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第三十八話 問題:眼鏡は聖剣に含まれますか? (配点:5点)

「思考制御式回転力制御型空間断裂回転鋸聖剣-斬空工具(ザンクウコウグ)竜斬包丁(リュウキリボウチョウ)



 単純だ。単純すぎる解答だ。

 だが、俺には全く思いつかなかった。


 良二を中心に速度を増していく刃に笑みが零れる。


「私たちの解答は見てのとおりです!」


 痛々しい良二の姿に血の気を失いながらも、雪奈が精いっぱいの元気を振り絞り解説を始める。


「トルク制御を使い、チェーンソーを音速まで加速させ、音速を超えた後に空間切断の機能を起動します!」


 そんな雪奈を見つめ、良二の笑みが柔らかいものに変わる。


「空気抵抗、摩擦、遠心力、強度、動きの滑らかさ……」


 良二がつぶやく。


「解るだろう?仕組みは単純だけど、実現は難しい。

 ようやく形になったのが昨日の朝だ。辛抱強く調整に付き合ってくれた雪奈には頭が上がらない。

 今回一番頑張ったのが雪奈で、次がアイズだ。

 だから名前に、雪奈が初めて作ったDAから名前の一部を貰ったんだ」


 良二は譫言(うわごと)ように言葉を紡ぐ。意識が朦朧としているのか、要領を得ない。

 だが、とても大事なことを伝えようとしているようだった。


「雷切銀蜻蛉、良い名前だな。名前は大事だ。

 込められた想いが、どこかの誰かにも伝わる……」


 良二は涙目になっている雪奈から視線を逸らすと、俺を直視した。

 彼の周りを回る刃は、甲高い音を上げ、増々速度を上げていく。


「準備は長かったが、試験はこれで終了だ。

 きっと正技さんは満点だろうな。

 けれど、それで満足(・・)か?」

「なに?」


 満足か?だと。満足だ。DAMAに来た時の目標は達成した。あえて言うなら、最後に一つ、良二の首を落とす。

 それができれば完了だ。


「最終解答の後のサービス問題さ。最終加速完了まで30秒。

 満点超えを狙ってみるのも乙なものだろう?」



 彼は何を言っているのだろうか。

 今にも気を失いそうな身体なのだ。無駄な言葉も使わずに、早く全力を出して楽になればいいだろう。


 そうだ。なぜ早くしないのか。つい先ほどは―


 そこまで考えようやく気が付く。

 無駄に話して、無駄に加速に時間を使い、彼は俺に何かを伝えている。

 察しの悪い俺でもわかる。御節介なことに、彼は俺の本当の望みを見破り、そこに至る助言を与えている。


 平賀良二。イノベーション・ギルドのギルドマスター。これが彼のやり方か。

 癪ではあるが、血に濡れた彼の笑顔を見れば、その挑発(・・)を受けないという選択肢はない。


 眼を瞑り、呼吸を整え考える。

 望み。名前。そして、今の状況でも実現できること。

 誰が誰に何を伝えたかったのか。


 そして最後に深く思い出す。

 あの日の光景を。



 ああ、俺は馬鹿だった。解答はすでに手の中にあったのだ。

 なのに気が付かず、刀を抜かずに鞘で殴るようなことをしていた。



『真忠。頼みがある』


 眼鏡(D-Seg)を通し、真忠に脳内会話を試みる。

 時間がない。真忠からの返事も待たずに、説明もせずに、ただ要望だけを伝える。


『解りました。10秒あれば対応可能です』


 回答に笑みが零れる。

 良二の右腕も素晴らしいが、やはり真忠が最高だ。


 果たして、10秒後に手甲に新たな聖剣回路が刻まれる。

 魔力を通す。反応が返る。完璧な仕事だ。


『確認した。問題ない』


 後は俺の仕事だ。

 雷切銀蜻蛉を使えば、恐らく良二の空間断裂は相殺できるだろう。そして相殺できれば、後は一太刀で勝負は決する。しかし、今思いついたこの方法では空間断裂が発生するかどうか解らず、相殺できる保証はない。しくじれば俺の身体は二つになるだろう。

 勝利か満足か。俺が選ぶのはもちろん―


「そうだよな。好奇心、向上心、探求心。

 俺たちは聖剣剣聖(DAM)だから、どんな時でも思いついたら試さずにいられないよな」


 良二の歓喜に満ちた声に周囲を回る刃が反応し、その速度を倍加させる。

 レールを火花が覆い、回転する音が全く別のものに生まれ変わる。


「答え合わせの時間だ」


 竜斬包丁が銀に輝き、世界の断裂が始まる。

 それと同時に俺は鞘の内部、加速距離のために準備していた『圧縮された空間を開放した』。

 突如として膨張した空間に眼前が撓み世界が揺らぐ。音の速度を超えて広がる世界、その終端は先ほど刻んだ手の甲の聖剣回路だ。



天元流(テンゲンリュウ) 斬界縮地(ザンカイシュクチ)



 縮んだ世界は解き放たれ、世界にはもう一つの断裂が生まれた。


 俺と良二の中間にて、二つの空間断裂がせめぎ合う。

 拮抗は一瞬だった。どのような現象なのだろうか、空間断裂は左右に裂け、俺と良二を避けるように後方に広がっていった。

 俺と良二の背後では複数の空間断裂が荒れ狂い、地面を、空を、生徒たちを切り裂いていく。


 真忠に危険が及んでいないことを祈りながら、俺は前方に向けて跳躍した。

 右腕の手甲は完全に破壊され、逃がしきれなかった衝撃が筋肉を断裂させた。しかし、それでもあと少し、もう一度刀を振るう力は残っている。

 DFDも大破している。しかし、剥き出しになった芯鉄は罅割れながらもその機能を失っていない。

 俺と祖父に大きな違いがあるとするならば、それは素質や技量ではなく、真忠の技術に他ならない。


 ああ、不器用で頑固な俺に辛抱強く付き合ってくれた彼女に、最大の賛辞を贈らなくては。



「真忠!愛してる!!」



 生まれてから今まで、俺たちの成長とともに育った気持ちがあふれ出た。


 土煙を突き抜け向かう先には、良二が残った左手で眼鏡を外しながら待っていた。

 外された眼鏡が変形し、無恰好なナイフのような形になる。

 まさか本当に眼鏡で戦おうとするとは。だがしかし、眼鏡がこちらに届く前に、DFDが良二の首に届くだろう。


「その首貰った」


 吸い込まれるように、DFDが良二の首に届き―





 このひと月、俺は何度正技さんに首を刎ね飛ばされただろう。

 30から先は数えていない。100に達しているかもしれない。あるいはもっと多いかもしれない。

 だから今この瞬間の光景も、日常となるほどに見慣れたものだった。

 あえて違う点を挙げるのならば、DFDが俺の首の直前で止まっていることだろうか。


 俺は天才ではなく秀才だ。

 魔法で2センチの空間切断を作るために2分間集中しなければならないし、1秒しか維持できない。

 だがしかし、使いようによっては役に立つのだ。


 限界を超えたDFDが砕け散る。

 驚愕に固まる正技さんの首を、弦に空間切断の機能を持たせた眼鏡(D-Seg)が通り抜けた。


 バブルスフィアが解除される直前、正技さんの瞳に映る俺はどのような表情をしていただろうか。

 きっと、一か月の鬱憤を晴らし、晴れ晴れとしたものだったに違いない。




「完!全!決!着!」


 元に戻った世界に、琴羽の絶叫が木霊する。

 最後の空間断裂による余波は完全に予想外だったが、回避行動をとっていた雪奈、真忠さん、琴羽は無事最後まで勝負を見届けられたようだ。生徒の八割くらいは吹き飛んだようだが。


「素晴らしき戦い!素晴らしき技術の応酬!神話の災害のような大参事!そして予想外の結末に驚きが隠せません!

 年度末実技試験初日の一番目を制したのは、なんと――!」


 大の字で寝転ぶ正技さんに左手を伸ばす。

 死亡酔いしないのだろう、正技さんは俺の手を取ると上体を起こした。

 正技さんは何時か見たよりも、もっとあどけない顔で笑う。

 そして満足したように口を開いた。



「「俺の負けだ」」


「藤原正技だぁ――!」



「……はい?」


 俺と琴羽の言葉に、正技さんは笑顔から一転、全ての感情を失ったような顔で首を傾げる。


「問題。眼鏡は聖剣に含まれますか?」

「それは含まれるだろう。最低でもその眼鏡は思考制御と空間切断の機能は持ち合わせていたはずだ」


 なるほど、確かにそうだ。実際にはもっと多くの聖剣回路が刻まれている。

 俺は琴羽に目配せすると彼女は頷き、


「答えは―否!含まれません!

 眼鏡(D-Seg)はあくまで補助装備(・・・・)。つまり、聖剣ではありません!」


 俺の出した問題の正解を口にした。


「……あ」


 正技さんが間抜けな声を上げる。


「そして今回攻撃として認められるのは近接型聖剣による空間系の攻撃のみ!

 よってこの試験、補助装備による攻撃を行った平賀良二の反則負け(・・・・)です!!」


 琴羽の説明に正技さんは様々な表情を見せる。そして最後に歪んだ笑顔を見せると、大きくため息をついた。


「わかった。今回は俺の勝ちだ。

 だが一つ、頼みがある」

「なんですか?」

「また今度勝負してくれ。次はお互いに、全力の勝負がしたい」


 正技さんの申し出に、俺は心からの笑みを浮かべる。




「お断りします!!」





 How to Divide Dragon Slayer's Neck? - 了


本編終了。

残りはエピローグ4話となります。


問題:今回の依頼者と目的を答えなさい


範囲は登場人物の中から選んでください。



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