表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/131

第一話 日曜朝のルーチンワーク

世界は意外と頑丈だ。例えばモンスターが現れようが、ダンジョンが現れようが、魔法の存在が明らかになろうが、高々数十年で日常に変わってしまう。

日常も同じだ。偶に大きなことがあっても直ぐに飲み込まれ馴染んでいく。

もっとも、俺の運が良かっただけなのかもしれないが。





「はぁああ!」


翼の生えた銀色の戦士が空を舞い、裂帛の気合とともに降下する。


「コレが自由のソラ……」


銀色の戦士に翼を掴まれた漆黒の戦士のつぶやきが漏れる。

しかし銀色の戦士はその言葉を聞かず、さらに速度を上げる。


「シューティングスター・セメトリー!」


銀色の戦士は漆黒の戦士の背中に乗り、翼を両腕で固めながら、音速を超える速度で地面に激突した。

その衝撃はすさまじく、地面が大きく陥没する。


「ぐあああぁぁぁぁぁ!!!」


漆黒の戦士が断末魔の声を上げる。


突風が吹き辺りを覆っていた土煙が晴れると、そこに立っているのは両手にもがれた翼を持った、銀色の戦士だけだった。

その足元には漆黒の戦士が横たわっており、割れた仮面から機械仕掛けの顔面が覗いている。


「コレが……心ノ力……

そレがあレば、ワタシもモット自由にソ ラ ヲ……」


漆黒の騎士の動きが完全に止まる。


「ダークギア:ホーク……

お前は強かったよ。

だが、間違った強さだった」


銀色の戦士の鎧が光に帰っていく。

ただ一人残された青年は、雲が吹き飛び晴天となった空を仰ぎ見る。

怨敵を倒したその表情は、空模様とは違い晴れたものではなかった……





「最っ高だったな!」


俺と雪奈はリビングで特撮ヒーローを見ていた。もちろんリアルタイムだ。


「やっぱり最終形態の初陣と敵幹部の激突回が重なると熱量が違うな!」


見ていた番組はディバイン・ギア・ソルジャー:ホーク。

20年以上の歴史を持つ、日本が誇る由緒正しい特撮シリーズである。


「昔から弟と一緒に見てたんですけど、普通にドラマとして面白いんですよね。

特に今回のシルエット:ホークとの関係性は最高です!」

「熱血系主人公と、心を持たないアンドロイドの交流はやっぱりいいね。

普段特撮を見ない人が流行りに乗ってるから、ギア:ホークとシルエット:ホークのファンアートは凄い勢いで増えているね。

今日の話でますます増えそうだ」

「おうおう!」


雪奈とアイズと花ちゃんにもなかなか評判のようだ。

ちなみに花ちゃんは何故か花見が終わっても消えず、八咫桜に住み着いたようだ。俺の魔力を受け取ったことで性質が変わったのだろうか?

たまにうちまで遊びに来ては魔力をねだってくる。

今日もいつの間にかリビングに居て一緒にテレビを見ることになった。




世界中の空の支配をもくろむ組織『機械仕掛けの空キロス・エクス・マキナ』が空を守る戦士『ギア:ホーク』を模して造った、機械仕掛けの戦士シルエット:ホーク、そしてその進化体であるメタルギア:ホークとダークギア:ホークはギア:ホークを超えるほどの人気を誇る敵役だ。

心と力を求めギア:ホークと時に戦い、時に共闘し、時に友情を育んだシルエット:ホーク。

しかし芽生え始めた自由を愛する心を恐れた『機械仕掛けの空』により、シルエット:ホークは心を壊され、『機械仕掛けの空』に誘導されギア:ホークとの望まぬ戦いを強いられる。

そして今回、失われたはずのシルエット:ホークの心が新しいパワーアップ・アイテム――フェニックスソウル・ギアとなり、ギア:ホークを勝利に導いたのだ。

だがそれは同時にシルエット:ホークとの永遠の別れを意味するものであった……




「……よし、買うか」


今日発売されたフェニックスソウル・ギアの話だ。

いや、買うも何もすでに予約注文完了しているのだが。


「ああ、やっぱり買うんですね」


雪奈がどことなく冷めた目でこちらを見る。

彼女はそういうグッズには興味がないタイプのようだ。

確かに子供っぽいかもしれない。でも今回のはギア:ホークとシルエット:ホークの劇中音声が再生できるんだぞ?

ファンとして買わない選択肢はないだろう。


「作品が続くためのお布施の意味もあるしな」


大きなお子様たちの助力も作品継続には必要なのだ。


「でも一人でガチャガチャするだけだと寂しくないですか?

弟はお父さん相手にキックしてましたけど」


言外にごっこ遊びに付き合うつもりはないと言われた気がする。残念。

でも雪奈に怪人役やってもらうわけにもいかないし仕方がないか。ハイレグレオタードの女幹部役は――うわ、睨まれた。

まさか思考を読まれたのだろうか。どのみち、麗火さんなら兎も角雪奈には全く似合わないから頼まないのだが。

だからと言って麗火さんに頼んだら燃やされるが。


「そうだな……せっかくだし今回は改造しようと思う」

「改造?

作中の小道具(プロップ)に似せる改造ですか?

たまに動画配信で見かけますね」


成長すれば、子供のころは本物に見えていたなりきり変身グッズもおもちゃに見えてしまう。

しかし成長すればそのおもちゃを本物に近づけることができるようになる。

だが、俺が目指すのはその先だ。


「いや、本物を再現する」

「本物……ですか?」


「そう、本物。

光って鳴って爆発して空を飛ぶ、『DAなりきり変身グッズ』だ」


DAMAに通う男子生徒なら、それっぽい再現は一度は夢に見るはずだ。


「ディバイン・ギア・ソルジャーのスペックで検索するとパンチ力5トン、キック力10トン、100メートル4秒で走るとか出てきますけど……

再現できますか?」

「それは初期モードだね。

先ほど公式サイトが更新されたけど、最終形態の『シルバーフェニックス』は歴代でも上位のスペックみたいだ。

シルバーフェニックス・ウィングは理論上亜光速にまで加速できる」


なにそれ。もしかして今後の展開のネタバレ?亜光速バトル期待していいの?


「いや、スペックの再現じゃなくて、見た目の再現だな。

ポーズをとると変身音が鳴って服装が変わったり、攻撃に合わせてそれっぽいエフェクトが出たり。

シルバーフェニックスだと羽根を生やしてある程度飛べるまでは再現したい……」

「結構大変そうですね。

変身は……バブルスフィア内の情報展開?それとも幻影でそれっぽく見せる?」


雪奈が公式サイトのギア:ホークの戦闘シーンを再生する。

どうやら興味を持ってくれたようだ。

すでに眼鏡(D-Seg)も使って再現に必要そうなDAの情報を集め始めている辺り、結構DAMAに染まってきたと思う。


「バブルスフィアと連動させるのが一番簡単だけど、出来れば独立したツールにしたいかな。

そうなるとオーソドックスな方法は魔力の物質化だね」

「魔力の物質化ですか?」



魔力の物質化は魔力を特定の形状にとどめ物質と似た特性を与える技術。魔力の操作により形状を変えることができること、維持に魔力が必要なこと、魔力が尽きると形状を維持できなくなることが特徴。

以下のような用途で使われることが多い。

・銃の聖剣の弾丸を作成することで弾数の問題を解決

・刃を魔力の物質化により形成することで聖剣を小型化

関連項目:物質化属性

出典: フリー百科事典『デヴィアペディア(Devia-pedia)』



「アイズさん、ありがとうございます。

確かにこれなら変身も実現できそうですね!」

「授業で何度かやってみたけど、集中力とイメージが難しいんだよなー。

しかもちゃんと形作るまでに時間がかかる。

まぁ、その辺りは聖剣回路に纏めれば問題ないと思うんだが……」


変身するときはドラマで見るのと同じように、謎の光やエフェクトを幻影や光学系の属性で周りを覆いつつ、裏でひっそりとスーツを展開する。

凝った変身をするにしても、5秒程度で終わらせたいが行けるか?


「早着替え自体はDAを使った舞台演出で存在してるみたいですね。

あれ?でも見た感じちょっと違ってますね……

衣装の工夫とDAでの工夫を合わせてるのかな?」


雪奈が動画をいくつかディスプレイに表示してくれるが、確かに魔力の物質化と少し違っているようだ。


「なるほど……すでにベースとなる早着替え技術があるから、その問題点や細かい部分をDAや魔力の物質化で補ってるみたいだな。

こことかシューズの交換とアクセサリの切り替えに魔力の物質化を使ってる」

「皆さんいろいろ工夫してるんですね……」

「そうだな。

実現してみるなら、演劇部の小道具係に意見を聞いた方がよさそうだ」


明日聞きに行ってみようか。


「ところでマスター。ちょっと気になったんですけど」

「なんだ?」

「マスターが魔力の物質化で全身をコーディネートした場合、何秒くらい維持できるんですか?」


なんだ、そんなことか。

それはもちろん――


「10秒くらいかな?」

「それは……すごいですね」


止めてくれ、そんな顔で無理に褒めないでくれ……


「ぉう」


花ちゃんも慰めるように肩を叩かないでくれ……


「……諦めるか」


こうしてリアル変身計画は着手されることなく終了した。




「それにしても、昔のディバイン・ギア・ソルジャーの能力って、DAで再現できるのが多いですよね」


変身動画を見た続きで、昔のシリーズに目を通していた雪奈がふと口にした。


「……?

そんなの当り前だろう?」

「当たり前、ですか?」


雪奈がこちらを見て首を傾げる。

ああ、そうか。彼女は知らないのか。




「ディバイン・ギア・ソルジャーは実在したヒーローをもとに製作されたハーフフィクション(・・・・・・・・・)なんだよ」




Drama x Hero - 了

お読み頂きありがとうございます。


モチベーションにつながるため、ブックマーク、☆評価いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ