第三十話 来襲、剣聖生徒会副会長
「ついに!ついに完成したぞ!」
そう言いながらDAを抱えリビングに行くと、本来いるはずの聖教授はおらず、代わりに灰色の髪の少女がコタツでくつろいでいた。
「どうも」
とりあえずペコリとお辞儀をした。
「お邪魔している」
「はぁ……」
誰かと思えば、副生徒会長の厳島翠さんか。
「この辺りで聖教授を見ませんでした?」
「教授なら私と入れ替わる形で校舎の方に向かったぞ。
私はなぜか留守を任された」
「いや、ほんとなんでだよ……俺だっていたのに」
俺は特にこの副生徒会長に思うところはないが、彼女は俺をたいそう嫌っているらしい。この場にいても気まずくなるだけなので、部屋に戻って研究の続きでもしようか。お留守番は彼女がしてくれるとのことだし。
ああ、でもお茶くらいは出した方がいいか。
俺は棚からカップを取り出すと、冷蔵庫から作り置きの紅茶を取り出し注ぐ。さらに冷蔵庫から紫色の液体の入った試験管を取り出すと、数滴紅茶に垂らす。
あとはカップに魔力を込めてっと……
「聖研特製紅茶オレです。
魔力の込め方で香りと甘みと温かさが変わるので、楽しみながら飲んでくださいね。
お茶請けはそこに大量に積まれているみかんをどうぞ」
先日実家にDA冷凍みかん君を持って帰った雪奈に、家族が大量に送り付けてきたのだ。
折角終わりが見えてきていたのに……
どうせなので大量に消費して行ってもらおう。
「……先ほど怪しげな液体を入れるのが見えたが、飲んでも平気なものなのか?」
翠さんはカップを持ち上げ、訝しげに匂いを嗅ぐ。
まぁ、気になるのは解る。
「天然由来の成分しか入っていませんよ」
「天然由来でも摂取したら拙い成分などいくらでもあるだろう」
それはそうだけど。
「ちなみに、麗火さんは美味しいと言ってコクコク飲んでくれたな」
「いただきます」
翠さんは間髪入れずにカップをあおった。
解りやすいな。
「あら、美味しい。
決して甘すぎず、けれどわずかな甘みと酸味が紅茶本来の香りを楽しませてくれる……」
それは良かった。
しかし酸味?この紅茶オレの味は魔力の量と属性で変わるが、酸味は初めて聞いた。一体何属性が影響しているのだろうか。
「それではごゆっくり。
研究室には機密性が高いものもあるので入らないでくださいね」
「ちょっと待て。私はあなたに話があるのだ」
監視をアイズに任せて自室に戻ろうとしたところ、翠さんから待ったがかかった。
「はぁ……一体何でしょうか?
俺は依頼の件もあって忙しいんですが」
「その依頼に関係することで、生徒会長から話を預かっている」
「……なるほどね」
このタイミング。おそらく、雪奈と女子会をするのに翠さんが邪魔――もとい、翠さんがいると雪奈が緊張すると思った麗火さんが、二人が顔を合わせないように、あらかじめ俺の方に向かわせたのだろう。
彼女は根回しが上手く用意周到だ。
「だがその前に一つ謝罪したい」
「謝罪?」
何も迷惑をかけられた覚えはないのだが。いや、生徒会室の件は、ちょっと邪魔だったけど。
「はっきり言って、私は貴方を見くびっていた。
能力だけ確認し、私たちからの依頼を遂行できるだけの実力はないと考えていた」
まぁ、実際に俺一人で天才たちにどうにかできるだけの知恵も能力もない。
今回の設計のほとんどはアイズと雪奈が担当してくれたし、俺の能力から力不足と判断したのは正当な評価と言えよう。
「しかし貴方は自身の能力の低さを補うため自動操作マニピュレータを設計し、DAMAトーキョー筆頭剣士の藤原正技の攻撃を全て迎撃した。
貴方は評価に値する人物だった。不躾な態度を取って悪かった」
翠さんが深く深く頭を下げる。
どうやら週末の道場破りについて、結果を確認したらしい。
まぁ、道場破りの様子は録画されるし、結果は麗火さんにも伝えてあるから、確認したのは当然だろう。
「頭を上げてください。俺はまだ特に大したことはできていません。
それに勘違いしていますが、俺の使ったDA――鈍八脚は全ての攻撃を防ぐことはできず、最後の攻撃抜きにしてもすでにボロボロでした。
まだまだ性能は足りず、課題は山積みです。俺なんてただ突っ立ってただけですし」
道場破りの後雪奈と録画した道場破りの動画は繰り返し見たが、改善するべき箇所はいくつも見つかった。
元々問題点を洗い出すことが一番の目的だったとはいえ、少し恥ずかしい。
「それでも私たちの期待をはるかに超える結果だった。
剣聖生徒会の皆で結果を確認するのは今日この後か明日になるが、きっと皆貴方を認めるだろう。
これからは敬語も使わないでいい」
DAMAでは基本的に年齢による上下はない。
上下を決めるのは立場、そして実績だ。実績を周囲に示した人、部長や生徒会役員などは他から敬語を使われることになる。
剣聖生徒会に敬語を使わないでいいということは、俺の立場が少し良くなったという事だろうか。
一歩前進したという事だろうが、本番の年度末試験まで気を抜くことはできない。このままだと依頼は未達成になる。
それに可能ならば、剣聖生徒会と同レベルまで立場を上げたい。そうしないと依頼抜きに麗火さんとまともに喋れないし会えない。
「了解した。謝罪と少し立場が良くなったことを受け取るよ。
あと、『貴方』じゃなくて『貴方たち』だ。今回の道場破りは雪奈が凄く頑張ってくれたんだ。
彼女がいなければDAは完成しなかったし、道場破りも10分持たなかった」
今日の女子会で少しは和らぐと思うが、雪奈にはもっと生徒会を好きになって欲しい。
そのためには翠さんの態度の軟化が必須だ。
「そうだな。その通りだ。
折を見て謝っておく」
翠さんはもう一度頭を下げた。
「ただ……」
「ただ?」
「それはそれとして、生徒会長に馴れ馴れしくしたり不躾な態度をとることは許さん。
それだけは肝に銘じておいてくれ」
小さな体の翠さんから、凄い大きな圧力を感じる……
「うん、努力します」
俺には従う以外の選択肢はなかった。
Enjoy Talk and Tea Ole - 了
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