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第一話 誰でも簡単!あっという間に冷凍みかんを作る方法(要聖剣)

はじめまして、初投稿となります。


プロローグに目を通さず、この話からでも問題ありません。

ご都合主義だったり、設定が突然生えたり、突然消えたりすることもあるかと思いますが、生暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 1964年、東京オリンピック直後。

 それが、世界が魔法の実在を認識した、歴史的な瞬間だ。

 世界各地に突如として現れたダンジョン、そしてそこから現れる大量のモンスター。

 未知の攻撃方法を操る彼らとその姿に、人類は古来から伝わるおとぎ話にヒントを求めた。

 そして魔法という存在を認め、それを武器に用いる技術を編み出した。

 そうして生まれたのが聖剣――Divine Arm。通称DAである。

 DAを操る者、聖剣剣聖――Divine Arm Master、通称DAMは次々とモンスターを退治していった。

 各国はDAの開発機関兼DAMの教育機関であるDivine Arm Master Academy、通称DAMA(ダーマ)を設立した。



 世界は未知なるダンジョンから人々を守るため、新たな聖剣を求めています。

 君も私たちと一緒に技能を磨き聖剣剣聖を目指そう!

 DAMAトーキョー入学願書受付中!!



「まぁ、そうは言っても今更ダンジョンは脅威でもないし、技能(ギフト)よりも技術(テクノ)が優先なんだけど」


 俺――平賀良二(ヒラガリョウジ)は研究所兼シェアハウスのリビングでコタツに入ってくつろいでいた。


「モンスターはある程度知能はあっても、道具を使うわけでもなければ仲間内の情報共有も雑。

 対策が確立されて武器の量産ができてしまえば、掃討なんて楽なのさ。

 人間はそうやって発展してきたんだから」


 凶悪で凶暴な野生生物こそ、絶滅の危機にある。人間が自身と家族を守るために狩り尽くしたからだ。

 武器を造り、罠を張り、知略の全てを使った徹底した対策で安定して相手を倒す。人の強さと恐怖はそこにある。

 人は単体で人間なのではない。群体で人間となるのだ。


 俺はコタツの上のみかんを取ると、タンブラーに入れて蓋をする。


「それに伴い、DAMAも役割を変えた。

 属性に依存して個人しか使えなかった『魔法技能(ギフト)』を解析し、誰でも使える『魔法技術(テクノ)』として確立するよう、方針を転換したんだ。

 もちろん、それまでの技能(ギフト)育成もなくなってはいない。

 結局自分の技能を理解できるのは本人だけで、解析できるかどうかは本人のやる気と知識と才能に依存するからね。

 つまり今のDAMAのお仕事は三つ。


 ・技能を解析して技術にすること。

 ・技能を磨くこと。

 ・技術を発展させること。


 ここテストに出るからね」

「なるほど……」


 対面に座っている少女――狐崎雪奈(コザキセツナ)がノートPCにメモを取る。

 今日の彼女は黒のストレートの髪を後ろで束ね、ニットのセーターの上に白衣を羽織っている。


「聖剣――DAの定義は魔法能力を行使できる道具。聖剣剣聖――DAMの定義はDAを使える人。

 技術が発展したおかげで、これまで個人しか使用できなかった魔法を、多くの人が使えるようになった。

 DAだってお手軽に造れるようになった」


 タンブラーの蓋を開けてひっくり返すと中から冷凍みかんが出てきた。



「つまり今じゃあ、これが聖剣で、俺が聖剣剣聖なわけだよ」



 このタンブラーは中の物体を冷却させ、瞬間的に凍らせる聖剣(DA)である。

 名前は汎用瞬間過剰冷却式冷凍蜜柑製造聖剣『DA冷凍みかん君』。

 正月を超えそろそろ尽きそうだったみかんだが、先日雪奈の実家から補給物資が大量に届いた。

 そのことに脅威を覚えた俺が、手軽に冷凍みかんを食べれるよう作成したのだ。


 みかんは好きだが、普通のみかんはもう嫌なんだ。そして冷凍みかんの方が好きなんだ。


「質問です!」


 雪奈が元気に手を上げる。


「なんだ?」

「街中じゃあDAは見かけませんよね?なぜですか?すでに技術となって大量生産できるのなら、もっと広がってもいいんじゃないですか?」

「良い質問だ。

 いくつか理由はあるけど、とりあえずは二つ。

 一つはDAの使用には免許がいる。

 DAMA敷地内ならある程度免除されるけど、流石に街中じゃあそうもいかない。

 二つ、魔法を起動させるには属性が一致しないといけない。

 このDA冷凍みかん君は『冷却』属性を使っているけど、『冷凍』『温度変化』『熱量奪取』等、他の属性でも再現できる。

 でも、起動させるには『冷却』属性じゃないと動かないんだ」


 特定の属性を持っている人しか使えない、じゃあ使い勝手が悪すぎる。格差も生まれてしまうし、広まるはずがない。


 俺は冷凍みかんの皮を剥こうとするが、うまく剥けない。

 しまった。先に皮を剥いておくんだった。

 仕方ないので魔法で暖める。簡単な魔法は、属性が合えばDAなしでも起動できる。知識と技術は必要だが。

 少し柔らかくなった皮を剥くと、みかんを魔法で切断し雪奈に渡す。


「中心まで完全に凍ってますね」

「調整が難しいのも広がらない理由かなぁ……」


 旧型では凍るまで1分かかったが、出力を上げたらこの通りだ。

 俺は新しいみかんの皮を剥くと、DA冷凍みかん君と一緒に雪奈に渡す。


「やってみるか?」

「はい!」


 雪奈はみかんをDA冷凍みかん君に入れて蓋をするとDAを起動する。

 10秒後、雪奈はみかんを取りだすと半分に割り俺に渡す。

 一房口に入れる。シャリシャリとした触感が美味しい。


 やはり雪奈はセンスがいい。俺が一度使うだけで、ある程度の力加減が解ったらしい。

 あとでログを解析すれば改良に役立つだろう。


「もう一つ質問です!」


 雪奈が冷凍みかんを食べながら手を上げる。


「技能と技術の違いが良く解らないんですけど、具体的にはどう違うんですか?」

「そうだな……

 技能が未知の言語、技術が日本語みたいなものかな。

 技能に一致する属性がある人は、なんて言っているのか何となくわかる。

 属性がない人にはちんぷんかんぷん。

 けれどその言葉が解るようになると、出来ることが増えるようになる」

「なるほど、だから翻訳して技術にするんですね」


 雪奈は呑み込みが早くて助かる。


「ああ。だから技能持ちはDAMAに置いて価値が高い。

 例えば生身で空を飛ぶ技術と、美味しい冷凍みかんしか作れない技能。どちらが価値があるかというと……」

「冷凍みかんの方が高いと」

「冷凍みかんしか作れないのは、冷凍みかんについての言葉しか解っていないからだ。

 解析すれば太陽だって凍らせられるようになるかもしれない。

 逆に言えば、技能が解析されればDAMAにとっての価値は低い」


 俺はDA冷凍みかん君の縁に触れる。


「俺は全ての属性が使える絶対属性(アドミニストレータ)という特性があるが、昔に解析されて技術になった。

 だからそれを使った属性変換器(コンバーター)を搭載しているコイツは、全く属性を持たない雪奈でも使えるわけだね。

 けれど、同時に俺はDAMAにおいて価値が限りなく低いわけだ」


 技能(特別)を持った人が、その特別を失い技術(普通)となることで、価値を最大に認められる場所、DAMA。

 非常に歪ではあるけれど、世界をより良くするためには仕方がない。それに技術となった後もそれを発展させるにはその人の才能が必要となる。それ以降その人の価値が下がっていくわけではないし、実績は残り続ける。


 もっとも、俺は入学以前から無価値扱いだったわけだけれど。


 そんなことを話していると、部屋に一人の女性が入ってきた。

 齢は30前。くすんだ金髪は腰まで届いている。前髪だけ赤いメッシュが入っているのが特徴的だ。

 学校帰りなのか、パンツルックのスーツを着ており、俺たちとおそろいの白衣を肩にかけて、手にはトランクを引いている。


「おかえりなさい、聖教授」


 このシェアハウスのオーナーであり研究所の所長である、聖理子(ヒジリリコ)教授だ。

 俺たちは彼女の手伝いをすることを条件に、此処に住まわせてもらっている。


「ああ。

 早速だが一つ仕事がある」

「仕事?厄介事ですか?」

「ああ、そうだよ。

 楽しい楽しい、厄介事だ」


 彼女は獰猛そうに笑い――俺たちの忙しい一か月が幕を開けた。





 Waste Use of Waste Technology - 了

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