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幕間 宴を桜花で彩って_宴はますます盛り上がる

「団長!こちらの手が足りていません!応援お願いします」


 一真に説明を受けていると、花見客をかき分けるようにして女生徒が現れた。

 服装は黒のロングドレスに白いエプロン。ベージュ色のセミロングの髪は肩辺りからウェーブしており、頭にはホワイトプリムが乗っている。

 紛うことなきクラシックスタイルのメイドさんだ。

 風紀騎士団は戦闘要員と補助要員に分かれており、戦闘要員はスーツ、補助要員はメイド服か執事服を模したブレザーを着ている。


「良二」

「了解」


 俺に手伝えという事だろう。


「イノベーション・ギルドの平賀良二だ。

 依頼を受けて応援に来た。今の状況を教えてくれ」

「良二さまですね、お話は伺っております。本日はよろしくお願いします」


 メイドさんがぺこりとお辞儀する。


「現在戦闘要員十二名と団長、副団長で泥酔客鎮圧作戦を行っています。戦闘要員にはあらかじめ区域を指定し、その中で泥酔客を見つけ次第退治しています。

 私共補助要員は戦闘要員のサポートと花見客の相手、片付けなどを担当しております」


 戦闘要員が少なすぎる。三年生が引退して補充がまだだからだろうか。


「団長と副団長で半分を担当していただいてますが、それでも手が足りていないのが現状です」


 団長の一真と副団長の二葉は長射程高精度のDAを持っており、ほとんど動かずに広範囲をカバーできる。

 しかしそうでない団員たちは花見客の人ごみの中近づいて対応しなければならないわけだ。また、泥酔客が先ほどみたいに暴れていれば目立つが、そうでない場合は探すのも大変だろう。

 一真はD-Segを装備しているため望遠機能などで泥酔客を探すことができるが、すべての団員への配布はまだ行えていないはずだ。このメイドさんも裸眼だし。


「しかしお一人ですか……あと数人は欲しいのですが……

 でも、噂の斬空工具があれば数人分の働きも期待できますか?」


 メイドさんが眉根を寄せて呟く。

 俺一人ではお気に召さないようだ。

 まぁ、俺の実力は騎士団員にも満たない。三人いて団員一人分くらいの強さだろうか。そういう意味では彼女の眼は正しいと言える。


「残念ながら持ってきていないな。花見客を全員斬っていいなら用意するけど」


 斬空工具は複数人相手の戦いを考慮していない。ある程度攻撃対象を選んだりはできるが、乱戦になった場合はコントロールしきれず範囲内の物体をオートで切断し続けるだろう。


「それならいらないです」


 メイドさんはきっぱりと断った。


「やっぱり泥酔客以外を攻撃するのは問題なんだな」


 先ほどから度々周りで攻撃音が聞こえるが、普段聞く爆発音と比べだいぶおとなしい。余波で半径10メートルを吹き飛ばすようなことはしていないようだ。泥酔客以外に被害が及ばないよう調整しているのだろう。


「当たり前です。花見をしているだけのこんな可愛い子を攻撃するなんて許されるはずないでしょう」


 メイドさんが足元に近寄ってきた花見客を持ち上げると、ぎゅっと抱きしめた。

 幸せそうだ。花見客もどことなく嬉しそうだ。表情は全く読めないが。


 花見客を抱くメイドさんを見る一真の表情はのほほんとしているが、その眼は「全滅させるだけなら楽なのに」と雄弁に語っている。


「……うん、まぁそんなことだろうと思ってた。もちろん、八咫桜への攻撃も禁止だな?」

「はい。どのような影響があるかわかりませんし、バブルスフィア解除後もダメージを受けたストレスは残り、最悪枯れてしまう可能性もあります」


 バブルスフィア内部での怪我はバブルスフィア解除後に消えるが、怪我をしたというストレスは残るし、死亡時には拒否反応から死亡酔いすることもある。それは植物も同じだ。

 バブルスフィア内で踏み荒らされた植物は、他と比べ数日以内に枯れてしまう割合が高いという研究報告があげられている。


「とりあえず条件は理解した」


 花見客の中に大量の泥酔客が混じっている。

 攻撃対象は泥酔客のみ。

 花びらの枚数が多いほど優先して退治しなければならない。

 高範囲攻撃は禁止。

 八咫桜への攻撃は禁止。


 手持ちのDAから自分がやるべきことを考える。アイズの用意した高火力殲滅DAは却下。精度はそれなりに高いが火力が高すぎる。熱量が発生するので周りの花見客や桜に引火する可能性もある。

 そもそも俺に求められているのは戦闘能力ではないはずだ。


「……よし、決まった。それじゃあ楽しい楽しい花見の時間を始めようか」


 ただし、見る花は地面に積もる、泥酔客が散った跡。




『アイズ、DAドローンの調整を手伝ってくれ。撮影に加えて投影と指向性念話送信』

『了解』


 アイズに依頼し、DAIM内にあるDAドローンの調整を行う。スロットにオプションを追加するだけなのですぐに終わる。


『完了』

『じゃあドローンのコピーをお願い。とりあえず100台くらい』


 バブルスフィア内ではDAIM内のデータを実物として取り出すことができる。しかし一つのデータにつき一つしか取り出すことができない。

 そのためあらかじめDAIM内に複製してから実物に変換することになる。


『コピー完了。容量は残り30%だね』


 コピーにはメモリの容量が必要だ。つまり、DAIMの全容量が実物化できる上限となる。

 まぁ、今回はこれ以上実物化する予定はないので問題ないだろう。


『桜の下に均等に配置されるように飛ばして。その後撮影』

『了解。なんとなくわかったよ』


 俺の周りに無数のDAドローンが出現し、飛び立っていった。


「凄い数のドローンですね。一人で動かしているんですか?」


 メイドさんが声をかけてきた。


「そうだね。アイズ――ここに来てないもう一人のメンバーが操作してる。とは言っても、座標指定すれば基本的にオートで飛んでってくれるけどね」

「なるほど……

 あのドローンで攻撃するのでしょうか?」

「いいや、あれは撮影と通信用」


 攻撃用DAを使うには内蔵魔力が足りない。バッテリーを搭載する必要があるが、バッテリーに溜める魔力はバブルスフィアから抽出することになる。100台分用意するとバブルスフィアを維持している魔力が急激に低下してしまう。あまりやりたくない。

 また、攻撃の意思に反応することがわかっている。ドローンでは攻撃を回避することが難しい。

 以上より、攻撃は剣聖生徒会に任せるべきだ。


『配置につき次第写真撮影を開始したよ。マスターにも転送するかい?』

『いや、いい。

 画像解析を頼む。満開状態の花見客と泥酔客。それと剣聖生徒会の人たち』

『了解……満開状態と剣聖生徒会の人は捕捉出来るね。泥酔客はまだデータ不足。正答率60%くらいかな』

『問題ない。写真上に泥酔客をポイントしてくれ。

 花びら5枚を赤、4枚をオレンジ、3枚を黄色。泥酔客の確率が高ければ見えやすく、確率が低ければ見えにくくして』

『すでに作業中だよ……完了。

 こんな感じ』


 D-Segに泥酔客の位置を示した写真が写る。

 ふむふむ、ちょっと見づらいが許容範囲内か。泥酔客は同じ場所に固まる傾向が強いようだ。

 この青い点と白い点は……聖剣生徒会の人か。青が攻撃役、白がサポート役のようだ。


『OK。とりあえずはこれでいいかな。

 それじゃあ剣聖生徒会の人に見えるようにドローンから周辺画像を投影しつつ、念話の準備。

 D-Seg装備してたらD-Seg使って』


 全員がD-Segを装備してればもう少し楽なんだが、数が足りていないのだから仕方がない。


『準備できたよ』

『通話開始。

 こちらヘルプで来たイノベーション・ギルドの平賀良二。貴方の脳内に直接語り掛けています……返信は受け取れないのであしからず。

 ドローンを使って泥酔客の位置情報を投影しています。青い点あるいは白い点が現在位置、赤い点が満開状態の泥酔客の可能性があります。色が濃いほど泥酔客の可能性が高いです。参考にしてください。

 情報が間違っている、あるいは情報にない泥酔客を見つけた場合はこちらに連絡を』


 学内で使用されているSNSに花見ルームを立ち上げアドレスを送る。


『いた。違う。程度の報告でいいです。報告が溜まれば精度が高まります。

 よろしくお願いします』


 通話を切ると、SNSの花見ルームに了解した旨の通知が複数届いた。


「これで少しは楽になりますね」


 隣では一真がカザグルマから刃を大量射出して花見客を大量殲滅している。

 ……写真上の色の薄い、泥酔客か不明の花見客も射抜いているように見える。いや、おそらく気のせいだろう。

 一真は立派な人。疑わしきはぶっ殺せの考えで行動したりはしないはずだ。



 十分ほど経過観察していると、アイズから通知が届いた。


『データは十分そろったね。泥酔客の判別完了』


 位置情報が更新され、色の濃さが統一される。

 まだまだ数は多いが泥酔客の位置は全て捉えた。あとは全員に花に返っていただくだけだ。


『一真と二葉に射線指示できる?』

『簡単だね』

『おっけー、よろしく』


 D-Segに無数の白い線と赤い線が浮かび上がった。

 一真と二葉への射線指示を、俺にも映してくれたのだろう。


「この通りのルートで撃てばいいんですね?」

「ああ。できるか?」

「お安い御用です。一々探して斬るより何倍も簡単です」


 一真が優しく笑う。これから大量殺戮するヤツの顔には思えない。


『ん。こっちも問題なし』


 二葉から連絡が届く。

 それじゃあ一気に終わらせてしまおうか。


『皆さん、今から団長と副団長が全面攻撃を行うのでその場を動かないでください』


 ドローンを使い団員たちに指示を送る。


「では行きますね。

 カザグルマ完全展開……」

『セイカ完全展開』


 組み立てたジグソーパズルが壊れるように、一真の持つDAが一瞬にしてバラバラになる。

 目を凝らせば、一真の周りに直径5ミリから1センチ程度の無数の鉄片が浮いているのがわかる。


「射抜け」

『どーん』


 音もなく銀の瞬きと赤い光線が花見の場を彩った。

 麗しき色彩の乱舞は、5秒ほど続いた。

 そして光が収まると、そこには大量の花びらだけが残っていた。


「これで花見も一段落つきましたね。

 ようやくお団子が食べられます」


 そう言う一真の元に無数の鉄片が集い、再度手元で刃の形を取り戻すのだった。






「それじゃあ例年はここまで忙しくないのか」

「そうですね、花見客自体少ないですし、満開状態のお客様もほとんどいません。

 泥酔客は何時も多いですが。

 4,5年に一度満開状態の花見客が増えることはあるそうですが、現実側を立ち入り禁止にする必要があるのは、今回が初めてです」


 危ない泥酔客たちはいなくなったため、俺はメイドさんのお手伝いをしていた。

 お手伝いと言っても宴会場を見回って喧嘩?を仲裁したり、落ちてる謎のピンク色の物体を回収したり、寝てしまった泥酔客を地面に埋めたり、桜にぶら下がろうとする子供?をたしなめたりする程度だ。


 それにしても、来る時に人を全然見かけなかったのは、一般の人たちが入らないように封鎖していたからか。

 風紀騎士団の残りの人たちもそちらに回されているに違いない。


「原因は解らないのか?」

「八咫桜の魔力値が何時もより高いため、それが原因と考えられています。

 今年は陽気な日が続いたため、何時もより桜が元気なんじゃないかって」

「天気がいいから桜も元気かぁ……技能がどうこう言われるよりも納得できるな」


 流石に十年以上前の技能がそのまま効果を発揮し続けているとは考えづらい。

 そうなると今は桜が技能を制御し魔力を供給している可能性が……


 そんなことを考えていると、見知った後姿を見つけた。


「そっちはどうだ、二葉」


 声をかけた相手――工島二葉が振り返る。

 動きに合わせ、オレンジのメッシュが入ったポニーテールが左右に揺れる。


「たぶん、問題ない。たぶん」


 元気のない返事だが、普段もこの調子なので気にしない。


 一真との縁で二葉ともある程度一緒に作業したことはあるが、彼女自身のことについてはあまりよく知らない。

 一真の後ろをちょいちょいついて歩いているというイメージがあるだけだ。

 自分から主張しないタイプのようだが、副団長としてやっていけるのだろうか。


「そうか」


 俺の言葉に二葉がこくりと頷く。


 …………間が持たない。

 このまま立ち去ってもいいだろうが、今後も顔を合わせることがあるかもしれないから、少しくらい話しておこう。


「それが副団長の制服か」


 二葉は今日もホワイトデーにも見た、銀糸で彩った黒いリクルートスーツを着ている。顔には一真とお揃いの、オレンジ色のスクエアタイプの眼鏡をかけ、背中には身の丈ほどの大剣を背負っている。

 団長は金糸、副団長は銀糸を使った制服が支給されている。平団員は派手な装飾は無しだ。


「感想を」


 二葉は一度くるりと回ると、身体のラインを強調するようなポーズをとる。

 しかし年相応と言うか、生徒会役員の麗火さんや愛韻ほどのメリハリはない。いや、彼女たちも同学年なのだが。


「可愛いんじゃないか。

 就活始めたばかりの短大生って感じだ」

「なるほどなるほど。

 それなら問題ない」


 二葉は満足そうだ。


「あの、それって似合っていないってことなんじゃあ……」


 メイドさんが何か言っているが気にしない。


「そういえば良二には聞きたいことがあった」

「聞きたいこと?なんだ?」

「……なんだろう?」


 二葉が首を傾げる。聞きたいことがあったが、何を聞きたいのか忘れたということだろう。

 ホワイトデーで姿を見せた時も、聞きたいことがあったのに忘れたからそのまま去っていったということだろうか。

 兄は面倒くさがりで妹は忘れっぽい。団長と副団長がこれで本当に平気なのだろうか。


 二葉について知っていることは少ない。

 一真の妹であり、一真とペアを組んでいる、剣聖科の一年。専門は一真と同じく機械式の聖剣――通称機甲聖剣だ。

 兄と意見を交換し合いながらDAの作成と運用を行っている。

 今背中に背負っている巨大なDAも、彼女のお手製の物だ。

 名前は機甲聖剣『セイカ』。剣先からレーザーを発することができる。先ほど見た赤い線は、セイカから発せられたレーザーだ。


 機械式の聖剣が専門……そうなると、考えられるのは


「斬空工具のマニピュレータについて?」

「ちがう。

 あ、思い出した。どうやってお兄ちゃんとお友達になったかだった」


 全然違った!


「でもマニピュレータの話はちょっと聞きたい。

 今度のDAに役立ちそう」


 違ってたけど深層心理を言い当てたっぽく考えると俺の勝ちだな!


 小さな花見客と遊び始めたメイドさんを放って、俺と二葉はマニピュレータ談義を始めるのだった。




「ん?どうした?」


 ズボンを引っ張られる感触を覚えて足元を見ると、腰までの高さの花見客が立っていた。

 花見客は全員同じに見えるが、この子はなんとなく見覚えがある気がする。


「ああ、桜餅をくれた子か」


 初めに会った子だ。どうやらついてきたらしい。


「懐かれましたね」


 メイドさんに言われる。そう言うメイドさんは、肩に小さな花見客を乗せ、腕には中くらいの花見客を抱きかかえ、足元には3体の花見客が寝転んでいる。なにこの子凄い懐かれてる。


「何でついてきたんだ?」


 腰をかがめ、花見客に目線を合わせると頭を撫でてあげる。


「惚れられたのでしょう」


 メイドさんが自信満々に言う。


「小さくて多感なお年頃。突然現れた情報量の多いお兄さんに惚れてしまうのは女の子として仕方がありません」

「いやいや、こいつらに性別なんてないだろ。一日で消えるって話だし」


 謎が多いが、魔法生命体であることには違いがない。無駄な生殖機能など持っていないはずだし、そうなると性別などない。


「何言ってるんですか。どう見ても女の子ですよ、この子。

 その扱いは流石に引きます」

「私にもわかる。その子は恋する乙女」


 メイドさんどころか二葉にも諭された……

 え?もしかして解らないの俺だけ?それとも話を合わせている?

 そんなことを悩んでいると、花見客ちゃん(仮)が右手を上に挙げた。


 俺はつられて上を見る。



 桜の花びらが舞っている。

 特別赤く、特別大きく、されど優雅にひらひらと――



「―――!」


 本能に従い俺はとっさに花見客ちゃんに覆いかぶさった。


「良二、いったい何を」

「え?え?そういうこと!?」



 二人の声が聞こえた直後、俺の背中で何かが爆発した。



「あがぁっ」


 衝撃にうめき声をあげる。


「伏せて、周囲警戒。

 お兄ちゃんに連絡」


 剣が抜かれる音が聞こえた。

 二葉がDAを構えたのだろう。


「良二さん、平気ですか!?」


 二葉の指示を無視し、メイドさんが俺に近づくと身体の調子を調べ始めた。


「俺は平気だ。それより上に気を付けてくれ。おそらく桜の花びらが爆発した」


 D-Segで確認すると白衣は所々傷んでいるようだがまだ破けてはいない。下の学ランは無傷だ。

 衝撃は殺しきれなかったが、それでも後数十発は耐えられるだろう。

 身体の下の花見客ちゃんも無事だった。

 今は怯えたように体を震わせている。


『アイズ、俺の直前の動画は撮れてるか?』


 立ち上がり、D-Segでアイズに連絡を取る。


『爆発状況は確認済み。特定の花びらが何かに触れると爆発するみたいだね。

 今も色んな所で爆発が確認できる』


 D-Segに周辺マップと爆発位置が表示される。

 耳をすませば、増々騒がしくなった花見客の声に紛れ、爆発音が聞こえる。


『とりあえず画像解析始めて。

 可能な限り花びらの位置を特定したい』

『了解』


 解析をアイズに任せSNSの花見ルームを確認する。

 すでにみんな爆発に気が付いているようだ。意見交換も行われている

 だが一応全体に注意喚起をしておかなければ。


『赤い大きな花びらは接触時に爆発する可能性があります。

 目立つから落ち着いて見れば簡単に判別できます。

 派手に弾けますが威力はそんなに高くないから怯えなくても平気です。

 上に気を付け、自分の身を第一に優先しながら花見客の避難誘導をお願いします』


 念話で団員たちに一斉に通知する。

 メッセージや言葉より、念話の方が注意を引きやすい。これでパニックになっていたとしても落ち着くはずだ。


「とりあえず、花見客ちゃんの退避を……」


 使えそうなDAを検索しながらメイドさんに声をかける。


「そ、そうですね、まずはこの子たちを――」


 座り込み泣き始めた足元の花見客を立たせようと、メイドさんが腰をかがめる。


「――!」


 メイドさんの上から舞い落ちる3輪の桜の花びらが目に留まる。全て赤色。爆発の色。

 二葉は明後日の方向を向いているため気が付いていない。俺はとっさに手を伸ばすが、反応が一瞬遅く間に合わない。


「上――」


 俺の声にこちらを見るメイドさん。吸い寄せられるように赤い花びらがホワイトプリムに触れ――爆発する寸前に銀の光に攫われた。


「二葉、小苗、良二!平気か!?」


 加えて二条の光が瞬き、全ての花びらは消え去った。

 光に遅れて一真が姿を現す。


「私と小苗は平気。良二は一撃受けた。でも怪我はない」


 二葉が現状報告する。


「そうですか……それならよかった」


 一真は安堵した様子で一息つくと、手にしたカザグルマを大きく振った。

 風車の刀身が崩れ頭上に展開される。そして俺たち全員を守る様に、全ての刃が高速で旋回を始めた。


「花びらはある程度の攻撃を受けると爆発せずに散るようです。

 とりあえず傘を作りましたので、この下なら安全でしょう」


 一真は平然と数十から数百の刃を高速で操作しているが、俺なら数十秒で魔力が尽きるだろうし、半分も制御しきれず明後日の方向に飛んでいくだろう。

 騎士団長の座は伊達ではないという事だろうか。


「一真、いったい何が起きているんだ?

 これも例の『願い』属性によるものか?」


 俺の問いに一真が頷く。


「はい。この八咫桜はご存知の通り、三本の桜によって成り立っていますが、それぞれに一つずつ願いが込められているという話があります。

 最後の一つについては、今まで現象が観測できなかったので願いの付与に失敗したと考えられていました」


 今年の桜は元気だ。

 恐らく魔力が潤沢になり、最後の願いを叶えることができるようになったのだろう。


「桜に込められた最後の願い……それは



『花見もいいけど花火もいいな』です」




 Organize Hanami Customer - 了

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