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第五話 憧れとその裏側

俺はクールガイ、平賀良二。例え憧れの存在に変身しても、平常心を忘れない。


「あ!マスターの目が覚めました!」


俺はクールなので現状が理解できる。

俺は剣聖生徒会の生徒会室のソファーに寝転がされ、雪奈に膝枕され頭を撫でられている。


「まだ起きない方が良いです」


雪奈におでこを抑えられる。


むっ……

体調は特に悪くはないが、自分では気が付かないだけで顔色でも悪いのだろうか。


まぁいいか。お言葉に甘えてしばらく寝っ転がっていよう。

半月ほど前と比べて、雪奈の膝も柔らかく、気持ちよくなってるし。


「やっぱり起きていいです」


雪奈が少し慌てた様子で俺から離れた。

枕を失ってしまったので、俺は仕方なく体を起こす。


俺の正面のソファーには、憮然とした表情の麗火さんと、ニマニマした表情の鳳駆さんが座っている。

……ヤバイ、この二人の前で膝枕をされていたのは流石に気まずい。

それに何やら室内の気温も上がっている気がする。熱源については――考えないようにしよう。


よし、思考を反らすために話を進めよう。


「それで、試験は合格ですか?」


俺は平然とした顔で尋ねる。


「そうだな……ギリギリアウト寄りのセーフ、といったところだね。

変身に成功したのは良いが、流石に短すぎる」


鳳駆さんの言葉に自分の姿を確認すると、何時もの白い学ランに白衣の姿に戻っていた。


「いや、あれは緊張しすぎたからで……」

「解ってる。私も自分の立場は理解してるし、麗火君から君のDGSディバイン・ギア・ソルジャーへの想いは聞いてる。

流石に二回も気絶するのは驚いたけど」


鳳駆さんが苦笑する。

麗火さんは鳳駆さんに一体何を吹き込んだんだ……


「だが、それを抜きにしても、君の変身限界時間はおよそ30秒だろうな。

まともに戦えるとは思えない」


変身して直後に必殺技(フィニッシュ)をぶちかませば何とか……いや、流石に無理か。


「とはいえ、君以外に適応者がいないのも確かだ。

それにすでに――いや、この話はあとにしよう」


鳳駆さんは真剣な瞳で、俺の瞳を見つめてくる。


「平賀良二君。君は合格だ。君には資格がある。

だから、私たちの宿命について話そうと思う」




そして鳳駆さんは語り始める。三十年以上前から続く、世界の裏側にある戦いを。




「私がギア:ホークとなりDAMAで戦っていたのは8年前のことだ。

もちろん、特撮ヒーローのようなことは起こっていない。悪の組織の実在は確認できていない。

私の仕事は時々現れる深界獣(アウター)を見つけ、倒すだけだった」

「深界獣自体は実在するんですね?」

「そうだな……まずはそこから説明するべきかな。

ところで君は授業はちゃんと受けているかい?」

「そうですね。平均点を超えるくらいには」


年度末試験はほぼ一夜漬けだったが何とかなった。

3割くらい脳から消えている気もするけど。


「一般的なモンスターは何処から現れるか知っているかい?」

「ダンジョンの奥……というのは正しくないか。

俺たちのいるこの世界(バブルスフィア)とモンスターの住む世界(バブルスフィア)、その重なっている場所がダンジョンで、そのダンジョンを経由することでこちらの世界に現れている」


世界は河の中を漂う泡のようなものだ。

そして泡は河の中にいくつも存在している。

基本的に河は過去から未来に流れていくだけだが、稀に他の河と合流する(・・・・・・・・)事もある。

そしてその他の河(・・・)から流れ込んだ世界がモンスターのいる世界であり、泡同士がくっつき合うことで世界がつながってしまった。

それが1964年に起こった、モンスターとダンジョンが出現する事件の真相と考えられている。


『そうだったんですか!?』


雪奈から驚きの脳内通知が送られてくる。


『比較的新しい説ではそう考えられている、という話。立証はまだだ。

この辺りは主流がころころ変わるし、一般的な授業だと習わないんだよなぁ』


魔法やDA技術は秘するものだという、潜在的な意識がまだ残っているのだろうか、あるいは下手に手を出すと危険だからなのか、小学校中学校の魔法やDAに関する教育は最低限のモノだけだ。


一応専用の塾で学んだり、ネットで知識を得ることは出来るが、DAMAに入学して初めて基本的なことを学ぶ学生も少なくない。


「うん、その認識で合っているよ。

そして、実のところこの世界につながっている世界は一つだけじゃあない」

「深界獣もその、ダンジョンとは関係ない世界から来ていると?」


俺の問いに鳳駆さんが頷く。


「深界獣のいる世界――深界世界(シンカイセカイ)は少し特殊だ。

くっついたらそのままの他の世界とは違い、衛星のように私たちの世界の周りを回っている。

そして大体四年に一度だけ、この世界と接触するんだ」


四年に一度だけ接触するため、その期間だけ深界獣が現れる。

なるほど、七不思議で聞いたことに合致する。


「そして深界世界には二つ特殊な特性があるんだ。

一つ。深界世界の生物は全て『深界』属性を持っている。

二つ。深界世界の生物がこちらに来るためには、一度バブルスフィアの中で自身を馴染ませ、こちらの世界の属性を取り込む必要がある」

「七不思議……バブルスフィアがいつの間にか濁っているのは、深界世界の生物が中に入り、水が泥で汚れるように、『深界』属性が溶けだしたから。

途中からDAを使えなくなったのは、深界世界の生物がDAから属性を取り込んでしまったから、ということか」


七不思議の描写は、おおよそ正しかったということか。


「そうしてバブルスフィアの中で実体を得ることができるようになると、深界世界の生物は『深界獣(アウター)』となり、人に危害を加えだすんだ。

人に危害を加える詳しい理由は解らない。深界世界は獰猛でなければ生き残れない過酷な世界なのかもしれないし、こちらの世界に来ることで精神が壊れるのかもしれない。

ただ、『深界』属性自体は人体に有毒で、精神を不安定にさせる効果があることはわかっている」

「『深界』属性はいわゆるワルモノ、ということなんでしょうか?」


鳳駆さんの説明に、雪奈がぽつりとつぶやく。


「どうだろうな。

例えば酸素は物質を酸化させる危険な毒素だろう?

でも、生物は酸素がなければ生きていけない。

異星人にとっては、俺たちは毒素をエネルギーにする危険な生命体と映るかもしれない。

『深界』属性だって、似たようなものかもしれないぞ」

「なるほど……ちょっと短絡すぎましたね」


まぁ、深界獣にとってどうかは知らないが、人間にとってはワルモノでしかないだろうが。

いや、使い方によってはイイモノに化ける可能性もあるか。


「『深界』属性が良いか悪いかは兎も角、厄介な特性を持っているのは確かだね。

『深界』属性が満ちると、バブルスフィアはその性質を変えてしまう。

バブルスフィアの中の深界獣と同じ属性を持っていない者を外にはじき出してしまい、同時に中に入ることができなくなるんだ」

「属性によるフィルタリング効果、ですか……厄介ですね」


属性によるフィルタリング効果とは、一定の場所を特定の属性で覆うことにより、その属性以外の属性が制限される効果である。

属性判定にも使われている。

出典: フリー百科事典『デヴィアペディア(Devia-pedia)』


ありがとう、アイズ。

補足として、基本的には指定した属性の魔力だけを流すために使われるが、理論上その属性を持たない人物を弾くことができるらしい。


「そして深界獣の撃破に成功した場合、バブルスフィアの機能が戻り、『深界』属性を持つ人物以外は記憶を含めて(・・・・・・)ロールバック(・・・・・・)される」


記憶を含めてロールバック……つまり深界獣に襲われた時の怪我とその記憶は失われるため、噂程度でしか話が残っていなかったと。


「フィルタリングによりバブルスフィアの中には襲われた人だけが残り、全てが終わると襲われた人の記憶も消えると……

んん?待てよ、そういうことは……」


まさか、DGSとは――


「君の想像している通りだ」




「ディバイン・ギア・ソルジャーは『深界の戦士』。

『深界』属性を纏うことで深界に満ちたバブルスフィアの中に入り、襲われている人を守り、危険な深界獣を殲滅する。


毒を以て毒を制す。それが私たちディバイン・ギア・ソルジャーの宿命だ」





Fate x Oxygen - 了

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