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エピローグ_3 道化師たちの後始末

 眼鏡(D-Seg)は便利だ。

 俺が授業を無視していても、勝手に授業風景を録画していてくれた。

 いや、D-Segが便利なのではなく、アイズ様が神なのだろう。足を向けて寝られない。どこにいるのかは知らないが。


 世界史の先生の授業を倍速再生し、ところどころに挟まる無駄話をスキップしながら、SNSを通じて過去問を漁る。

 あまりの衝撃に茫然自失だったが、よくよく考えると秀才である自分なら一夜漬けでも平均は取れる。土日も挟むから余裕だ。余裕だろう。余裕だといいな。


 麗火さんは泊りがけで勉強を教えてあげると提案してくれたが、直後に実技試験で何やら問題が発生したらしく、その対応でうやむやになってしまった。


 麗火さんから借りたノートを撮影し、文字解析してメモ帳にコピーしながらこたつの上に手を伸ばす。

 しかし何時もの感触はなく、手は空ぶってしまった。


「みかんならもうないぞ」


 声がした方を見ると、聖教授がお酒を両手に立っていた。今日の夕飯は外食でお酒控えめだったため、飲み直すつもりなのだろう。

 ちなみに碇寿司は仕込みの都合とやらで休店だった。残念。

 ちなみに屋根に刺さっている巨大包丁は消えていた。まさか本当にあの包丁は……


「毎日食べまくったからなぁ」


 飽きるほどあったが、無くなると寂しいものだ。


「雪奈はどうした?」


 教授が辺りを見ながらこたつに入ってくる。


「もう寝ましたよ。流石にここ数日の疲れが溜まっていたようです」


 逆に俺は朝から元気いっぱいだ。今も全く眠くない。何故だ。


「そうか」


 教授は一人静かに、黙々とお酒を口に運ぶ。今日は雪奈もいないので、つまみすら用意していないし、コップに注ぐことすらしない。

 だが機嫌が悪いのかと言えばそういうわけではなさそうだ。


「……詳しく教えてくれとは言いませんけど、良かったか悪かったかくらいは教えてくれてもいいでしょう?」


 何か裏でこそこそやっていた人たちについてだ。


「なんだ、聞きたいのか?」

「聞きたくはないけど、聞いた方がマシかなと」


 ドロドロした政治や権力争いの話は聞きたくないが、自分と周りを守るためにはある程度知っておく必要もあるだろう。麗火さんにも関係があるだろうし。


「まぁ、話したくなければアイズにまとめてもらった資料を閲覧しますけど」

「聖様が関わった事から関わっていない裏話まで、90分の動画にまとめてあるよ」


 中空にZIPファイルが現れる。後はパスワードを入れればすぐにでも閲覧できる状態だ。


「ちょっと待て!何時の間にそんなものを!?そもそも録画なんてできるはずが……!

 ああ、もう。生徒(ガキ)に聞かせてもいい話だけな!」


 教授が両手を上げる。まぁこんな反応をしているが、実際は話したかった事柄だろう。

 ちなみにファイルはダミーだ。会合の様子はアイズがアクセスできる記録には一切残っていないらしい。


「結論から言うと上手く行った。というか上手く行きすぎた。

 独立強襲型生活革新委員会は多くの制限から解放されて動ける。

 具体的に言えば、事前申請無しのバブルスフィア展開、軽度の怪我を伴う危険性のある実験や戦闘、制限のある属性の使用なんかが許可される。

 まぁ、剣聖生徒会や風紀騎士団と対等の立場で、同程度は動けると思ってくれ」

「独立強襲型生活革新委員会じゃなくてイノベーション・ギルドですが」


 重要なのでそこは修正しておく。

 教授に睨まれる。だが俺は譲らない。すでに学ランからも文字は取り払った。


「ただ学生として領分はわきまえろ。斬空工具や竜斬包丁を使う場合には申請が必要だ。鈍八脚もな」

「ちょっと待ってください!竜斬包丁は解りますけど、斬空工具と鈍八脚も『制限リスト』入りですか!?」


 制限リスト。つまり、リスト入りしたDAやその類似機能を持つDAは使用に制限がかかる。

 細かい区分けがあり、防御や回避が困難な即死系DAは試験では禁止されるが、ダンジョン内戦闘やバブルスフィア内の暴徒鎮圧、対複数の戦闘などでは許可される。

 大規模破壊DAならダンジョン内ですら使用は禁止だが、許可が下りればビルの解体やトンネル彫り、山の大規模工事などに使うことができる。

 竜斬包丁は後者、斬空工具と鈍八脚は前者だろうか。


「当たり前だろう?ログを確認したが、平常使用するには使用者への負担が規定値を超えている。バブルスフィア内部だから負担は無視したんだろうが、バブルスフィア外部での平常使用ができないものは基本制限リスト入りだ。

 まぁ、最適化されていない生体コンピュータはまだ人類には早すぎたということだな。

 何よりアレは学生の教育によくない(・・・・・・・・・・)

「教育に?」

「学生のころには『楽を覚えるな』という言葉に反発してきたんだけどなぁ。教える立場になれば理解できる。

 あんなもの誰でも使えるようになったら、真面目に剣術を学ぶ奴が減ってしまう。

 さらに近接戦闘はアレをカスタマイズしていくのが流行するだろうな。鈍八脚を超えられないDAはその時点で研究されなくなる。

 つまりD()A()()()()()()()んだよ」

「――あ。そういう考え方もあるのか……」

「生体コンピュータを使って学習させるという、鈍八脚の原理は素晴らしい。近接戦闘以外にも様々なシーンで活躍できるだろう。身体障碍者の補助とか、自動運転とかな。もっともっと研究は続けるべきだ。

 でもな、無制限に許可するわけにはいかないんだ」


 教授が真剣な表情で俺を見つめる。


「……教授って粗暴なのに結構生徒想いですよね」

「うるせぇ」


 思ったことを口にすると、教授は嫌そうに眼を逸らして酒に手を伸ばした。


「話は納得できました。

 まぁ、同じ手を何度も使う気はないので、制限に引っかからない程度にデチューンして有効利用しますよ」

「そうしとけ。腕二本くらいにしてある程度自動迎撃を制限すれば制限に引っかからん。

 生体コンピュータを使った学習も制限されていないしな」


 それなら問題ないだろう。

 実際のところ、鈍八脚のキモは自動迎撃ではなく、D-Segとの連動による精密自動操作だ。


「話を戻すぞ。

 お前はよくやった。なんて言ったって、賭けてた奴ら全員負けた(・・・・・)からな」

「はい?」


 思わず間抜けな声が漏れる。

 賭けについては何となく想像ができるが、全員負けたとはこれ如何に。


「賭けの内容と報酬はご想像にお任せするが、結末も含めて全部グチャグチャだ。有効か無効かの区別から始めなきゃならん始末だ。

 それになにより……」


 教授がクツクツと笑う。


「校内で試験を鑑賞していたが、()()()()()()()()()()()()()。あれじゃあそのあと何を主張しても格好がつかん!」


 教授がさらにゲラゲラ笑う。

 そういえば、空間断裂に巻き込まれて校舎もぶった切られていたような……

 いや、ぶった切ったのは正技さんだ。俺は何も悪くない。


「あとはまぁ、良しなに丸め込んだというわけだ。

 そして良二」


 教授は馬鹿笑いをぴたりと止めると、俺を見て微笑む。


「いけ好かないジジイからの伝言だ。

 懐かしいものが見れた。ありがとう。

 だと」


 …………ふむ。昔の話だ。そういうこともあるだろう。


「話は以上だ。

 ところで話題は変わるが、D-Segの使い勝手はどうだ?」

「最高だね」


 俺より先にアイズが答える。いや、お前は使う側じゃなくて使われる側のような。


「そうか。使用状況を調べたが、使用時間も使用頻度もカスタマイズも良二がダントツで一位だったぞ」

「まぁ、それはそうでしょうねぇ……」


 授業中も使ってたし、開発中はずっと使ってたし、寝てる時にも使ったし。

 忙しい時は一日二十二時間くらい使っていたような?


「設定とカスタム機能については良二のものをいくつかデフォルト設定として使用させてもらうことになりそうだ。

 改造した内容――頭部冷却機能や眼精疲労の治療機能はコスト次第だな。

 場合によっては上位モデルと下位モデルに分けることになるだろう」


 俺の設定というか、アイズが良い感じに設定してくれただけというか……

 後は雪奈。雪奈にも足を向けて寝られないが、幸い普通に寝れば平気だ。


「モニター期間は来年度いっぱいまで。すでに知っているだろうが、剣聖生徒会や能力の高いものには優先的に渡して使い勝手を確認してもらっている。

 年度末試験が良い宣伝になったおかげで、希望も殺到しているようだ。今後使用者もよく見かけるようになるだろうな。

 学生同士で良い感じの使い方を見つけてくれ」


 イノベーション・ギルドの宣伝も行ったからだろうか、俺のところにも数件D-Segの使用方法について問い合わせが来ていた。

 そういえば宣伝といえば――


「それで、教授の方の進捗はどうなんですか?

 大々的にアピっときましたけど」

「そうだな。今の進捗率は大体――」


 さして触れないままに、裏側の話も幕を閉じる。

 これまでもそしてこれからも、これはDAMAの一般的な一生徒の、平凡な日常に過ぎないのだから。





 Near the Black - 了

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