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第十二話 依頼内容確認と対策検討

「と、まぁこんな感じだな」


 一通り議論を終えて、ずいぶんと温かくなってしまったケーキに手を付ける。

 俺のケーキはベーシックなショートケーキ。

 生クリームが特徴で、くどくなくさっぱりとした甘みが好きなのだが、温まっているとその魅力も半減だ。

 冷たいときには微かに清涼感すら感じるんだけど。


 今度DA冷凍みかん君を応用した冷却皿でも造るかなぁ。


「『深界』属性については非常にそそられるな。

 特性が非常に多岐に渡っている。精度の問題があるが、上手く扱えば面白い魔剣が造れそうだ。

 時間があれば研究したいのだが、そうもいかんか」


 仁が紅茶を啜る。

 仁はすでにケーキを完食している。

 苦みの強いビターチョコのケーキを食べていたが、本来の彼は甘党だ。

 初めて出会う、そして後輩になる雪奈に格好いいところを見せようとしたに違いない。


 だがあのケーキはビターではあるがラム酒の香りがチョコの味を引き立て、中のクリームが苦みを和らげ、程よい苦みと素敵な甘さが至福の時間を提供する。

 きっと満足していることだろう。


「今回の依頼は早くに対応する必要がありますからね。

 ただ、マスターが戦えるようになると、私たちの時間は空くのでは?」


 雪奈はジャンボシュークリームの最後の一口を食べると、唇についたクリームをぺろりと舐めとった。

 生クリームとカスタードクリーム、二つのクリームがたっぷり入った人気商品だ。

 二つの異なるクリームが交じり合い、新たな幸福へと導いてくれる。

 バニラビーンズもいいアクセントになっているんだよなぁ。


「メンテや追加開発が必要になるかも知れないけど、それはディバイン・ギアを実際にカスタマイズしないとわからないな。

 まぁ、それとは別にして欲しい作業もあるんだが」


 ディスプレイに依頼内容と目標のリストを表示する。



 1.深界獣撃退のサポート

 2.補習と追試

 3.ギア:ナイツの戦闘力強化

 4.深界獣の汎用的な対策の確立



「一つ目。

 俺がDGSに変身して、ギア:ナイツの戦闘をサポートする。

 一番優先度が高い。

 深界獣が出現したら研究中だろうがテスト中だろうが、全て中断して撃退を優先する。

 ただし、戦闘が問題ないようなら、雪奈とシュバルツは参加する必要はないと思う」


 戦闘には参加できないし、戦闘中のサポートもできないし、戦闘後の雑用は風紀騎士団が担当してくれるからな。


「マスターの負担だけ大きくなりますね……」

「一日1,2回の戦闘だし平気だろ。シュバルツの信託があればある程度スケジュールも立てられるし」


 仁の信託は不定期だが、深界獣の出現と一致していることが今回確認できたから、神託を受けられた場合はずいぶんと楽になるだろう。


「二つ目。輪之介と昇人は二人とも年度末試験を受けてないので、補習と追試が必要だ。

 先生役は俺が担当する。

 チームとしてまとまって行動してた方が深界獣が出現した時に対応しやすいしな」


 深界獣については情報規制がかかってるから、情報を知る人は最小限にしたいという意図もある。

 戦闘後の雑用を行う風紀騎士団も、団長の一真と副団長の二葉以外は、詳細を知らされていないという。

 先生方の多くも知らないだろう。


「やっぱりマスターの負担が大きくないですか?

 翠さんたち生徒会の人たちに手伝ってもらっては?」

「生徒会は生徒会で、新入生受け入れのためにクソ忙しいらしい。

 今日も各種説明会のための資料作りと撮影編集で徹夜だとか」

「常々考えているのだが、DAMAは剣聖生徒会に仕事を振り過ぎだろう。

 そのくせ生徒会の人数が少なすぎる」


 仁がまともなことを言う。仁なのに。


「先生も教授も雑事よりも自分の研究優先だからなぁ」


 よくよく考えると、学生のための補助システムの構築のためにアメリカまで飛ぶ聖教授のなんと真面目なことか。

 変人と思っていたが偉大な人でもあるのかもしれない。

 その二つは両立できるし……


 生徒会も同じだ。

 力で解決できる風紀騎士団には人が集まるのに、生徒会は立候補者が集まらず多くの場合指名制となっているらしい。

 情報担当は毎年過労死枠だ。


「最も今年から作業は幾分かマシになるだろうがな」

「何故ですか?」

「仕事の何割かがイノベーション・ギルドに割り振られるからだ」


 なるほど。

 ……今後のことは一先ず考えないでおこう。俺は麗火さんが無茶振りしないと信じてる。でも麗火さんが無茶することになるなら手伝わないとなぁ。


「私は手伝えないですけど、シュバちゃん先輩は何かできませんか?」

「闇の授業なら可能だぞ」


 仁が胸を張って答える。


「だが歴史や化学、古文などの表の知識を授けろというのならば、我に期待はしない方がいい」


 仁は興味のあることしか勉強しない。DAMAの場合DAに関する授業は真剣に受講している。

 しかしそれ以外の科目は赤点ギリギリだ。

 そして今回の試験対象はそれ以外の項目だ。


 追試の試験官をするにせよ、問題の内容について聞かれでもすれば答えることができないだろう。


「……マスター!頑張ってください!

 差し入れ持っていきますので!」


 うん、ありがとう。

 でも食べたら昏倒するようなチョコは控えてくれると嬉しいかな。

 いざという時寝たままだと困るし。


「まぁ、補習の資料は届いてるし、テストも受け取った。先生方の授業風景も保存されてるから、それも使える。

 補習内容についてはアイズがいい感じにテスト範囲のところをまとめてくれているから、資料を見つつそれを流すだけで大体は平気だろう」


 質問される可能性はあるが、俺とアイズが答えられる範囲だろう。

 詳しいことを知りたがる性分なら、こんなことにはなっていない。


「つまり、一番大変なのは戦いつつ補習と追試を受ける二人になるな。まぁ、諦めて頑張ってもらおう。


 三つ目、ギア:ナイツの戦闘力強化。

 ギア:ナイツは基礎スペックは高いけど、それだけしか強みがない。

 サポートしつつ何か改善できないか確認したい」

「ディバイン・ギアの強化方法で分かってるのはガジェットとDAの取り込みですよね?

 どちらも使っていないのは何か理由があるんでしょうか?」


 ガジェットはディバイン・ギアの性能自体を切り替える機能を持っている。

 DAの取り込みを使えば、用意しておいたDAをそのまま武器として使える。

 どちらかだけでも使いこなされば強力な戦力になるだろう。


「いくつか考えられるかな。

 一つ、気が付いていない。

 ディバイン・ギアから機能についての説明はされない。初めては自分で気が付く必要があるんだ。きっかけがないなら知らないままだろう。


 一つ、ガジェットを持っていない。

 ガジェットはギア同様どこからか湧いて出て来るって話だけど、変身用のカードしか貰えなかったのかもしれない。

 あるいは俺と同じく白いまま使えないか。


 一つ、機能が非対応。

 ギアごとに性質が違ってるって話だから、この二つの機能を持っていないのかもしれない。


 一つ、今のままで十分だと考えている。

 力押しで勝ててるから強化が不要と考えるのも、まぁ仕方がないかな。

 誰でも常に改善方法を模索しているわけじゃないし」


 些細なことでも新しいことを始めるには勇気がいる。

 ましてや痛みを伴う戦闘ならば尚更だ。戦争だってマニュアル化した戦術をアップデートせずに何十年も使い続けるなんてよくある話だ。

 身近なところだとOSだってサポート期間を過ぎるまでアップデートしない人が大勢いるし、ガラケーからスマホに変える機会を失ったまま使い続ける人も多い。


 聖剣関連だと属性変換器も使えば色々なことができるのに設定の面倒くささから普及が遅れている。

 素敵な眼鏡(D-Seg)のように、もっと周りに広めなくては。


 ……話がそれたな。


「今の段階では想像しかできない。

 なので、この件はある程度ギア:ナイツの事が解ってから着手することになるね」


 深界獣の出現が落ち着けば強化の必要もなくなるし。


「四つ目。

 深界獣の汎用的な対策の確立。

 これが可能なら今後深界獣が現れても風紀騎士団で対応できるようになる。

 これを雪奈とシュバルツに頼みたい」


 深界獣が現れたとき初動や、特効性能、戦力を考えるとDGSには引き続き戦ってもらいたいが、それでも今回のように負担が集中することは無くなるはずだ。


「えっと……可能なんですか?

 鳳駆(ホウク)さんの反応的には無理っぽかったんですけど」

「解らないから研究するんだよ。

 鳳駆さんが戦っていたのが8年前。

 属性変換器が開発されたのが5年前。鳳駆さんが戦っていた後だ。

 前回の深界獣侵攻が4年前で、この時はまだ属性変換器がほとんど普及してなかったから、研究もしてなかっただろう。

 深界獣の汎用的な対策の本格的な研究は、今回が初めてだと思う」


 そもそもデータの持ち出しに制限がかかっていることを考えると、詳しい調査できたのは今回が初めてだろう。


「確かにそうですね……

 精度が問題という話でしたし、工夫するか、別方向からアプローチすれば解決できるかもしれません!」


 雪奈が両手を強く握り、やる気アピールする。


「処女雪を踏み荒らすがごとき研究か……滾るな!」


 そこ、処女を踏み荒らして滾るとか、下品なこと言わない。


「本格的に対策を研究するのは、俺の戦闘力を強化してからだけどな。

 深界バブルスフィアの具体的な調査もまだだし。

 でも時間があるときにでもアイデアを考えてみてくれ」

「はい!」

「了解した」


 二人ともテンションが上がっている。

 やはりDAMとして色々と対策を考えるのは楽しいらしい。


 そういえばホワイトデーで使用した、鈍八脚をベースにした全自動高精度回路成型聖剣(要定期的な確認と修正)は、改良しようと思っていたが、他の作業を優先していたためすっかり忘れていた。

 操作するうえで課題は残っているが、精密な聖剣回路の作成が必要になる場合、あれがあればずいぶんと楽に造れるようになるだろう。

 後でDA顕微鏡を借りてきて、全自動高精度回路成型聖剣と一緒に二人に渡そう。

 きっと何かの役に立つはずだ。






 Quest x Request - 了

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