表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/131

エピローグ_1 問題:今回の依頼者と目的を答えなさい (配点:10点)

「というわけで負けました。テヘペロ!」


 放課後、俺と雪奈は剣聖生徒会室に来ていた。

 剣聖生徒会室には一真を除く生徒会役員たちと、真忠さんもいる。

 全員に見つめられる中、せめて明るくしようと可愛らしく言ってみたが、周りの感応は薄い。

 やはり古すぎたか。


『あと一歩だったんですけどね』


 雪奈が未だ興奮冷めやらぬ様子で脳内チャットしてくる。


『どのみち正技さんが二回目の空間断裂を使えた時点で詰み、良くて引き分けなのは解ってたんだけどな』


 サブとして残しておいた9本目のマニピュレータはバッテリー切れで動かすこともできなかった。つまりすでに攻撃手段はなかった。

 そもそも試験の勝敗は本来重要ではない。重要なのはDAの機能と、それをきちんと扱えることを示すことだからだ。勝敗すらつけず、お互いのDAの機能を披露した時点で終わることも少なくない。


『最後のアレは……男の意地みたいなもんだ』

『意地……そうですね!私も見ていてスッキリしました!』


 それは良かった。やはり正技さんの生首にはストレス解消効果があるようだ。

 だがそれはそれとして問題は残る。


「もしかしなくても、依頼失敗ですよね。

 どうしましょうか」


 確か依頼内容は年度末試験で正技さんに勝利すること。最初に教授にそう言われた。

 しかし結果は反則負けだ。そしてこの依頼の成否が今後のギルドの運営に大きく関与してくると聞いている。


「何を勘違いしているのか知らないけれど……依頼は達成済みよ?」

「あれ?

 聖教授に正技さんをぶった斬ってこいと言われましたけど……斬ったところで、反則負けじゃあ無効でしょう」

「私はそんなこと言っていないわ。

 年度末試験で藤原正技さんと戦って欲しいとは言ったけれど」


 あれ?もしかして記憶違い?聖教授の適当な話とごっちゃになっていた?


『再生するよ。


 今回貴方たちに対応して欲しいのは剣聖科二年の藤原正技(フジワラセイギ)さん。

 天元流剣術部部長で、二つ名は『瞬きの一文字(ストレートフラッシュ)

 期限は一月。来月の年度末実技試験で、正技さんと戦ってもらうわ


 だね』


 アイズが録音していた通話内容を再生してくれた。

 本当だ……確かに勝てとは言われてない……


『依頼達成ということは、イノベーション・ギルドは存続決定ですね!良かったです!』


 同じく心配していたのだろう、雪奈からの喜びの声が脳内に響く。


『喜び時を見失ってモヤっとするが……まぁ、実績として認められるならいいか。

 試験勉強してなかったし』


 これで年度末試験はオールパス!新学年が始まるまで自由時間だ。


「そもそも、道場破りの時点ですでに依頼は達成していたはずよ?」

「……はい?初耳なのですが?」


 唐突な話に、俺は首を傾げながら麗火さんを見る。

 麗火さんは眉を潜めながら、翠さんに尋ねる。


「ねぇ翠さん。依頼は達成したと良二くんに伝えてって言ったわよね?」


 皆の視線が翠さんに集まる。


「はい。きちんと伝えました。

『剣聖生徒会はあなたたちを認める』と」


 翠さんはフンスっと胸を張り答える。

 なるほど……


「それで伝わるか!」

「なんと!?」


 俺の声と、周囲のジト目に翠さんが狼狽える。


「ごめんなさい……私が直々に伝えるべきだったわ。

 翠さんには後からきつく言っておきます」


 麗火さんがしかめっ面で頭を押さえる。

 麗火さん、生徒会長大変そうだな。主に一人のせいで。


「ごめんなさい……」


 翠さんも、怒られた子犬のようにしょんぼりと頭を下げる。


「そもそも、察しがついているとは思うけど、今回の依頼の目的は……

 そうね、折角だし真忠さんに話してもらいましょう」


 麗火さんが真忠さんに視線を向ける。真忠さんは、ゆっくりと頷いた。



「改めまして、自己紹介させていただきます。

 私は三木谷真忠と言います。

 現在は第八武道館にて、天元流剣術部の選任鍛冶師をしています。



 そして、今回の依頼人となります」



 順当と言うか、ある程度は予想していた。

 俺に流れてきた情報は機密性が高いものが多かった。そうなると依頼主は天元流の関係者。それも正技さんに近しい人物だ。

 反応からして正技さんは外れる。そうなると、正技さんの家族、あるいは相方である真忠さんだろうと考えていた。

 目的は一向に進まない斬界縮地の再現について、ヒントを得るため。あるいは正技さんに自身のスタンスを見直してもらうため。

 理由は……正技さんが実家から、進捗が芳しくないなら帰ってこいと突かれたから、とかだろうか。


『やっぱり真忠さんが依頼人でした!』


 雪奈から脳内チャットによる通知が届く。

 そういえば前にそんなこと言ってたな。恋だの愛だの痴情のもつれだの。


『アイズはどう解析していた?』


 一応アイズの意見も聞いておく


『僕は何も考えたことはないね』


 質問されたこと以外は考えない。

 たまに勝手に行動予測をしていることはあるが、いつも通りか。


『でも、特定の動画は彼女が持っているタブレットで保存されているし、動画の撮影ポイントから、彼女がカメラを操作していたと推測できていたね』

『別方向から完全に依頼者割り出せてる!?』


 解っていたけど聞かれなかったから答えなかったという奴だろう。まぁ、今回依頼者については重要ではないしどうでもいいか。


「依頼について話す前に、まずは私たちのことから語る必要がありますね。

 ご存じの通り藤原家は代々蜻蛉切の技術を継承してきた家系です。しかし蜻蛉切は聖剣に関する技術を内包しているため、魔法について知られていない世に出すことは出来ず、人知れぬ山奥で暮らしてきました。

 それが変わったのが先々代、藤原正切の独断による蜻蛉切の献上となります。正切さまは魔法が公になると同時に蜻蛉切を持ち出し、知り得る限りの技術とともに世間に公表することで、技術を秘匿したまま磨くという立場から、自由に技を振るう自由の身となることを望んだのです」


 教科書にも載っている、藤原正切による蜻蛉切の献上。その裏話である。

 彼の目的は魔法技術の発展による人類への貢献ではなく、縛られた自身を開放するためだった。

 ……いや、それも恐らく推測にすぎないだろう。真実は彼の胸の内にしかない。


「正切さまは望み通り自由の身となり、怪物たちを相手に自らの技を磨き、魔法を取り込んだ新たな剣術体系を築くまでになりました。

 しかし彼は当主ではありませんでした。彼とは違い、藤原家――蜻蛉切の技術を鍛え継承する人たちは、自分たちの役割が唐突に終わってしまうことを受け入れることができませんでした。

 当主の意思ならばそれに従いもしたでしょうが、肝心の当主は逆の道を――自分たちの技能を継承していくことを選びました。

 しかしすでに全ては暴かれ、DFDは国の研究所にて再現することが可能になっていました。そうなると自分たちの技能には価値がない。

 そこで目を付けたのが――」

「国に渡らなかった……いや、全てが渡った後に藤原正切の手によって生まれたDA天元流か」


 俺の推測を、真忠さんが頷き肯定する。


「当主は正切さまに蜻蛉切の持ち出しについては不問にするから、里に戻り新しい天元流を後世に伝えるように、と命じました。

 正切さまはその命令を飲み、迷宮の調査隊を引退後里に帰り天元流の指南を行うようになりました。

 ただ、斬界縮地の詳細だけは、決して誰にも伝えようとしませんでした」

「それで、斬界縮地の謎を解くために、DAMAに上京してきた、と言うことか。

 でも、話を聞いたところ里の人たちは技能を解析して技術として確立することについては反対ですよね?」


 DAMAで研究するとなると藤原家のみで留まらず、その研究結果は世界に向けて発信されることになるだろう。


「そこについては問題ありません。

 今代の当主は私ですので」


 んん?今なんと?


「真忠さんは三木谷ですよね?藤原とは……あれ?そういうことか……?」


 属性は子供に遺伝する。

 しかし、必ず遺伝するわけではない。

 密かに蜻蛉切の技術を継承していた当時は属性変換器などない。そうなると、子供が蜻蛉切の技術を継承できなくなる危険性がある。

 つまり……


「藤原家と三木谷家、両方で蜻蛉切の技術を継承していたというわけか」


 確かに、話にまるで関わってこない真忠さんについて違和感は覚えていた。

 ましてや、設計は正技さん担当とはいえ、実際にDFDを造っているのは真忠さん。もっと早くに気が付くべきだった。


「お察しの通りです。

 藤原家と三木谷家、双方で技術比べをし、より高い性能の蜻蛉切を作成できた方が当主となるしきたりがあります。そしてもう片方が剣術を継承することになります。

 今代は私が一昨年に藤原家先代当主に勝ち、三木谷家当主を継承しました」


 ずっと前面に立ち、俺たちと相対し続けた正技さん。そして彼をサポートする真忠さん。

 しかし実態は、真忠さんこそが主で、正技さんは従僕に過ぎなかった。

 DAMAでは剣聖と鍛冶師の関係は公平であるとされているが、実態はどちらかに力が偏ることは珍しくない。

 もちろん鍛冶師側が手綱を握ることもあるが、二人の関係がそうであるとは気が付かなかった。


 話に出てこない正技さんの父親もこれが原因か。鍛冶師の能力の方が高かったため、剣術についてはあまり習っていないのだろう。結果として剣術の話題では全く姿を見せなかった。

 それにしても中三で先代に勝利するとは、今回の件で一番の天才は真忠さんだったに違いない。


「正技さんにも勝ったんですか?」

「剣術の方が好きな正技さんは私に勝ちを譲ってくれた……というわけではないのでしょうね。正技さんは手先が不器用なので、実際に造るのは下手なのです」


 正技さんは剣術を優先していたわけではなく、普通に苦手だったのか……


「話を戻しますね。

 私たちは二人でDAMAにて聖剣について学び、最新の設備での研究も行いましたが、ついぞ斬界縮地の尻尾すらつかむことは出来ませんでした。

 原因については解っています。正技さんがあくまで技に拘り続けたため。正技さんは肉体と補助魔法のみで音速に至ろうとしていました。しかし、それでは到底音の速さに届きませんでした。

 そしてそれは正技さん本人もわかっており、日々悩んでいるようでした。

 見かねた私は、正技さんの意に沿わないことを承知の上で、剣聖生徒会に相談を持ち掛けたのです」


 そうして、最終的に俺たちの所に依頼として回ってきたのだろう。


「本来の依頼は、正技さんに剣術以外にも目を向けさせて欲しい、というものになります。

 そしてそれは道場破りで鈍八脚と相対し、広い視野で考えるようになったことにより達成しました。

 そればかりではなく、本来の斬界縮地に至る手助けもしていただいて、本当にありがとうございました」


 真忠さんが深々と頭を下げる。

 色々な思惑が絡んでいただろうが、最終的に正技さんと真忠さんのためになったようで良かった。





 Mastermind - 了

お読み頂きありがとうございます。


モチベーションにつながるため、ブックマーク、☆評価いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ