否が応でも痛感するだろう。

 首を直接引っ張るのだから、その力に抗うのも難しい。

 しかし同時に、信頼関係があるのならば首にかかるその力は愛情そのものとして伝わるはずだ。


 どちらが首輪をつけたかにも深い意味がある。

 自分で首輪をつけるということは、人としての在り方と尊厳を、自らその相手に捧げるという事。

 他人に首輪をつけてもらうということは、命と未来を相手が望みそれを託したという事。

 もしそこに親愛の感情があるのなら、それはある意味で、対等である結婚よりも重く、そして尊い関係であろう。




「というわけで、軽々しく異性に首輪を付けちゃいけません」


 雪奈を正座させ、滔々(とうとう)と一般的な首輪の持つ意味というものを説明する。

 雪奈は入院していた時間が長く学友との交流も少なかったため、こういう一般常識や価値観についても知らないことがある。

 俺は教育係というわけでもないのだが、今後彼女が間違いを犯さないよう、正しい知識を授けておいた方がいいだろう。

 罰ゲームや王様ゲームなどで、その意味を知らないまま一時的にでも首輪を身に着けることにでもなったら大変だ。


「わかりました!」


 彼女の軽率な行動をたしなめる話をしていたのに、彼女はニコニコと嬉しそうだ。

 しかし、ちゃんと理解してくれたようで何よりだ。


「これからも毎日つけてあげますね!」


 理解してなかった!


「首というのは命につながる大切な場所。

 そこに付けられたディバイン・ギアは、常に意識してしまう。変身の時はなおさらです。

 それなら、私がマスターに首w―ディバイン・ギアを着ければ、変身の時に私と、私がマスターを心配していたことを思い出すのではないでしょうか?」


 ……なるほど、一理ある。

 今回は一歩間違えれば大惨事になる案件である。

 変身時に一度冷静になることができるのは大きいかもしれない。


「そうすれば今の話を聞いたギアさんも、マスターの命に触れる身として、きっとマスターのことを第一に考えてくれるはずです!」


 ギアさん……ディバイン・ギアのことか。

 ギアさんに意識を向けるが特に応答はない。まぁ俺とのやり取り以外は許可されていないようなので当たり前だ。

 しかし、心なしか首元に温もりを感じる気がする。

 否定はしていないという事だろうか。


「……仕方がないな。今回は目を瞑ろう。

 だがな、雪奈。勝手に装飾品やDAを首輪扱いしたり、親しくない人に首輪付けたり、好きでもない人から首輪付けてもらったりしちゃあ駄目だからな」


 雪奈が俺のことを案じているというのなら、それを尊重した方がいいだろう。

 だが、娘を預かる身としてはきちんとその辺りは教えておかなくては。


「マスター!」

「なんだ?」

「せっかくなので『雪奈』じゃなくて『雪奈さま』でお願いします!」


 あ、違う。こいつは愉しんでるだけだわ。




「話は終わったか?」


 話についていけず暇そうにしていた花ちゃんの相手をしてあげていた仁が、呆れた様に言った。

 花ちゃんは現在仁の膝の上に座り、残っていたチョコバーを食べさせてもらっている。

 ずいぶんと懐いているようだ。聖教授には全く懐かないのに。

 それにしても、花見客は魔力と謎桜餅以外も食べるのか。初めて知った。


「ああ。

 脱線しまくった気がするが話を戻そう。

 最後の課題、白紙のカードの使い方を調べなきゃいけない」


 白紙のカードを雪奈と仁、それと仁の膝の上に立って手を伸ばしてきた花ちゃんに渡す。


「このカードを加工してマスターの学生証のようにディバイン・ギアで読み込めるようにしなくちゃいけないんですよね?」

視た(・・)ところ学生証との違いは中心の魔力痕だけか。

 あるいは中心部に我が魔力を注げば良いかと思ったが、どうにも弾かれてしまうな。

 上手く注ぎ込めん。特定属性のみを受け入れる……あるいはこちらもツヴァイベスターの魔力でなければだめなのか?」

「おう?」


 雪奈は表裏をひっくり返し矯めつ眇めつカードを見る。

 仁は左目の眼帯をずらし、シマンデ・リヒターでカードの回路を確認する。

 花ちゃんは口元?に持っていきハムハムと齧る。


 コラ!花ちゃん!それは食べ物じゃありません!


 花ちゃんからカードを取り上げようと手を伸ばしたところ、花ちゃんはカードを口から離し、頭上高くに掲げた。


「おう!おう!おう!!」


 花ちゃんが大きな声を上げながら仁の膝の上で何度も跳ねると、掲げたカードが突然桃色に光り出した。


『ハナチャン』


 カードから機械音声が出力される。


「おおう!おう!おおう!」


 その様子に花ちゃんが喜びの声を上げる。


「何が起こっているのだ!?」

「花ちゃん凄いです!」


 驚くことしかできない二人を尻目に、花ちゃんがドヤ顔?で光るカードを差し出してきた。


「あ、ありがとうな」


 未だに何が起こったのかわからないまま、差し出されたカードを受け取る。



 そして、俺がカードを受け取ると、光は収まり、カードに絵柄が浮かび上がった。



「これは――」


 カードの左側には花ちゃんの写真、右上には「氏名:花ちゃん」、右下には「二つ名:花見客の支配者」と書かれている。

 つまり、学生証である。


 裏返してみると、花ちゃんのステータスが書かれている。


 力:1 速度:1 魔力:3 宴:9

 属性:願い


 ……宴?あと俺の魔力が花ちゃんにすら負けている件。


「どうやら俺のガジェットは学生証みたいだな」


 学生証によってステータスと能力を切り替えることができるのだろう。

 それならアベレージ:ワンの自分でも、強いカードさえあれば戦うことができる。


 ……ガジェットが本体で、俺はおまけだな。

 何時ものことではあるが。


 花ちゃんの学生証を雪奈に渡す。


「マスターの学生証と同じになってますね。

 何が条件なんでしょうか?

 唾液……体液ですかね?」


 雪奈は一通り学生証を確認し「宴?」と首を傾げると、仁に学生証を渡す。


「我の確認したところ、この花ちゃん(ブルーム)には生命活動に必要な各種器官は確認できない。

 体液も存在していないはずだ。

 魔力の属性か波長ではないか?」


 仁は花ちゃんが咥えていた場所を触り、体液が付着していないことを確認する。


「魔力痕はブルームのものだな」


 仁は続けて学生証の内容を確認すると「宴?」と首を傾げ、俺に学生証を返してくれた。


「花ちゃん、何をしたのか教えてくれるとありがたいんだが」


 仁の膝の上で得意げにふんぞり返っている花ちゃんに語り掛ける。


 花ちゃんは仁の膝から降り、トテトテと俺の隣まで歩いてくると、俺の方に手を伸ばした。

 俺は伸ばした手に学生証を渡してあげる。

 花ちゃんは学生証を受け取ると、俺に抱き着いてきた。


 花ちゃんのプニプニとした柔らかい感触が伝わる。

 何となく頭を撫でてあげると、嬉しそうに頭を摺り寄せてくる。


 しばらく俺に抱き着いていた花ちゃんだったが、満足したのか俺から離れると、今度は膝の上に乗ってきた。

 そして自分の学生証を高く掲げ


「おう!」


 と叫んだ。


「……なるほど。なんとなく分かった」

「今ので!?」


 雪奈の驚愕の声はとりあえず無視して、自分が理解した内容が正しいかギアさんに確認する。


 答えはイエス。詳細な答えが返ってきた。

 だがしかし、どう伝えたものだろうか。

 ドラマではよく見る設定なのだが、自身がその立場に立ち説明するとなるとかなり恥ずかしい。


 ……伝えないわけにはいかないので、そのまま伝えるか。


 大きく息を吸い、吐く。落ち着いた。


「このカード――SC(ソウルコネクション)カードは絆の繋がり、心の証。

 お互いの心が深くつながり信頼し合っている時、相手のことを想い力を込めることで、白紙の(ブランク)カードから姿を変える。

 このカードは決して朽ちず、壊れず、無くならない。

 二人が紡いだ魂の絆そのものなのだから……

 だそうだ」


 何時もは曖昧な反応しか返してこないギアさんだが、なぜか今回は酷く饒舌だった。

 恐らく製作者の諸々の拘りを正確に伝えたかったからだろう。


「なんというか、その……」


 雪奈が感想を言いよどむ。気持ちはわかる。


「なるほど、ディバイン・ギア・ソルジャーシリーズ恒例の、一般人を救い悩みを解決することで絆を深めアイテムを入手しパワーアップするという、序盤の展開だな。

 歴代のガジェットも同じような条件で手に入るとすると、それを元にドラマの展開が造られていったという可能性がある。

 トリガーとして感情の起伏……あるいは脳内物質を測定しているという事か?」


 対して仁は冷静に分析していた。


「どれ、手順が解ったのなら我も貴様に力を貸してやろう。

 我とツヴァイベスターの縁はDAMA一、前世からの付き合いだからな!何も問題はあるまい!」


 中学の時からの付き合いである仁より、幼稚園からの付き合いの麗火さんの方が付き合いが長いと思っていたが、仁とは前世からの付き合いだったな。

 全く覚えていないが。


 仁は眼帯を外すとゆっくりと眼を開き、白紙のカードを手に取ると、優雅な動作でその中心に唇を落とす。



 瞬間、白紙のカードが黄金色に輝いた。



 花ちゃんの時とは違い、数秒で光が収まると、白紙のカードは仁の学生証――SCカードへと姿を変えていた。


『ジン・カラスマ』


 機械音声が響く。


「ふむ、こんなものだ」


 仁がこちら見てニヤリと笑う。

 褐色だからわかりづらいが、少し頬が赤いようにも見える。


 一日遊んだ程度の花ちゃんと違い、仁との付き合いは長い。

 もし失敗したらショックだったが、ひとまずは安心だ。


「どれ、我がステータスは……

 ぐぐぐ……まぁ、闇の使途としての体裁は保てているから良しとしよう」


 少し不機嫌そうに仁がSCカードを渡してくる。

 俺はそれを受け取りステータスを確認する。


 力:6 速度:4 魔力:4 闇:9

 属性:偏差


 仁でこのステータスということは、平均的な聖剣剣聖で3~4程度という事だろうか。

 そして4つ目は一人一人違うステータスが設定されると。




「それじゃあ、その、私もやってみます」


 仁からSCカードを受け取ってからしばらくして、覚悟を決めたらしい雪奈がそう切り出した。


 間違いなく大丈夫だが、雪奈は思春期の女の子だ。

 異性の事を考えるのも、その想いが閾値以上かどうか判定されるのもきっと恥ずかしいのだろう。


「無理しなくていいんだぞ」


「麗火さんとか、他に当てはなくもないし」と続けようとしたが止めておく。

 雪奈は対抗意識が強く頑固な一面がある。きっと逆効果だろう。


「いえ、やります!私もマスターの力になりたいので!

 あと、シュバちゃん先輩のドヤ顔が気に食わないので!」


 雪奈の言葉に仁の方を向くと、確かに彼はドヤ顔で試練を突破した余裕を見せていた。

 なるほど、確かに負けたくないな。


「じゃあ席を外すから」

「いえ、そのままでお願いします。

 ――見ていて欲しいので」


 雪奈が白紙のカードを胸に、真剣な顔でこちらを見つめる。


「絶対に大丈夫だから安心しろ」


 俺は雪奈に微笑みかけ、無意識のうちに手を伸ばし雪奈の頭をゆっくりと、髪をとかすように優しく撫でた。


「!!」


 雪奈の胸元のカードが眩く輝いた。


「えとっ!その!!」


 雪奈が慌てふためくが、カードの無色の輝きは収まらない。


「光り過ぎです!もう平気です!」


 雪奈はこちらに背中を向け身体を丸めてカードを隠すように抱いた。



『セツナ・コザキ』


 数十秒ほどして音声が流れ光が収まる。


「……ふぅ」


 雪奈が息を吐きのそのそと動き始めたのは、それからさらに30秒ほど経ってからだ。


「えっと……なんか凄いです!凄いことになってます!!」


 どうやら自分のSCカードを確認しているようだ。


 ある程度見て満足したのか、雪奈は丸めた背中を戻して、ゆっくりとこちらを振り向いた。


「えっと、これ、です」


 雪奈は両手でSCカードを持ち、おどおどとこちらに差し出す。

 その顔は耳まで朱に染まっている。



「自分の気持ちを渡すようで、かなり恥ずかしいですね!」



 雪奈がはにかむ。


 ……俺は手で軽く顔を仰ぐと、雪奈からSCカードを受け取った。




「見ていいか?」


 俺は冷蔵庫から新しいお茶を持ってきて一気に飲み干した後、雪奈に確認する。


「はい!良く解らないけど凄いステータスです!」


 同じくお茶を飲んで熱を冷ました雪奈が、仁をちらりと見た後ドヤ顔で言った。


 その言葉に俺は期待を膨らませてSCカードの裏側を見る。


「こ、これは!!!」




 力:0 速度:0 魔力:OverflowException 邨?シ哥

 属性:NullPointerException




「バグってんじゃねぇか!」




「あれ?私なんかやっちゃいました?」


 俺の反応に雪奈が慌てる。


 魔力は桁数オーバーによるエラー、属性は『属性欠乏』によるエラーと言ったところか。

 最後のステータスは何だこれ?桁あふれが隣の領域にはみ出したせいで文字化けしたのか?


「雪奈は気にしなくていい。

 ……ちょっとディバイン・ギアの信頼性に疑問を持っただけだ」


 初歩的っぽいミスが大量にあるが平気なのか?

 ギアさんから慌てたような感情が飛んでくる。

 俺に何か伝えるんじゃなくて、制作者にバグ報告しておいてくれ。頼むから。レポートも送付するから。

 そう伝えるとギアさんは、しゅんっと黙ってしまうのだった。



「さて、予想外のことはあったが!それでもガジェットはいくつか手に入った」


 俺は手持ちの4枚のカードを見て笑みを浮かべる。





「それじゃあお待ちかねの……楽しい楽しい実験の時間の始まりだ!」






 Card x Connection - 了

TIPS

欧米では魔力器官の場所は重要な個人情報として扱われます。

友人はもちろん、伴侶にも教えない人が多いとか。

映画やドラマで魔力器官がある場所を教える、キスするシーンは濡れ場以上に刺激的でロマンチックとされていますが、日本人にはそのニュアンスが全く伝わらないとか。

文化の違いってやつですね!



お読み頂きありがとうございます。


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