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第三十一話 あっという間に美味しい冷凍みかんを作る方法(要才能)

「本題だ。今日年度末試験のスケジュールと、試験要項が提示された」


 翠さんが中空を操作し、眼鏡(D-Seg)に試験要項が表示される。


「試験は三月四日。試験の確認内容は空間操作。試験方式は一対一の戦闘。まぁ予想通りだな。ルールは……」

「ルールは攻撃方法は近接型聖剣による空間属性を用いた攻撃のみ。使用可能なDAは一つ。補助装備アリ。最大魔力出力量の上限なし。エーテルバッテリーの使用に制限あり」

「なるほどなるほど……こいつはヘヴィーだな」


 ほとんど道場破りの時と同条件だ。

 近接攻撃のみが近接型聖剣による空間属性を用いた攻撃のみに変わっているのは、正技さんの専攻が空間切断だからそれに合わせたのだろう。これは問題ない。

 問題はエーテルバッテリーの使用制限。

 俺の魔力総量は非常に低く、道場破りでは魔力をエーテルバッテリーに依存していた。

 そこに制限がかかってしまう。


「だが、何でエーテルバッテリーの使用に制限があるんだ?

 年度末試験はDAの性能評価だろ?エーテルバッテリーに制限かけたら本来の性能を引き出せなくなるじゃないか」


 そこが解らない。誰かの圧力があった(・・・・・・・・・)のは解るが、どんな理由を付けたのやら。


「貴方と正技さんの魔力総量には大きく差がある。そこにエーテルバッテリーの大規模なバックアップが加わるとあまりにも差が付きすぎるから、らしい」


 その回答に思わずため息をついてしまう。


「馬鹿々々しい。10+100と100+100より、10+1000と100+1000の方が割合的に差が少なくなるじゃないか」

「そうだな。この話を聞いた聖教授は校舎に突っ走っていったよ」


 ああ、それが最初のやり取りの真相だったか。


「う~ん……まぁヘヴィーだが運が良かった(・・・・・・)

 エーテルバッテリーの制限じゃなくて使用禁止なら完全にお手上げだったな」

「何とかなるのか?失礼だが……良二の魔力はDAMAでは底辺近いだろう」


 翠さんが目を見開く。

 基本的に空間操作系は大量の魔力を消費する。ずっと使い続けると、数分で指定されたバッテリー容量を超えてしまうだろう。

 ただ、空間乖離現象などによる制限があり、実際には連続稼働には限界があるため、空間操作だけでバッテリーをすべて使い切ってしまうようなことにはならないはずだ。


 それにしても、眼を見開くと、彼女の名前の由来であろう、キラキラとした緑色の瞳がとても綺麗だな。


「時代は省エネだよ。使用できる魔力に制限があるなら、制限内で実現可能な手段を選ぶだけだ。

 まぁ、元々考えてた大規模ド派手な案はいくつか使えなくなったけどな」

「大規模ド派手な案とは、例えばどんなものだ?」

「今回は音速を超える速度で空間切断の攻撃を行うのが目標だ」

「ふむふむ」

「だから単純に、超々音速戦闘機の翼に空間切断の機能を持たせて突っ込む」

「認められるかそんなもの!!」


 翠さんがコタツを平手で叩く。

 そうかなぁ……有り合わせのもので実行できる非常にナイスなアイデアだと思ったんだが。

 雪奈は凄い乗り気だったのに。まぁ確かに該当する戦闘機のデータが入手できないという問題点はあったが。

 まぁどのみちルール上使用可能なのは近接オンリーなので、音速を超える兵器のほとんどは使えないのだが。


「ちなみに、バッテリーとDAを使わずに自分だけで空間切断しようとすると、2分間集中することで2センチの空間切断を1秒維持できる。それと比べると何倍もマシだろ?」

「前提として比較対象が悪すぎる。まるで使い道がない」

「使えますー!ペンチを使わずに針金切るのに使ったりしますー!」

「ペンチを取ってきた方が早いな」

「でも、コタツから出たくなかったし……」


 俺の言葉に翠さんが大きく息を吐く。


「とりあえずバッテリーの制限については解決の当てがあることは理解した。

 生徒会長にもそう報告しておく。

 そして、これがもう一つの案件だ」


 翠さんが中空を操作すると、古い資料の写真が表示された。


「俺が依頼していた正技さんの祖父――藤原正切の属性検査結果か」


 正技さんが属性検査結果をDAMAで見たというので、麗火さんに探すよう頼んでおいたのだ。


「能力は大体正技さんの相互互換……空間系は正切さんの方が高いけど、電気系は正技さんの方が上か」


 まぁ聞いた通りの結果だ。


「追加で、タキツヒメ討伐の報告書も部分的に見つかった」

「タキツヒメ討伐により右腕に重症……DFDも大破、か。

 当時のDAは高価だし、バブルスフィアもなく再現ごとに腕を壊す。加えて技能を使えるのは一人だけ。

 これじゃあ技能解析に回さず戦力として使った方がいいか」


 当時はダンジョンの解析と攻略が急務で、自衛隊と民間の攻略部隊が連携して事に当たっていたらしい。

 強い技能は欲しかっただろうが、竜を殺せる切り札である藤原正切を犠牲にしてまで得るだけの価値はないと判断されたのだろう。


「うん、参考になった。麗火さんにありがとうと伝えておいてくれ」

「そうか。生徒会長には伝えておく。

 剣聖生徒会からの話は以上だ。

 後はそうだな……私事だが、一つ聞いておきたいことがあった。

 櫛とかんざし、どちらがいい?」


 くしとかんざし?比較と考えると、くしは串ではなく櫛だろう。だが何故櫛とかんざし?

 首をかしげながら翠さんを見ると、翠さんは真剣な表情をしている。これは重要なことだろう。となれば、麗火さんに関係することのはずだ。

 なるほど、恐らく、ホワイトデーか何かで麗火さんにプレゼントを渡そうとしているという事だろう。しかしそれを俺に直接言うのは色々と憚れたため、端的に二拓で聞いたと。

 そうなれば答えはかんざしだ。麗火さんはかんざし集めが趣味だし、櫛は前にプレゼントした柘植(ツゲ)の櫛をずっと使っている。


「かんざしだな」

「かんざしか……」


 翠さんは渋そうな顔をする。かんざしの方が値が張るからだろうか。


「そういう趣味だったとは……まぁいい。参考になった。

 ところでずっと気になっていたのだが……それはなんだ?」


 翠さんがシロクマがデザインされたタンブラーを指さす。俺がつい先ほど完成させたDAだ。



「汎用分子固定式(・・・・・)冷凍蜜柑製造聖剣『DA冷凍みかん君-リョウ』」



「汎用……なに?」


 困惑する翠さんには、説明よりも先に動作を見てもらおう。

 俺はコタツの上のみかんを取ると皮をむき、いつものようにDA冷凍みかん君の中に入れて蓋をする。そのまま魔力を流して蓋を開けて中身を取り出すと、冷凍みかんの完成だ。

 そしてなんと驚くべきことに、周囲の温度が下がっていないしDA冷凍みかん君に霜も降りていない。


「電子レンジはマイクロウェーブで分子を振動させることで熱を与えるが、これはその逆。直接分子の動きを止めることにより物体を凍らせる。

 内部の分子のみに働きかけるため、氷や冷却属性と違い、容器が薄いままでも周囲が寒くならない。

 持ち運び簡単、利用も簡単、何時でも何処でも誰でも冷凍みかんがすぐ楽しめる!それがDA冷凍みかん君――了……だ……?」


 翠さんが何やらすごい形相でこちらを睨みつけてくる。

 DA冷凍みかん君の一体何が彼女の逆鱗に触れたのだろうか。全く想像がつかないが、機嫌を直してもらうため、恐る恐る完成した冷凍みかんを彼女に差し出す。

 翠さんは不機嫌なまま冷凍みかんを受け取ると、半分に割り豪快に口に放り込んだ。

 シャリシャリと咀嚼する音が聞こえる。ちなみに使用する魔力の調整が効くように改良しているため、冷凍具合は自在に調整できる。


「その……お味はどうでしょうか……?」

「控えめに言ってクソだ」


 食べ終えた翠さんが吐き捨てるように言う。

 女の子がそんな汚い言葉を使うなんて……そこまで不味かったのだろうか。


「冷凍みかんはお嫌いだったでしょうか?」

「嫌いじゃない」

「それでは、何がお気に召しませんでしたでしょうか……?」


 翠さんは残り半分の冷凍みかんを口に放り込むと、むしゃむしゃとそれを食べる。

 俺は黙ってそれを見守る。

 翠さんは冷凍みかんを食べ終えると、残った紅茶オレで一息ついた。


「…………

 技能を解析して技術として確立したのが先週の水曜日。何時か誰かの役に立ってほしいと願って属性と回路のレポートを提出した翌週、その回路が使われているのを初めて見た」


 昨日見つけた『分子固定』の属性レポート、翠さんが書いてたのか……


「別にコレが悪いとは言わんが、宇宙船とか、最新式の飛行機とか、そういうのに使われることを夢見た私の気持ちはわからんだろう!?」


 翠さんが激昂する。麗火さんに失礼した場合よりも怒ってるんじゃあないだろうか。


「ゴメンナサイ」


 予期せず翠さんの初めてを奪ってしまったことに謝る。


「はぁ……はぁ……

 いや、いい。実際のところ、私も冷凍関係に使われることは予期していた。冷凍みかん専用なのはさすがに予想外だが」

「まぁ、使い勝手いいからなぁ。

 そういえば、翠さんの二つ名『コールド:プリズン』はこれが由来という事か」


 分子を停止させることで対象を止め、凍らせる。

 冷気も感じずに身体が凍れば、まるで牢獄に閉じ込められたと感じるだろう。


「そうだな。それもある。

 だがしかし」


 翠さんはみかんを手に取ると、俺の方に放り投げた。

 弧を描き空を舞うみかん。

 しかし、みかんは俺の手に届く直前で空中で停止してしまった。


「なに……!?」


 みかんを360度確認してみるが、周りには何もない。上にも下にも何もない。まるでよく出来た手品のようだ。

 俺が恐る恐るみかんに触れると、みかんは自由落下を思い出したように落っこちた。

 俺は落ちたみかんを手に取ってみる。普通のみかんだ。皮を剥いてみると、中はひんやりと冷たい。


 一房ちぎって食べてみる。

 周りは瑞々しいが、中が少しだけ凍っており、何時もよく甘みが強くなっている。


「これは一体?」


 一体何が起こったのか皆目見当もつかない。


「さぁな。

 私は次の一年、それを調べるつもりだ」


 俺の驚く姿に満足したのか、翠さんはドヤ顔でそう言った。




 今見た技能について翠さんと意見を交わしていると、アイズから連絡がきた。

 確認してみると、雪奈のファッションショーの合成写真らしきものが多数添付されている。

 一体何なんだこれは。雪奈は何をしているんだ。

 良く意図が解らないが、とりあえず彼女の母親にも送っておいてあげよう。この間の写真も喜んでいたし。


「どうかしたのか?」

「いや……麗火さんと女子会中の雪奈の写真が送られて――」


 あ


「女子会?会長と?何時、何処で?」


 翠さんが詰め寄ってくる。


「たぶん、スイーツパーティーにいるんじゃないかなーって」

「よし解った行ってくるお邪魔した」


 翠さんはコタツから出ると、あっという間に家から飛び出して行ってしまった。


 …………翠さんが雪奈に謝る良い機会だと思っておこう。

 そんなことを考えながら、俺は残ったみかんを口にした。


 それにしても、DAも魔法も属性も奥が深い。

 彼女の次のレポートが世界をより良くし、素敵な最新技術として使われることを祈ろう。




 Special Gift for Frozen Mikan - 了

次回は問題回。解答はしばらく後になります。



お読み頂きありがとうございます。


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