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第三話 眼鏡は制服に含まれますか?

「話の流れ的に、私も超革新的お手伝いさんをするとするということですよね?」


 雪奈が6つ目のみかんを剥きながら確認を取る。

 剥かれたみかんは教授の前に置かれ消費される。

 基本的に教授は雪奈が用意したものは何でも食べるので、効率よくみかんが消費されていく。


「ああ、雪奈とアイズにはこのお悩み相談室に入ってもらう。

 と言っても、正式入会は入学してからだが。

 問題ないか?」

「私は平気です。

 今のところ、やりたいこともないですし。

 むしろ、初めて人の役に立てそうで嬉しいです!」


 雪奈がニコニコと答える。


「僕に確認は必要ないよ。命令してくれれば可能な限り手伝うからね」


 スピーカーから合成音声が聞こえる。アイズだ。

 彼、あるいは彼女はこの場にはいない。

 リモートで自宅からアクセスしているのかもしれないし、聖教授の専攻である電脳研究で創られたAIかも知れない。

 教授から何も話をされていないのは、何らかの事情があるのだろう。

 俺も雪奈も深く追及はしていない。

 解っていることは、雪奈と同じく来年入学予定という事だけだ。本人が登校してくるとは思えないが。


「それで、その……入学試験の免除について詳しく伺ってもよろしいですか?」


 彼女は虚弱体質のため、DAで日常生活のサポートを行っている。

 しかし、DAの使用には、現在のところ資格やDAMAの敷地内限定等の条件が必要となっている。

 入学は今後の人生どころか、現在の健康に大きく関わる。


 雪奈の問いに対し、教授が俺に視線を向ける。

 解説しろという事だろう。


「DAMAに入学するには大きく分けて三つ方法がある。

 一つ、中二に受ける全国一斉属性診断で、属性値が一つでも高い数字を出すこと。

 本人の属性と才能、性格的指向には関連性が認められてて、高い数字なら自分に合った魔法に興味を持つし、理解も高くなる。

 つまりは先行投資だ。面接はあるけどね。アイズはこれで入学が決まってる」


 ちなみに面接相手は聖教授だったらしい。つまりは八百長だ。出来試合だ。


「もう一つは成績。

 才能が無くても、ある程度の知識と高い学力、あるいは身体能力があれば入れる。あくまで学校だからね。

 雪奈たちはこれで入る予定だった」


 聖教授の推薦があるから採点は甘めだが。


「最後の一つは実績がある事。

 独学で魔法を使ったり、DAを作るサポートをしたりといった、入学に足りる能力がある事がわかれば、面接だけで入れる」


 例えば、DA冷凍みかん君程度が作れるだけで入学は確定だろう。


「悩みを解決する際に、何らかのDAを造ることがある。

 そのDAが実績になる」


 俺の場合、筆記試験を受ける必要なく、造ったDAの評価がそのまま成績に反映される。


「ボコボコに負けたとしても安心しろ。

 あたしが責任をもって、良二に試験用のDA造らせるから。

 こいつは留年するかもしれんが」

「いえ、平気です!心配には及びません!

 私は、マスターならできると信じてます!」


 ん?マスターとは?


「良二先輩はマスター・オブ・イノベーションなのでマスターです!」


 マスター……格好いいけれど、できれば先輩の方が良かったなぁ。

 嫌いというわけじゃないが、マスターの由来を考えると自己中(オ〇ニー)野郎と罵られているようで……

 でも、キラキラとした目を前にそんなことは言い出せなかった。






「さて、役職には相応しい服装というものがある。

 実のところお前たちのお悩み相談は14年ほど前に前身があってな。

 その時の制服をリメイクしてきた」


 教授は持って帰ってきたトランクを開けると、中から服を引っ張り出した。

 学ラン……しかも白だ。


「あれ?制服って指定されてるのじゃなきゃダメなんじゃないですか?」

「DAMAの制服の定義は『高い防御能力を持つ服装』だ。問題ない」


 DAMAでは用途に応じた防御力が得られるよう、複数の制服を販売している。

 対熱対水対汚等の環境適応能力が高いブレザータイプ、対刃対衝撃等の近接戦闘に強い学ランをはじめ、着物や袴もある。

 ブレザータイプは夏は涼しく冬は暖かいエアコンいらずのため人気が高い。

 魔力を込めることでDAとして機能を発揮させることもできるが、魔力を消費しなくてもダンジョン産の生地に予め魔力が付与されているため、数年間は最低限の効果が持続するとのことだ。


「何でもやるからな。機能はマシマシだ。DA用の拡張性も確保してる」

「うわぁ……いくらかかったんですか、コレ」


 DAMAでは比較的安くで買えるが、外で同じものを買おうとすると最低で10万はかかる。

 ハンドメイドなら……最低でも50万くらいからだろうか。

 最上位モデルなら1000万は越える。その代わり宇宙でも活動できるようになるが。

 スペック表を見る限りこの制服はそこまでではないが、サハラ砂漠だろうが南極だろうが何の問題もなく行動できるようになるし、ダンプカーに跳ねられても平気だろう。

 着用者の魔力によっては溶岩風呂までは行けそうだ。俺には無理だが。


「DAMA内じゃ素材はタダ同然で融通できるし、機能付与も他の教授に頼めばタダだぜ。

 機能設計は生徒会のを流用してるしな」

「教授の代わりにお悩み相談(面倒なこと)をするよりはマシという判断かなぁ……」


 他の教授さんたちお疲れ様です。

 きっと今後もたかられると思いますが、頑張ってください。


「後は備品のスマートグラスだ。

 プレイベートでの使用も許可する」


 銀縁のアンダーリムの眼鏡を受け取る。

 スマートグラス――スマホのような機能を持った眼鏡だ。DAを補助的に使用することで、一般の物よりコンパクトかつ高性能にできている。

 研究室でも使っているし、聖教授も現在かけている。

 欲しかったけど高くて手が出せなかったものだ。嬉しい。

 これが何時でも使えるだけでも仕事をする価値がある。


「研究室のと同型ですかね。

 アイズ、認識できてる?」


『接続完了。

 Hellow World』


 脳内にアイズの合成音声が響く。


「凄いです!頭の中にアイズさんの声が聞こえます!」

「ふふっDAMAトーキョーで特許申請中の技術を使った、汎用簡易型思考制御眼鏡聖剣……!

 スロット数3、10e/hで人体に負荷の少ないエネルギー供給!

 もちろんスマートグラスとしての機能も完備!かつそれぞれの機能が思考制御と連動!

 これさえ売れればあと10年は戦える。

 名前はDA-Smart Eyeglasses ……通称D-Segだ」


 DAMAトーキョー最先端技術の結晶じゃないか。機密情報では?情報セキュリティー的に平気なのか?


「モニター兼ねてもらうから壊すなよ」


 ああ、使うこと自体がお仕事なんですね。

 ざっと動かしてみるが、思考制御の暴発もほとんどないし使いやすい。


「マスター!どうですか?似合ってますか!?」


 俺が眼鏡をいじっていると、雪奈が声をかけてきた。

 コタツから出て立ち上がり、白い学ラン姿を見せつけてくる。

 いつの間にか着替えていたらしい。

 例えストッキングを履いていてセーターの下にシャツか何か着ていたとしても、男が近くにいるときに着替えるんじゃあありません。


 俺は眼鏡を操作し録画を開始しつつ、彼女の姿を確認する。

 後ろでまとめていた黒髪は何時ものストレートに戻されている。

 恥ずかしそうに笑う表情に、俺と同型のフレームの白いアンダーリムの眼鏡がよく似合っている。

 学ランの詰襟は、彼女の性格を示すようにキッチリと閉じられている。

 胸は控えめ。学ランの生地は分厚いからラインが強調されずかなり平らに見えるのは仕方がない。

 下半身は白のプリーツのミニスカート。

 ズボンではない。

 すらりと細い足は露出せず薄手の黒のストッキングに包まれている。


「学ラン女学生はズボンではなく、ミニスカートであるべきだ」


 聖教授がうんうんと頷く。

 激しく同意だ。

 それにしてもいつの間にスカートまで変わったついさっきまではベージュのアコーディオンスカートだったはずまさかまさか


「眼鏡も学ランも似合っているよ」


 意識を切り替え雪奈を褒める。

 着替えた女性は、その服装に関わらず褒めるべきだと教わっている。実際似合っているから、お世辞でもない。


「えへへ、良かったです!」


 雪奈がくるりと回り、服を見せてくる。

 可愛い可愛いかわい……ん?



「…………教授。あの『独立強襲型生活革新委員会』の文字は一体?」



 眼がおかしくなったのだろうか、白い学ランの背中には「独立強襲型生活革新委員会」と達筆で書かれているように見える。

 しかも金糸だ。


「決まっているだろう。

 お前たちのお悩み相談解決委員会の名称だ。

 14年前から伝わる、由緒正しい名前だ」


 フフン、とドヤ顔で教授が笑う。

 他にも二つ、四文字熟語が書かれている。


蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)とは?」

「くだらないことをぼやいてんじゃねぇ、という意味だ」

披星戴月(ひせいたいげつ)とは?」

「もっと勉強しろ、という意味だ」


「喧嘩上等」や「夜露死苦」ならともかく、意外と真面目なことが書いてあるから、消してくれとは言いづらい……

 まさか俺の方にも、と思い自分の学ランを確認する。

「独立強襲型生活革新委員会」に加え、雪奈とは違う四文字熟語が。


 ……見なかったことにしておこう。


「何でこんな文字を?」

特攻服(トップク)に四字熟語は必要不可欠だろう?」


 何を当たり前のことを、という表情をしないで欲しい。


「最後に一つ。

 14年前の独立強襲型生活革新委員会って」

「はっはっは」


 教授になっても何も成長していないという事らしい。


「あの……何か変ですか?」


 背中に気が付いていなかったのだろう、雪奈が不安そうに尋ねる。


「あー見た方が早い」


 俺は眼鏡を操作し、雪奈の眼鏡に自分が見ているものを送る。


「これは……格好いいですね!

 ますますやる気が出てきます!!」


「…………」


 ああ、雪奈が良いなら俺は良いんだ。

 それにどうせ、白衣を着れば見えなくなる。


「気に入ってくれて何よりだ」


 気に入ってはいないが。

 雪奈の動画は新規に作成した雪奈フォルダに保存。

 彼女の母親に後で送ってあげよう。


「さて、それじゃあ委員会結成直後だが、一つ剣聖生徒会から依頼が来ている。

 なお拒否権はないし、成否次第で即解散もありうる」

「いきなりピンチ!?」


 結成までお膳立てされた上に、解散までお膳立てされている予感がする。


「なぁに、別に難しい案件じゃないから安心しろ」




「DAMAトーキョー筆頭剣士をぶった切るだけだ」




 Dress Code - 了

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