第十四話 ディバイン・ギアで遊ぼう!
机の上に合ったケーキは消え去った。
飲み物は飲み干した。
お菓子は棒状チョコがチョコっと残っている。
つまり、それだけの時間が経過しているということだ。
「ずいぶん長いこと話してるが、次で終わりだな。
直近の作業内容の確認だ」
・カードの解析
・変身体の強化
・ディバイン・ギアで取り込むDAの開発
・専用中継器の調整と動作確認
・深界バブルスフィアの解析
「とりあえず下二つ――中継器の作成と取得データの解析はアイズが頑張ってくれてる。
今日中に大体終わる見込みだから、中継器の動作確認は明日できると思う。
アイズ、いつもありがとうなー」
この一月でどれだけ世話になっていることか。
アイズには頭が上がらないし、足を向けて寝ることもできない。
だがアイズがどこにいるのかわからない。俺はどうすればいいんだ。
「ありがとうございます!今度お礼しますね!」
雪奈もお礼を言い、スピーカーに頭を下げる。
「こちらも面白い情報がいっぱい手に入ったからお礼は良いよ。
これくらいなら僕にとっては珍しいパズルみたいなものだしね」
アイズも楽しんでくれているのなら良かった。
「というわけで残りは三つだ。
三つ目に関してはディバイン・ギアの特性が明らかになってからじゃないと決められないので保留。
二つ目に関しては簡単に対応できることがあるから、まずはそちらから片付けよう」
「簡単にパワーアップできちゃうんですか?」
「二つ案を考えた。
一つは防御力。
変身した感じだと、服の上に変身用スーツを重ねて着ている。
これをDA取り込みの機能を使い、制服と白衣を取り込んで一体化してしまおうと思う」
「なるほど!飛行機から落ちてトラックに跳ねられて溶岩に落ちても無傷なこの制服の頑丈さを生かすんですね!」
いや、流石にそこまでの耐久はないかな……
「という訳でできるか?」
左手のディバイン・ギアに確認する。
ふむふむ、なるほど。
「変身状態を維持できないほどのダメージを受けて強制解除されると、服も一緒に破損する可能性があるそうだ」
ディバイン・ギアは装着者の保護を第一として考えているらしく、大ダメージを受けて命の危険にさらされる場合、代わりにスーツや装甲を魔力に再変換、それをクッションとして身を守ることができるらしい。
ただし、魔力の急激な減少による意識白濁が発生したり、第二の皮膚となっているスーツへのダメージが本人に伝わるなどにより、一種の死亡酔いのような状態に陥ってしまう。
また、変身時に取り込んだDAも強制的に魔力に変換されてしまうため、破損してしまう。
今回の場合派手に破ける。どこのエロアニメだ。誰得だ。
「なるほど、それは危険だな。絵面的に」
「そうですね、危険なところが見えちゃうかもしれません」
二人ともジィっと俺の身体も見つめてくる。
「上はシャツを来てるから大丈夫。
下は……タイツかレギンスか何かを履くにせよ、腿から上は可能なら守り抜いてほしい」
ディバイン・ギアが強く光る。
「守り抜いてほしい」
ディバイン・ギアが点滅する。
「守り抜け」
ディバイン・ギアが薄く光る。
「説得した」
「今ので!?」
色々なバトル作品もこうやって尊厳を守っていたのだろう。
「解決したので次の案だ。
今は左手に装着されているこのブレスレット、これを魔力器官に近い場所に装着する」
「アイズさん、魔力器官とは何でしょう!」
魔力器官とは、人体にある魔力を生成する器官、あるいは魔力を感知する器官、またはその両方を指す。決まった位置に存在してはおらず、人によって異なる場所に存在しており、魔力測定によって位置を観測できる。物質的には存在しておらず、医学的に位置を観測することは出来ない。
出典: フリー百科事典『デヴィアペディア(Devia-pedia)』
「魔力を生み出す器官なんですね。どうやって魔力を生成してるんですか?」
「それを説明するにはまずこの世界における魔力の成り立ちから説明が必要だが、それを説明するには余白が足りない。
というかダンジョンやモンスターと同じく、毎年新しい説が生まれてるから、覚えたところで意味はないかな」
俺も今のトレンド知らないし。
「今回重要なのは、魔力器官というエンジンから直接エネルギーを持ってくれば、エネルギー効率が改善するということ。
各種エネルギー変換のロスが少なくなるからね。
気になったら後で魔力エントロピーで検索してみて」
「よくわからないんですけど、DAは魔力器官に近いところに装備した方が良いということですか?」
「ちょっと違うかな。
例えるなら……自転車のライト。
自転車を漕いで発電しているわけだけど、発電した電気を一度バッテリーに送って、その後バッテリーから電気を取り出してライトに使うより、発電した電気をそのままライトに使った方が効率が良いだろう?
でもバッテリーなら自転車のライト以外にも使えるから、色々なところで使えて使い勝手がいい。
人体は魔力バッテリーそのものだから、使い勝手のいい、バッテリーから魔力を取り出すDAが使われることが多い。
その場合バッテリーから取り出すわけだから、どこに装備しても効率は変わらない」
逆に言えば汎用性を捨てて個人専用にチューニングするのなら、バッテリーを経由せず効率を高められる。
「なるほど……今回はマスターしか使わないから、専用のDAにして効率を上げようということですね!
それで、マスターの魔力器官は何処なんですか?」
雪奈が俺の身体を嘗め回すように見る。
「俺は首だな」
「首ですか。失礼します」
雪奈が手を伸ばして、俺の首に触れる。
「触ってもよくわかりませんね……この硬いのは喉仏ですし」
雪奈が動物にするように喉をさわさわと優しくなでたり、うなじに指を這わせたり、喉仏の感触を確かめるように強く握ったりする。
ちょっとやめて!仁が見てるから!
あと思い切り握ると苦しい!
「物理的には存在してないからな。何かあったら、とうの昔に魔力について知れ渡ってたさ」
さすがにこれ以上触られるわけにはいかないので、雪奈から距離を取る。
雪奈は残念そうに手を下す。
「人によって場所が違うんですよね?私のは何処にあるのでしょうか」
雪奈が今度は自分の身体をペタペタ触る。
「ちなみに我の魔力器官は左目だ」
仁が眼帯越しに左目に触れてアピールするが、雪奈に無視される。
まぁ、言われなくても想像できるしな。
「雪奈は確か胸――心臓付近じゃなかったかな。前に資料で見た。
麗火さんと同じだな」
「胸ですか」
雪奈が自分の胸をフニフニと押してみる。
「ちなみに魔力器官の場所により、身体や魔力的な能力に違いが生まれるという説があるぞ。
我のように目の場合は視力強化と魔力の可視化だな」
スルーされた仁が、今度こそ興味を引こうと知識を披露する。
「胸の場合はなにが良いんですか?」
「胸は確か……魔力量が大きくなる。
男性の場合、男性ホルモンが増えて全体的に筋肉が付きやすくなると聞いたことがある。
女性の場合は――」
仁が言葉に詰まる。その先はセクハラ判定されるかもしれないからだ。
「――?
ああ、胸が大きくなりやすいんですね?
そういえば麗火さんも結構大きいですよね!」
雪奈は仁の言葉の続きを察すると、嬉しそうに自分の胸元を見る。
分厚い学ランに隠されその真のサイズは不明だが、初めて会った時と比べてワンサイズくらい大きくなっていることは見てわかる。
……魔力器官に関係なく、入院続きだったころと比べて食生活と運動による健康状態の改善が理由だと思うが。
でも健康優良児の麗火さんは一年で2,3カップくらい大きくなっているみたいなので、雪奈も来年の今頃は自身の理想の姿に近づいているかもしれない。
「マスターの喉はなにがいいんですか?」
雪奈が自分の胸元から、俺の喉仏へと視線を移す。
「何も。
あえて言えば声がよくなるとか、歌が上手くなるとか聞いたことがあるな」
「……マスターの声良いと思います!
毎日聞いても飽きないですし!これからも毎日聞きたいです!」
「そうだな!今度DA-ASMRでも収録しよう!」
適当な慰め方をされるのはもう慣れてきた。
話を進めよう。
「というわけで、左手から首に移そうと思う。
変形してカードスロットを作り出せるくらいだから、首の魔力器官から魔力を供給できるように変形するくらい簡単だろう?」
左手のディバイン・ギアを見ると、宝玉が緑色に光った。
ふむふむ、新しい形をデザインしてくれと。
とりあえずこんな感じで……
ディバイン・ギアを見ながら、デザインをイメージしてみる。
ディバイン・ギアが青く光る。
できる?良かった良かった。
「行けるそうだ」
しばらく待っていると、ディバイン・ギアが光り辺り一面を照らした。
光が収まると、左手の中にはワンサイズ大きくなったリングと、ワンサイズ細く小さくなったリングが現れた。
宝玉は大きい方のリングについている。
「首用のメインギアと、ガジェット読み込み用のサブギアに分けてみた。
首元のカードスロットに読み込ませるのは面倒だからね。
読み込みもスロット形式じゃなくて、タッチ式に変えてもらった。
こちらの方が早く読み取れるし、変身時に一々ブレスレットを変形させる必要がなくなった」
小さいリングは左手に戻し、手を伸ばしてきた仁に大きいリングを渡す。
「始原回路の塊で構成されたオーバーテクノロジーのすさまじさを垣間見たな。
だが、リング自体を無数のパーツ型DAで構成すれば、思考を読んで形状を任意に変えることは出来るか?
それでも機能を正常に動作させるのは難しい……
いや、各パーツがそろうことで機能が実現できるのなら、その配置自体に大きな意味はいらないのか」
仁はブツブツ呟きながらリングを色々な角度から観察すると、雪奈に渡す。
「大きさだけじゃなくてデザインも変わりましたね。
思考から読み取ったということは、他の媒体……魔法情報メモリからも読み取れるのでは?
強化計画に役立ちそうです!」
雪奈もリングを触りながら考察する。
戦うばかりの聖剣剣聖も多いが、やはり解析し、考察し、改良してこその聖剣剣聖だと、個人的には考えている。
二人のディバイン・ギア・ソルジャーも、落ち着いたら自分たちの研究を進めて欲しいものだ。
「それじゃあ着けてみよう」
大きさを図るように、自分の首元にリングを近づけている雪奈に声をかける。
「はい。
首だと着けづらいと思うので着けてあげますね」
「ああ、ありがとうな」
雪奈に首を差し出す。
「こっちが上だから、こうですね。
……所でマスター」
両手で持ったリングをこちらに近づけながら、雪奈が言う。
「なんだ?」
「こうしてると、マスターに首輪をつけてあげるみたいで、凄いゾクゾクします!」
「おい、やっぱ止め」
「えい♪」
可愛らしい雪奈の掛け声とともに、俺の首に首輪が装着される。
「あっ」
肌が薄く敏感な首を金属が覆う感触に背筋にゾクリとしたものを感じる。
息苦しさは感じないが、何かが首をぴったりと覆っているのを感じる。
手で触れると、少しだけ冷たい無機物の感触をしっかりと感じる。
変形して装着するからだろうか、触った感じだと切れ目や継ぎ目、分割線などはないようだ。
「ちゃんと着けられましたね。
良く似合ってると思います!!」
雪奈がニコニコしながら言う。
なぁ、雪奈。
その似合っているという言葉はどういう意味だ?
非常に気になるが、俺にはどう切り出せばいいのかわからなかった。
Chocker x Gear - 了
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