表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/131

幕間 宴を桜花で彩って_宴もたけなわ、最後の締めは爆花繚乱

「桜に込められた最後の願い……

 それは『花見もいいけど花火もいいな』です」


「花見もいいけど花火もいいな?」


 何言ってるんだコイツ。まぁ、想像はできるが……


「つまり……桜の花びらを花火に変えることで、花見を終わらせて花火大会が始まったと?」

「そういうことになります」

「適当にも程があるな!?」


 無茶苦茶ぶりについ頭を抱えてしまう。

 花見客に比べればまだ原理は解るが、何故このような方法で願いを叶えようとしたのかが解らない。

 いや、解ることは解るが釈然としない。


「くそっ、『願い』属性についてはもうどうでもいい。

 今何をするべきかだが……」


 当たりを確認すると、爆発音の響く頻度が高くなっていることがわかる。

 それにより、花見客がパニックを起こしかけているようだ。全く気にせず飲んで歌ってしている花見客も沢山いるが。


 D-SegとSNSの花見ルームを確認すると、風紀騎士団は全員無事のようだが、避難誘導は遅々として進んでいないらしい。今は手が届く範囲を守るので精いっぱいのようだ。

 爆発花びらは突然現れる上に数が多く、加えて多くの花見客たちは話を聞かないので仕方がない。

「面倒なのでDAで範囲外に吹き飛ばしたら額の桜が散って動かなくなった」という報告も散見される。

 いや、吹き飛ばすなよ。


『学習と出現パターン予測完了。データをまとめたよ』


 アイズから通信が入った。


『こちらに転送、地図上に表示してくれ』

『了解』


 俺の指示を受けアイズがD-Segに地図と爆発花びらの位置を表示する。

 画面がほぼマーカーで埋まるほどに多い。さらに見ているうちにどんどん増えていっている。

 さすがにこの量では一真のカザグルマでも対処しきれないだろう。


「これが花びらの分布……ここまで来るといっそ清々しいですね」

「面倒を越えて楽」


 アイズが一真と二葉にもデータを送ったのだろう、二人はそう評価した。


「行けるのか?」

「そうですね、行けると思います。

 花見客と違って邪魔もないですし」

「……麗火さんみたいに焼き尽くすのは無しだぞ?」


 麗火さんの得意分野は熱操作。彼女なら数秒で全ての花びらを焼き尽くすことができるだろう。

 ただし、広域展開したバブルスフィア内部もすべて焼失する。


「焼き尽くしません。

 先ほどのように攻撃範囲の指定をお願いします。ただし、今度は線ではなく面の形状で。

 そうすれば瞬く間に消し去りましょう」


 一真が、俺とメイドさんと花見客を安心させるように、にこりと笑う。


『アイズ』

『作業中……完了。表示するよ』


 さすがアイズ様仕事が早い。

 D-Segを通して、無数の赤い平面が見える。

 平面の形状は時々刻々と変化していく。花びらの落下に合わせてリアルタイムで更新しているんだろう。


「ありがとう。じゃあ行くよ、二葉」

「うん、まかせて、お兄ちゃん。

 セイカ、分離展開」


 二葉の声に合わせて、彼女の持つ大剣――セイカの刀身に亀裂が走る。

 高まる駆動音が辺りに響き、装甲が複雑に変形、展開されていく。

 おおよそ三秒後、大剣は八つのDAに分解された。


「カザグルマ、結合展開」


 続いて一真の声に合わせ、一真の持つ細身の剣――カザグルマの刀身がひび割れ、同じく八つの剣に分かれた。

 八つに分かれたセイカ、八つに分かれたカザグルマは自動的に宙に舞い上がると、それぞれが相方となるDAと結合する。

 こうして、中空に8つの銃や槍、剣を模したDAが誕生した。


「「これからご覧いただくは、光の薔薇咲く展覧会」」


 一真と二葉が声を合わせ、お互いの手をしっかりと握る。



「「スペクタクル・ローズ・パレード」」



 天蓋覆う桜よりも鮮やかに、赤い花びらが周囲一帯を照らし出した。

 一瞬、しかし鮮烈に瞳と心に焼き付く光景。


 光が収まった後、眼に映る範囲のすべての花びらが消えていた。

 D-Segに投影される地図にも、一つのマークも映らない。



 初めて見る、一真と二葉の合体技(・・・)

 詳細は解らないが、自在に飛び回る一真のカザグルマに、レーザーを照射できる二葉のセイカを結合して周囲一帯を薙ぎ払ったのだろう。


「これでしばらく時間を稼げますね」


 結合したDAを手元に戻し、一真が浅くため息をつく。


「早く次の手を」


 二葉が急かす様にこちらを見る。彼女の額にも、うっすらと汗がにじんでいる。


 朝から数時間ぶっ続けで働き続けているのだ。疲労が蓄積しているところに集中力の要求される大技を使ったのだから、こうなるのも当然だろう。

 あと数回は同じことができるだろうが、花見が終わるまでは持たない。

 爆発花びらは今も次々と生成されている。早く何とかしなくては。


 D-Segにマークが再び表示され始めたとき、俺はふとあることに気が付いた。


『アイズ、地図は完全なままだが、DAドローンは無事なのか?』


 ドローンにはバリアのような機能はない。カメラで上方は見えると言っても、降ってくる花びらを避けることはできないはずだ。

 そうなると、すでにいくつかのドローンが爆発によって壊れていてもおかしくない。


『ドローンは枝付近を飛んでるけど、この位置だと花びらに触れても爆発しないね。

 低めを飛んでた4台は花びらに触れて壊れてる』

『なるほど……近くで爆発すると枝にもダメージがあるからか』


 つまり、今の状態でもドローンを使用することはできる。

 ドローンにリアルタイムアップデートで攻撃性能を持たせれば……いや、そうじゃない。

 俺がとるべき解決方法は最初から決まっている(・・・・・・・・・・)はずだ。


『アイズ、試算を頼む』


 思いついた解決法をアイズに伝える。


『計算中……

 うん、可能だね。ただ、バッテリーが長く持たない。

 10分くらいで機能しなくなるかな』


 つまり、魔力を定期的に補給する方法が必要だと。

 魔力の供給源は、風紀騎士団の人たちか、バブルスフィアしかない。

 騎士団の人たちはすでに大量の魔力を消費している。彼らには荷が重いだろう。

 バブルスフィアは、魔力の急激な減少により維持できなくなる可能性がある。

 いや、サイクルを組んでバッテリーを交換すれば、バブルスフィアの維持魔力の急激な低下は防げるはず……


「ぉう。おうおう」


 気の抜けるような声に思考が中断される。

 声の方を見ると、ずっと一緒にいた花見客ちゃんが、俺の方が心配そうに見上げていた。


「おう!おうおう!」


 何やら元気そうに両手を上げる。


「…………そうか、そうだよな」


 俺は腰をかがめると、花見客ちゃんの頭をゆっくりと撫でた。


「お花見、楽しみたいよな」


 花見客ちゃんが、嬉しそうに頷く。


「よし、それじゃあ俺の願い(・・)を聞いてくれ」



 俺には解析できていない技能(ギフト)は使えない。

 しかし技能そのものと触れ合って、力を貸してくれるのなら、きっと何かができるだろう。



「それじゃあ、宴の続きを楽しもうか」



 花見の最後は贅沢に。心に残る宴にしよう。




『アイズ、それじゃあ予定通りに』

『了解。八咫桜との接続…………全件完了。

 スロットの内容変更、指向性念話を重力反転に…………全件完了。

 DAIMの残り容量は5%。気を付けて』

『必要になれば風紀騎士団のを借りるさ』


 頭上に浮いているドローンを確認する。

 ドローンからコードが伸びており、八咫桜につながっているのが見える。

 残っている96台すべてが同じ状態になっているだろう。


『それじゃあ起動開始だ』


 注目を集めるように、パチンと指を鳴らす。



「局地的重力反転」



 舞い落ちる花びらが流れを変え、一斉に上空に舞い上がっていく。

 局地的重力反転――俺がここに来るときに移動に使ったのと同様の機能だ。指定した対象の重力方向を操作できるが、それを八咫桜に対して使用している。

 それだけだと舞い落ちる花びらには作用にしないので、周囲に存在する対象と同様の属性に対しても効果が発揮するよう、回路を修正している。


 重力制御は八咫桜から離れてしまうと効果を失うが、ここはバブルスフィアの中だ。桜の木の下さえ無事なら問題はないだろう。

 そう考えながら舞い上がっていく花びらたちを眺めていると、花びらは高く高く舞い上がった後、空を彩るように爆発した。


「なるほど。ちゃんと花火としても動作するのか」

「おう!おう!」


 桜を囲むように連続して花開く花火に、花見客ちゃんも興奮している。


「綺麗」

「これが本来望んでいた姿なんでしょうね……」


 二葉と一真もDAを納め、桜と花火に見入っている。


「さて、それじゃあドローンのバッテリーが尽きるまでに終わらせないとな」


 俺は腰をかがめると、花見客ちゃんの手を取った。

 握ってみると、空気が入っているかのような弾力で、凄くフニフニしている。


「おう?」


 花見客ちゃんがこちらを見る。目はないけど、目線が合うのを感じる。


 俺は花見客ちゃんの存在を感じながら、手のひらに神経を集中させる。


 ……思った通り、花見客ちゃんの中には聖剣回路が通っている。

 一件ルール無用に思える『願い』属性だが、根柢のルールからは外れていない。

 回路の内容は理解できない。しかし回路も既存の体系から外れているだけで、きっと意味のあるものなのだろう。

 まぁ、今はその辺りはさほど重要ではない。重要なのは属性の判別だ。


「少しむず痒いかもしれないけど、力を抜いてリラックスしてくれ」


 花見客ちゃんに魔力を流す。

 俺はアドミニストレータ。理論上あらゆる属性を操ることができる。それは謎に満ちた『願い』属性も例外ではない。


 魔力の波長を変えて流し続けること10秒。鍵が鍵穴にすっぽりと収まるような感触があった。

 その波長を維持したまま、少しずつ流す魔力を強くしていく。


「なぁ、花見客ちゃん……

 長いし花ちゃんでいいか。

 花ちゃんは花見が楽しいか?」


 花見客ちゃん――花ちゃんに語り掛ける。


「おう!」

「そうか。

 でも花火が落ちてくるのは嫌だよな?」

「ぉぅ……」

「そうだよな。怖いもんな。

 いまはドローンが頑張って花火を打ち上げてくれてるけど、魔力が尽きたら終わっちゃうんだ」

「おぅ!?」

「慌てるな。魔力が尽きたらの話だ。

 今この桜の木には魔力が満ち満ちている。だから、その魔力を少しだけドローンにも分けて欲しいんだ。

 花ちゃんならできるよな?」


 俺には『願い』属性は理解できない。

 きっと理解できるのは、元々の使い手と、この花見客たちだけだろう。

 だから、花見客自身に願わせる(・・・・・・・・・・)のだ。このまま花見を続けたいと。


「おう!」


 花ちゃんが勢いよくジャンプする。どうやらやる気のようだ。

 俺が流した魔力が、花ちゃんの全身を隅々まで行き渡っていくのを感じる。願いを叶えるのに必要な魔力がどの程度かはわからないが、きっと役に立つだろう。


「おおう!」


 花ちゃんは俺から離れると、他の花見客の方に走っていった。


「おおうおう!おうぅ!ぉうおおう!」


 両手をぶんぶん振り回しながら何やら熱弁している。


「ぉぅ。ぉう。おう!」


 熱意が他の花見客に伝わっていく。


「おう!おう!」


 最終的に、周りの花見客全てが両手を上げて騒ぎ始めた。


「おう!」


 花ちゃんが俺の方を振り向きジャンプする。


「花ちゃん、花びらが……」


 2枚だった花ちゃんの花びらが、何時の間にか3枚になっている。


「おう!」「おう!」


 ジャンプするたびに数が増える。

 4枚。5枚。満開に達する。そして――


「おう!おう!おう!おう!おう!おう!おう!!」


 花見客の大合唱とともに、花ちゃんの身体が輝き始める。


「花ちゃん!?」


 目も眩む光が収まると、何事もなかったかのように花ちゃんが立っていた。


「ああ、姿が変わったりはしないんだ」


 残念なような、嬉しいような。


「ぉう!」


 複雑な気分でいると、花ちゃんが右手を挙げた。

 釣られるようにしてそちらを見ると、DAドローンが輝いている。


『残り魔力量の急上昇を確認……どこからか供給されてるみたいだね』


 どうやら上手く行ったようだ。


「花ちゃん、ありがとうな」


 俺は誇らしげに右腕を挙げる花ちゃんに、ハイタッチする。


「何か降ってきましたね」

「雪?」


 一真と二葉の声に辺りを見回すと、ドローンから青白い光がゆっくりと落ちてきている。

 手を伸ばし触れてみると、光は解けるように消えた。


『解析中解析中……解析完了。

 ドローンからあふれた魔力が大気中の埃を核に物質化しているね。

 大気中に存在できるのはおよそ20秒。属性は無し。体内に含んでも影響はないよ』


 桜から供給される魔力が多すぎてバッテリーから容量をオーバーしたという事だろうか。それにしては普通の動きと違うが……

 いや、この考察は野暮だろう。

 俺はすでに答えを知っている。


「なんだ、花見と花火だけじゃなくて、雪見までしたかったのか」


 花ちゃんの頭を撫でる。


「おう!」


 花ちゃんは、大きな声で肯定した。




 依頼は終わり花見が始まる。


 泥酔客はいなくなった。花見客たちに何か心境の変化でもあったのだろうか、新たに飲み過ぎて暴れる花見客も見なくなった。

 花火は舞い上がり身体に降り注ぐこともない。


 どこからか花見の話を聞きつけたのだろう、次第にDAMAの生徒が集まり、大規模な花見が始まった。

 相変わらず花見客たちは好き勝手飲んで歌って踊っているが、生徒たちは大して気にしていない。

 むしろ一緒に歌ってる。


「よぉ。ヤベェ依頼が無事終わったんだってな」

「お疲れ様ですわ」


 メイドさんと一緒に花ちゃんの相手をしていると声をかけられた。

 愛韻と音彩だ。

 二人とも両手に満杯のビニール袋を持っている


「差し入れだぜ」

「お菓子と飲み物ですわ」


 愛韻はピンク色のブルーシートにどさりと腰を落とすと胡坐をかいた。

 音彩はそんな愛韻の膝をぴしりと叩くと、女の子座りで愛韻の隣に座る。


「ご飯もあるわよ」


 後ろから麗火さんがお重を持って現れる。

 五段重ねだ。まさか授業が終わってからずっと料理していたのだろうか。


「また迷惑かけちゃったわね」


 麗火さんは申し訳なさそうに頭を下げると、お重を置いて俺の隣に座った。


「泥酔客はともかく、花火は仕方ないさ。

 今までなかったんだろう?」

「そうね……でも予想はできたはずだわ。

 情報の精査ができていなかった、剣聖生徒会と風紀騎士団の責任です。

 ごめんなさい」

「会長が誤る必要はありません。予期せぬ事態に対応することも含めての依頼。

 会長は彼に甘すぎるのでは?」


 俺たちの会話に翠が割って入る。

 彼女はクーラーボックスを持ってきていた。


「お、デザート?」


 愛韻がクーラーボックスのふたを開けて覗き込む。


「冷凍みかんだ」

「お、おう」


 愛韻は無表情でクーラーボックスを閉めた。


「冗談だ。冷凍りんごと冷凍バナナも入っている」

「根本的な内容は変わってねェじゃねぇか!」

「それも冗談だ。アイスとシュークリームも入っている。

 後で食べよう」

「なんだよビックリさせんなよ。副会長もやればできるじゃねぇか」

「愛韻!その態度は何ですか!もう少し副会長に礼儀を――」


 音彩が愛韻をぺしぺしと叩く。

 彼女たちは何時も通りだなぁ。


「あっちはおいておいて、俺も翠さんと同意見だ。

 アドリブで対応するのも俺の仕事だよ。気にせずもっと気軽にポンポン依頼を投げてくれ」


 予め貰える情報は多い方がいいが、依頼内容から問題と望みと解決策を導き出して対応するのはこちらの仕事だ。


「……そう言っていただけると助かるわ。

 ただ、今回は予想より難易度が高く、結果も満足のいくものだったから、特別報酬として二つ名を進呈するわね」

「おお、いいね、二つ名。気兼ねなく受け取れる」


 二つ名があるからと言って何かが変わるわけでもない。

 ゲームのようにステータスに+X%の補正がかかったりもしない。精々名乗るときのバリエーションが増える程度だ。

 だがしかし、だからこそ集めがいがある。


「『お花見大名(キング・オブ・サクラフェスティバル)』と『花見客の支配者(ロード・オブ・サクラカスタマー)』のどちらがいい?」

「やっぱりいいや」


 さすがにその名前はちょっと……この間貰った「お役立ち眼鏡」も酷かったが。


「えぇ……良いと思ったんだけどな……」


 麗火さんがしょんぼりする。


「そうね、それじゃあ『三光宴(サンコウエン)』」

「『三光宴』?」

「ええ。今後も花火が舞って雪が降るのなら、そのお花見の名前は三光宴になるの。

 だから、その立役者の良二くんにその名前を進呈するわ」


 三光宴。桜と花火と雪の色に包まれた、花見客との愉快な宴。


「そうだな、いい名前だ」

「おう!」


 俺が笑顔で言うと、花ちゃんも片手をあげて賛同してくれた。


「それじゃあ第一回三光宴(仮)を始めましょう!と言いたいけど、その前にしないといけないことがあるの。

 良二くんたちは先に始めちゃっていいからね」


 麗火さんは立ち上がると、こちらに近づく二人の方に歩いて行った。


「会長お疲れ様です。警備の方は問題ありません」

「お腹すいた。休憩休憩」


 一真と二葉だ。泥酔客などの情報は逐一ドローンからD-Segに伝えられるが、一応実際に見回りはしておいた方がいいということで席を離れていた。


「お二人にお話があります」

「なんでしょう。一発芸の相談ですか?」

「デザートの配分?」

「違います。

 今回の花見客の退治、良二くんが合流してから全ての指揮を彼に任せていたわね?

 貴方たちは風紀騎士団の団長と副団長。本来は貴方たちが的確に指示しなければならないの」

「すみません……」

「ごはん……」

「解決法にしても、思いつかないのは仕方がありません。でも、団員から何かアイデアを募集するなり――」


 うん、あちらは長くなりそうだ。さっさと始めてしまおう。


「お花見するなら雪奈も来れればよかったな」


 雪奈の中学時代の最後の一日だ。きっと大切な思い出になるだろう。今日も卒業式で色々なことを感じるはずだ。

 だが、こちらのお花見も、いい思い出になっただろう。


『そうだね。だから呼んでおいた』

『え?』


 アイズからの通信に疑問符を挙げる。



「マスター!

 良い桜と良い花火と良い雪ですね!」



 雪奈の声が聞こえる。

 声の方を見ると、セーラー服を着た雪奈が手を振りながらこちらに走ってきていた。


「どうしたんだ?」


 確か今日はそのまま家に泊まるはずでは。


「アイズさんから素敵な写真を沢山もらったので、お父さんに頼んで連れてきてもらいました!

 なんと!クラスのお友達も一緒です!」


 息を切らせ目の前まで来た雪奈が後ろを振り向く。

 彼女の目線の先には、少年少女と大人たちの姿が見える。クラスメイトと両親と教師だろう。


「そうか……良かったな」

「おう!!」


 ああ、本当に良かった。

 花ちゃんも嬉しそうだ。


「良かったです!

 ところで、この子は何ですか?」

「ああ、こいつはな――」



 太陽が沈み始め、三光に一つ光が増える。

 まもなく忘れない夜が訪れる。

 本当の宴はここから始まる。





 Load of Sakura Customer - 了

お読み頂きありがとうございます。


モチベーションにつながるため、ブックマーク、☆評価いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ