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第二十九話 自称右腕は光と語り、世界の闇に気が付かない

引き続き女子会。

 最終的に私に着せる振袖談義が始まったところで和装である麗火さんと真忠さんの下着事情について訊ねたところ、なんだかんだで盛り上がり私の制服から話題を反らすことができた。

 制服はこのままでいいや。

 あれだけ色々な制服があるんだから、女の子が白い学ランを着ていてもそんなに目立たない気がする。

 それにしても、二人があんな大胆な下着を身に着けてるなんて……良二さんには絶対にヒミツだ。


「それで、ちょっと気になることがあるんだけどさぁ」


 短髪さんがレモンチーズケーキにカットされたみかんを乗せ、それをムシャムシャと食べながら、唐突に切り出した。


「この二人ダレ?どっかで見た気はするんだけどよ」


 首を傾げながらパクリとケーキを食べる。


「いまさらその話ですの!?何の話し合いだと思って付いてきましたの!?」

「いや、いつもここではタダで食ってるからついてきただけなんだけど」

「あなたって人は……」


 金髪さんが頭を抱える。


「その……私は聖研究所に所属している『属性欠乏(イノセント・ヌル)狐崎雪奈(コザキセツナ)です。

 四月からDAMAトーキョー普通科に入ります。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる。


「ふーん。オレは剣聖生徒会情報担当の一橋愛韻(ヒトツバシアイン)だ。

 聖研というと……ああ、あそこか。

 なるほど、生徒会長が(ツラ)を見せておきたいわけだ」

「聖研は有名なんですか?」

「研究室持ちは大抵ヤベェ。教授ともなるとトップクラスにヤベェ。

 そこに所属してる奴も例外なくヤベェ。

 まぁ、聖研は理性が残っているだけマシなヤバさだな。あんたはどう感じた?」


 ヤバいと言われても、特に実感はわかない。

 理子さんも良二さんに危険は感じないし、良い人だ。

 ここのところずっと他人のために休まず働いている。


「特に問題のあることはしてないみたいでしたけど」

「ふぅん。なら、あんたも素質があるってことかもな。

 まぁいいさ。コンゴトモヨロシク。

 それで、そっちの巨乳の子は?」


 愛韻さんの言葉に、みんなの目線が真忠さんの胸に行く。

 うん、大きい。良二さんがガン見するくらい大きい。麗火さんも大きめだけれど、それよりも大きい。


「初めまして。私は三木谷真忠です。

 現在は第八武道館にて、天元流剣術部の選任鍛冶師をしています。

 それと巨乳と言わないでください。あなたも同じくらい大きいですよね?」


 真忠さんの言葉に、みんなの目線が愛韻さんの胸に行く。

 うん、大きい。良二さんがいたらガン見するくらい大きい。

 きちんと着込んでいる真忠さんと違い、制服を着崩している分余計凄い。谷間にネクタイが挟まっているのはわざとだろうか。


「そういえばそうだな」


 愛韻さんが自分の胸をのぞき込む。金髪さんが崩れた制服を無理矢理整えてあげる。


「それにしても天元流剣術部か……

 今話題のアレかね。厄介がネギを背負ってやってきた、とかいうヤツ」

「おバカ!」


 金髪さんが愛韻さんのネクタイをぎゅっと締め上げる。


「ギブ!ギブ!」


 愛韻さんが顔を真っ青にしながら両手を上げる。

 金髪さんは不満そうにネクタイから手を離すと、ぺしりと愛韻さんのおでこを叩いた。


「別に文句言ってるわけじゃねぇよ……

 すでに調理は終わって(・・・・・・・)て、これから美味く頂いて最後に雑炊にして〆るだけだ。

 むしろ感謝してるくらいだぜ。

 とはいえ、まぁ少し口が悪かった」


 愛韻さんはネクタイを緩めると、バツの悪そうな顔で謝った。

 それにしても厄介とは何だろう?

 私たちが請け負ってる依頼かと思ったけど、そちらはまだ何も進展がない。

 まぁ、もう片付いているようだから気にしなくてもいいかな。


「すみません、このおバカはいつも口が悪くて……」


 金髪さんは愛韻さんの頭を鷲掴みにすると、無理矢理下げさせた。


「私の紹介がまだでしたわよね。

 私は剣聖生徒会広報担当の氷川音彩(ヒカワネイロ)ですわ」


 音彩さんが優雅にお辞儀する。

 小柄で美人な人だ。でも、何か違和感があるような……


「あんた、今こいつが美人なお姉さんだと思っただろう?

 小柄でスラリとした肢体。艶やかなロングヘア。少女が憧れる少女。


 だが男だ」


「……はい?」


「愛韻!」


 音彩さんが愛韻さんのおでこを叩こうとするが、愛韻さんはスウェーで避けた。


「別にそんなこと(・・・・・)今更隠すことでもないだろ?

 先に言っておいた方が楽でいいじゃねーか」

「それは、そう、ですけど……」


 消えそうな声で、音彩さんがうつむく。


「あの……お二人の関係は?」


 会ってからずっと、二人の距離が近いのが気になっている。

 もしかしたら、親友や悪友や恋人と違った関係なのかもしれない。

 ただ、凄いセンシティブな話になりそうなので、興味はあるが詳しくは聞き辛い。


「気にすることじゃねぇよ。不本意ながら、ずっと一緒にいるダチだ。腐れ縁ってヤツか?」

「はぁ……」


 何か釈然としない。


「そうね……あなたと良二くんがもっと実績を積んだら、いつか重要な依頼をするかもしれないわ。

 そのことだけ覚えておいてね」


 そう言う麗火さんは、少し寂しそうだった。


「さて、つまらねぇ話は置いておいて、剣聖生徒会の残りは後二人。

 副会長の厳島翠(イツクシマミドリ)と風紀騎士団団長の工島一真(コウジマカズマ)なんだが……

 一真はともかく、翠はどこに行った?トイレか?」


 愛韻さんがキョロキョロと辺りを見渡す。


「あんた本当に周りを見ないのね……副会長なら来てないわよ」

「翠さんならちょっとお仕事に行ってもらってるわ」


 麗火さんはだいぶ慣れてきたけど、翠さんは完全に嫌いなままだ。

 いないでくれて助かった。


「ふーん。

 まぁ、これで全員だな。DAMAでなんか問題があったら翠か音彩にでも話をしてくれ。

 ホームページもあるから、そっちの相談窓口でもいいぜ」


 私のD-SegにURLが届く。

 愛韻さんが送ってきたのだろう。愛韻さんはD-Segをちゃんと扱えているみたいだ。

 ちなみに愛韻さんは弦が紫のフレームレス、音彩さんは黄色のフレームレスのD-Segを使っている。

 フレームはずいぶん細いけど、ちゃんと機能しているらしい。


「その、一つ質問なんですけど……」

「何かしら?」

「風紀騎士団ってなんでしょうか?」


 風紀委員なら解るけど、風紀騎士団。


「DAMAは決闘システムがあるし、血気盛んな人たちが喧嘩でDAを使おうとすることがあるの。

 そういう人たちを取り締まるための集団ね。

 通報があれば五分以内で駆け付けて、戦闘の調整と審判を行うわ」

「え?喧嘩を止めるんじゃないんですか?」

「まぁ、そういうこともあるわね。

 一真くんは2対50の大乱闘に乱入して勝利することで、場を納めていたわ」

「結局武力で解決!?」


 たまに感じていたけれど、DAMAは非常に怖いところなのかもしれない。


「他人事のように言いますけれど、その二人側に生徒会長も含まれていましたわよね?」

「そうだったかしら……」


 麗火さんが目線を反らす。

 大人しそうに見えるけれど、この人もかなり好戦的なのだろうか。


「それどころか会長が全部焼き殺したって聞いたぞ。味方ごと」

「覚えてないわね」


 麗火さんはきっぱりと言う。


「まぁ、死なない限り大体の怪我は治せるし、バブルスフィアもあるから、結構いい加減なのよ。

 だから騎士団の人たちが最低限の規律だけ守っているの」


 それは本当に規律を守れているのだろうか……


「その、バブルスフィアは本当に安全なんでしょうか?

 マスターが怪我をするのをよく見るんですけど……」


 良二さんも理子さんも原理を説明してくれて問題ないということは解っているけれど、やっぱり不安だ。


「マスター?ああ、良二くんのことね。

 そうね。不安になる気持ちはわかるけど、バブルスフィア内における死亡が原因で身体に影響を及ぼしたという報告例はないわ。

 バブルスフィアの原理自体は知っているのよね?」


 コクリと頷く。


「バブルスフィア内で怪我をしても、元々の身体に影響が無いのは理解しています。

 でも、怪我をした痛みや、身体を切られたショックはあるし、バブルスフィアから出ても記憶として残っているんですよね?」

「そうね……

 どうしても身体に大きな損傷を受けることを生理的、心理的に受け付けられず、転校したり、転科する人は多いわね。

 でも、雪奈ちゃんは普通科よね?怪我することはほとんどないと思うわ。

 それとも剣聖科に入りたいのかしら」

「いえ、私の事ではなくて、マスターの死亡酔いが酷いので、大丈夫なのかなと」


 何時もつらそうにしているけど、みんな同じなのだろうか?


「良二くんは相変わらずかぁ……」


 麗火さんがポツリとつぶやき頭を抱える。


「酷いヤツは酷いらしいなぁ。入学直後に酷い死亡酔いで吐いてるヤツがいたけど、5回くらい死んだ後は見なくなったっけ。

 俺は平気だからよく解らねぇけどな」

「そうですわね。私も意識がストンと落ちるだけで、その後は特に不調を感じたことはありませんわ。

 ただ、基本的には慣れるとされています」

「そうなんですか?」


 この二週間で、良二さんの死亡酔いが良くなったようには感じられないけど……


「死亡酔いの原因は諸説あります。

 肉体の状態と精神の状態に齟齬が発生したことにより、精神からの命令を肉体が上手く受け取ることができず、動きにブレが生じるケース。

 このケースは何度か死亡することにより精神が学習し、齟齬が発生しなくなります。

 死亡したストレスが、肉体的な不調となって現れるケース。

 これはトラウマを併発することがありまけれど、続けることにより心がマヒして次第に不調は現れなくなります」

「あの……それって凄いまずいんじゃあ……」


 それは要するに死を恐れなくなる(・・・・・・・・)という事ではないだろうか。

 下手をすると、日常生活に影響を及ぼしてしまうような。


「大げさな話ではありませんわ。心が受け入れる準備ができるという話です。

 注射が嫌いでも何度も注射すると次第に馴れる者でしょう?幽霊が驚かしてくる怖い映画も何度も繰り返すと驚かなくなります。

 それと同じですわ」


 受け入れる身構えができる、ということだろうか。

 慣れない良二さんは、何時まで経っても怖い映画にびくびくする男の子ということになる。ちょっと可愛いかも。


「一月前に発表された論文では恐怖遺伝子――セロトニントランスポーター遺伝子が影響しているという説もあるわ。

 ある程度その遺伝子が強いと、どうしても体調不良になってしまうとか。

 恐らく良二くんはこれでしょうね」

「どうにかならないんですか?」


 私の問いに麗火さんが中空を操作する。

 すると、私のD-Segに論文が送られてきた。


「詳しくはその論文に書いてあるけれど、酔い止めのDAが効果的らしいわね。回路も渡しておくわ。

 D-Segに組み込めば少しは楽になると思う。試してみてくれないかしら」


 続いてDA-CADの設計図が送られてくる。

 見た感じ、このまま組み込めそうだ。


「ありがとうございます!」


 これがあれば良二さんの首切り地獄が少しはマシになるかも知れない。


「雪奈ちゃん」


 早速アイズさんが翻訳してくれた論文に目を通していると、麗火さんが私の名を呼び手を握った。

 彼女の手は、凄く温かい。


「良二くんのことを心配してくれてありがとうね。

 彼は平気な顔で無茶をしちゃうから、心配してくれる子が近くにいてくれて、少しだけ安心したわ。

 これからも、変な方向にすっ飛んでいかないよう、ちゃんと見ててあげて」


 麗火さんの手に、少し力がこもる。

 ――その手は少し震えていた。


「せめて死亡酔いで済むよう(・・・・・・・・・)目を離さないで。

 解っていると思うけれど、取り返しがつかなくても受け入れてしまうから」


 私を見る目は本当に真剣で、少しだけ潤んでいるようにも見える。


「はい、十分理解(・・)しています」


 ……うん、この人は良二さんの言う通り、優しい人なんだろう。

 良二さんを心の底から心配しているのも間違いないと思う。

 きっと、私よりもずっとずっと長い間良二さんを傍で見てきたのだから。


「でも大丈夫です!マスターが無理したり疲れたりしたら、私が無理矢理おヒザに寝かしつけてあげますので!」




「なぁ……ところで何でマスターなんだ?」

「マスターはマスターオブイノベーションなのでマスターですね!」

「マスター・・なんですって?」

「あら?マスターでいいのかしら。

 先日良二さんの事を頼りになるお兄ちゃんみたいだと仰って――」

「あー!あー!!」

「「「その話詳しく」」」




「私のことはこれぐらいにして!草薙さん!」

「麗火でいいわ。DAMAでは名字じゃなくて名前で呼ぶのが推奨されているの。血筋とか……色々あるのよ」

「それでは麗火さん!

 マスターとは幼馴染なんですよね?マスターの昔が知りたいです!」

「そうね……昔から負けず嫌いだったわね。

 何時も勝負と喧嘩ばかりしていたわ」

「あれ?仲良くて二人で一緒に旅行してたって話じゃなかったか?」

「なんで愛韻くんが――!?」

「「「その話詳しく」」」





 こうして、私たちの女子会は続いていく。




 Girl's Girls Party - 了

剣聖生徒会の人たちは今後も出てきますが、忘れてしまっても特に問題ありません。

愛韻くんだけ他より出番が多いので、彼女(彼?)だけ記憶の隅にとどめておいていただければ。



お読み頂きありがとうございます。


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