第二話 七不思議の四番目
「アイズ、検索。
ディバイン・ギア・ソルジャー、七不思議、DAMAトーキョー」
「検索中……Devia-pediaに情報なし。DA系のサイトにも情報なし。
DAMAトーキョーの裏サイトの魚拓にヒット」
「んん?意外とヒットしないんだな」
結構有名な話だと思ってた。
「DAMAトーキョーの七不思議は規制対象だからね。
情報が載ってもすぐに消されるんだ」
「それは初耳だな……だからあまり広まらないのか。
でもそうなると逆に信憑性が増すな」
ディバイン・ギア・ソルジャー以外の噂も本当なのだろうか。
「あの……DAMAトーキョーにも七不思議があるんですか?」
雪奈が興味深そうに見てくる。
「ああ。
ここからの話は一応口外禁止。そして聞けば不幸が訪れるかもしれない。
……まぁ、七不思議のお約束という奴だけどね。
それでも聞くか?」
雪奈が神妙な顔で頷く。
「どこの学校にもあるように、DAMAトーキョーにも七不思議がある。
俺が知ってるのはそのうちの四つと番外の一つ。
一つ。『人生図書館』。この学校には在校生卒業生そしてこれから入学する学生、全生徒の人生の全てが記された本が集められた図書館がある。
一つ。『偽装人類』。この学校の生徒の一部は人間じゃない、他の生物が擬態している。
一つ。『忘却生徒』。存在が消され、誰からも忘れ去られてしまった生徒が何十年も通い続けている。
一つ。『深界魔物』。特別な魔物がDAMA内を徘徊しており、見つかると魂と才能を食べられてしまう。
そして番外の一つ。『知識の番人』。七不思議を全て知った者は、すべての知識を番人に奪われてしまう」
全て学校で友人や先輩から聞いた話だ。
「どれも魔法や聖剣に関係してそうなのがDAMAっぽいですね!」
雪奈が目を輝かせる。怖い話とか好きなタイプなのか、それとも知的好奇心が旺盛なだけか。
「ディバイン・ギア・ソルジャーはその中の四つ目、『深界魔物』の話だな」
これはDAMAに通うとある生徒のお話だ。
「うーん、上手くいかないなぁ……
設定はこれで合ってるんだよな?」
「あれー?
あ、間違ってたわ。ごめんごめん」
「おいおい、しっかりしてくれよ」
二人は何時ものように公園に展開されていたバブルスフィアの中で聖剣の動作を確認していたけれど、上手くいかず随分と長い間作業していたそうだ。
「だいぶ暗くなってきたな。
早く終わらせて帰ろうぜ」
「修理したよ。確かめてくれ」
「はいよ。
よっと……
お、動いた動いた」
ようやく聖剣が動くようになり、夢中になって試験を続けたそうだ。
ところが……
「うん?なんか動きが悪くなってきたぞ?」
チカチカ。チカチカ。魔力を通してもすぐに止まってしまうようになったんだ。
「また壊れたのかよ。早く直してくれよ、もう辺りは真っ暗になっちまったんだからさぁ」
チカチカ。チカチカ。それでも試験を続けようとしたけれど、次第に力が弱くなって、完全に動かなくなってしまった。
「おい、聞いてるのか?早く直してくれ――
あれ?どこ行った?」
振り向いて相方を探してもどこにもいない。
「おい、どこに隠れてんだよ。
おい!おい!」
あたりを見渡してみても、誰一人姿が見えない。
「なんだよ!みんなどこ行っちまったんだよ!
皆いつももっと遅くまで作業してるだろ!
大体、今はまだ……何時なんだよ」
時計を見てみると、16時。まだまだ明るい時間帯だったそうだ。
「おかしいだろ!なんでもう空が真っ暗なんだよ!
なぁ!誰か!誰か!」
「ぉーぃ」
慌てていると、小さな声が聞こえてくる。
「ぉーぃ」
「良かった……まだ誰かいたんだ。
おーい!どこにいるんだ?」
辺りを見回しても誰もいない。
「ぉーぃ。おーぃ」
それでも少しずつ声は大きくなっていく。
「誰だ!?どこにいるんだ!?」
「どこって、ここだよ」
耳元で声が聞こえた。
生徒がそちらを向くと、目の前の闇が裂けるように大きく口を開けて――
「え?」
その生徒の頭をがぶりと
「そうはさせん!」
突然横から現れた人影が闇色の何かを蹴り飛ばした。
「大丈夫か?」
現れた人影は、身体の半分が歯車で覆われた異形の戦士だった。
「は、はい!」
「そうか。ではあちらに逃げるんだ!」
「あ、あなたは?」
「私はディバイン・ギア・ソルジャー。
この深界獣と戦う宿命の戦士だ!
いくぞ!」
異形の戦士――ディバイン・ギア・ソルジャーは、亀のような甲羅を背負った異形の怪物――深界獣の方へ走っていくと、凄まじい戦いを始めたのだ。
「はぁ!」
「くっ、強い!だが俺の甲羅は砕けん!」
「確かに!硬い!」
一方的に見えたディバイン・ギア・ソルジャーの戦いだったが、決定力が欠けており、決着はつかなかった。
「頑張れ!ギア:ソルジャー!
普通の攻撃で倒せないなら、勢いをつけた凄い攻撃をすればいいんだ!」
「そうか!
はぁ!」
ギア:ソルジャーは空高く飛びあがると、その勢いを使った蹴りで、亀の深界獣の身体を貫いたのだった。
「凄いやギア:ソルジャー!」
「悪は消え去った。
だが、まだ第二第三の悪が現れるだろう。
だから私は戦い続けなければならない」
「ギア:ソルジャー……
俺は何時だって応援してるよ!」
走れ、ディバイン・ギア・ソルジャー。戦え、ディバイン・ギア・ソルジャー。
明日に向かって心の歯車を回し続けるのだ!
「以上だ」
「以上じゃなくて異常ですよね!?
途中からストーリーが差し変わりましたよね!?
除霊系ヒーローが突然現れて悪霊を祓う怪談風ギャグストーリーの流れですよね!?」
雪奈が興奮して詰め寄ってくる。
まぁ、言いたいことはわかる。
「確かに、三十年前くらいまではそのまま闇に食われて生徒が死亡、襲ったモンスターはこちらの世界に現れて、討伐されるまで暴れまわった、という話だったんだよ。バブルスフィアという単語もない。
その頃はまだ野良モンスターの被害もちょくちょくあったし、正体不明なモンスターが徘徊している、変な空間に閉じ込められるというのは現実的な怖い話ではあったんだけどな。
それがある時を境にディバイン・ギア・ソルジャーが乱入する今の話になったんだ」
「ディバイン・ギア・ソルジャーが流行したから、誰かが面白がって付け足したんじゃないんですか?」
確かにそれは俺も考えた。だがどうやら違っているらしい。
「ディバイン・ギア・ソルジャー……通称DGSのシリーズは今年で22年目だ。
そして七不思議が変質したのはおよそ30年前から。
『七不思議の方が早い』んだよ」
「えぇ……
でも、昭和から特撮ヒーローはありましたよね?
30年前の時は別のヒーローが乱入してきたのが、DGSの流行で差し変わったという可能性はあるのでは?」
なるほど、良い着眼点だ。
「この家の裏庭に割れた大きな岩があるだろ?」
「ありますね」
「あれは初代ギア:ソルジャーの戦闘で割れたんだとさ」
「……はい?」
おい、雪奈。首を傾げながら哀れな人を見る目で俺を見るのは止めてくれ。
「いや、俺の妄想じゃないぞ?教授から聞いたんだよ。
他にもDGSの戦闘痕とされる傷跡は校舎の中や林の中なんかに残ってる。
30年前だとバブルスフィアも存在してなかったからな」
現在は模擬戦などはバブルスフィアの内部で行うため、戦闘終了の傷跡は残らないし、DAMA内ならどこでも発生させることができる。
しかし30年前なら戦闘の後は残り続ける。
「DGSはDAMAでもロケをした記録はあるけど、特撮研究会の調べでは戦闘シーンは全部校庭や公園で、うちの裏庭や校舎の中、林の中などでの戦闘は撮影されていないそうだ。
ちなみに初代DGSを撮影した監督はDAMAトーキョーの卒業生だとか」
「卒業生……DAMAで体験したことを元にDGSを撮影したということですか?」
「さあな。
でも実在したという証拠はいくつも残ってて、否定できるだけの材料は少ない」
『深界魔物』はDAMA内でも一番有名な七不思議で大抵の生徒は知っているが、大抵は聞きながら笑い、その後裏どりを聞かされ困惑し、最終的に『そういうこともあるのかもな』と少しだけ信じて終わる。
たまに本当の話なのかの議論が行われるが、本気で信じている人と疑っている人の割合は半々程度だろうか。
「確かにいくつか気になる設定なんかはありますけど、ギア:ソルジャーの能力も深界獣も生態も、絶対的にあり得ない話という訳じゃないんですよね……
ドラマ的な設定や物語性を除いてしまえば、大抵再現出来ちゃいます」
雪奈も少しは信じたようだ。
「それじゃあ、今もDGSの新しい目撃談もあったりするんですか?」
「そうだな……大体4,5年ごとに目撃されているらしい。
今年もソレっぽい話は湧いてるな。知り合いが詳細不明のバブルスフィアの不具合に巻き込まれたり、一真が後処理が面倒とぼやいたりしてる」
部外秘らしく何が起こっているのか詳しくは知らないが、それでも理解の外にある問題が発生していることは、雰囲気から察することができた。
「そういえば女子会や年度末実技試験の後の集まりでも姿を見かけませんでした!」
いや、一真は女子会に参加しないだろうし、年度末試験は事故や乱闘を防ぐために風紀騎士団総出で警備しているのが理由だと思うが……
特に訂正する必要もないのでいいか。
「そういうわけで、DAMA内の敷地を散歩するときには巻き込まれないように注意すること!」
まぁ、深界獣に襲われるのは公園や校庭などで展開されているバブルスフィアの中なので、俺たちは実験室が使えるから外のバブルスフィアで襲われることはないんだけどな。
「解りました!公園や校庭を通るときには、深界獣に攫われないようマスターとお手々をつないで移動しますね!」
いや、そこまでしなくていいんだが。
「ところでマスター。
一つ質問なんですけど」
「なんだ?」
「DGSが存在するということは、もしかしてキューラーも存在してるんですか!?」
問いかける雪奈の目がキラキラと輝いている。
キューティ・ヒーラー、略してキューラー。
中高生の女の子が魔法少女っぽい姿に変身して、悪の組織と戦うお話である。主に肉弾戦で。ヒーラーと言えば回復を捨てての殴打特化のビルドが素敵だから仕方がない。
「いや、そっちは聞いたことないな」
「そうですか……」
雪奈がしょぼーん(´・ω・`)と落ち込む。
……まぁ、気持ちはわかる。同じ穴の狢だ。
大きくなろうが子供のころの憧れは心の奥底に残ったままだ。
……仕方がない、ギア:ホーク(シルバーフェニックス)変身グッズの再現の代わりに、今度雪奈にキューラー(キューティ・イノセント)変身グッズでも作ってあげようか。
Real x Imagine - 了
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