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幕間 ホワイトデーに戦術的お返しを(週刊少年漫画/ピンズ)

「かずまー一緒にカラオケ行こー」

「今日は予定ないんですよね?今日は一緒にお茶でも行きませんか?」

「ホワイトデーのお返しに、ちょっと買い物に付き合って」

「その髪もワイルドでいいでっすね」


 シェアハウスへの道すがら一真と世間話していると、何処からか現れた女生徒たちが、風の速さで一真をさらっていった。何かのDAを使ったのだろうか。

 まさに一瞬だった。一真は断るそぶりを見せることもできなかった。


「それではまた今度――」


 連れ去られる一真の声が遠ざかっていく。

 後ろで控えていた二葉も、お辞儀だけして兄の後を追っていった。

 一真は心配だが、二葉はお兄ちゃんっ子なのでちゃんと彼を守ってくれるだろう。。


「…………男友達がいないのは、別の理由じゃないか?」


 小さくなる背中を見ながらそう思った。

 ……別に羨ましくなんかない。


「一真がやられたか……だが奴は四天王の中でも最弱。剣聖生徒会の面汚しよ」

「なに!?」


 背後からの声に後ろを向く。

 何時の間にか後ろに立っていたのは、所々紫のメッシュが見え隠れする黒髪のベリーショートの腕を組んだ長身の女性だった。

 服装はDAMAに通う女生徒としては珍しいズボン。スーツのようなパンツルックと違い比較的ゆったりとしており、その豊満なボディラインを隠している。

 逆に上はシャツがパツンパツンになっており、苦しいのかブレザーは気崩されシャツは上のボタンが外され、緩んだネクタイが僅かに胸の谷間を隠している。


「お、お前は剣聖生徒会四天王の一人、凸凹コンビの片割れ一橋愛韻(ヒトツバシアイン)……!」


 知り合いというわけではないが、名前と顔くらいは知っている。

 同学年だが鍛冶科のため一緒に何かをしたりしたことはないが、悪名は度々耳にする。


「ククッ、俺のことを知ってるなら話は早えェ。用事については察しがついてんだろ?」

「……ああ、わかってる」


 俺は覚悟して一歩踏み出し、手を前に差し出した。


「ほらよ」


 愛韻がカバンの中から本を取り出し、手の上に乗せる。


「こ、これは……今週号のジャンク!」


 丁度良かった。今日が発売日だったが朝から忙しくて完全に忘れていた。

 すでに熟読した後なのかヨレヨレになっているが、それで内容が変わるわけでもないので特に問題ない。


「今週号はピスピスがお勧めだぜ」


 ピスピス――ピース&ピースか。先週最後にライバルと力を合わせてボスを倒したハズだが、まさか何か急展開でもあったのだろうか。

 ついつい気になり、愛韻がいるというのに本をめくろうとすると、愛韻が後ろから思い切り叩かれた。


「ホワイトデーのお返しに漫画雑誌を渡す人がいますか!」


 愛韻の後ろから、背伸びをして思い切り手を伸ばす、ちんまりとした金髪の少女が現れた。

 愛韻とは違い制服をきっちりと着こなしている。ただしスカートは短め。デニール数の少ないタイツが目に眩しい。

 凸凹コンビのもう一人、氷川音彩(ヒカワネイロ)である。


「問題ねぇって。ちゃんと電子版も買ってるんだからよ」

「誰も貴方のことを心配なんかしていません!渡すものが不適切と言っているんです!」


 いや、俺は別にいいんだが。電子書籍派なので、久しぶりに本の感触を味わいながら読むのも乙なものだし、すごく嬉しい。

 それに、好きな本をプレゼントするのはいたって普通の事だろう。


「完全に忘れてたんだから、気の利いたもんなんか用意してるわけねぇだろ。

 それになんでオレが男にホワイトデーのお返しなんかしなきゃいけねーんだ。

 仕方ねぇなぁ……他になんかあったかな……」


 愛韻がぶつぶつ呟き名がらカバンの中を漁る。


「じゃあこれで」


 愛韻が取り出したのは、あんこ玉(4つ入り)だった。

 あんこ玉は食べたことが無かったな。遠慮なくいただこう。


「貴方ねぇ!」

「怒るなよ、このあんこ玉は駄菓子屋のばあちゃんが毎日手作りしてる逸品なんだぜ?」

「そうではなくて――」


 喧嘩をする二人を尻目に一つ口に運ぶ。

 噛み割り、口の中で溶かしながら味わう。もっと強烈なあんこの甘みかと思いきや、意外と甘さ控えめで上品な味。くちどけ滑らかで小豆の皮も口に残らない。なるほど、これは美味しい。今度自分でも買てみよう。


「はぁ、もういいですわ。

 私からはこれを差し上げます」


 音彩が俺に近づき、胸元で何やら作業する。

 手を離すと、白衣にはピンバッヂがつけられていた。

 どこかで見たことのあるシンボル。これは確か――


「剣聖生徒会公認のピンバッヂですわ。これを付けていると、DAMAの秘蔵図書館等、一部の施設に顔パスで入れるようになります。

 申請や証明書の提示も面倒でしょう?

 面倒なことになるので、絶対に失くさないでくださいましね」


 そうか、剣聖生徒会のシンボルだったか。DAMAは生徒の立ち入りに制限がかかっている場所も多いため、顔パスになるのは助かる。


「こちらは雪奈さんの分」

「ありがとう、本当に助かる」


 差し出されたもう一つのバッジを受け取る。後で渡しておこう。


「なんだよ、音彩はお返しと言いつつ生徒会の備品渡すだけじゃねーか」


 愛韻のヤジに、音彩がにらみつける。

 そしてカバンからラッピングされたクッキーを取り出した。


「その、男性にホワイトデーのお菓子をするのは初めてなので、こういったものでいいのかわかりませんが……」


 音彩がわずかに頬を上気させ、上目づかいで可愛らしくクッキーを差し出してきた。


「お、おう」


 クッキーを受け取る。ちらりと見たが、おそらく手作りではなく既製品だろう。


「なーにが初めてだ。

 バレンタインに媚び売りながら誰彼構わずチョコ渡してた男がよく言うぜ」

「愛韻!あなたは何時も何時も!!」


 音彩が直前の可愛らしい表情はどこへやら、一転して激怒した表情に変わると愛韻に詰め寄る。


「んん?男でショックだったか?残念だったか?」


 愛韻が音彩を無視し、ニヤニヤとこちらを伺う。


「ショックというか……

 今日貰ったお返しは半分以上が男からだったんだ」


 すぐ前に一真からももらったし。


「お、おう」


 愛韻が気まずそうな声を出す。


「さらに言えば男の娘?女装男子?から貰うのはこれで二つ目だ。

 ぶっちゃけ慣れているという事実の方がショックだ」

「おう……その、なんだ。強く生きてくれ」


 愛韻は背中をペシペシ叩く音彩を無視して、俺の肩を叩く。


『詫びと言っちゃあなんだが、二つ話がある』


 眼鏡(D-Seg)を使用した脳内チャットによる念話だ。

 こちらには接続の許可の確認は表示されていない。愛韻は生徒会の情報担当だ。おそらく、こちらのセキュリティを突破して強制的に接続したのだろう。


『一つ。会長が動いてる。近々ヤベェ依頼が来るかもな。予定は開けとけ』


 前回の依頼は最終的には酷いものだった。そうならないために、麗火さんが入念に下調べをしているということだろうか?


『二つ。アイズに伝えとけ。金庫破りは大目に見るが、机の引き出しとベッドの下を調べるような真似は止めておけってな』


 アイズ……お前はいったい何をしているんだ。


『センシティブな画像はあいつの主食だからなぁ……』

『失礼な。僕の食べるのはマスターのモノだけだよ』


 あ、アイズが乱入してきた。


『でも、忠告は受け取っておくよ。プライベートはなるべく探らない。

 まぁ、マスターの指示があれば別だけど』

『…………この接続経路、まさか。

 おい良二、一つ追加だ。ツールはよく考えて使え。

 制御できねぇヤベェツールはウィルスと同じだ。こいつは生徒会から生徒へのありがたい忠告だぜ』


 ……心当たりはなくはない。だが、節度を守れば問題ないだろう。


『忠告ありがとう。礼ついでにこちらからも一つ聞きたい』

『なんだ?』

『このあんこ玉売ってる駄菓子屋は何処だ?』


 愛韻はニヤリと笑うと、住所を送って来た。


『あんこ玉もいいが、きなこ棒も食ってけ。最高だぜ』

「ってそろそろいい加減にしやがれ!いつまで叩くんだ!」


 愛韻が脳内チャットを切り、後ろを振り向く。


「だってお二人で見つめ合ってて構って下さらないんですもの。

 何を話していましたの?」


 音彩が拗ねたように口をとがらせる。


「防音性能の高い、監視カメラのついてないカラオケ店を教えてもらってたんだよ。

 これからホワイトデーのお返ししなくちゃいけねぇからな」

「あな、貴方はぁーー!」


 音彩が真っ赤になって叫ぶ。


「うぉっと、じゃあな」


 靴に特別な仕掛けでもしてるのだろうか、愛韻は音彩からの攻撃を避けると、高速で地面を滑り去っていった。


「失礼しますわ」


 身体に特別な仕掛けでもしてるのだろうか、音彩は愛韻を追って陸上部も顔負けの速度で走り去った。


「騒がしい奴らだったなぁ……」


 俺は二人の背中を見送ると、とりあえず愛韻に勧められたピスピスだけは目を通すのだった。




 2nd and 3rd of four members - 了


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