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プロローグ_1 君の歯車は回っているか?

特撮ヒーローものの開始です。

一章と同じく、プロローグはスキップしていただいても問題ありません。

世界は脆く、突然泡のように弾けてしまうことがある。

日常も同じだ。突然穴が開き同じ日々は訪れなくなる。

もっとも、僕と君の運が悪かっただけなのかもしれないけれど。




「もっと!もっと火力が必要なのよ!4200度なんて、あの女の足元にも及ばないじゃない!」


公園でブレザーを着てサングラスをかけた少女が憤慨していた。

髪色は灼熱のような赤色で、ロングヘアを編み下ろしている。髪を彩るカラフルな沢山のリボンが特徴的だ。


「圧縮!そう、もっと圧縮できれば6000度くらいまでいけるはずよ!

もっと集中しなさい!!」

「無理だよ……

もう制御結界が溶けかかってるんだよ?

確かにあたしも使いきれてないけど、魔力を上げても精度を上げても、これ以上は持たないよ……」


その隣には赤銅のような赤色の髪をした、ショートヘアの少女。彼女も同じようにサングラスをかけている。

手には捻じれた杖のような聖剣(DA)を持ち、天に掲げている。その先にはピンポン玉サイズの白く輝く球体が浮いているのが見える。


「仕方ないわね。制御結界には消えてもらいましょう。そうすればもっともっと火力を高められるわ!」

「あたしたちも一緒に消えるよ!周りにいる人だってただじゃすまないし!

第一、6000度でも会長には負けてるじゃない」


彼女たちが言う通りにあの白い球が4200度に達している場合、結界が消え外部に漏れた熱量が最初に襲うのは彼女たちだ。

おそらく、身体は一瞬で消滅し、地面には影だけが残るだろう。

同時にバブルスフィアも内部魔力圧力の膨張により破壊される可能性がある。


「ぐぬぬ……

専用のバブルスフィアさえあればもっと成果が出せるのに、成果がないと専用のバブルスフィアが用意してもらえないの、色々と問題ない!?」


自身でバブルスフィアの設定をいじれるようになれば、超熱量のDA実験も安全に行うことができる。

しかし伝手も設備もない生徒は、こうやって汎用設定のバブルスフィアが広域展開されている公園や校庭に集まり実験するしかない。

唯一彼女らでも設定をいじれる校内の実験室は、何時も予約でいっぱいだ。


「もう良いって。

あたしはね、カナちゃんには感謝してるんだよ?

(ホムラ)』なんていう弱い属性なのに、こんなに強い炎が出せたのも、全部カナちゃんのおかげなんだから」

「ミク……」


麗しき友情。

少しのすれ違いなど、彼女たちの障害にはならないのだろう。

だからこそ、その崩壊は美しい光を放つのではないだろうか。



光を愛するものならば、きっとその光にも愛を覚える。

だから乗り越えられぬ障害を。心を砕く困難を。



世界が僅かに陰る。昼間の公園が、夕日が落ちて闇に飲まれ始めたかのように闇に色に染まっていく。

しかし、二人は気が付かない。公園から、二人以外が消えていることにも気が付かない。


「――そんなだから駄目なのよ!

私はもっと、もっと上を目指さないといけないの!」


様子を変え、激昂した灼熱の髪の少女―カナは、赤銅の髪の少女―ミクから杖を奪い取る。


「もういいわ!あとは私がやる!

私がもっともっと魔力を注げばきっと――!」

「カナちゃん!!」


ミクが手を伸ばし杖を取り返そうとするが、カナは後ろに大きく飛び距離を確保すると、杖に追加の魔力を込め始めた。


「もっともっともっと!」


サングラスの奥で少女の瞳が怪しく光る。


「5000度、6000度……そうよ、ミクの力なんていらなかったのよ!

初めから私が全力を出せば限界なんてなかったの!

あは、あはは、あははははは!」

「おかしいよ、おかしいよカナちゃん!

カナちゃんの魔力を足しても、こんな温度になるはず――」

「うるさい!」


駆け寄り杖を奪おうとしたミクを、カナが杖で殴り飛ばした。


「きゃあ!」

「ミクはそこであたしがもっともっともっと凄くなるのを見てればいいの!

ほら!もうすぐ一万度を超えるわ!」


彼女たちの視線の先、白い球体は辺りを染め上げる程に煌々と光を増し周囲の草は、木は、制御しきれず漏れ出した熱量に負け燃え始めた。


熱に耐えられないのは二人の少女も同じだろう。杖を持つ少女の手は真っ赤に染まり、高度な耐熱性能を有する制服も、所々焦げ目が見え始めている。

このままでは一分もたたないうちに二人は体内の油に引火し生きるトーチと化すだろう。


しかし幸か不幸か、白い球体は突如として現れた闇色の牙に砕かれ消滅した。


「え?」


カナは、何が起こったのか理解が追い付かず、間の抜けた声を発した。


白い球体のあった場所に浮かぶ闇色の牙。それは何かを咀嚼するように小刻みに動いては、ゴリゴリという音を発する。


「なによ、これ!なによ!なんなのよ!」


カナはパニックを起こし、髪をぐしゃぐしゃに掻き毟る。


対して、ミクは冷静だった。


「気温が……下がらない……

カナちゃん、逃げよう!」


そこに存在しているのは牙だけではない。そして、まだ見えないソレは白い球体に籠った熱と、魔力を全て受け継いでいる。

それを察したミクはカナの手を取りその場から走り出そうとした。


もっとも、それはすでに遅かったのだが。


「Grrrggggggggaaaaaa!!」


獣の叫び声が辺りに木霊する。

闇色の牙に赤き光が灯る。光はベールを剥ぐように、その獣の全体像を世界に投影した。

流麗なラインを描く、筋肉質の引き締まった身体。体毛は赤く、短く、刺々しい。

顔は獰猛なイヌ科の肉食獣。地上の生物で似通った動物としては、ドーベルマンが当てはまるのだろうか。

しかし二点ドーベルマンとは似つかない所があった。

一つ目、身体の節々から立ち上る、白い炎。

二つ目、その生物は二足歩行――歪な人型だった。


「なに、これ……

モンスター?なんでこんなところに!」


カナは突如として目の前に現れたモンスターにショックを受け尻もちをつく。

どうやら腰を抜かしたようだ。


「カナちゃん!立って!逃げないと!

周りのみんなも――あれ?どうして誰もいないの?」


ミクは辺りをキョロキョロと見渡しながら、身体がまるで動かないカナの身体をその腕を引っ張り引きずり、モンスターから離そうとする。


「へ、平気よ!私だって聖剣剣聖だったもの!こんな化け物くらい」


しかしカナはミクの腕を振り払うと、手に持った溶けかけの杖をモンスターに突き付けた。


「縮まりなさい!納まりなさい!燃え尽きなさい!

もっと炎を!もっと圧力を!地より出でて天に弾けろ!

地刻天焼(チコクテンショウ)!」


モンスターの足元が砕かれ、業火が噴出する。

炎はモンスターを包む様に局地的な竜巻となり、次第に勢いを増しつつ半径を狭めていく。


「これ、ならっ!

実っ績っ!!」


大気の熱にカナの喉が掠れ、僅かな言葉のみが吐き出される。


「カナちゃん凄い……!

これなら!」


ミクが希望に顔を輝かせた次の瞬間、炎柱の内側から伸ばされた一本の腕が、二人の顔を凍り付かせる。


「GGrrreeeeeaaa!!」


怒りに満ちた雄たけびで炎をかき消すと、モンスターは伸ばした手を乱雑に振り切り、カナの杖を遠くに弾き飛ばした。


「2000度の炎……動物が、生きていられるはず……」


きっと二人は優秀な聖剣剣聖なのだろう。

だが彼女たちは知らなかったのだ。

モンスター、特に深界の獣(・・・・)に、科学世界の常識など通じないと。

このモンスターは炎より生まれ、炎を食らう、熱が形となったもの。

数千度の熱はもちろん、数万度の炎ですらやけどを負わせることも出来ない。


「あ、あぁ」


恐怖に怯え、指一本すら動かすことのできなくなった少女に、モンスターがゆっくりと炎に揺らめく腕を伸ばす。


「い、いやぁあ!」


ミクが叫び声をあげて走り出した。

逃げ出したのだ。正しい選択だ。今この場で彼女ができることなど何もない。自分の命を優先したところで、誰が彼女を責められるだろう。

もっとも、見捨てられた者の心境たるや、凄まじいモノだろうが。


「なん……わたしが……」


モンスターは腕を伸ばしカナの腕をつかむと、持ち上げ宙吊りにする。


「あぁぎゃああぁ……!」


DAMAの生徒の着る制服は耐熱処理が施してある。しかし、モンスターの体表温度からすれば、その程度の耐熱などほとんど意味をなさない。

ただ、この少女の着ている制服が耐熱に特化したものだったことは僥倖だっただろうか。そうでなければ腕は一瞬で焼け落ちていたはずだ。


「Grrruuu…」


モンスターはゆっくりと恐怖を煽るように、もう一つの腕を少女の顔に伸ばす。


「やめ……て……」


少女の顔が恐怖に引き攣る。

恐怖を食らうように、モンスターが舌なめずりする。

そしてその時は訪れる。モンスターの指がゆっくりと頬に触れ―――横からの衝撃に弾かれた。


「カナちゃんに……触るなあ!」


歪んだ杖を握ったミクが立っていた。

走ったのは、弾き飛ばされた杖を拾いに行っていたらしい。


「はなせ!はなせ!」


ミクは何度も杖をモンスターに叩きつける。

それはモンスターのダメージにはならなかったが、気には障ったらしい。

モンスターが振り下ろされた杖をつかむと、一瞬にして杖は解け落ちた。


「ひぅ!」


溶ける杖の熱量に驚いたミクが小さく悲鳴を上げる。

その瞳はすでに涙目だ。


ミクは武器を失った。闘志も失った。

しかし、どうやら友人を捨てる気はないらしい。

彼女は何もできないまま、逃げることすらもせず立ち尽くすだけだった。


つまらない話だ。白ける話だ。

だが、目の前で友人が焼かれ、人の焦げる匂いを嗅いだ時の表情は、少しばかりモンスターを楽しませるだろう。



問題があるとすれば、その瞬間が訪れなかったことだが。



「そこまでだよ!」


遠くからの声と一緒に、銃弾の光がモンスターに届く。

ミクの攻撃とは違い、その銃弾はモンスターに確かな衝撃を与え、モンスターはカナを手放した。


「rrrRRRRrrrraaaa!!!」


今までの比ではない重音量が辺りに響く。しかし、その雄たけびへの返答は、黒光りするバイクの衝突だった。

バイクはモンスターを跳ね飛ばすと、その慣性を停止させ少女たちの前に急停車する。


「平気か?」


バイクから飛び降りた青年はカナを抱きかかえると、一跳びで彼の来た方角――銃を構えた少年のところまで移動した。


「酷い火傷だね……治療するからじっとしていて」


少年は青年からカナを受け取ると、その腕を確認し、魔法による治療を始めた。

少し遅れて、ミクも彼らに合流する。


「リン、任せた」


青年はヘルメットを投げ捨てると、無傷のまま立ち上がったモンスターに向き合う。


「うん。

でもショート、この深界獣(アウター)は今までにない魔力を感じる。きっと強敵だ。

油断は禁物だよ」

「了解。ギアは緩めない」


青年は懐から円盤を取り出すと、そこに描かれた文字を見つめる。


Divine Gear 999


青年は円盤を一度前にかざすと、それを勢いよく左胸に叩きつけ、回転させた。


動輪接続(サイクリング)!』


周囲に機械音声が響き渡り、呼応するように胸ポケットから一枚のカードが飛び出る。

青年はそのカードを手にすると、左腕に現れたスロットにカードをスライドさせる。


心炉起動(アクティベイト)!」


青年が高らかに叫ぶ。

瞬間、青年の身体を光が包み、さらに光が鎧となり彼の身体を武装する。


『パワーナイン!スピードナイン!マジックナイン!オールナイン・フィーバー!

ディバイン・ギア:ナイツ!!』


光が収まると、そこには歯車の意匠が全身を飾る鋼鉄の戦士が立っていた。


「始めよう。

勝利へのカウントナインだ」




つまらない話は終わり、心躍るヒーローショー(・・・・・・・)が幕を開ける。





Magic x Gear - 了

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