第二十七話 食後の反省会
引き続き引き続き試作評価と考察回。
最初のリストに目を通せば、各種解説は流し読みでOKです。
ほとんどが前回までの話の補足なので。
寿司のネタや寿司っぽい創作料理についてラーメン寿司やオムライス寿司を食べながら正技さんと色々と討論した後、正技さん真忠さんと別れ、俺たちは帰路についた。
これからの開発に参考になるかはわからないが、色々と話を聞けた。有意義な時間だったと言えよう。
「雪奈は何が美味かった?」
「やっぱり最初のスシサンドですね。小さめで色々な種類を選べるのもよかったです。
それとデザートのモンブラン……ラム酒の香りがとてもステキでした。甘みも程よく、ケーキ屋さんでも十分出せる美味しさです」
「俺は定番のマグロカツライスバーガー寿司……と言いたいが、新作の炙りサーモンチーズライスバーガー寿司も素晴らしかった。
ただ炙っているだけじゃない、あの香りの正体は一体なんだ?特別な素材を使ったかそれとも聖剣か……?」
有意義な時間の感想を話しているとシェアハウスに着いた。
ちなみに、俺も雪奈も普通の寿司はほとんど食べなかった。気になるメニューを優先的に頼むと、どうしてもお腹がいっぱいになってしまう。
「というわけで、今日の道場破りの結果と、ご飯中に聞いた話をまとめていきたいと思います!」
眼鏡を起動、メモからチョイチョイとピックアップして箇条書きにまとめ、コタツの前のディスプレイに映す。
1.DAの動作に大きな問題なし
・DAの防御行動は十分
・DAの思考制御を用いた計算は十分
・リアルタイム修理は非常に有用
2.DFDの最大連続稼働時間は5秒。クールタイム2秒
・年度末試験での大幅な改善の可能性は低
・回路の改善で最大連続稼働時間を延ばすことは困難
・DFDの原理については確認済み
・DA-CADによる再現は困難
3.正技さんの目標はお爺さんの抜刀術の再現
・音速を超える剣術が必要 ※要出典
・今日の抜刀は時速540キロ
・現在開発中。年度末試験には間に合う見込み
4.来週にDFDのスキャンのサポート
「じゃあ一つ目。
突貫作業だったけど、無事DAが機能してくれました!
雪奈もアイズもありがとう!」
パチパチパチと手を叩く。
「マスターもお疲れ様でした!」
「お疲れ。本番はこれからだけどね」
雪奈もぱちぱちと手を叩き、アイズも近くの音源から拍手音を再生する。
「特に雪奈、リアルタイム修理については昨日の今日でよくあれだけ対応してくれた。
おかげで、ギリギリで正技さんの必殺技を拝むことができたし、夕食で様々な話を聞けた。
今日のMVPだな」
えへへ、と雪奈が照れたように笑う。
実際今日の道場破りの貢献度は、雪奈8割アイズ2割だろう。ぶっちゃけ、俺は何もしていない。
「学習データやDAの仕組みは年度末試験に流用できるけど、正技さんも一回り強くなっているだろうし、空間切断で切り合えるようにしないといけないから、ある程度は更新が必要だけどね。
ただ、試験だから切り合いは一分くらいで終わると思う」
「質問です!」
雪奈が勢いよく手を上げる。
「はい、雪奈さん」
「試験だと何か変わるんですか?」
「試験はいわゆる『研究発表』だ。
こういうDAを作りました。こういう動作をします。
というのを、実戦形式で披露するわけだ。
つまり『機能が動作していることが確認できればいい』。このDAの場合、正技さんの攻撃に反応して迎撃できるのが解れば、10分も20分もそれを見せ続ける必要はないわけだ。
相手もそれをわかっているので、適当に切り結んだら、本命の披露に移る。長い間戦って聖剣が壊れても困るしね」
正技さんは即ぶった切るみたいな挑発をしていたが、実際にそうなることはないだろう。
恐らくある程度手加減しつつ、マニピュレータの動作の確認をしてくる程度に収まるはずだ。
「そうなると、今度は私の出番はそんなになさそうですね。
ところで、何で実戦なんでしょうか?」
「DAMAは聖剣剣聖育成機関だからね。昔はここでダンジョン攻略用のDAの開発と、その運用実験、運用方法の確立を行っていたんだ。
実際に戦って評価するというのはその時の名残だね。戦闘用DAなんかは、実際に使って戦闘してみないと欠点が見えないこともあるし。
別に戦闘が必須というわけじゃなくて、簡単な動作確認だけ披露するケースも多いよ」
俺も実際に参加するのは初めてだが、一学期二学期と、期末試験で様々なDAが披露されるのは見ている。
研究発表は基本的に見学は自由だが、戦闘はやはり娯楽性が高く、沢山の人が見学する。
「プロレスみたいに、お互いに良い感じに機能を引き出し合って戦うんですね。
マスターの腕の見せ所ですね!」
「今回は俺は何もしなかったからなぁ……次はちゃんと活躍して雪奈にも格好いいところを見せないとな」
「大丈夫です!頑張っているところはちゃんと見ていますので!」
お世辞や慰めかも知れないが、頑張っていると言われるのはちょっとうれしい。
「それじゃあ二番目。
正技さんのDFDは高性能。DA-CADでは複製不可能。回路の向上、対応無理そう」
「ヒントは得ました。回路はそのまま。知識と仕組みで改良しましょう!」
「「いぇー!」」
雪奈とハイタッチする。
「なんでラップ調?」
アイズが訪ねるが、そんなこと俺にも解らない。ただ、俺のソウルがリリックを刻めとシャウトしたのだ。
「ところで、真忠さんが教えてくれた方法は、私たちだと本当に再現できないんですか?
DA-CADは解像度の問題で使えないだろうとは言っていましたけど、一度3Dプリンタで出力して、手作業で補正するとか」
「問題は二つ。
一つ。属性干渉。前に話したように、回路は言葉みたいなもので、属性によって微妙にイントネーションが変わったりするわけだ。
その回路が複数近くにあると、もう一つの回路に引っ張られて、言葉のイントネーションがおかしくなる、みたいな感じだね。
だから、ある程度回路を離したり、一緒に動かさないようにしたりする必要がある」
「回路の間に壁を作ったりするのはダメなんですか?」
「そういう方法もある。でも今回のケースの場合、回路同士を密接させないと、上手く動作しないんじゃないかと思う。
それぞれが個別に属性乖離現象を起こしてしまうと意味がないからね」
「なるほど……それでは、アイズさんにうまく調整してもらうことはできませんか?」
「ある程度自動で配置することはできるね。ただ、属性干渉の影響範囲は実際に動かしてみないとわからないし、回路自体のサイズも大きくなる。
そうすると、属性乖離現象発生までの時間が早くなるね」
アイズはすでに出来上がった回路を再現するのは得意だが、新規で回路を作成するのは苦手だ。
回路の作成はセンスが必要だが、アイズにはそれが足りていないと聖教授が言っていた。
「時間をかければ回路の再現はできるだろうけど、その時間はない。
二つ目の問題。解像度解決のために3Dプリンタで出力したDAを改修する場合、細かい修正作業を手作業で行うことになるけど、非常に時間がかかる。
今回要求される回路を考えると、初めから作った方が楽な可能性もある。
道具になれるのにも時間がかかるから、素人の俺たちだと到底二週間じゃ終わらない」
「手作業でのDA作成ってそんなに大変なんですか?」
「規模にもよるかな。DA冷凍みかん君程度なら数日で作れる。
慣れてる人なら数時間もかからない。でも解像度問題が発生するような回路だと、一気に難しくなる」
雪奈が普段使いしている指輪(DA)を造ったのは俺だが、一センチに満たない回路を刻印するのに一週間以上かかった。
精密動作を期待するDAなら、もっと時間がかかるだろう。
「というわけで、これらの理由によりDFD再現はお勧めできない。
それで、対応方法は何を考えているんだ?」
先ほど何か言っていたような。
「はい。私は属性は詳しくないので、複層構造?は造れないと思います。なので、DAの構造を変えることにより何とかできないかなって考えています」
「そうだな、多分それが現実的だ。
うん、俺も一緒に考えるよ」
「はい!一緒に考えましょう!」
雪奈が両拳に力を入れてやる気をアピールする。
どうやらDAの設計開発は楽しいようだ。最初にDA設計を任せてよかった。
「次は三つ目。
予想通り、正技さんの目標はお爺さんの、タキツヒメの首を落とした技だった。
天元流終乃業-斬界縮地。
その再現が今回の試験のキーとなるだろう。
今回の斬界縮地(弱)は時速540キロで目標値の半分にも満たなかったけど、試験では音速を超えることを前提として対策した方が良いと思う」
「はい、私もそう思います。あんなに自信たっぷりでしたからね」
すでに設計を終えている様子ではなかったし、あれはただの挑発だったと思うが、それでも相手は天才なのだから有言実行してくるはずだ。
「ただ、本当に音速に達することが技能再現の鍵なのか、それとも別の要因があるのかは、実際にそこまで行ってみないとわからない。
俺たちも音速越えを目指しつつ、技能を解析していこうと思う」
「不完全だとしても、正技さんに見せたという技が見れたら、少しは手掛かりになったかもしれませんけどね……
さすがに映像とかは残ってないでしょう。
ところで、『音速を超える剣術が必要 ※要出典』とありますけど、何か気になることがあるんですか?」
「ああ、正技さんが言ってたことは確か――」
「『すると一閃、音斬る閃光!世界が二つに分かたれて、竜の首がすとんと落ちた。』だね」
アイズが録音していたデータを再生した。
ちゃんと残しておいてくれたのは嬉しいが、これは盗聴になるのではないだろうか。
「実際に音速を超えたのかは、これじゃあ解らないからね。ただの誇張表現かも知れない」
「それは……剣を振り終わった後に音が聞こえたのでは?」
「う~ん……
例えば解りやすいように、音の速度が実際の1/34の10m/sだったとしよう。
剣士から1メートル離れたところに雪奈がいる。
この剣士が音速の半分の速度と、音速の倍の速度で剣を振った場合、音はどんなタイミングで聞こえると思う?」
「えっと……両方とも剣を振ってから0.1秒後ですか」
「そうだね。剣速が十分早い以上、剣を振ってからその音が届くまでの速度は変わらない。
それにそもそも、『空気も空間と一緒に切られるから、剣を振った音はしない』。腕を振った音くらいはするだろうけど」
「なるほど……つまり、実際の速度がわからないから、音速までは達してなかったということでしょうか?」
「もしかすると、目撃者の中に音速をとらえられる動体視力の人がいたかもしれない。
逆にマッハ10くらいまで行っていたかもしれない。
だから要出典。あくまで可能性として捉えよう。俺たちの目標も、正技さんの目標も、音速超過のままでいい」
「そうですね……私もそれでいいと思います。
明確な目標があった方が頑張れますし」
うんうん、笑顔で無茶な目標を目指せるとは、DAMAで学ぶ素質十分だ。
きっと入学しても明るくやっていけるだろう。
眼の下にクマができるかもしれないけれど。
「それで、音速を超える方法については何か考えはあるんですか?」
「いくつか試したいことはあるけど、まずは下調べしてからだな。こちらも一緒に考えよう」
「はい!私もいろいろ勉強しますね!」
「最後に四つ目。
とりあえず、俺の予定は研究開発だけなので何時でもよし。
雪奈は何時が良いとかあるか?」
「いえ、特にないです」
「じゃあいつでもいいと連絡しとく。
俺からはこれで全部だな。
雪奈からは何かあるか?」
「そうですね。
ちょっと足します」
雪奈がD-Segで追加操作を行う。
5.正技さんと真忠さんは家族ぐるみの付き合い
・恋人同士ではない
6.ひな祭りは碇寿司で特製ちらし寿司を販売
「なるほど」
重要なような、重要ではないような。
まぁ、6番目はフォントサイズが一回り大きく下線が引かれているから雪奈的には特に重要なのだろう。
「6番は後で予約を入れておくとして、5番は何時聞いたんだ?」
「マスターと正技さんが茶わん蒸しの具について熱く語りあっているときに、真忠さんに質問しました。
『聖剣剣聖と聖剣鍛冶師は付き合ってることが多いと聞きましたけど、お二人はどうなんですか!』と」
なるほど、女子トーク的には至極重要だ。
「『付き合ってないですよ。ずっと昔から家族同士で付き合いがあって、その縁で一緒にいるんです』という返事でした。
ただ、私が思うに、確実に黒ですね。少なくても真忠さんは正技さんの事をマジ好き超えてLOVEです。
バレンタインのチョコについても聞きましたが、『そんなことはどうでもいいでしょう』とはぐらかされました。
あれは、それとなく本命チョコを渡したけれど、全く気付かれなかった反応ですね。間違いありません。
頑固で真面目な彼を今は応援したい。邪魔したくない。でもこの恋心には気づいてほしい……そんなフレーバーです。
これは決まりですね。
今回の依頼、剣に夢中な彼氏の目標を叶えて、剣以外にも目を向けて欲しい。あわよくば一緒に歩んで頑張った自分を見てもらいたい……そんな乙女心が目的です!」
重要な情報があったが、それを超えるほどの雑念が印象に残る。
あと、隣に片思いの相手(仮)がいるのに、雪奈さんったらグイグイ行きすぎではない?
「うん、まぁ、そうかな……そうかも……
でも、正技さんは朴念仁の亭主関白という雰囲気だぞ。
上手くいっても真忠さんの精神的な負担は据え置きになりそうだな」
俺の言葉に、雪奈はちっちと指を振り、
「違いますね。真忠さんは夫を立てることはできるけれど、実際は姉さん女房気質です。
食らいついたら最後、正技さん程度お尻に敷いてしまいますよ」
そうかな……そうなのかな……俺にはよくわからないや。
「まあ、恋愛話は置いとくとして、他に何か話したか?あるいは聞かれたりしなかったか?」
「そうですね……いえ、特に。他愛もない話をしたくらいです。
女子トークとか、DA-CADの使い勝手とか、DAMAでの生活とか」
DAMAでの生活……来年度から雪奈はDAMAに入学するわけだし、今度時間を取ってカフェなりで俺の知り合いと女子会を開くようにしてあげた方がいいかもしれない。
雪奈はまだ苦手にしているようだが、剣聖生徒会でも紹介するか。麗火さんなら喜んで引き受けてくれるだろう。
時に脱線しながらも話し合い、敗戦の日は深けていった。
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